BABYMETALの哲学(11) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月3日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

2018年、カンサスシティ・ショックはあったものの、オースティン公演直前に現地マネージメント会社から「YUIMETALはまだBABYMETALに在籍しています」というアナウンスが報道されたこともあって、DarksideのBABYMETALは、比較的早い段階でファンに支持されていった。
KOBAMETALは独特な言葉を使って、Darksideに臨んだ姿勢を表現している。
「“ダークサイド”のコンセプト自体は“Legend-S-”の前からありました。あのライヴはSU-METALにとって自分を乗り越えてさらに新しい道を切り開いていくための儀式というテーマだったんですけれど、それに伴ってBABYMETAL自体も、さらに自らを超えて次のステージへ行くというタイミングだったんです。」(KOBAMETAL、同書P.127)
「“バットを振り切れない”という言い方をよくするんですけれど、こちら側に迷いがあったり半信半疑なところがあったりすると、お客さんに伝えることはできないんです。我々スタッフも含めて、バットを振り切らないとBABYMETALは成立しない。そういう話をしたのは覚えています。YUIMETALはやっぱり出られないという状況になって、でもやるからには最高を目指してやらないといけない。(中略)お涙頂戴的な方向というか、お客さんに同情してもらうみたいなパフォーマンスはBABYMETALらしくない。(中略)次の世代に向けてよりメンバーが引っ張っていく姿を見せる部分も必要でした。」(同書P.128-129)
このへんがBABYMETALらしさの最たるもの、つまりBABYMETAL哲学だと思う。
復帰の目処が立たないYUIMETAL、公式には触れられないがメンバーには衝撃的だったはずの藤岡幹大氏の逝去という苦境の中で、これまでと全く違うコンセプトを打ち出すだけでなく、それを「バットを振り切る」勢いでやるということだ。


