10年のキセキ総括編~BABYMETALの意味(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月29日は、2012年、FM Nack5の『ESPプレゼンツ音楽人』に出演し、2016年には、米ワーナーブラザースと提携、BABYMETALを主人公とした実写+アニメが制作されると発表された日DEATH。マボロシ~。

それでは、BABYMETALが結成以来10年間で与えた3つの影響の考察に入る。

1)アイドルのコア・コンピタンスの分化

BABYMETALが日本のアイドル界・音楽市場に与えた影響のひとつは、アイドルなのに音楽性で勝負するというところだった。
1990年代は、前半が小室サウンド全盛期、後半がBeingブームで、「アイドル冬の時代」と呼ばれていた。
1997年、テレビ東京のバラエティ番組『ASAYAN』の企画「シャ乱Qロックボーカリストオーディション」の落選者から選抜された5人により、「ASA=朝」に由来するモーニング娘。が結成され、インディーズシングル「愛の種」を5日間で5万枚売り切るというとんでもない条件を見事クリアし、「モーニングコーヒー」でメジャーデビューした。


この経緯を見てもわかるように、つんく♂が彼女たちに求めたのは、卓越したロックボーカリストとしての才能ではなく、試練に耐えて夢を実現するという「健気さ」だった。
モーニング娘。は「LOVEマシーン」などヒット曲を連発する国民的アイドルになったが、創設メンバーだった中澤裕子が2001年4月に脱退する際、ネガティブなイメージを避けるため「卒業」という言葉が使われた。
これによりメンバーが数年の活動後に「卒業」し、新たに加入した未熟なメンバーの「成長」を楽しむという2000年代「アイドル」グループのフォーマットが作られた。
このフォーマットは2005年に結成されたAKB48や、2006年に結成されたアイドリング!!!でも踏襲された。
なお、「〇〇期生」という呼び方は、もともと宝塚歌劇団にあったが、アイドルグループとしてはアイドリング!!!が最初だったと思う。
冠番組を持つ両グループに決定的な差異が生まれたのは、AKB48が2009年から「選抜総選挙」というグループ内の競争原理を導入したことによる。
少女たちにとってCDジャケットに映り、テレビ出演ができる「シングル選抜」に入ること、さらに最前列センターのポジションをめぐる争いはし烈で、だからこそキャバクラの指名No.1争いと同じく、疑似恋愛感情から特定メンバー「推し」のファンが頑張ってCDを大量に買い、握手会や投票の権利を得るという構造が生まれた。
第1回選抜総選挙でセンターとなった前田敦子の涙や、第2回センターになった大島優子の表情は、モノマネされるほど、人口に膾炙した。AKB48でも楽曲そのものより、メンバーの「健気さ」がアイドルの必須条件とみなされていたのである。


一方、2008年に女優・モデル中心の芸能事務所だったスターダスト初のアイドルグループとして結成されたももいろクローバーには、そもそもテレビの出演枠などなく、代々木公園の路上やデパート屋上、全国の家電店店頭やショッピングセンターでのライブを重ね、CDを手売りする「健気さ」にファンがついていった。
ももクロはゴレンジャーなどの戦隊ものを模して、メンバーが役割によって色分けされており、草創期にメンバーの入れ替わりはあったが、2010年以降は固定制で、メジャーデビュー曲「行くぜっ!怪盗少女」にはメンバーの名前が織り込まれていた。
赤=リーダーの百田夏菜子のビジュアルとアクロバティックな運動神経、バラエティで見せるおバカぶりは人を惹きつけずにはおかない魅力を発しており、青=サブリーダーでMC役だった早見あかりが女優を目指して2011年に脱退する悲しみに直面したあと、ももいろクローバー「Z」として数々の試練を乗り越えていく健気な姿が、AKB48と人気を二分する国民的アイドルへと彼女たちを押し上げた。


