10年のキセキ(124) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月18日は、2019年、米ミシガン州デトロイト公演@The Fillmore Detroit

2020年2月20日、BABYMETALは、ウェールズの首都カーディフ公演を行った。
イギリスはUnited Kingdom=連合王国であり、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドはそれぞれ「国」=Countryである。ウェールズは16世紀初頭にイングランドの傘下に入り、イングランド王太子はウェールズ公=Prince of Walesとなるのが習わしとなっているが、歴史的な経緯からイングランドとは異なる文化や言語を有しており、SU-が生まれた1997年にウェールズ国民議会が設置され、MOAが生まれた1999年に第1回の総選挙が行なわれた。イギリスがEU離脱を決めたため、スコットランド同様、現在穏やかな形だが、独立運動が起こっている。
2019年のラグビーワールドカップで、ウェールズの合宿地となった北九州市の市民が、ウェールズチームの初練習の際、数か月間練習したウェールズ語で国歌を合唱した動画が、ウェールズ人の感動を呼んだのは記憶に新しい。ちなみにWalesはウェールズ語でCymru(カムリ)という。
BABYMETALと海外フェスでステージを共にすることの多いメタルコアバンドBullet for My Valentineはウェールズ出身である。
BABYMETALは2014年のイギリスデビュー以降、ウェールズでライブを行ったことはなく、今回が初お目見えとなった。
会場は、カーディフ大学の構内にあるThe Great Hallという学生会館のような建物で、収容人員は1,500人と小ぢんまりしていた。ただし、場内は珍しく横長の構造で、ステージが広く、観客との距離が近いのが特徴だった。
チケットはもちろんSOLD OUTしたが、入場定員が守られ、ピットには比較的余裕があったようだ。
セットリストはグラスゴーと同じ“Aセット”。アベンジャーも引き続き岡崎百々子だった。
グラスゴーでは、「…This ain’t Heavy Metal」と宣言する「FUTURE METAL」とユーロビートの「DADADANCE」で始まる「新しいメタル」スタイルは、感情を表に出さないスコティッシュ気質もあって、イマイチ熱狂的な反応とはいえなかった。ウェールズではどうか。それがポイントだった。
「DADADANCE」のファンカムを見て、ぼくは驚いた。
ステージが横長で距離が近いためか、SU-のボーカルマイクはエコーが少なく、まるで生歌である。ディストーションの効いたギターのリフも、うねるようなベースも、ドラムスの音もすべて同じで、まるで練習スタジオにいるような音響だった。


そして、ステージの三人のダンスは、手足の動きやキレのスピードが増し、激しさがアップしている。明らかに気合が入っているのがわかる。前日の不完全燃焼感を取り戻そうとしているに違いない。こういうところが、同じセトリでもBABYMETALのツアーを追いかけるだいご味なのだ。
観客は「フォー!」のところでジャンプし、終始踊り続けている。MOAのラップパートでは大声援が巻き起こった。それに応えて、SU-も百々子もニコニコ顔で、さらに激しく踊る。「熱狂」が帰ってきた。
続く3曲目「ギミチョコ!!」も、調子っぱずれのシンセ音と7弦5f・6弦7f→7弦4f・6弦6f→7弦3f・6弦5fという単純なパワーコードのリフが、金属的な響きをもって冴えわたる。6弦12f→13fのシンプルなリフに、三人の「頭指先ヘンテコダンス」がバッチリ決まる。
ここまでハードコアだと、観客はさすがに敏感に反応する。ピット中央でモッシュが発生し、間奏部ではSU-の「かーでぃふ!」という煽りに手拍子をしながら大歓声で応える。これでいいのだ。
4曲目「Shanti Shanti Shanti」も、前日とは全く違った反応だった。


