10年のキセキ総括編~BABYMETALの意味(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月30日は、2019年、米ネバダ州ラスベガス公演@House of Bluesが行われた日DEATH。

2)アイドルの主力商品の変化

アイドルグループが叢生していた2010年当時、音楽事務所であったアミューズもまた、「成長」「卒業」という2000年代アイドルの特徴を表現するグループを構想する。
それが、2010年4月に「学校」をテーマに、小中学生のみの「成長期限定ユニット」さくら学院であり、その中の部活として結成されたのが重音部=BABYMETALだった。
サザンオールスターズ、福山雅治、ポルノグラフィティ、Purfume、ONE OK ROCKといった大物アーティストを抱えていたアミューズが、なぜ、わざわざアイドルグループを作ったのだろう。
アミューズ創業者で、現在代表取締役会長の大里洋吉氏は、ナベプロでザ・ピーナッツ、ザ・ワイルドワンズ、梓みちよ、あいざき進也、キャンディーズらのマネージャーを務めた。 “女性三人組”のキャンディーズには特に思い入れが強く、1978年に行われた解散コンサートの総合演出も担当した。
ナベプロ在籍中は、渡辺美佐副社長のロンドン出張に随行し、“本場”の音楽業界人の姿や、ロンドンの劇場での演劇を鑑賞してインスパイアされたという。
こうした経歴から、アミューズがアイドルグループを構想するのは当然であり、1977年の創業以来、社是に「海外で活躍できるアーティストの育成」を掲げ、“三人組”のPerfumeやBABYMETALの海外進出をサポートしたのも理解できる。
ただもう一つの理由として、音楽業界の構造的な問題があったことも事実だろう。
それはCDが売れなくなったという冷酷な事実だ。
1990年代にはCDオーディオ機器の普及が進み、日本では1998年に3億291万3000枚の総枚数が売れたが、1999年以降は漸減し続け、10年後の2008年には2億4221万2000枚、20年後の2018年には1億3720万5000枚と、20年間で半分以下まで縮小した
シングルCDのミリオンセラーは、1995年、1996年、1998年には20作以上がミリオンセラーを記録しているのに対し、1999年には9作と急減、2002年以降は、毎年1作出るか出ないかのペースとなった。(以上、Wikipedia「CD不況」の項より)
アミューズといえども、サザンオールスターズのような国民的アーティストを見出し続けることは難しい。
若年層を対象としたアイドルは、音楽ファンを育てるという意味でも、長期にわたる売り上げが期待できるジャンルだった。
だが、AKBグループや坂道グループのように、テレビの冠番組を確保して訴求媒体とすることはハイリスクだった。CDに「握手券」や「総選挙投票券」を封入するAKBグループなら、大掛かりな広告宣伝費をかけても、CDの売り上げで回収できる。
だが、そういう仕掛けをしないとすれば、新作を出せば一定数売れる大物アーティスト以外は、CDの売り上げだけに頼るのではなく、主流になっているネット配信やストリーミングによるビジネスモデルを構築しなければならない。だがそれらは単価が安く、見込まれる売り上げから考えて、広告宣伝費は低く抑えなければならず、限定的な層にしか訴求できないインターネットでの告知しかできない。限定的な告知で大きな売り上げを上げられるとすれば、大規模なライブ動員を活動の中心に据えるしかなかった。
ライブに足を運ぶコアなファンを形成できれば、一人のファンがCDを買い、ライブチケットを買い、グッズも買ってくれる。さらに、そのライブ映像を商品化すればまた売れる。客単価を上げることができるのだ。
数百名のメンバーを擁し、テレビで人間的魅力を振りまき、CDに「握手券」「総選挙投票券」を封入して、ファンに疑似恋愛させるという悪魔的アイデアは、基本的にはシングルCDを売ることだけに特化したビジネスモデルだった。
だが、それをせずとも、ネット配信・ストリーミング、CD、ライブ、グッズ、映像作品という「商品の多様化」を組み合わせれば、十分対抗できるものだった。
とはいえ、大規模ライブで集客できるようになるには、グループ自体に魅力がなければならなかった。
KOBAMETALは、さくら学院に部活(=派生ユニット)を編成するにあたって、可憐Girl’sの元メンバーで、中学1年生ながら卓越した歌唱力を持つアクターズスクール広島出身の中元すず香を中心とした「メタル少女歌劇団」を夢想した。中元の凄みに拮抗する存在がいなかったため、2010年8月に行われた第1回東京アイドルフェスティバルで、「転入」してきた小学校5年生の水野由結と菊地最愛を「SU-METALの回りで回る天使」として加えたユニットが重音部、のちのBABYMETALだった。
2010年11月26日のさくら学院祭2010で初披露されたのが、パンテラのサンプリング音源を用いて打ち込まれ、サビで短調から長調へ転調するデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」である。
翌2011年2月のさくら学院ライブ「Happy Valentine」で、初めてBABYMETALと名乗るが、2012年までBABYMETALはさくら学院の部活動でしかなかった。
この間、2011年8月にAKB48の「公式ライバル」として、乃木坂46が結成された。中元すず香の姉、中元日芽香も3万8934人の中から選ばれた一人だった。
2011年10月から、乃木坂46の冠番組『乃木坂ってどこ?』(テレビ東京)がスタートしたが、2012年2月のデビューシングル「ぐるぐるカーテン」は、オリコン2位だった。
もともと、SME(Sony Music Entertainment)傘下のデフスターレコーズに所属していたAKB48が、2008年にキングレコードへ移籍した後にブレークしたことを「大魚を逃した」と思っていたSMEが、同じ秋元康のプロデュースで結成されたのが乃木坂46であり、グループ名も地下鉄乃木坂駅近くにあるSME乃木坂ビルに由来する。
同時期、「Z」に改名したももいろクローバーZが、「試練の7番勝負」を行い、プロレスやロックフェスに出演し、話題となっていた。LOUDPARK12の出演はメタルファンからブーイングを受けたが、初の性別限定ライブ「男祭り2011」「女祭り2011」も実施し、年末には『ももいろクリスマス2011』を埼玉スーパーアリーナで開催した。2012年2月には、1stアルバム『バトルアンドロマンス』が「CDショップ大賞」に選ばれ、大規模ライブ「ももクロ春の一大事2012 〜横浜アリーナ まさかの2DAYS〜」も行われた。