ライブの演出はK1やプロレスイベントのディレクターだった佐々木敦規が手掛け、「次の試練」がサプライズ的にライブで発表されるため、ももクロの「成長物語」は、テレビ番組以上のライブ・ドキュメンタリーになった。
例えば、初めて紅白歌合戦に出場した際、「行くぜっ!怪盗少女」に脱退した早見あかりを歌い込むとか、2013年末に行われた極寒のライブで、松崎しげるが登場し、翌春に、かつて路上ライブを行っていた国立競技場でライブを行うことを歌で発表すると、トロッコに乗っていたメンバーが号泣するなどといったことだ。
「推しメン」への疑似恋愛感情をベースとするAKB48グループに対して、水着にもならず、握手会も行わないももクロのファン=モノノフは、「親目線」で彼女たちの成長を応援するという特徴があった。
そんな中、2010年に結成されたBABYMETALは、「成長」「卒業」のフォーマットを持つ「成長期限定ユニット」さくら学院の部活として出発したが、グループ内ユニットだったためメンバーは固定制だった。
当初は、幼い少女たちが大人にヘヴィメタルを「やらされている」というある種の倒錯的な魅力が「健気さ」につながっていたが、SU-METALの類まれな歌唱力、YUIMETAL、MOAMETALのKawaiさと運動能力、KOABAMETALがマニアックに制作する楽曲、MIKIKO師による表現としてのコレオグラフィー、神バンドの超絶技巧の演奏力によって、BABYMETALはアイドルの域を超えた音楽性を示すに至った。
それは、モーニング娘。、アイドリング!!!、AKB48、ももいろクローバーZが作り上げてきた2000年代アイドルのキーワード=「健気さ」を、アイドル自身が覆すという革命的出来事だった。


では、音楽的には、どこがどう革命的だったのか。
音大出身で、シンガーソングライターのYouTuber「ぱくゆう」さんは、2016年に、欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティ」がAメロBメロでKey=G#mでありながらサビで変拍子を入れたブリッジでKey=G#へ転調することを「やばい」「斬新」と絶賛し、以降、欅坂46の楽曲分析動画をアップロードし続けてきた。

https://www.youtube.com/watch?v=7RtVYZ-X6yg

ぱくゆうさんは、最新の動画で、映画『ぼくたちの嘘と真実』を見た後、活動休止→改名に至った欅坂46を総括して、映像やダンスのクオリティに対して楽曲のレベルは一段落ちると評し、メンバーをここまで追い込んだ大人たちの責任に言及している。ぼくはその穏やかな話し方や見方に賛同するのだが、「サイレントマジョリティ」が斬新だという着眼点には、ちょっと違和感を覚えた。
転調に特徴のあるJ-POP楽曲は数多い。
松田聖子、小泉今日子、中森明菜といった80年代アイドルを駆逐し、「アイドル冬の時代」を招来した1990年代前半の“小室サウンド”は、まさに転調に特徴があった。
例えば、TRFの「EZ Do Dance」では、イントロからAメロまではKey=Amだが、サビではKey=Dに転調する。踊ることを前提に、リズムはダンサブルな表拍16ビートをキープするので、変化をつけるためにあえて転調を入れているのである。だが、その唐突感はまさに革命的だった。
篠原涼子「恋しさと切なさと心強さと」も同じで、サビKey=Emから入るが、1メロはKey=Eになる。
Key=Emの並行調はKey=Gだから、Key=Eは相当違和感があるのだが、サビは平然とKey=Emに戻る。
後述するが、この転調の仕方は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」「サイレントマジョリティ」と同じである。
あれだけの大ヒットなのにこの不思議な転調とメロディの連続性に違和感はない。
こういう高度なことを小室哲哉はやっていたのだ。ロックっぽくなってはいてもあまりにも単純だった80年代アイドルソングが飽きられるのも無理はないと思う。
奥田民生プロデュースの二人組アイドルPuffyが1996年にオリコン1位を獲得した「これが私の生きる道」のコード進行(Key=E)も、相当ヘンである。


