BABYMETALの哲学(15) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月9日は、2013年、Anime Festival Asia Singapore 2013@シンガポール・サンテック国際会議場に出演した日DEATH。

『別冊カドカワNo.830』(以下、同書)では、2019年夏の台湾でのライブ、超犀利趴10と、2年ぶりの出演となったサマソニ2019については年表やグラビアで触れられるだけで、インタビューの話題には登場しない。
超犀利趴10は、METALLICAの前座@ソウルを除けば、2014年2月に、今や台湾の国民的メタルバンドとなったChthoniCと対バンした「完全櫻樂団重音偶像大対決」以来、5年ぶりの日本以外のアジアでのライブであり、2019年11月23日に予定されていた香港Clockenflapフェスや、2020年3月以降のタイ、マレーシア、インドネシア、台湾での単独ライブ、フィリピンPULP SUMMER SLAMフェス出演と合わせて、新生BABYMETALが、アジアに注力していく兆しともいえた。何より超犀利趴10は、3人目のアベンジャーとして岡崎百々子がデビューした記念すべきライブだった。


また、サマソニ2019は、今年に予定されていた東京オリンピックのため3日間開催となり、BABYMETALはレッチリがメインステージのヘッドライナーとなる組に入り、マウンテンステージのトリを務めた。アベンジャーは初日大阪舞洲、二日目幕張ともに鞘師里保だった。


ライブの詳細については、以前の記事でレポートしているが、正直言ってポップフェスである超犀利趴10は“アウェー感”が強く、サマソニ2019も、ぼくが参戦した幕張は、PAブース後方に空きがあった。
当時は『METAL GALAXY』リリース前であり、新譜リリースキャンペーンが始まるのは、9月に入ってからなので、横アリやPMなごやでアベンジャーズを加えて新曲を投入し、YUIMETAL脱退~Darksideを脱却して、以前よりも進化した新生BABYMETALになったという情報は、一部ファンの間のみにとどまっていた。
アナウンス不足だったとはいえ、グラストンベリーフェス、超犀利趴10の“アウェー感”や、サマソニ2019がパンパンにならなかったという現象は、
1)    ファンのみが集まる単独ライブではなく、一般客が集まるフェスだった
2)    メタルフェスではなく、メインストリーム/ポップフェスだった
3)    海外進出した2014年以降、METALLICA前座を除いて、アジアでのライブは行ってこなかった
4)    2018年のDarkside~YUIMETAL脱退の過程では、国内フェスに出演しなかった
といった条件が重なったことにより、2019年に初めて出現した事態だった。
それは新生BABYMETALがより飛躍し、「世界征服」の目標達成に向けて克服すべき課題が露わになったということでもあった。
メンバーや関係者、ぼくらコアなファンがいくら「進化している」と評価しても、世間ではYUIMETALが脱退した新生BABYMETALを、2016年の東京ドームでピークを迎えた「以前のBABYMETAL」と比較する。
「以前のBABYMETAL」でも、国内のアイドル界の異端児としての人気や、海外でのメタル/ハードロックというジャンル内でのアイドル的人気だけでなく、メインストリームにおける知名度の向上、ファン拡大は大きな課題だった。
グラストンベリーについてのインタビューで、SU-が「女の子とか小っちゃい子どもとか、若者が多い」と感じたのは、正鵠を射ている。
BABYMETALの単独ライブやメタルフェスでは、ぼくのような中高年男性客が圧倒的に多い。
それは、海外では「メタル」というジャンルによるものだが、日本では、チケットやグッズが他のアーティストに比べても割高に設定され、「プレミア感」を演出しているのが、商品としてのBABYMETALの特徴である。LEGEND-S-やLEGEND-M-では、20歳以下の「金キツネ世代」用に2000円チケットが導入されたが、通常のライブやグッズは依然割高であり、そのことが、若者がBABYMETALを敬して遠ざける一因となっている。
若者たちにこのハードルを越えさせるか、BABYMETAL自身がこのハードルを越えていくか。いずれにしても、日本人アーティストとして「国境・言語」の壁を越え、日本音楽史上、最も海外で成功した「以前のBABYMETAL」にも乗り越えられなかった「ジャンル・世代」の壁を越えることが課題になっているのは間違いなかった。
「以前のBABYMETAL超え」として、最もわかりやすい指標はBillboard 200チャートだった。
2019年9月からの全米横断ツアーは、チケットに『METAL GALAXY』のUS盤CD1枚が付属するアルバムリリースキャンペーンツアーであり、9月4日のフロリダ州オーランドを皮切りに、10月16日のワシントン州シアトルまで、全42日間20公演というBABYMETAL史上最長の海外ツアーだった。