そもそもBABYMETALというプロダクトは、ハードロック/ヘヴィメタルをやるアイドルというコンセプトに新しさがあったのではない。それは誰でも思いつくし、80年代ヘビメタブームには、「メタル」をキャッチコピーにした女性アイドル、女性グループも存在した。
それをメタルが衰退した2010年代の「アイドル戦国時代」に、小中学生美少女三人組が、ヘヴィメタル史の様々な要素を“オマージュ”した楽曲を、日本最高峰の振付師であるMIKIKO師によるダンス、MI講師クラスのミュージシャンによる生演奏でやるという「やるからには最高を目指して」やる、過激なまでに「全力でやり切る」ところにポイントがあった。
BABYMETALの凄さとは、「アイドルとメタルの融合」というコンセプトではなく、それを実行する「熱量」である。
「META!メタ太郎」は、ヴァイキングメタルという触れ込みだが、実際には行進曲調の「応援歌」である。そして、間奏部のパフォーマンス「♪かっ飛ばせー、メタ太郎!」は、「バットを振り切る」というチーム内のスローガンを再確認するBABYMETAL自身への「応援歌」であったのだ。
自分たち自身への応援歌だからこそ、自己言及的という意味の「メタ」とMETALの「メタ」がダブルミーニングされ、「META!メタ太郎」というタイトルになったわけだ。
ZOCが「アイドルについて歌うアイドル」という意味で「メタアイドル」なら、BABYMETALは「メタルについて歌うメタルアーティスト」だから「メタメタル」なのだ。
話をDarksideに戻すと、「YUIMETALはやっぱり出られないという状況」になった2018年の初めから5月8日のカンサスシティまで、間に藤岡幹大氏の葬儀なども入るから、精神的にも時間的にも非常に厳しい状況の中で、チームベビメタは、ぼくが思いつく限り、次のようなことをやった。
・サポートダンサー2人のブッキング(丸山未那子、佃井皆美)。
・神バンドのブッキング(ギターLeda(US)、ISAO、大村孝佳(EU)、ベースBOH、ドラムス青山秀樹)。
・新曲「In The Name Of」「Elevator Girl」「Distortion」「Kagerou(当時はTattoo)」のライブ音源制作、振付。
・「Distortion」のレコーディングとMV制作、配信リリース準備。
・サポートダンサー2人を含む4人体制での既存曲フォーメーションの変更。
・「紅月-アカツキ-」でのサポートダンサーによる殺陣の構成。
・セトリの確定、「紙芝居」制作。
・宇佐美秀文によるBGMおよびセトリ間奏曲の制作。
・ロゴデザインの一新とグッズの発注。
・登場時のガウン、錫杖、ヘッドギアを含めたコスチュームの一新。
・バックドロップ、舞台装置、現地使用機材などの発注・調達。
・USツアーおよびヨーロッパツアーの会場下見・スタッフ打ち合わせ、移動手段、ホテル等の確保。
・FOXDAYの告知動画制作。
・会場ごとのステージに合わせたリハーサル。
・クレーム対応準備。
それまでのツアーは、前回ツアーや国内ライブの音源等に、新曲ないし新しいストーリーが加わる「積み上げ」方式だったが、Darksideは全く新しいコンセプトであり、既存曲も4人でのフォーメーションになるため、ゼロからの再構成となった。
セトリは、1.「In The Name Of」、2.「Distortion」、3.「Elevator Girl」、4.「Kagerou」と立て続けに新曲をドロップし、5.でMOAがサポートダンサー2人を従える「GJ!」、6.でサポートダンサー2人が殺陣を演じる「紅月-アカツキ-」、そこから定番の7.「メギツネ」、8.「ギミチョコ!!」、9.「KARTE」、10.「Road of Resistance」と来て、11.「THE ONE 」はUnfinished Ver.、すなわちLegend-S-と同じフィニッシュという、今考えれば「これしかない!」という完ぺきな構成だった。
まったく新しいコスチュームとロゴで、4曲もの新曲をドロップすることで、Darksideを歩むBABYMETALの新しいイメージを訴求して観客の度肝を抜く。
BBMの楽曲だった「GJ!」では、YUIを、ソロイストとして歌い踊るMOAの中に内在化してみせた。
サポートダンサー2人が、欧米人の見たこともない日本の伝統芸能=殺陣を演じるのは、「過去の自分を乗り越える」という意味だったし、最後には「天岩戸隠れ」を彷彿させる暗闇の中、後光を受けたSU-がピアノのアルペジオで独唱したあと、間奏部から大音量のバンドが入ると同時にMOAが助っ人=サポートダンサーを率いて駆けつけてくるというセトリ構成は、BABYMETALの現状=Darksideのストーリーそのものになっていた。
ぼくはUSツアーには参加できなかったが、日本でファンカムを見ていて、初日のYUI欠場には衝撃を受けたものの、二日目のオースティン公演には、短期間にこれだけのセトリと構成を準備したチームベビメタの苦闘を想って、涙が止まらなかった。


そして、遠く離れた日本でぼくが感動したこの意欲的なセトリは、アメリカでも同様の反響を引き出した。ツアーが進むにつれて、殺陣を含むパフォーマンスの凄みやセトリの「虚実皮膜」ともいえるストーリー性は、やはり唯一無二のBABYMETALらしさとして好意的に受け入れられていったのだ。
MOAは「今だったら、あれはあれで面白いなと感じてもらえると思います」(同書P.123、前掲)と言っているが、当時はやっぱり悲壮感があった。
だが、その悲壮感はSU-のいう「なんか、ちょっと気を遣われている感じ(笑い)」(同書P.117,前掲)とはちょっと違っていたように思う。
ぼくは6月9日のDownload UK 2018に参加したのだが、BABYMETALはセカンドステージでの観客動員記録を樹立するほどの大人気だった。