「♪近(E)頃私(Bm)たちは(C#m)いい感じ(F#)悪いわ(A)ね、ありがと(B)ね、これから(A)も、よろしく(D→B)ね」
この歌い出しで、Key=Eのドミナントコード(Ⅴ)はBなのに、Bm(並行調はD)になっている。後半もA(Ⅳ)→B(Ⅴ)と素直に進行せず、A(Ⅳ)→D(Ⅵ#)→B(Ⅴ)と進行する。
要するにビートルズのコード進行なのだ。
J-POPで、こういう複雑なコード進行の楽曲がヒットチャートをにぎわせていたのが1990年代なのである。
ところが、1997年デビューのモーニング娘。の楽曲にはほとんど転調がなかった。
「LOVEマシーン」はKey=C#mで、サビも含めて、最後まで変わらない。
そもそも、つんく♂が作るシャランQの楽曲は、ロックバンドのコード進行としてはほとんど転調がなく平板なのが特徴で「歌謡曲っぽい」といわれていた。
AKB48の楽曲も同様で、「ヘビーローテーション」は、Key=Eのロックンロール調で、後半のCメロ「♪いつも聴いてた…」ではBm6→C#→F#m→Faug→F#m/E→D#m7-5とやや凝ったコードが使われ、最後の「♪…リクエスト中」だけ半音上がってC→B7と解決するが、Key=Eであることは変わりない。
このように、2000年代の「アイドル」楽曲は、コード進行が80年代歌謡曲のようにシンプルになった一方、途中、「パン、パパン、おー」というリズムで「合いの手」が入れられるようになっていた。
90年代のJ-POPとは真逆な、このシンプルなコード進行と観客参加のしやすさが、「健気なアイドル」を声援するプラットフォームになっていたのだ。
ところが2010年以降は、アイドルソングでも1990年代的な転調を取り入れた楽曲が登場してくる。
2010年のももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」がそれで、前奏の「♪Yes, Yes, We are the ももいろクローバー…」からのAメロBメロはKey=Amだが、サビの「♪笑顔と歌声で…」からはKey=D#mに転調する。
間奏から2番のAメロBメロは再びAmに戻り、サビのD#mからCメロの「♪無限に広がる星空よりも…」はKey=A、そこからサビD#mに戻り、後奏はブリッジのF#mで終わる。
作曲者ヒャダインの凄いところは、この複雑な転調を一切感じさせないメロディラインにしてあることである。この曲をメンバーが元気いっぱい歌い、Cメロの後、百田夏菜子が見せる「海老反りジャンプ」は、アイドルの歴史を更新するといわれた。


そしてBABYMETALである。
2010年11月26日の横浜レンガ倉庫で初披露されたデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」にも、明確な転調が仕込まれている。
パンテラのサンプリング音源を使いながら、Key=Amで「♪パッツンパッツン前髪パッツンCuty Style」と始まるが、Bメロの「♪…知らない世界みたいみたい、よね」のところで、ブリッジとなるギターのフレーズがAmのまま上昇し、長調のAに転調して下降してくる。ここからKey=Aで「♪リンリンリンッ、おはようWake up…」のサビにつながるのである。同じルート音を用いながら短調→長調へ転調するのは「恋しさと切なさと心強さと」と同じで、欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティ」も同じである。


2012年にキバオブアキバとのスプリットシングルに収録された「いいね!」は、冒頭の「♪チクタクしちゃう…」から「♪一人きりで空見上げたセンチメンタルナイト」まではKey=C#mだが、「♪現実逃避行」はEm7→Bとブリッジになり、サビの「♪いいね!いいね!夜空でパーリナイ…」はKey=Gに転調する。
そこからC#mに戻るが、リズムはブレイクダウンし、「アタマユラセ、メガネハズセ…Yo!Yo!」のラップパートになり、「Put your キツネUp」からグロウルの「♪メロイックじゃないキツネさん…」のデスメタルになり、そこに童謡「コガネムシ」が重なり、シンセ音から元のパラパラのリズムに戻る。転調も変拍子もやりたい放題のジェットコースターのような楽曲だった。
2011年にはライブ披露されていたが、2013年1月に、正式にBABYMETALのメジャーデビュー曲になった「イジメ、ダメ、ゼッタイ」もまた、アイドル楽曲史に残る転調の多い楽曲である。
このブログでは、何度も触れてきたので深入りは避けるが、Key=C#mで始まり、下降クリシェと上昇クリシェのせめぎ合いを繰り返し、最後にKey=C#に転調したかと思ったらすぐに半音低いKey=Cに転調し、最後はKey=C#mの並行調のEで終わる魔法のようなコード進行は、いじめと戦う少女たちの葛藤を表現しており、勝利の上昇コードから次元を超えて大団円を迎えるドラマチックな楽曲構成は、日本語のわからない海外の数万人のロックファンをも魅了した。
重要なことは、KOBAMETALが、転調の多い1990年代の楽曲をちゃんと意識していたということである。
先ほど挙げた篠原涼子「恋しさと切なさと心強さと」は、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のCメロ「♪いとしくて切なくて心強くて…」に引用されているし、YUI・MOAのScream「♪イエスタデー!」はビートルズである。


