BABYMETALの哲学(9) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月31日は、2012年、日経トレンディネットにKOBAMETALインタビューが掲載され、2018年、World Tour 2018 in Japan@神戸ワールド記念ホール二日目が行われた日DEATH。

2017年12月2-3日に行われたLegend-S-Baptism XX@広島グリーンアリーナでYUIMETALが欠場し、年末には神バンドの小神様こと藤岡幹大氏が天体観測中に屋根から滑落するという事故が起き、年明け早々に亡くなった。
悪夢を払しょくするはずだった2018年5月のアメリカツアー初日、カンサスシティ公演では、事前に公表されないまま、YUIMETALの欠場とサポートダンサー2人(丸山未那子、佃井皆美)が加わった4人体制のDarkside仕様が初披露された。
日蝕コロナのロゴ、ヘッドギア、厚い鎧のような上衣とスパッツのコスチューム、派手なメイク、Chosen Sevenでのひっつめ髪のようなヘアスタイルは、それまでのBABYMETALのイメージとは全く違った。
「In The Name Of」「Distortion」「Kagerou」(当時はTattooと呼称)「Elevator Girl」の4曲がセトリに加わり、サポートダンサー2人が「紅月-アカツキ-」で殺陣を披露するなど、Darksideには意欲的な新機軸もあり、そのままフェス出演を含むアメリカ8公演、ヨーロッパ6公演が行われた。
日本ツアー直前の2018年10月19日、YUIMETALの脱退が正式発表され、「Starlight」が配信された。
その直後の幕張メッセ2公演、初のヘッドライナーフェスであるDark Night Carnival@SSA、神戸ワールド記念ホール2公演では、さらにサポートダンサー3人(秋山翔子、平井沙弥、大森小都乃)が加わって7人体制=Chosen Sevenが実現したが、2018年12月のジューダス・プリーストFire Powerシンガポール公演サポート、および初めてのオーストラリア3都市を巡るGood Thingsフェスでは、そのうち1人のサポートダンサー(平井沙弥)が加わった3人体制となった。
広島を起点とすれば約1年にわたったDarkside期間は、BABYMETAL史上、体制が目まぐるしく変わり、暗い影を帯びているが、それだけにメンバーにとっては貴重な成長の糧となった。
まず、Legend-S-について、『別冊カドカワNo.830』(以下、同書)で、2人はこう言っている。

「こういう状況だったので、最初はお客さんの声援を“頑張れ”って言ってくれているんだなって捉えていて。だけど、このライヴからは背中を押されるんじゃなく、自分が引っ張っていくんだっていう想いでいたので、ちょっと戸惑いがあったんです。…戸惑いつつ、でもライヴをやっているなかで気付いたんですけど、YUIMETALの穴をみんなで埋めようとしてくれてるんだなって。」「自分たちもどうやってYUIMETALの穴を埋めたらいいのかを考えていて、私もMOAMETALも、ライヴをやりながらフォーメーションやパフォーマンスを試行錯誤していたんです。だから、いつもよりもアイコンタクトの回数は多かった気がしますね」(SU-METAL、同書P.115)
「お客さんが守ってくれたことも感じつつ、その時にMOAMETALの強さも感じたんですよね。ある時期までは、私が2人を引っ張っていかないといけないって思っていたけど、それが2016年くらいから、「あっ、2人とも大人になったんだな」って感じ始めたんですよね。(中略)MOMETALを私が支えなきゃと思っていたのに、自分に全然余裕がなくて、リズムが上手にとれない曲ではダンスで指揮をしてくれたり、私の方がたくさん助けてもらいました。その時MOAMETALが私が思っているよりも強くて、大人になっていたことを知りました。」(SU-METAL、同書P.115-116)
「あれはまさかの貴重な体験ですね。実は、この時ぐらいから自分自身のダンスにちゃんと向き合えるようになって、たとえばライヴ映像を見て、「もっとここをこうすれば良かったな」っていうところとかを見つけられるようになったんです。ここで8年ぐらいやってきたダンスを見つめ直せるようになったのは、一人でステージに立ってみて、いつもSU-METALが感じているようなプレッシャーとかを経験したことも影響してるのかなと思いますね」(MOAMETAL、同書P.121)

