10 BABYMETAL BUDOKAN-Ⅸレポート(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ
本日4月14日は、2017年、Red Hot Chili PeppersのUSAツアーSpecial Guestとして、ジョージア州アトランタPhilips Arenaに出演し、2021年、10 BABYMETAL BUDOKAN Dooms Day-Ⅸが行われた日DEATH。

10 BABYMETAL BUDOKAN9ギグ目となる本日のDooms Day-Ⅸでは、METAL RESISTANCE 最終章としての新たな発表は何もなかった。したがって、明日のⅩを観る方へのネタバレはほとんどない。
本日のセットリストも、これまでの9回に準じたものであり、明日は大幅に異なるかもしれないからだ。
本日のポイントはただ一点。SU-METALの歌唱が過去最高を更新し、また、ひとつの奇跡が生まれた。
セットリストは以下のとおり。

<2021年4月14日 10 BABYMETAL BUDOKAN Dooms Day-Ⅸ>
1.    BABYMETAL DYSTOPIA
2.    イジメ、ダメ、ゼッタイ
3.    ギミチョコ!
4.    ド・キ・ド・キ☆モーニング
(「紙芝居~鋼鉄の応援団」)
5.    GJ!(MOAMETAL+4人のダンサー)

(「紙芝居~ミュートされたピアノ」)

6.    No Rain No Rainbow(SU-METALソロ)
7.    Distortion
8.    PA PA YA!!
9.    メギツネ
10.    KARATE
11.    ヘドバンギャー!!
(アンコール)
12.    THE ONE
13.    Road of Resistance
アベンジャー:岡崎百々子
神バンド:ISAO(南西G)、BOH(北西B)、青山英樹(北東D)、大村孝佳(南東G)