「…♪舞い上がれよカルマ」から、バスドラとベースで作られる重い二拍子のリズムに、観客はヘドバンを続け、「オイ!オイ!…」という合いの手を入れ続ける。途中入るシタールの響きやインド風のコブシやインド舞踏の動きも、そのリズムの「装飾」でしかなく、これがインド音楽を「融合」したメタルミュージックに他ならないことに、カーディフの観客は気づいていた。三拍子になってもヘドバンを続けられる構成になっているのが何よりの証拠だ。
「BxMxC」。前日のグラスゴーでも、この曲では大きな反応があったが、ここカーディフでも、ダークな電子音+日本語ラップ+MOA&百々子の激しいダンスへの声援が凄い。観客は「♪B!M!C!」「♪Wanna wanna wanna」「Be!」と合いの手を入れたり、ヒップホップの「Yo!Yo!」みたいに右手を揺らしながら見たり、思い思いに楽しんでいた。後半のSU-のアカペララップにも大歓声が起こった。
「DADADANCE」と「Shanti Shanti Shanti」と「BxMxC」は別のバンドでもおかしくないくらいジャンルが違うのだが、それがBABYMETALというアーティストの中で融合されている。

いわば「メタル史の更新」を行っているのだ。その凄さにきっとカーディフの観客は気づいていた。
さらに、全く違う国の「お祭りメタル」が連続するパートに入る。
まずは、ケルト民族のポルカ+メタルの「Oh!MAJINAI」。
ヨアキム・ブローデンがコミカルに踊る映像と古代民族の記憶が呼び起こされる曲調は、北欧、ドイツ語圏では大受けしたが、スコットランド、ウェールズでもやはりウケた。ピットの観客は手拍子を打ち、身体をよじって大笑いしながら踊った。ステージ上の三人も手をつなぎ、ニコニコ顔でクルクル踊る。無条件に楽しい。
続いては、日本の「さくらさくら」のメロディから始まる「メギツネ」。
イギリス人にとってはきわめてエキゾチックなメロディと和楽器の響きに、狛キツネポーズをとったMOAと百々子が「ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」と踊り出すとピットは合いの手を叫びながらジャンプして踊るお祭り状態となった。
間奏部、ステージ中央でMOAが百々子に何か話しかけ、ニコニコしながら上手と下手に分かれて手拍子を促すと、中央に残ったSU-が「Hey! かーでぃふ! How your feeling tonight! We’re so happy to be here! Are you ready to Jump? Are you ready?」と煽る。狭い学生会館ホールには女性ファンが多く、黄色い歓声が響き続ける中、「1、2、1・2・3 Jump!」というSU-の掛け声で、一斉にジャンプ大会が繰り広げられた。
このセトリでは、「メギツネ」の興奮がタイ・エスニックな「PA PA YA!!」につながるのだが、前日グラスゴーでは、会場後方で再び腕組みしてライブを「鑑賞」する態度に戻る観客が少なからず出現してしまった。
だが、カーディフではそんな雰囲気はみじんもなかった。
イントロが鳴った瞬間、観客のほとんどが「パッパパパヤー!」と叫び、SU-の「かーでぃふ!んJump!んJump!んJump!んJump!」という煽りに、観客も大歓声とタオル振り、ジャンプで応えた。
F.HEROのラップパートでは、SU-がポニーテールを振り乱して踊った。観客もニコニコしながら一緒に踊っている。昨日のグラスゴーとは明らかに反応が違う。それを見るSU-、MOA、百々子の顔もニコニコだった。


12曲目「ヘドバンギャー!!」は、前日、MOAと百々子が「Head Bang!Head Bang!」とScreamし続け、シャイなグラスゴーの観客心のタガを外させたのだが、カーディフでは日本の小箱ライブと同じように、ヘドバンすることが観客全員の心を一つにしていくようだった。観客がBABYMETALの変化と成長を共有するこの曲は、BABYMETALの「原点」なのだ。それがカーディフで確認できたことは大きな収穫だった。
フィニッシュ曲「Road of Resistance」では、ピット中央ですさまじいモッシュが発生した。会場後方の観客も全員が頭を振り、身体を動かしている。「♪ウォーウォーウォー…」のシンガロングパートでは全員大合唱。これぞBABYMETALのライブである。
『METAL GALAXY』収録の新曲でも、カーディフの観客は激しく盛り上がっていた。やはりグラスゴーの反応は、感情を表に出さないスコットランド気質だったのだ。
終演後、「Fantasti」「Unreal」「日曜日にロンドンでまたみるぞ」「BABYMETALを見るチャンスを逃すな」といったツイートがアップされていた。
次回はいよいよイングランド。メタルの始祖オジー・オズボーンの故郷であり、2017年にアリアナ・グランデのライブ後に悲しいテロ事件のあったマンチェスターである。
(つづく)