日本では、YUIの長期欠場はアイドルとして致命傷だとささやかれていたが、ヨーロッパのメタルファンにとって、BABYMETALが「ダーク」になったという意味は、Djentやシンフォニックメタルの要素を強めた「音楽的進化」と受け取られていた。
ぼくがDownloadで知り合ったニースから来たフランス人やハンガリー人の若者たちは、YUIMETALのいたBABYMETALを知らず、むしろ現在のBABYMETALが大好きだといっていた。
フェスでのセトリ3曲目に置かれた「ギミチョコ!!」では上手最前列にいたぼくは、次から次へと送られてくるイギリス人クラウドサーファーにキックを食らい続けた。
5曲目の「Distortion」では、不穏なSEが響く中、遠くから「♪ウォーウォーウォーウォー…」というコーラスが聞こえてくると、観客は一斉に大合唱し、最後の「♪ウォーウォーウォーウォー↑」と上がるところで、4人が踊りだすと、強烈なモッシュ&圧縮が起こった。
フィニッシュとなる7曲目の「Road of Resistance」では、ぎゅうぎゅう詰めの客席で、大男のイギリス人たちが数十人座り込んで舟を漕ぐ“ヴァイキングモッシュ”をやっていた。
Darksideでも、「バットを振り切る」BABYMETALの「熱量」は、日本で言われた「オワコン」とは真逆に、欧米で新しいファン層を広げていたのだ。
それは、YUIMETAL脱退が発表された直後の日本ツアー4公演、そして初めてのヘッドライナーフェスとなったDark Night Carnivalで、日本でも実証されることになった。
ぼくが行った幕張二日目は、YUI脱退のショックよりも、Galactic Empireの演奏技術のすばらしさと、7人体制によるド派手なメタルミュージカルに目を奪われた。真ん中で分けたひっつめ髪+キラキラ輝くティアラと肩パッドが強調されたコスチュームで様々なフォーメーションを見せてくれ、新曲「Starlight」を披露した印象は、やはりBABYMETALは今後、ライブのたびごとに演出を凝らしたシンフォニックメタルの方向へ進むんだろうなというものだった。


Dark Night Carnival @SSAでは、SABATONの「Swedish Pagans」や「SHIROYAMA」を観客が大合唱し、「META!メタ太郎」では、ヨアキム・ブローデンとDark Vader卿が、SU-METAL、MOAMETALとともに△ステージに登り、「♪かっ飛ばせー、メタ太郎!」と歌った。
それは見事に「バットを振り切った」光景だった。
「ワールドツアーが始まった当初、もちろん音楽がハードなところも大切な魅力ではあるけど、やっぱり3人組の女の子で、“Kawaii”ところが求められていたのかなって思ったんですね。ルックスが変わったらダメなのかなって。MOAMETALと一緒に少しショックを受けていたところがあったんです。でも、そうじゃなくてBABYMETALには楽曲の良さがあって、パフォーマンスの魅力もあって、それが求められていることを、あのツアーを通して、特に初めて私たちを観るような方たちに気づかせてもらったんです。(中略)これからもBABYMETALであり続けてもいいんだなって思えたんですね。」(SU-METAL、同書P.118-119)
「(今改めてMETAL RESISTANCE第6章・第7章はMOAにとってどんな日々だったかという質問に)大人への変革期かな。あの時は私たちの最善策があの形だったし、今はあれが正解だったと言えるようなパフォーマンスをしてきているし。あの時期がなかったら、もちろんいまのBABYMETALもないと思っているので、大人へ移り変わるタイミングだったと同時に、耐えなければならない時期だったなって。通るべくして通った道だと信じたいし、今はそう思っているので。」(MOAMETAL、同書P.125)
2019年9月に始まったMETAL GALAXY WORLD TOURでは、あのDark Night Carnivalで前座を務めたGalactic Empireのメンバーを主体とする”西の神バンド“がバックバンドを務め、2020年2月からの汎ヨーロッパツアーでは、「Oh! MAJINAI」のバックで、ヨアキム・ブローデンが「ナイナナナイナイナイナイナイ…」と歌い踊っている。
Darksideがなかったら、今のBABYMETALはなかったのだ。
(つづく)