10年のキセキ(123) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月17日は、2015年、World Tour 2015 in Japan@Zepp Namba二日目が行われた日DEATH。

2020年2月19日、BABYMETALはUKスコットランド・グラスゴー公演を行った。
BABYMETALは2016年12月にレッチリUKツアーでグラスゴーのSSE HYDRO(13,000人収容)で前座を務めており、スコットランドには3年2カ月ぶり2度目のお目見え。
今回はヘッドライナーだが、当然チケットはSOLD OUTした。
イギリスのオフィシャルチャートのアルバムトップ100で、2016年4月リリースの前作『METAL RESISTANCE』は15位を記録したが、2019年11月リリースの『METAL GALAXY』は19位にとどまった。
世界中の音楽を「融合」し、よりBABYMETALらしい「何じゃこりゃ?」感が増したアルバムだが、イギリスのメタルファンには「ポップ化した」と思われているのではないか。METAL GALAXY WORLD TOUR 2020のUK4公演では、それが懸念材料だった。
遡ること6年前の2014年7月。BABYMETALはSonisphere 2014のメインステージに上がることになった。
「ギミチョコ!!」のYouTube動画の視聴件数は2000万回に達していたが、Kawaii Metalというキャッチコピーで、日本のアイドル少女三人組が、メタルとは水と油であるダンスをしながら歌い、そこに正体不明の生バンドがつくというBABYMETALのうさん臭いコンセプトは、“メタルの本場“=UKメタルヘッズの論争のネタとなった。もし、神聖なメタルフェスであるSonisphereで、メタルを侮辱するようなアイドルパフォーマンスだったら、小便入りのペットボトルを投げつけてやる。そう息巻いていた人たちもいた。


だが、Sonisphere 2014では、「BABYMETAL DEATH」「ギミチョコ!!」「Catch Me If You Can」「メギツネ」「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のわずか5曲で、BABYMETALは6万人の観客をノックアウトしてしまった。
2014年のBABYMETALは、SU-が16歳の高校2年生、YUI・MOAが15歳になったばかりの中学3年生だった。彼女たちは、メタル雑誌やテレビ媒体の取材に、そのKawaii 容姿と礼儀正しい態度で「私たちにはキツネ様が降臨しているのです」と言い張り、インタビューの最後には「Only The Fox God Knows」という決まり文句でニコニコ笑った。そのイノセントさにインタビュアーは内心「可哀そうに、この日本人の女の子たちは、大人にやらされてるんだな」と思いつつ、苦笑するしかなかった。
ところが、ステージに上がるとSU-は信じられないようなハイトーンで歌い、クイーンのごとく大観衆を煽り、YUI・MOAはニコニコしながら空中浮遊のような激しいダンスを繰り広げた。
フランシスコ修道士のような衣装と白塗りの「神バンド」は、すさまじいブラストビートに乗って、時にスケールアウトする超絶ゴリゴリのツインギターソロを展開し、つるっ禿のベーシストは6弦ベースで指弾きとスラップを交えたソロを聴かせた。
日本から来たこんなに幼くKawaii少女たちが本気で「俺たちの音楽=メタル」をやっている…。それに気づいた瞬間、UKのメタルヘッズは感動し、BABYMETALを好きにならずにはいられなかった。うさん臭いギミックと本物のパフォーマンスのギャップが、リアリティを生んだ。
もちろん、そのパフォーマンス力は、一朝一夕に身についたものではなかった。小さな身体で、過酷な国内ロックフェス修業を続けた汗と涙の中で培われたものだ。
フードコードの小さなステージで、フェス飯を食べているお客さんがあっけにとられるパフォーマンスを繰り広げたサマソニ2012幕張。家族連れが多く、アウェーな雰囲気の中、最後には後方の観客までキツネサインを掲げさせた北海道いわみざわキタオンのJoin Alive 2013。「リンキンパークはこっちじゃないぞ」と観客を挑発したサマソニ2013幕張。コペンハーゲン出身のラーズ・ウルリッヒがイギリス人カメラマンとステージサイドで観てくれた炎天下のサマソニ2013大阪。メタルファンの拒否反応をパフォーマンスで一掃したLODPARK13。
そういう修羅場を踏んできたからこそ、Sonisphere 2014でも、不安な気持ちに打ち克って6万人の本場UKメタルヘッズの心をつかむことができたのだ。
それが、2015年のレディング&リーズフェスティバル、2016年4月のWembley Arena公演や6月のDownloadフェスティバルにつながった。
2018年6月、藤岡幹大氏とYUIMETALを欠いたBABYMETALは、2016年に続いてDownload フェスティバルに臨んだ。全身黒い鎧とヘッドギアのコスチューム。二人の大柄なダンサーが加わったDarksideという新趣向。「In the Name Of」「Distortion」「Elevator Girl」「Kagerou」といった、Djent色やエクストリーム性を増した楽曲は、意外なほど受け入れられ、セカンドステージの動員記録を更新するほどの人気だった。
だが、『METAL GALAXY』では、またアベンジャーを含めた三人組に戻り、楽曲は世界中の音楽を「融合」したバラエティに富むものになった。
2019年、BABYMETALはグラストンベリーフェスティバルと1夜限りのロンドン公演を行ったが、その時点では『METAL GALAXY』はまだリリースされておらず、新曲としては「PAPAYA!!」「Shanti Shanti Shanti」「Starlight」が披露されたにとどまる。
今回のUK4公演では、SU-がオートチューンで「Are you still playing guitar? This ain’t Heavy Metal.」(まだギターを弾いてるの?これはヘヴィメタルではありません)とアナウンスする「FUTURE METAL」から始まり、ユーロビートの「DADADANCE」で三人が登場することになる。
BABYMETALを「俺たちの音楽=メタル」をやっていると思ってくれたUKのファンは、どう反応するのか?
「俺たちの音楽」がオールドスクールなヘヴィメタルを含意しているとすれば、「This ain’t Heavy Metal.」が意味するBABYMETAL流の「新しいメタル」は受け入れられるのか?
その勝負のUK4公演の初日が、スコットランド・グラスゴー公演だった。
会場は1934年創立の老舗ダンスホールBarrowland Ballroom(2,100人収容)。
レトロな外観からは想像できないほど、内部はモダンなデザインで、床はフローリングの下にバネが仕込まれた「Sprung Floor」になっており、ジャンプしても衝撃を吸収してくれるのが特徴だった。
セットリストは以下のとおり。

