BABYMETALの哲学(6) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月26日は、2014年、Google公式AndroidのテレビCMにBABYMETALが出演した日DEATH。

2016年9月19-20日に行われた東京ドーム公演は、BABYMETAL史における一大エポックであり、ぼくらファンにとっても「頂点」だと思えた。これについて、『別冊カドカワNo.830』でKOBAMETAL、SU-METAL、MOAMETALはそれぞれ次のように語っている。
「当初は1日だけの予定だったんですけれど、チケットの売れ行きが良くて日程も空いたので2Daysにしようということになったんです。(中略)自分としてはなるべく客席とステージの距離を近くしたいということからステージプランを相談しました。センターステージにして、マンションの6~7階くらいの高さにもう一つのサブステージを造ってそこまでエレベーターで上がってパフォーマンスできるようにしたり、360度のLEDスクリーンを設置してどこの位置からでも見えるようにしたり、棺桶の形をした3つの花道にムービングステージを付けて移動できるようにしたり。遊園地を創って日で壊すみたいな感じでした。当日は台風も来ていたし、1日目と2日目で曲も演出も全部違ったんで、本当に大変でした。よくやれたなと思います。正直言うと、東京ドームは一生に1回でいいなと思いましたね。大きければいいってもんでもないな、と。」(KOBAMETAL、同書P.97-98)


「もともとは東京ドームなんて夢のさらに先というか、ちょっと遠すぎて見えない場所にあったものだったんですよ。それが、さらにもっと遠いと思っていた海外でBABYMETALが定着し始めているってことを実感してから、東京ドームが意外と近くに感じられるようになっていって。なので、実際にドームのステージに立つ時には…約半年間、ここを目指してやってきたはずなんだけど、果たしてそこがゴールなのかな?って感じてました。これが達成できたら、もっと先に行けるんじゃないかなって思えて、その時点で東京ドームがそういう存在になっていましたね。」(SU-METAL、同書P.87)
「もともとあまり緊張しないタイプなのですが、始まる前は「さすがに東京ドームは緊張しちゃうよなぁ」と思っていましたが…以外と緊張してなかったんですよね。わりと楽観的でした。私たちの登場位置が天井に近い所だったので、客席を見下ろす感じでお客さんがたくさん入っているのを見て、「わあ、すごい!」って思ったけど、広すぎるなとは思わなかったですね。(中略)覚えているのが、お客さんが着けていたコルセットが一斉に光っていて、すごく綺麗だったことですね。一人ひとりの心が光っているようなイメージというか、みんなの心が集まって、こんなに綺麗な光になってるんだなぁって思えたのがすごく幸せでした。」(MOAMETAL、同書P.92)
ぼく自身は東京ドーム公演2日間に参加したが、フィニッシュ曲が「イジメ、ダメ、ゼッタイ」だったことに感動した。今年1月のLegend-METAL GALAXY@幕張メッセでも、この曲がフィニッシュだった。
「10年のキセキ」番外編で書いたが、東京ドーム公演は初日がRed Nightだが衣装は黒を基調としており、2日目はBlack Nightだったが、衣装は赤を基調としていた。
2012-2015年、日本および海外に登場した際には、BABYMETALといえば、黒の鎧型上衣に、赤いチュチュと黒のニーソ(絶対領域付き)というコスチュームで、メタル「アイドル」を体現していた。
しかし、メタル色が強まった2016年の『METAL RESISTANCE』リリース以降は、黒を基調としたコスチュームに変わった。それが、東京ドーム2日目Black Nightでは久しぶりに赤だったのだ。
もし、ライブタイトル通りに赤→黒だったら、BABYMETALは「アイドル」としてデビューしたが、今後はメタルバンド/アーティストとして活動していくという意味になっただろう。だが実際には、公演タイトルとは逆に、黒→赤という順番だった。


これは、BABYMETALはまだまだ「アイドル」として活動していくという宣言だったのではないか。
そして、その「アイドル」像とは、世界で活躍し、握手会やお渡し会などのフィジカルなファンサービスをやらない代わりに、常に最高のライブをファンに届け、ウェンブリーでイギリスのファンに「We are always on your side」と告げたように、いつもファンの心の中に存在し続ける新しいアイドル=「会いに行けないアイドル」を表現していたのではないかというのがぼくの考えだった。
その意味で、アイドルとしてのメジャーデビュー曲であり、初めて『ミュージックステーション』に出演して「巨大勢力アイドル」=AKB48の前で披露した「イジメ、ダメ、ゼッタイ」を、東京ドームのフィニッシュ曲にしたのは、まことに意義深い。
そして、インタビュアーが「イジメ、ダメ、ゼッタイ」冒頭のダッシュは最長距離だったのでは、と水を向けると、MOAMETALはこう答えている。
「「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のダッシュは、たしかにあの時が最長かもしれないですね。体力面は結構余裕がありました。最後の曲まで全然疲れなかったしいろいろな経験を経て、強くなったなって感じられましたね、東京ドームの時にはもう、全然怖いものなしにライヴをつくり上げていけていたと思います。」(MOAMETAL、同書P.93)
このあとインタビュアーは「やはり世界がMOAMETALを強くしたのだろうか」と尋ねると、「そうですね、どんどん強くなっていってます」と笑ったという。
過酷なスケジュールと常に「昨日より良いライブを見せる」というプレッシャーに打ち克ってきたBABYMETALは、身体だけでなく、心も強く大きくなっていたのだ。
だが、東京ドーム初日に初めて生披露され、それ以降今まで披露されていない難曲「Tales of the Destinies」については、こんなことがあったらしい。
「今だから言えるんですけど、この曲が始まって10秒くらいで音を見失ったんですよ。それで1番の間は、ほぼずっと音を見失った状態でライヴをしていて。それが凄く悔しかったんです。相当難易度が高いので、今すぐに披露できるかと言われたら、それもわからないです。」(SU-METAL、同書P.87)
「あれは、今思い出しても笑っちゃいます(笑)。面白いなって思いながら踊っているんですよ。途中で曲調や拍子が変わるし、自分が正しいリズムを撮れているのか、踊りながらも正解がわからなくなるんです。リハーサルスタジオだと狭いのでまだ理解できるんですけど、それが東京ドームのレベルになると音の跳ね返りがすごくて、自分が何を聴いていて、みんなが何を聴いていて、みんなが何に合わせて踊っているのかわからなくなりましたね。(後略)」(MOAMETAL、同書P.92)


前回のウェンブリーもそうだが、現場で直接見て、BD映像を何度も見返しているぼくですら、曲冒頭の「THE ONE」の3連符フレーズを倍速で弾く小神様の演奏力に驚嘆し、複雑なリズムに乗って歌うSU-と、途中のホンキートンク風のジャズピアノのシークエンスで、コケティッシュに踊るYUI&MOAのKawaiさに大拍手を送っていただけで、まさか全員「見失ってる状態」だったとは思いもよらなかった。
しかし、である。
それはおそらく、自分のパフォーマンスに対する彼女たちの要求水準が、ぼくのような鈍感な観客には見分けがつかないほど、高いということだ。
考えてみれば、だからこそ、あれほどクオリティの高いライブが実現できるのだ。自分の演奏やパフォーマンスの要求水準を低くしてしまえば、多少のミスなど気にならない。「盛り上がったねー」で終わってしまう。改善もなされない。その代わり、見る人が見ればどんどん「ダメ」になっていく。
これこそ、「アイドル」でありながらアイドルの域を超えて世界で活躍するBABYMETALのプロフェッショナリズムが持つ哲学的凄みなのだ。
(つづく)