さらにキッズ向けライブ「ももクロの子供祭りだョ!全員集合」や、初のドーム公演「ももクロ夏のバカ騒ぎ SUMMER DIVE 2012 西武ドーム大会」、日本武道館公演、2年連続となる「男祭り2012-Dynamism-」「女祭り2012-Girl's Imagination-」も行われ、年末にはNHK紅白歌合戦に初選出される。
AKB48は、2011年1月にオリコンウィークリーで、4曲同時にトップテン入りし、ミリオンセラーを連発、2010年末は130人、2011年末には210人、2012年末には170人で紅白歌合戦に出演する巨大な「国民的アイドル」だった。
乃木坂46はAKB48の「公式ライバル」として2011年に結成されたが、2010年~2012年の時点でAKB48の「本当のライバル」だったのは、「健気な5人組」のももいろクローバーZであるのは誰の眼にも明らかだった。
そのため、SMEは総力をあげて乃木坂46を「国民的アイドル」にするプロジェクトを開始した。
2013年7月から、「AKB48が『AKBINGO!』でやってきたことと全く同じことをやったら、乃木坂46は国民的アイドルグループになることができるのか」を検証する番組として『NOGIBINGO!』が始まった。
『AKBINGO』~『NOGIBINGO』の演出・構成作家には吉本興業のスタッフが加わっており、MCのイジリー岡田が、“上品なリセエンヌ”イメージの強かった乃木坂46のメンバーを、いきなり顔面パイ・バズーカ、しかも黒いクリームなどなど、アイドルとは思えないほどイジメ抜いた。イジリー岡田が最近はじめたYouTubeチャンネルによると、メンバーは毎回泣いていたというが、乃木坂46一期生のメンバーは意外なほどの根性とバラエティ適性を発揮した。モデルも務め、一番“お嬢様”イメージの強かった白石麻衣が、嫌がらずに笑いを受け入れていったことが大きかったと思う。
『乃木坂ってどこ?』~『乃木坂工事中』での“公式お兄ちゃん”バナナマンによる“指導”や、体を張った「ヒット祈願」も含めて、メンバーは笑いのセオリーを学び、「健気さ」のオーラを身に着けていった。
センターに抜擢されなくても、「あざとい」秋元真夏とか、「異能の才人」生田絵梨花、「わがままドS」齋藤飛鳥といったキャラクターも冠番組で確立した。中元日芽香は、『NOGIBINGO』シリーズでイジリー岡田のアシスタントを務めていた。
ただし、乃木坂46では、AKBグループのようにファン投票ではなく、スタッフによって、毎回シングル選抜メンバーが選ばれ、残りはアンダーへ回るというシステムがとられた。握手会への参加数などが指標となるため、メンバーが常に競争させられるという点では同じである。
2013年8月、乃木坂46は札幌・福岡・大阪・名古屋・東京の五大都市を回る「真夏の全国ツアー2013」を実施する。2つの冠番組で訴求しつつ、全国各地で大規模ライブや握手会を行う。初期メンバーが次々と卒業し、主要メンバーのスキャンダルも発覚するAKB48を抜いて、乃木坂46が「国民的アイドル」の座に昇りつめる切り札となった。