ここには、欠場に至ったYUIMETALへの失望感や怒りはない。
前回書いたようにYUIが欠場する可能性があることは広島入り前からわかっており、2人になった場合を想定したリハーサルも行われていた。実際に確定したのは広島入りしてからだったが、2人は「いつでもYUIMETALが戻ってこられるように」、YUIの穴を埋め、観客にいいパフォーマンスを見せることに集中しているようだ。それは、YUIの欠場理由を2人がよく理解しており、いつかは復帰することを確信していたためだろう。
Legend-S-は、5大キツネ祭りでクローズアップされた20歳以下の「金キツネ世代」には、中高年比率の高いベビメタファンの中で、次世代を担うという意味で、破格の2000円チケットが用意されていた。SU-はBaptism XX=20歳を機に、初めて自分以下の若い世代を「引っ張っていく」責任を自覚していた。
しかし実際のステージでは、YUI欠場という事態によって、観客の声援とMOAの助けがなければ完遂できなかったほど、不安と混乱が生じていたのだ。
確かにあの現場にいたぼくら観客は、YUIの合いの手パートを必死で歌い、「穴」を埋めようとしていた。それをSU-は感じてくれていたのだ。
一方のMOAはというと、同書のインタビューでは、広島でのライブについては、YUIのことにまったく触れていない。YUIとのペアのBBM楽曲を一人で演じることに水を向けられても、「まさかの貴重な経験」といいながらも、「自分自身のダンスを見つめ直す」機会だったとポジティブに答えている。
ここに、強烈なYUIへの想いがあると感じるのはぼくだけだろうか。
小学5年生からの親友であり、“双子”とまで言われたYUIの「穴を埋める」ことなどできない。唯一できるとしたら、それはダンスの天使=YUIのキャラクターを自分の中に“降ろす”ことしかない。つまり、YUIになり切ることだったのではないか。
ダンスの素養があり、手足が長かったYUIは、同じ振り付けで踊っても一つ一つの動きがエレガントに見えた。MOAのダンスは動きが大きく、パワフルな分、子どもっぽさがかわいかった。SU-は基本的にはシンガーであり、鞘師里保や平手友梨奈とは違って、ダンサーとして勝負するセンターではない。
BABYMETALというユニットにとって、卓越したシンガーであるSU-、エレガントなダンスのYUI、パワフルなダンスのMOAというトライアングルは、見事なバランスだったのだ。
そこからエレガント担当がいなくなった以上、MOAがエレガントを兼任しなければならない。
同じような背格好に見えても、YUIとMOAのプロポーションや重心は違う。
そこで、MOAは、重心のかけ方や手足の角度、プレ・モーションまで、ビデオ映像を見返しながら細かく修正していったのだ。
YUIにできて自分ができないことをなくし、SU-以外のパートは全部自分がカバーできるように。
それが、SU-の言った「アイコンタクトの回数はいつもより多かった」「リズムが上手にとれない曲ではダンスで指揮をしてくれた」といったステージ上での「助け」になった。
以前も書いたが、Legend-S-初日、大声援を受けながら、BBM楽曲を一人でパフォーマンスするMOAは、当然ながら「必死で頑張っている」という感じだった。
だが、二日目、MOAはソロ・アーティストとして1万人の大観衆を魅了し、最後の階段を上っていくシーンでは、「もう一人の女神」のオーラを放っていた。
Legend-S-は、SU-METALの20歳の聖誕祭ではあったが、MOAもまた、飛躍的に大きく成長したライブだったのだ。


「それで、広島のライヴでお客さんにすごく助けられて、それは本当にありがたいことなんですけど、やっぱりどこかで「ああ、2人だけだとダメなのかな?」って思ってしまった部分があったんです。だからその後のツアーで、ちゃんと2人がYUIMETALの穴を埋めて、BABYMETALとしてパフォーマンスを成立させられるか試したかったし、証明したかったんだと思うんですね。(中略)いちばん違いを感じたのはMOAMETALとの距離がすごく遠かったことなんですよ。しかも、2人とも正面を向いた立ち位置だったので、アイコンタクトのタイミングもなかなか合わなくて、想いを感じ取るのが難しかったです。」
「YUIMETALがいなくてショックを受けてるけど、目の前に私たちがいるから盛り上げなきゃいけないんじゃないかみたいな、そういう表情が見て取れて。なんか、ちょっと気を遣われてる感じというか(笑)」
(SU-METAL、同書P.117)
「今まで感じていた愛情が一気に裏返る瞬間を、ツアーが始まってすぐに感じたんですよね。その時はさすがに自信がなくなってしまったし、正直、ステージに立つのが怖いと感じる日が来るなんて思わなかったです。(中略)しかもフォーメーションが変わったので、SU-METALの前方に私が立っている状態だったんですよね。それまではSU-METALの存在を確認しながらライヴができていたんですけど、私の目の前にはお客さんしかいなくなって、そういう状況に置かれたことで、不安とか相まってアウェー感を覚えてしまったような気がします。」「あと、求められてるものと違うものを見せてしまってるのかもしれないっていう不安があったんですよね。(中略)何を届けても届かない、つかんでもどうしたってつかめないような感覚は初めてだったので…悪い意味で鳥肌が立っていました」(MOAMETAL、同書P.121-122)
「今だったら、あれはあれで面白いなと感じてもらえると思います。それまでの衣装がどんどん軽量化していったのに、すごく厚いレザーを着て結構な重量で踊っていたので、自然と体力が付いていった気もしますね。(中略)そういう意味でもあの時期は鍛えられたなって。毎日違うメイクだったし、衣装も含めて、めっちゃ面白いなと自分で思ってます。」(MOAMETAL、同書P.123)