雨。
1月の初回から8回を数えた10 BABYMETAL BUDOKANは、いずれも天候に恵まれていたが、今日は2016年の東京ドームを思い出させる雨だった。
あの時の10分の1だが、「蔓延防止措置」の敷かれた東京で、5,000人の観客が、そぼ降る雨の中、葉桜の日本武道館に集結した。
開演前のBGMは、スラッシュ四天王やジャーマンメタルの”大御所“ではなく、ASKING ALEXANDRIA、BULLET FOR MY VALENTINE、BRING ME THE HORIZONといった海外フェスでBABYMETALと同列に位置づけられる“新世代”のメタルバンドの楽曲が多かった。
もはや「あの頃のメタル」を懐かしがっている場合ではなく、BABYMETAL世代こそ「今のメタル」なのだと言わんばかりの選曲だった。
定刻より5分遅れて、いつもの「キツネだおー」からKOBAMETALの「前説」が始まった。
手拍子、足踏み、ヘドバンウェイヴの練習が終わると、グレゴリオ・チャント風の壮大なシンフォニーが響き、スクリーンには「破壊と再生の物語」の文字。
ステージ外周から垂直に放たれていた紫色のレーザー光の“柱”が外側へ倒れていく。
スクリーンではモノクロの映像が点滅し、外周の三か所に星型の十字架に架けられた三人がせり上がってくる。
破壊的な重低音のシンセサイザー音が鳴り響き、「♪DEATH!DEATH!DEATH!」のグロウルのバックに流れるメロディは、間違いなく、「♪ラ#ラ#・ファファ・ドド・レレ・ソ#ソ#・レレ・レ#レ#・ドド…」という「BABYMETAL DEATH」のブレイクダウン・シークエンスのメロディだ。
10 BABYMETAL BUDOKANでは、Ⅴ-Ⅵでこの曲が演奏され、ぼくは直接観ることができなかったのだが、今回初めて見ることができた。
「BABYMETAL DEATH」のアレンジということもできるし、ベビメタ体操を伴わない「BABYMETAL DYSTOPIA」という新曲とみることもできる。
かつて、2013年12月のLegend“1997”、2017年12月のLegend-S-では、セトリのフィニッシュに置かれたこの曲で、SU-が十字架にかけられた。だが、2013年2月のLegend“Z”では時間がいったん止まり、巻き戻った後、この曲で三人が白い衣装をまとって再登場した。
2014年3月の日本武道館赤い夜や2015年1月の新春キツネ祭りでは、この曲の後、生まれ変わったBABYMETALがライブのフィニッシュへと進んでいく。
いずれにしても、「紙芝居」のタイトルどおり、DYSTIPIA=武漢ウイルス禍によって破壊された世界に、救世主として降臨するBABYMETALにふさわしい「死と再生」のテーマ曲である。
「♪BABY、METAL、DEATH~!」で曲が終わって暗転すると、次の瞬間、パイロから炎が吹き上がり、C#mの「♪ズクズクズクズク…」というリフが響く。
ステージ中央にはSU-METALが凛々しく立ち、東西で、クラウチングスタートの位置についているMOAMETALとMOMOKOにアイコンタクトを送る。場内は「♪ウォー」と大歓声を上げる。
この登場の仕方は反則である。あまりにもカッコいい。
そして、「♪アー…」と歌い出したSU-の歌声にぼくはのけ反った。
日本武道館は音が悪い。これは音が複雑に反射してしまう八角形の構造や、そもそも音響など考えずに作られた建物だからであり、ドラムスの音がドカドカ聴こえたり、歓声のSEがこもって聴こえたりする。
それは演奏者にも影響し、これまでの10 BABYMETAL BUDOKANでもSU-の歌のピッチがフラットになったり、ISAOのチューニングが狂って聴こえたりしたことも正直あった。
だが、この日のSU-の歌い出しである「♪アー…」=C#、フェンダー系ギターの最高音=1弦21フレットの音程は、0.00セントの単位で狂いがなかった。
「♪夢を見ること それさえも持てなくて…」と歌いはじめると、一層はっきりした。
生で歌っているのに、レコーディングで「調整」したかのような正確なピッチ。そして、大村、ISAO両ギタリストのゴリゴリのディストーションサウンドがこもって聴こえるほどの澄み切った大声量。
MOAとMOMOKOの動きもキレていた。後述するが、この日のMOAは、あらゆる修練を積んだ者だけが身に纏う“軽み(かろみ)”があった。強いまなざしで気を発するところ、スピードアップするところと、緊張を解いて軽やかな笑顔で客席に手を振るところが自在に変化し、ステージ上のすべての振る舞いが絵になる境地。MOMOKOはこの1ヶ月でさらに身体を絞っており、控えめながらもSU-、MOAに劣らない存在感を発していた。
2曲目で、すでに三人が新たな表現力の段階に成長していることが分かり、その印象はライブ終わりまで変わらなかった。
神バンドはこれまで通り、ISAO(南西G)、BOH(北西B)、青山英樹(北東D)、大村孝佳(南東G)。
今日の演奏は終始ダレることなくきわめてタイトで、青山神の叩き出すやや前ノリの正確なリズムと、三人のダンスが見事にシンクロしていた。
照明が青く変わり、SEの「BABY、METAL、チャッチャチャッチャッ」のコール。これだけは、前述したように中音域が強調された「録音」臭さが残る。本来1万人の会場なのだから、もう少しハイカットした方が自然に聴こえるのではないか。
上部スクリーン、ステージスクリーンに「…Give Me…」の文字が映り、3曲目「ギミチョコ!!」が始まった。
1番は西向きだから、南東のぼくの席からは三人の後姿が見える。
前に書いたように、全方位から見られる10BMBでは、ステージ上に東西南北に書かれた十字線がバミリになっている。SU-は常に東西線の上を動き、MOAとMOMOKOはそれと直交する南北線上を、SU-から少し下がる位置で踊る。その位置取りはきわめて正確で、2番になって東向きに変わっても、三人の相対的な位置関係が変わることはない。