さて、BABYMETALである。
2012年3月にキバオブアキバとのスプリットシングル「BABYMETAL×キバオブアキバ」をリリースしたBABYMETALは、7月に単独インディーズデビュー曲「ヘドバンギャー!!」をリリースし、大阪、名古屋でヘドバ行脚を行い、目黒鹿鳴館でLegendコルセット祭りを行う。さらに2012年10月から2013年2月にかけてLegend“I、D、Z”を行い、「巨大勢力アイドル」に対抗するMETAL RESISTANCEを宣言。2013年に「イジメ、ダメ、ゼッタイ」でメジャーデビューする。
2013年の5月の五月革命に続いて、サマソニ2013、秋のLOUDPARK13など、神バンドを帯同した全国のロックフェス修業でロックファン、メタルファンもファンベースに加え、Legend“1999”、Legend”1997”で、「生きる伝説」としてのライブを確立したBABYMETALは、2014年3月、史上最年少記録となる日本武道館2日間を成功させ、1stアルバム『BABYMETAL』が、米ビルボード200で137位にランクイン。同年7月にはパリ、ケルン、ロンドンでの公演、Sonisohere2014への出演、ロサンゼルス公演とレディ・ガガの西海岸ライブツアー帯同など、欧米で大人気となった様子がNHKはじめ、各局の芸能ニュース枠で社会現象として報道された。
以降、BABYMETALは「日本のアイドルグループ」の枠を超え、国内・海外のライブ活動を中心とする世界的メタルアーティストとなった。


AKB48というCDを売るシステムを持った「巨大勢力アイドル」に対抗して、ももクロ、乃木坂46、BABYMETALというオルタナティブな選択肢となるアイドルグループが、ライブ活動をてこに台頭したのが2012~2014年だった。

BABYMETALは2016年、乃木坂46は2017年、ももクロは2018年にそれぞれ東京ドーム公演を行った。

秋元システムの一員でもある乃木坂46は、地上波に冠番組を持っているので、2012年5月リリースの「おいでシャンプー」以降、すべてのシングルでオリコン1位となっているが、ももクロとBABYMETALはライブ活動を中心に据えたため、前述したように、シングルランキングだけでなく、ライブ動員数、ライブグッズ、ライブ映像作品のトータルな売り上げが人気度のバロメーターになった。

シングル曲だけならネット配信やストリーミングで済むが、映像作品は配信されず、ライブに行ったファンも買うし、ライブに行けなかったファンも買う間口の広さを持っている。
特にBABYMETALでは、日本では知り得ない海外での様子や、凝った演出のライブ映像が作品化されるため、BD部門では『Live at the BUDOKAN』以降『Legend-S-Baptism XX』まで4作品がBD部門で1位を獲得した。
2020年9月9日にリリースされたBABYMETALの『Legend METAL GALAXY』は、乃木坂46の『ALL MV COLLECTION2〜あの時の彼女たち〜』とリリース日が重なり、DVD、BDとも2位だったが、改名が発表された欅坂46の『欅坂46 LIVE at 東京ドーム』(1月29日リリース)、『欅共和国2019』(8月12日リリース)も、同じ週のトップテンに名を連ねていた。
このように、CDの売り上げだけが指標だった2010年当時から、アイドルグループの主力商品がライブ映像作品へと変化したのがBABYMETALの結成以来10年間のアイドル界、音楽業界の変化だったといえる。
(つづく)