1.FUTURE METAL
2.DA DA DANCE
3.ギミチョコ!!
4.Shanti Shanti Shanti
5.BxMxC
6.神バンドソロ~Kagerou
7.Oh! MAJINAI
8.メギツネ
9.PA PA YA!!
10.Distortion
11.KARATE
12.ヘドバンギャー!!
13.Road of Resistance
アベンジャー:岡崎百々子
神バンド:Chris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)

汎ヨーロッパツアー初日ストックホルムと同じ“Aセット”。以降のカーディフ、マンチェスター、ロンドン公演も共通だった。
テクノ+ヘヴィなギターリフ+SF的映像の新Overtureである「FUTURE METAL」が始まると、極寒の中、長時間待ち続けた観客から大歓声が上がる。会場は2000人クラスだから比較的大きいが、銀河神バンドがスタンバイすると、フロアレベルからはスクリーンを遮ることになる。それでも、BABYMETALのロゴがレーザー光で焼き付けられる映像になると、再び大歓声が沸いた。
青い照明の点滅とともに三人のシルエットが浮かび上がる。その都度歓声。スクリーンが爆発するように真っ赤に燃え上がると、ユーロビート+メタルの「DA DA DANCE」が始まった。


三人が「♪BABY BABYベイビーメロッ」「♪フォー!」で息の合ったポージングをするたびに、最前列は奇声を上げて盛り上がる。だが、ミキサー卓付近からのファンカム映像では、会場の後ろ半分に、じっと静観する“地蔵”が多数見受けられた。オランダ・ティルブルフと同じような雰囲気だ。ただ、2016年のレッチリOAでもスコットランドの観客は比較的おとなしかった。今回はBABYMETALの公演だからファンであることは間違いないが、やはり従来のBABYMETALとは違ったイメージの曲調に戸惑っているのか。
3曲目は「ギミチョコ!!」。
スクリーンに「Give me…Give me…」の文字が映るだけで大歓声が沸く。さすがにこの曲で熱狂しないベビメタファンはいないだろう。観客は手拍子をたたき、奇声を上げてノッているが、ベルギーやドイツのように激しいモッシュ&クラウドサーフは発生しない。それでも、間奏部で、SU-が「Hey! グラスゴー!」と叫ぶと、観客は大歓声を上げ、手拍子を続ける。
ようやくノリが出てきたように思ったが、4曲目、インド舞踏+メタルの「Shanti Shanti Shanti」になると、ステージ付近で「オイ!オイ!オイ!オイ!」とリズムをとって熱狂する観客と、後方であまり動かず「鑑賞」する観客の温度差が現れた。


