10年のキセキ(127) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月24日は、2019年、米テキサス州ダラス公演@South Side Ballroomが行われた日DEATH。

2016年4月リリースの『METAL RESISTANCE』と2019年10月リリースの『METAL GALAXY』のチャート成績は、米ビルボード200で39位から13位と躍進したが、イギリスのオフィシャルチャートでは、15位から19位へ後退した。
YUIMETAL脱退の影響もあり、“メタルの本場”イギリスでは、『METAL GALAXY』は「ポップ寄りになった」と思われて、UK4公演はイマイチ盛り上がらないのではないかというぼくの懸念は、杞憂に過ぎなかった。
ロックの殿堂、伝説のオデオン座はSOLD OUTし、オープニングからエンディングまでものすごい盛り上がりを見せた。2019年12月の『Music Stationウルトラスーパーライブ』で、「イギリスのロックチャートでThe Beatlesを抜いて第1位」という“切り取り報道”をしてもらったのは、案外正鵠を射ていたのかもしれない。
アメリカで総合順位が上がったのは、人口が多く、2016年にはまだ知られていなかったが、数年間のUSツアーで知名度が上がり、2019年の全米横断ツアーのライブチケットにCDを付属させたからだ。リリースライブはロサンゼルスのThe Forumだった。
人口が日本の半分しかないイギリスでは、2016年は「日本からやってきたKawaii Metal」という話題性で、ポップスも含めた総合順位が高かった。リリースライブがWembley Arenaだったこともあるだろう。
だが、2019年には購買者のジャンルが絞られた。その代わり、「ロック」ジャンルでは逆に評価が高くなったと考えてもいいのではないか。

2020年2月26日、BABYMETALはフィンランド・ヘルシンキ公演を行った。
フィンランド人の外見は、他の北欧人と同じく金髪碧眼であるが、遺伝子にはモンゴロイドのDNAを継承している人が多い。「フィン」とはフン族を意味し、フィンランド語の国名「スオミ」は「湖」を表すという説が一般的だが、今はラップランドに暮らす「サーミ人」に由来するという説もある。
フィンランド人の祖先は5,000年前に、アジア内陸からこの地に到達したらしい。その後、スウェーデン王国の属領となるが、19世紀にロシア帝国の支配下に入った。独立の機運が高まっていた20世紀初頭、東洋の新興国日本が、日本海海戦でバルチック艦隊を撃ち破ったニュースはフィンランド人を歓喜させ、英雄・東郷平八郎提督の名を冠した「東郷ビール」が生まれ、現在でも愛飲されている。要するに親日国なのである。
フィンランドはまた、メタル大国でもある。
しかも日本人好みのメロスピ、メロデス、ネオクラのバンドが多い。ストラトヴァリウス、ソナタ・アークティカ、チルドレン・オブ・ボドムがその代表だが、メタルの歌姫ターヤ・トゥルネンを擁したシンフォニックメタルバンドのナイトウィッシュや、民族楽器を導入した「森メタル」の雄コルピクラーニもある。
2019年12月には、日本で映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』が公開され、コメディタッチながら、メタルフェスを目指すフィンランド人の若者たちの心情が味わえた。
ヘヴィメタルはフィンランド人の心の音楽なのだ。
会場のHouse of Culture(フィンランド語 Kulttuuritalolla)は、北欧を代表する建築家アルヴァ・アールトが設計した宇宙船基地を思わせるモダンな芸術ホールで、現在はフィンランド政府が所有している。
収容人数は1,500人と少ないが、ここでは、ジミ・ヘンドリックス、クリーム(1967年)、レッド・ツェッペリン(1970年)、フランク・ザッパ、クイーン(1974年)、AC / DC、ラモーンズ(1977年)、ティナ・ターナー(1982年)、メタリカ(1984年)、ハノイ・ロックス、レナード・コーエン(1985年)、アイアン・メイデン(1995年)、レディ・ガガ(2009年)、ストラトヴァリウス、ハロウィーン(2010年)など、錚々たるアーティストがライブを行っている。
親日国でありメタル好きのフィンランド人にとってBABYMETALの初ライブは待望久しいものだったといえる。2020年1月28日には同じ会場で日本のDIR EN GREYもライブを行っていたから、武漢ウイルスが蔓延する直前、フィンランドのメタルファンは日本ブームに沸いていたわけだ。
セットリストは以下のとおり。
1.FUTURE METAL
2.DA DA DANCE
3.Distortion
4.PA PA YA!!
5.BxMxC
6.神バンドソロ~Kagerou
7.Starlight
8.Oh! MAJINAI
9.メギツネ
10.ギミチョコ!!
11.KARATE
12.ヘドバンギャー!!
13.Road of Resistance
アベンジャー:岡崎百々子
神バンド:Chris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)

