BABYMETALの哲学(14) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月8日は、2012年、YouTubeにBABYMETAL Official Channelがオープンし、2014年、Back to the UKロンドン公演@O2アカデミーブリクストンが行われ、「Road of Resistance」が初披露された日DEATH。


横アリTHE SUN ALSO RISESと、PMなごやBEYOND THE MOONは、太陽と月、SU-とMOAというように「対」になっているが、実は、M.C.エッシャーの絵のように、あるいは明け方に二度見た夢のように、同じテーマのメタモルフォーゼ(変容/変奏)にもなっている。
たとえば、横アリでは、島舞台に鎮座した正八面体のオブジェからBABYMETALのロゴが客席上空を羽ばたいて飛んだが、PMなごやでは、ロゴの羽を背負ったMOA本人が客席上空を飛び、その背中にBABYMETALの歴史が映写された。


横アリは「Arkadia」で始まり、11曲目「KARATE」のあと、「FUTURE METAL」を挟んで「THE ONE」からの「Road of Resistance」で終わったが、PMなごやは「Road of Resistance」で始まり、11曲目「KARATE」のあと、MOAが二番を歌う「ヘドバンギャー!!!」となり、「FUTURE METAL」を挟んで、MOAが黒いアコギを弾く「Shine」からの「Arkadia」で終わった。


これは、ぼくが思うに、SU-が見た夢と、MOAが見た夢の違いなのだ。
二人は2018年Darksideの最中、それぞれの立場でもがき苦しんだ。
Darksideは事実上、YUIが欠場した広島LEGEND-S-から始まった。SU-METALはそこで「女神」となったので、2018年のDarksideツアーの単独ライブでは、フィニッシュの「THE ONE Unfinished Ver.」で、ステージ奥からのバックライトを受けて、混沌の中に降臨する「光」を表現しようとした。
横アリでも、「FUTURE METAL」=メタルの未来に続くのは、静かなピアノで始まる「THE ONE Unfinished Ver.」だった。
だが、それだけでは世界は変わらなかった。
もう一つの「光」は、SU-の最も身近な存在、MOAだった。
相方のYUIが去っても、MOAはBABYMETALにとどまり、SU-を支える存在であり続けようとした。
それどころか、「YUIの穴を埋める」ためにサポートダンサーや演出に頼るのではなく、自分のダンスを根本から見直し、ステージ上のYUIMETALの役割を自分の中に内在化=融合し、独りでBABYMETALのScream & Dance担当になろうとした。
こうして、MOAMETALは「もう一人の女神」、「もう一つの光」となった。
「Shine」とは文字通り「光輝く」という意味である。
『古事記』によれば、天岩戸に隠れた天照大神は、一人では出てこられなかった。その前でキツネ様の母であり、岩戸隠れの原因になった素戔嗚の妻でもあるアメノウズメが、輝くばかりの笑顔で歌い踊ったから、世界は再び光を取り戻した。
日本神話によらずとも、ぼくらは、あらゆる生命の源である昼の太陽と、潮の満ち引きをもたらす夜の月という二つの光によって生きている。
そんな人類史の原風景―二人の女神のそろい踏み―さえ思わせる出来事を、ぼくらは目撃した。
PMなごや初日終盤、2014年のケルン以来の「ヘドバンギャー!!!」間奏部での成長期の魔法の杖、ファルスの象徴でもあるマイクスタンドの受け渡しが行われ、SU-がMOAのダンスパートを踊る中、ファン待望のMOAによる「♪ハータチの夜を忘れはしない…」が披露された。
その瞬間、会場は大歓声に包まれ、「おめでとう!」の声も聞かれた。


だが、さらに深い感動がそのあとに来た。

横アリと相似形を成すように「FUTURE METAL」が流れた後、青い照明のステージには、スポットライトを浴びて、黒いアコースティックギターを抱えたMOAがいた。
そしてMOAはA→B→C#のコードをつま弾いた。このコード進行とメロディラインは、2017年のLEGEND-S-終演後の「紙芝居」や2018年のDarksideツアーのトレイラーでも使われていた。だから、会場で初めてこの曲を聴いたぼくは「ああ、これでようやくDarksideの壮大なフリが完結するんだ」と思った。さらにぼくはもうひとりのシンガーとしてのMOAを高く評価しているから、「MOAのソロ曲か!?」と大興奮した。
だが、「♪Twilight、過去現在未来(きのうきょうあす)続く道 まだ終わりなき旅の途中でも…」と歌い出したのは、MOAの後ろから登場したSU-だった。黒いギターはスタンドに固定されており、MOAはそこからスッと離れて踊り出した。


「♪…巡り会えた奇跡信じて 僕らは行く君のもとへ…」
青い照明に照らされたステージにはスモークが焚かれ、2人はまるで見えない糸で結ばれているように、アイコンタクトしながら踊った。
PMなごやには、横アリと同じく初日鞘師里保、二日目藤平華乃がアベンジャーとして出演していたが、「Shine」は、Darksideの苦境を乗り越えた絆を確かめるような、SU-とMOA2人だけのステージだった。
このときのことを『別冊No.830』で、SU-はこう語っている。
SU-「「Shine」は、初めて披露したのはMOAMETALと2人でステージに立った2019年の名古屋公演の時で、あの時の「Shine」を未だに私は忘れられないんです。何て言うんだろう…実際に手を繫いだわけじゃないんですけど、2人でちゃんと手を取り合って歩んでいくんだっていうような。MOAMETALとの間には、もうここに見えない何かがあるので。」
MOA(笑顔で頷く)(同書、P.167)
Bメロの「♪果てしなく続く闇の中彷徨っても、僅かな光を手繰り寄せて」
「♪心が叫んだ 構わない壊れても 眩い光が 僕らを照らすから~」
で、SU-史上、最高音であるノーマルボイスのハイE♭が会場に響き渡った瞬間、やっぱりぼくは泣いてしまった。


「♪Shining Light さあ行こうShining Roadどこまでも 時空(とき)を超えて永遠(とわ)の旅へ 時空を超えて届け」
最後の連の「届け」は、ぼくら観客・ファンの心へ、脱退を選んだ水野由結へ、メタル銀河の彼方で見守る小神様へ向けた思いのすべてだろう。
そして、フィニッシュになったのは、新たなBABYMETALのアンセムといえるパワーメタル「Arkadia」だった。
「♪光より速く 鋼より強く 使命の道に怖れなく」「♪どれほどの闇が覆いつくそうと 信じたこの道を行こう(あるこう)」
横アリ初日に、いきなりの1曲目として初披露されたこの歌詞の意味が、「Shine」を経ることによって、会場を埋め尽くしたファンの心に沁みとおった。これがテレビやラジオで流れる「ヒット曲」とは全く異なる「ライブ」の持つ力である。
BABYMETAL ARISES BEYOND THE MOON@PMなごやは、Darksideの完全な終焉と、新たなBABYMETALの出発を告げる文字通りのLEGEND(=伝説)となった。
(つづく)