2018年の年末から2019年1月にかけて、カンサスシティ公演の出番直前のうす暗い舞台袖で、震えるMOAの背中をSU-がそっと押している動画が流出したことがある。
この頃にはDarksideのBABYMETALのライブクオリティには肯定的な評価が定まっていたが、いくら2人のサポートダンサーを加え、4曲の新曲を含めた数か月間の準備をしたとはいえ、YUIが復帰するものと信じているアメリカの観客の前に、事前通告なしにYUIMETAL欠場&新体制で出ていくのは、誰が考えてもキツイ。
「2人だけだとダメなのかな?」と考えていたSU-に対して、MOAは、YUIのキャラクターを自分の中に統合して、「2人だけでも大丈夫」になろうとしていた。だが、当然ながらそれはまだ不完全だった。
「求められてるものと違うものを見せてしまってるのかもしれないっていう不安」とは、YUIを統合した「MOA&YUI」になり切れず、サポートダンサーを含めたDarksideという全く違うものを追求しなければならなかったことへのジレンマによるものだったと思う。
結果的に、2018年は「2人だけだとダメ」という判断から、4人体制、7人体制、3人体制が試されたが、2019年6月以降は、SU-、MOA+アベンジャーという3人体制となった。
だが、これはYUIのポジションに、YUIの代わりのアベンジャーが入るという形ではなく、見えない4人体制なのだというのがぼくの見立てである。
2019年9月以降のMETAL GALAXY WORLD TOURの動画を見ればわかるが、YUIのキャラクターであったエレガントさやカワイさ、華麗さといったオーラは、MOAの中に見事に統合されている。2019年のLegend-M-Beyond the Moonに登場したMOAは、びっくりするくらい美しくなった。
そして、MOAはタッグを組むアベンジャーの個性や楽曲に応じて、エレガントなYUIっぽさを出したり、パワフルな本来のMOAっぽさを出したり、変幻自在のダンスを見せている。
だからこそ鞘師里保、藤平華乃、岡崎百々子の3人は、メタルネームこそないが、「YUIの代わり」を強要されることなく、BABYMETALの準メンバーとして、それぞれの個性を発揮している。
つまり、2019年以降のBABYMETALは、SU-METAL、MOAMETAL+YUIの代わりのアベンジャーではなく、SU-METAL、MOAMETAL including YUIMETAL+個性的なアベンジャーという見えない4人体制なのであり、かつての3人組BABYMETALに戻ったのではなく、明らかに進化しているのだ。
そして、その進化は、2018年のDarksideのアメリカ、ヨーロッパ、日本、シンガポール、オーストラリアを巡ったツアーの真っ最中に、ぼくらの見ている前で起こったことなのである。


4人体制のダイヤモンド型フォーメーション、7人体制の大柄3人組、小柄3人組、Chosen Sevenの扇型フォーメーションを経て、シンガポール&オーストラリアの3人組体制で、アベンジャー・システムが確定した。アイコンタクトができないフォーメーションは、まさにぼくら観客に見せるために発生した問題なのであり、そのことがSU-にもMOAにも不安材料となったが、逆に言えばそれによって2人がアイコンタクトしなくてもお互いの考えていることがわかる「テレパシー」(『PMC』Vol.15)にまで、信頼感を醸成していく要因となった。苦境をともに乗り越えたから絆が強まったのだ。


この時期についてMIKIKO師はこう言っている。
「一番悩んだのは、どういう形式でやっていくのかということ。三角形の強さというのがあったので、二人が横並びになることもなしではないのですが、それぞれのポジションにいるから輝くというところがあって。だからといって、3という数字をもう一度作り直すことは酷なのかなとか、いろいろ考えました。いろいろとやっていくなかで、自分たちの一番フィットする体制を模索していった感じです」(MIKIKO、同書P.201)
結局、SU-METALがシンガーとしてより歌唱技術や表現力を磨き、YUIを内在化させたMOAがダンサーとして大進化したところへ、魅力的な3人のアベンジャーが加わった3人組=見えない4人組という形が、「一番フィット」したのだ。
SU-METALもMOAMETALも、もう大人である。KOBAMETALが考えた「天才美少女歌手+その周りで踊る双子の天使」の3人組ではなく、自分たちがライブで実践する中で選び取った新3人組。そして、それがぼくら観客の目の前で起こるのが、BABYMETALらしさである。
なお、『別冊カドカワNo.830』では、2018年にBABYMETALを救ってくれたサポートダンサー5人(丸山未那子、佃井皆美、秋山翔子、平井沙弥、大森小都乃)にも、現在のBABYMETALの準メンバーであるアベンジャー3人(鞘師里保、藤平華乃、岡崎百々子)にも一切触れられていない。
これはどう考えてもおかしいのではないか。
前回書いたように、この本はBABYMETAL結成10周年を記念した「正史」である。
デーモン閣下やYOSHIKIや松本孝弘やロブ・ハルフォードやSLIPKNOT、Dragon Force、Bring Me The Horizonのメンバー、仲里依紗、千原せいじ、中邑真輔といった芸能人が賛辞を寄せるのはありがたい。だが、その一方で、BABYMETALの準メンバーである神バンドやサポートダンサーの実名が一切伏せられ、評価もされていないというのは、いくらギミックとはいえ、どうにも納得できない。
(つづく)