「一言で言うと、あれは本当に修行でした。1カ月半という長期ツアーが初めてだったのと、過去にライヴをして、あまりうまくいかなかった場所とかも含まれていたんですよ。自分のなかでもちょっとトラウマみたいに思っていた場所もあって。あとは、寒暖差や標高差だったりで気候も毎日変わるし、さらに会場によって聞こえ方や舞台の床の状態とかがまったく違っているので、パーフェクトなライヴをやり続けることの大変さをすごく感じました。」(SU-METAL、同書P.165)
「私にとっても修行でしたね。ザ・フォーラム公演のために用意していた曲も練習しながらツアーを廻らなきゃいけなかったですし、大変だなって思うこともあって、本当にSU-METALと一緒じゃなかったら、廻れてなかったですね。SU-METALも今一緒に大変な思いをしているから頑張らなきゃな、と思って。だけど、今振り返ると達成感もすごくあるので、やってよかったなと思います。何だかんだ、つらいことも嫌いじゃないのかもしれないです(笑)。」(MOAMETAL、同書P.166)


「この時の北米ツアーには他にも(Jaytc註:THE FORUM以外)いくつか結構大きな会場もあって、ツアーを廻っていくなかで、その評判が良かったからということで、売り切れていなかった会場が埋まったりして。そうやってライヴを重ねていくことで、BABYMETALがアメリカで少しずつ広まっていった感覚があったんです。」(SU-METAL、P.166)
ボーカリストであるSU-にとって、標高=気圧=酸素濃度や、気温、湿度といった条件は非常にシビアなものだろう。ダンサーであるMOAにとっては、酸素濃度とともにステージの広さやコンディションが問題となる。
日本では考えられない劣悪なコンディションの会場でも、パフォーマンスでは一定のクオリティを維持し、観客を楽しませ続けねばならないのがプロというものだ。
今回の全米横断ツアーは、終盤に、2014年のレディ・ガガのツアー帯同でその過酷さにメンバーやスタッフが驚愕したコロラド州デンバー、ユタ州ソルトレイクシティ、ネバダ州ラスベガスといった西部の砂漠や高地に位置する都市が含まれており、それを乗り越えた先に、2017年レッチリツアーで経験したアリーナ級のロサンゼルスTHE FORUM&『METAL GALAXY』リリースというスケジュールになっていた。


6月のグラストンベリーフェス&O2アカデミーブリクストンが2014年のソニスフィア&ロンドン公演をなぞっているように、9月からの全米横断ツアーは、2014年のレディ・ガガ帯同や2017年のレッチリ帯同ツアーをなぞるように組まれていた。
つまり、BABYMETALの2019年とは、2014年の海外デビューをメタモルフォーゼしつつ、規模と内容を拡大した「再デビュー」だったのだ。
だから、神バンドも変わった。
2018年のDarkside日本ツアーの前座を務めてくれたGalactic Empireのメンバーを主体とする「西の神バンド」が初登場したのも2019年の全米横断ツアーからだった。
「バンドもUSツアー仕様だったので、音の変化と共に自分たちの曲の表現の仕方も変化して、こういう別の表現も面白いなって思えるようになって、いろんなことを吸収できました。」(MOAMETAL、同書P.166)
同じ曲、同じアレンジでも、Leda、大村孝佳、BOH、青山秀樹による神バンドと、Galactic Empireのメンバーを主体とした西の神バンドの演奏は全く違う。一言で言えば、神バンドはやや前ノリで正確無比かつセンシティブであり、西の神バンドはやや後ノリで豪快かつエモーショナル。
譜面上は同じでも、ドラムスやベースのタイム感やギターのオブリがわずかに違うだけでも、生演奏で歌い踊るパフォーマーにとっては重大な違いである。ぼくは月に数度、人前で演奏する人間なので、MOAが「音の変化」に応じて表現を変えたという証言にリアリティを感じる。
こうして、進化し続ける新生BABYMETALは、同じロサンゼルス公演でも、2014年にはハリウッドの場末感漂う1200人収容のFonda Theaterだったのが、 2019年にはイングルウッドの1万7500人収容のTHE FORUMで単独ライブを行った。


セトリが、「FUTURE METAL」「DADADANCE」で始まり、「Starlight」「Shine」「Arkadia」で終わるように、このライブは『METAL GALAXY』リリース記念ライブだった。
前述のようにSU-が「ライヴを重ねていくことでBABYMETALがアメリカで少しずつ広まっていった」と言ったのは、これまで東海岸、中西部、西海岸と局地的なツアーだったのが、全米横断ツアーでは文字通り、日本の25倍の面積のアメリカ合衆国を東から西へ、まるでCDを手売りするかのように20日間で駆け巡ったからだった。
そしてシアトル最終公演から5日後の2019年10月21日、『METAL GALAXY』は、10月26日付Billboardのトップ・ロック・アルバムとハード・ロック・アルバムで第1位、Billboard 200では、前作の『METAL REISTANCE』の39位から飛躍的に順位を上げ、坂本九の記録を58年ぶりに上回り13位となったことが報じられた。日本のオリコンでは第3位、イギリスのオフィシャルチャートではロック&メタル・アルバムで第1位、アルバム・トップ100では、前作より4つ順位を下げ、19位となった。
なお、『別冊カドカワNo.830』では、全米横断ツアーに日替わりで出演してくれた鞘師里保と岡崎百々子のことや、新生BABYMETALに大きく影響を与えている西の神バンドについては、例によって触れられていない。
(つづく)