セトリはUK4公演から変わり、“Bセット”になった。
オープニング、「FUTURE METAL」のテクノな曲調が宇宙基地のような会場にマッチし、日本=近未来からBABYMETALが飛来したというイメージにリアリティを持たせる。だがステージは小さく、銀河神バンドがスクリーンの前に立つと、映像がさえぎられる。それでも会場からは大歓声が起こった。
青い照明が点滅し、イントロが断続的に繰り返され、三人のシルエットが浮かび上がるたび、場内から奇声交じりの歓声が沸き起こる。三度目に三人が腕を動かし始めるとピットのエネルギーが高まっていく。スクリーンが真っ赤に燃え上がり、「DADADANCE」が始まる。


「♪BABY、BABYベイビーめろっ!」「♪フォー!」のポージングがビシッと決まる。シンフォニックメタルの重厚さとは違って、やっぱりKawaii。そこがBABYMETAL。
メタル大国フィンランドだが、北欧だけにユーロビートにも相性がいい。ユーロビート+メタルのコンセプトも当然大ウケである。最前列ではお立ち台よろしく手をヒラヒラさせて盛り上がり、「♪フォー!」に合わせてジャンプしている。
3曲目は「Distortion」。
暗転した場内に不穏なSEが流れ、その中から「♪ウォーウォーウォーウォー…」というコーラスが聴こえてくる。照明が点くと、Djentなギターリフとマーチのようなドラムスに合わせて三人がダンスを始める。
この曲はパワーメタル大好きなフィンランド人にとっては「正統派」メタルだろう。Djentなギターも標準装備だ。会場は音響がよく、中音域が前面に出るギターサウンドが心地よい。
だが、意外にも観客は大人しかった。モッシュもクラウドサーフも起こらない。SU-が「Hey!スオミー!Clap your hands!」と叫ぶと歓声が沸き、「Sing!」「♪ウォーウォーウォーウォー」のシンガロングパートでも合唱してくれるが、ピット中央から後方は手拍子を打ち、頭を動かしながらも、身体はあまり動かない。
4曲目は「PA PA YA!!」。イントロが鳴るとSU-は「スーオーミー!」と叫び、「んJump!んJump!んJump!」と煽りながら曲に入っていく。最前列では「パッパッパッパッパ…パパヤー!」と合いの手を入れながらタオルを振り、ジャンプするファンが見受けられたが、ピット中央から後方は比較的おとなしい。MOAと百々子が笑顔で「♪祭りだ!祭りだ!」と煽っても、後方の観客はタイガー状態である。スコットランド同様、国民性なのか。
5曲目はスコットランドでさえも大受けした「BxMxC」。だが、フィンランドの観客は頭を小刻みに動かしながらも、じっくりとステージを見つめる人が多い。メロディがなく、ヘヴィなリフ+日本語ラップ+激しいダンスという曲調の新しさがピンとこないのかもしれない。さすがにSU-のアカペラソロパートでは大歓声が沸いた。
実は、フィンランドのヒットチャートであるSuomen virallinen listaのアルバム総合Albumitで、『METAL GALAXY』は40位だった。フィンランドの人口は約550万人で、イギリスの10分の1以下、日本の20分の1以下に過ぎない。要するにBABYMETALの名前は知っていても『METAL GALAXY』の収録曲までは知らない観客が多かったのだ。
6曲目「Kagerou」のイントロで銀河神バンドのソロが始まると、Kulttuuritalolla=House of Culture=「文化の家」らしく、演奏に聴き入る「鑑賞」の雰囲気がより強まる。観客はプレイヤーのアドリブが終わるごとに礼儀正しく拍手、歓声。三人が肩を揺らしてステージに再登場すると奇声が響くが、「鑑賞」の雰囲気は変わらない。それならそれでいい。BABYMETALは、卓越した演奏、SU-の日本語の歌詞が際立つ澄み切ったボーカル、MOA、百々子の表現力豊かなダンスを見せつけた。
スクリーンに星空の中にひときわ輝く大きな星が映る。遠くから「♪ララララーラーラー…」というコーラスが聴こえてくる。7曲目、故・藤岡幹大氏に捧げた「Starlight」である。