TRFの「EZ Do Dance」は、「♪フォー!」も含めて、最新曲「DADADANCE」に引用されている。
つまり、BABYMETALは、2000年代アイドルの「健気さ」というタレント性に対して、90年代的な転調を組み込んだ高度な音楽性を対置したのである。
しかも、BABYMETALは口パクを拒否し、2013年以降はカラオケをも脱して、ライブはすべて神バンドによる超絶生演奏のフォーマットとした。
思えば、つんく♂は「シャ乱Qロックボーカリストオーディション」の落選者からモーニング娘。を選んだが、KOBAMETALは、マジで世界に通用するロックボーカリストとしてSU-METALを選んだ。
そのスタートからして、BABYMETALは2000年代の「アイドル」とは一線を画していたのだ。
こういうアイドルの楽曲史から見れば、2016年の欅坂46の「サイレントマジョリティ」のサビ前の転調は、さして驚くべきことでも、斬新でもない。
2010年代中盤、ももクロやBABYMETALがライブを中心にした音楽性で勝負していた時代に、後発グループのデビュー曲として、サビ前で同じルート音を使って短調→長調へ転調するのは、エクストリーム感を醸し出すための標準仕様であり、変拍子でブリッジを強調しているのは、むしろ「あざとい」とさえいえる。
テレビで見られない、チケットやグッズが割高、中高年ファンが多いなどなど、「会いに行けない」BABYMETALに対して、疑似恋愛可能な「秋元印」で、デビュー前から冠番組を持つ欅坂46が音楽的に高度な曲をやったから、デビューCD売り上げ記録を樹立したのである。
だが、ぱくゆうさんのおっしゃるとおり、固定センターの平手友梨奈のエクストリームなパフォーマンスに過度に依存しながら、その後の欅坂46の楽曲は、BABYMETALの楽曲ほど凝ったものではなかった。
バラエティタッチの冠番組では身体を張った企画はさせず、グループ内競争もなかったが、その分アンダーチームのひらがなけやきが「健気さ」を体現し、結局、2019年2月に完全に独立して日向坂46となった。
その最新曲の「アザトカワイイ」もまた、転調の多い曲である。
イントロの「♪釣られてしまいました…」はKey=Fなのだが、ブリッジの「♪(A♭)両手でグーしてるの(C)が(C#7sus4)アザトカワイイ(C#)」を経て、サビ「♪見事に釣られました…」はイントロより半音高いKey=F#になっている。曲終盤にサビが半音上がるのはポップスの常套手段だが、このようなブリッジで曲中に移行するのは珍しく、さらに2番ではKey=Fに戻るのが面白い。
ぱくゆうさんもおっしゃっていたが、日向坂46としての1stアルバム『ひなたざか』の初回限定A盤、B盤、通常盤は、収録曲だけでなく、曲順までも別仕様となっており、音楽的に凝っている。
日向坂46は、運動神経やバラエティ対応能力、身体を張る「健気さ」に加えて、歌の上手いメンバーが多く、ミキシングもバランスが取れていて聴きやすい。現代性を織り込みつつも、70年代~80年代アイドルの「歌謡曲」を思わせる仕上がりになっているのだ。
以前書いたように、日向坂46は、1970年代「カワイイ」→1980年代「ぶりっ子」→2000年代「健気」→2010年代「あざとい」→2020年代「アザトカワイイ」と、アイドルの魅力を示す価値観を更新した。
一方、ロックボーカリストとしての中元すず香の歌唱力から組み立てられたBABYMETALは、世界的なアーティストとなり、その影響を受けたいわゆるラウド系アイドルのフォロワーも多い。
「テレビアイドル」の最新形である日向坂46と、「アーティスト的アイドル」代表のBABYMETALが共存しているのが、現在の日本のアイドル界、音楽市場である。
このように、BABYMETAL登場以降の10年は、「アイドル」の主たる魅力の源泉=コア・コンピタンスが分化していくプロセスだったといえるのではないか。
(つづく)