神バンドはこの曲では全員、内側の三人、さらに三人越しにいる対面のプレイヤーを見ながら演奏している。ステージスクリーンには、変化する幾何学模様が描かれ、三人+四人+スクリーンが、キッチュな「ギミチョコ!!」の世界観を表現していた。
間奏部のSU-の挨拶は、「Hey!ブドーカーン!雨の中来てくれてありがとう!後ろの方までちゃんと見てるよ!」だった。その間MOAは緊張を解き、ぴょんぴょん跳びながら笑顔で客席に手を振る。その力の抜き加減が、前述したように手練れの者にしか出せない「軽み」を感じさせた。
BABYMETALの完成されたキッチュな世界観は、次の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」でさらに強調された。
この曲ではまた、SU-とMOAの驚愕するほどの正確なピッチやリズム感の良さを感じさせた。
「♪パッツンパッツン前髪パッツン」「♪Cuty Style」「♪だって一直線なら一等賞よ」「♪チョーすごーい」というKawaii半ラップ調なのだが、生で歌われるその音程がAmのコードにちゃんとハマり、しかも「一直線なら(ちょい上げ)一等賞よ(ぐっと上げ)チョーすごーい(一気にダウン)」という音程にならないアクセントのつけ方が、ちゃんとリズムを形成している。
MVやCD音源では、声変わり前のYUI & MOAの幼い声や、SU-の早口ラップがKawaiさを醸し出していたが、オトナになった現在、ピッチ感やリズム感がより正確になり、それが「ド・キ・ド・キ☆モーニング」という曲にBABYMETALらしいキラキラした輝きを付与しているのだ。
客席はもちろん、「今何時?」の合いの手を入れ、「♪リンリンリンッ」では振りマネをしてオトナKawaii BABYMETALを楽しんだ。
ここで「紙芝居」が入る。
「東」「西」「南」「北」の方角と、「天下一メタル武道会」の「鋼鉄の応援団」「四天王と団長」といったわけのわからないエピソードが語られ、「諸君、手首の準備はできているか」で締められた。
そして暗転したステージに、「パンパンパン、パンパンパン、パンパンパンパンパンパンパン」という三々七拍子のリズムが響く。
2018年10月のYUI脱退発表直後の神戸ワールド記念ホール以来となる「GJ!」である。
明転すると、ステージ上には5人いる。
中央にMOA。東西南北には小柄な4人のサポートダンサー。
「GJ!」はMOAソロ曲となったのである。
2番を歌い終わると、MOAによる客席との三々七拍子煽りのパートとなった。東の客席に向かって「いくよー!」といって三々七拍子をやる。すると、MOAは「全然足りてないよー」「次いくよー」と言って南へ向かい、三々七拍子。ここでも「もっと、もっと!」「次、西―」と言って西に回り、三々七拍子。「全っ然、足りないっ、もう!!」と言って、「最後はみんなで一緒に!」で全員が三々七拍子をやると、「いいね!」と言って、3番に入った。
微笑の天使=菊地プロの独壇場。これでこそ、SU-&MOAの2人の女神である。
楽しい時間が終わると、スクリーンには灰色の雨のしずくの映像。
続く「紙芝居」で「DYSTOPIAが、サイレントピアノのように、ぼくらの声をミュートしてしまった」というストーリーが語られると、ストリングスの和音で始まったプレリュードに、ピアノのアルペジオが重なる。2017年12月Legend-S-洗礼の儀以来の「No Rain No Rainbow」である。
ステージにはスモークが焚かれ、青い照明の中、SU-METALが一人で立っていた。
その気品のある美しさと立ち昇るオーラに息を飲む。
「♪どうして眠れないの…」と歌い出した歌声の正確なピッチ、澄み切ったトーン、そして圧倒的な声量と表現力に目と耳が釘付けになる。
2016年東京ドームBlack Nightでは、5万5000人がSU-の歌に涙した。
だが、広島も含めて全部生で見たぼくが断言する。2021年4月14日の「No Rain No Rainbow」が、過去最高である。
ピッチ、声量だけではない。「♪何もいらない 明日さえも」のところでは、「明日」と「さえも」の間をスタッカート気味に切り、「♪君のいない未来」の閉ざされた感情へと着地させる。
そして一転、サビの「♪絶望さえも光になる」では、「絶望」の後、「さえも」の後にしゃくりを入れ、「光になる」の開かれた感情へのカタパルトを作っていく。
こうした細かい歌唱表現の組み立てが随所に見られ、全体として、SU-METALにしか歌えない芸術の域に達していた。
大げさではなく、今、日本最高=世界クラスの女性歌手が目の前にいるという臨場感に何度も鳥肌が立った。
後半、ステージ上に作られた光の道を歩いていくと、その先に黒いピアノが現れる。SU-はピアノの椅子に座り、なんと鍵盤を弾きながら歌う。
だが、「♪会いたい、それだけだった」と歌うと、そのまま曲が途切れ、暗転してしまう。
3秒。5秒。10秒。客席は静まり返っている。20秒。やがてまばらな拍手が起こり、また静まりかえる。
あと数秒で客席がざわつき始めるだろうタイミングで、ステージ中央にスポットライトが当たると、そこに「ワープ」したかのようにSU-METALが立っていた。
「♪絶望さえも光になる」「♪やまない雨が心満たすよいつまでも~」
あのピアノは、2013年のLegend “1999”で、SU-がこの曲を歌い、“マダムアッソーの館”で蝋人形にされてしまい、SU-に助け出されたYUIとMOAがピアノを弾くシーンを思わせる。
MOAソロとなった「GJ!」も、YUI脱退の直後から演奏されなくなっていた。
つまり、Doomsday-Ⅸの日替わりセトリ「GJ!」と「No Rain No Rainbow」は、YUIの不在と現在を強く意識したものだったのではないか。
この2曲をセトリに入れたメンバー、スタッフを思うと、自然に涙があふれてくる。
そして、この曲をSU-がソロで歌うその日、10 BABYMETAL BUDOKANで初めて雨が降った。
あの日、びしょぬれになりながら日本武道館にいた5000人の観客は、またBABYMETALが起こした奇跡の瞬間に立ち会ったのだ。
(つづく)