その事情がわからないフィンランド人観客にとっては、これも「正統派」の楽曲だろう。合いの手がないので、観客は熱狂する最前列を除いては引き続き「鑑賞」している感じ。だが、美しいメロディを歌い上げるSU-の歌姫としての歌唱力、変拍子を含む複雑な曲構成、ドラマチックな展開に、フィンランド人が魅了され、静かにノッってきているのが、曲終わりの大きな拍手と歓声でわかった。
そこから、観客の雰囲気はがらりと変わった。
スクリーンにヨアキム・ブローデンが大写しになり、「♪ナイナナナイナイナイナイナイ…」のグロウルとともに8曲目「Oh!MAJINAI」が始まる。フィンランド民謡「イエバン・ポルカ」は、乃木坂46の生田絵梨花の十八番だが、本家は「森メタル」の雄コルピクラーニによるメタル版である。
赤い旗を振り、つるはしを振り、コサックダンスを踊るヨアキム・ブローデンの姿は、ソ連、共産主義のパロディにも見え、長年ロシアと対峙してきたフィンランド人にとっては快哉!だろう。
ステージ上の三人は腕を組み、ニコニコ顔でフォークダンスを踊っている。それを見る観客も、ニコニコ顔で手拍子を打ち、波打つように動いている。ピット中央では小さなサークルモッシュも発生した。やっぱりこの曲は欧州では観客の笑顔を引き出す最強チューンである。
そして欧州最強といえば続く9曲目「メギツネ」である。日本のイメージソングといっていい「さくらさくら」のメロディに続いて、C#mのリフが繰り返され、スクリーンには青と赤に輝く巨大なキツネ面が迫ってくる。一息入れた三人がステージに再登場し、メギツネポーズをとる。
和楽器の「♪カラリンコン!」という響きに続いて、MOAと百々子がキツネサインを客席に突き刺し、曲が始まる。MOAがよく通る声で「♪ソレ!ソレ!ソレ、ソレソレソレソレ…」とScreamし、三人が踊りだすと、それに合わせてジャンプする観客で、ピットは波打つように動いた。
間奏部、SU-が再び「スオミー!」と叫ぶ。それに続くフレーズはフィンランド語で、おそらく「こんばんは!今夜の気持ちはどう?私たちはここに来れて幸せです。」と言っているのだろう。大歓声が沸き起こると、そこからは英語で「Are you Ready to Jump?」「A---re you Read---y?1,2,123、Jump!」と煽り、再びMOAの「♪ソレ!ソレ!ソレ、ソレソレソレソレ…」で、観客席の熱狂を引き出した。
続く10曲目は「ギミチョコ!!」。「…Give me…Chocolate!」で曲が始まった瞬間、ピットでは、おしくらモッシュからのサークルモッシュが発生。一番有名なBABYMETALの代表曲で、会場は一気に燃え上った。
2014年の欧米デビュー以来、ドイツ、オランダまでは来るが北欧には足を延ばさなかったBABYMETALだから、フィンランド人ファンにとって、「ようやくこの曲が生で聴けた!」という気持ちだったのかもしれない。セトリが“Aセット”なら、名刺代わりのこの曲でヒートアップはもっと早かったのかもしれない。
11曲目「KARATE」。腕を揃えた三人がスポットライトに浮かび上がると歓声が沸く。この曲もフィンランドではよく知られているのだろう。観客はイントロのリフと三人の正拳突き、貫手に合わせて「エイ!エイ!…」の合いの手を入れ、「♪ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ」には「♪ウォーウォーウォー」とシンガロングする。
間奏部、三人が倒れ、立ち上がり、肩を組んで前進する小芝居では、歓声が止まず、SU-の「Everybody、Jump!」でうねるようにジャンプしていた。やはりフィンランド人は「日本」が好きなのだ。
不穏なオルガンの音色が響き、12曲目「ヘドバンギャー!!」が始まる。BABYMETALにとっては古い曲だが、フィンランドではおそらくほとんどは初見だろう。MOAと百々子が腰に手を当て、横ぶりヘドバンで「♪ヘドバン、ヘドバン…バンバンババン」とステージの際までせり出してくる。ぼくらにとっては見慣れたシーンだが、フィンランド人にはFunnyに見えただろう。


「♪いーちごのよーるを」の「トイ!」=同意とか、少女の「成長」を讃える間奏部のヘドバン地獄の意味も、そして、ラストシーンの人形ぶりが、「操り人形だったいい子ちゃんからの脱皮」を表すということも、フィンランド人は知らない。だが、メタルを媒介として、Kawaiさや日常性が覆されていくのがBABYMETALのテーマであり、この曲はズバリその本質をついている。その意味ではメタルが日常になっているフィンランド人には、逆に難解なのかもしれないが、雰囲気は伝わったはずだ。
場内が暗転し、「BABYMETAL!」コールが響く中、三人がBABYMETAL旗を担いで再登場すると、大歓声が沸いた。フィニッシュ曲「Road of Resistance」である。
「文化の家」に配慮してかSU-のWODのしぐさは1回だけだったが、MOAの「1234!」の掛け声で曲が始まると、ピット中央に小さなサークルモッシュが発生し、そこに参加したフィンランド人たちはニコニコ顔で回っていた。「♪ウォーウォーウォー…」のシンガロング部では、MOAと百々子がステージの左右でギリギリまで前に出て、笑顔で客席を煽った。


「♪進め!答えはココにある!」とステージを指さす三人。その引き締まった表情に、どんな国民性の観客でも、最後にはキツネサインを上げさせるというプライドを感じた。
終演後、参加者によるフィンランド語のツイートを翻訳してみると、「本当に良いギグだった。BABYMETALを3年間待った甲斐があった!」というものだった。BABYMETALもまた、終演後の公式ツイッターで、「Kiitos!」(ありがとう)とフィンランド語で返した。
どの国、どの町にも、BABYMETALを待っている人がいる。
次回は、いよいよ汎ヨーロッパツアー最後の国、ロシアである。
(つづく)