インドはイギリスの旧植民地であり、インド文化はイギリス人の日常生活の中にかなり入り込んでいる。例えばカレー粉はイギリス人のスパイス商社C&B社の発明であり、日本のS&Bはそのコピーである。フィッシュ&チップスはイギリス料理の定番だが、塩でなければカレーソースをつけて食べる。ビートルズが音楽性の深化を求めてインド音楽や哲学を学んだのは、イギリス人アーティストとして、ある種の必然である。
「Shanti Shanti Shanti」はメロディラインや使用楽器、歌唱法や舞踏まで、ビートルズよりはるかにインド音楽に寄せてあり、BABYMETAL流の「新しいメタル」に仕上げてある。
だが、グラストンベリーを経て、2020年2月の時点でも、スコットランドのグラスゴーでは、正直、熱狂的に受け入れられているという風には見えなかった。
5曲目「BxMxC」。
グラスゴーの観客には、テクノ+ヘヴィメタル+日本語+ダンスという多重新機軸が盛り込まれたこの曲が、意外にも大ウケしていた。ヘヴィでダークな曲調、SU-の狂気じみたラップ、激しく踊るMOAと百々子によるダンスがノンバーバルな感情となって観客に伝わる。
アイルランド人のジェイムズ・ジョイスの小説『フィネガンズウェイク』は文中に日本語を含む世界中の言語が散りばめられ、結果、無意味な饒舌がシュールな世界観となって読者に迫る作品である。スコットランドとアイルランドとは異なるが、この曲もそういった文脈でウケている可能性がある。
6曲目の「Kagerou」は2018年のDownloadフェスでも、2019年のグラストンベリー&ロンドン公演でも演奏されたから、観客の中には馴染みのある方がいたかもしれない。イントロが鳴ると大歓声が上がるが、銀河神バンドのアドリブソロ中は演奏を、三人が登場して曲に入ると、SU-の歌とMOA、百々子のしなやかなダンスを「楽しむ」という雰囲気が濃厚だった。


7曲目「Oh! MAJINAI」は、北欧~オランダ公演では、大熱狂の曲となった。Kawaii三人がヨアキム・ブローデンとともにポルカ+メタルで踊ることで、古代ケルト/ゲルマン民族の記憶が呼び起こされ、自然に踊りだしてしまうわけだ。グラスゴーでもピットの中ほどまではうねるように踊っていたが、後方の観客は手拍子をし、大笑いしながら見ているだけだった。楽しかったならそれでいいのだが。
8曲目は「メギツネ」。
「♪きーつーねー、きーつーねー、わーたーしーはーメーギツネー」のメロディが流れると、観客席から大歓声が上がった。ケルトから日本へお祭りの舞台は移ったが、グラスゴーの観客にはこの方がウケている。彼らにとってBABYMETALといえば2016年時点のイメージが強いのかもしれない。
きれいに決まったMOA、百々子の狛キツネポーズから「♪ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ…」と曲に入ると、客席はジャンプし、気勢を上げる。やはり「メギツネ」はUK最強である。
間奏部、SU-が「Hey、グラスゴー!How are you feelin’ tonight? We’re so happy to be here! 」と話しかけると、手拍子をしていた観客から大歓声が上がる。続けて「Are you ready to jump? Are you ready?」と畳みかけ、「1、2、1・2・3、Jump!」でジャンプ大会になる。この会場は床が「Sprung Floor」だから、いくらジャンプしても膝が痛くならない。
続けてお祭りの舞台はタイに移る。9曲目「PAPAYA!!」である。
イントロが鳴るとステージ近くでは「パッパパパヤ!」と叫び、タオル振りを始める観客もいるが、後方からのファンカム映像では、後ろ1/3は「鑑賞」の態度を崩さない。アジアンテイスト+メタルというコンセプトに違和感があるのか、単に曲を知らないのか、ちょっとわからない。
10曲目「Distortion」。これも2018年以来イギリス人メイトにはお馴染みのはずであり、知っている観客は「♪ウォーウォーウォーウォー!」とシンガロングしている。もちろんライブがここまで進めば場内の雰囲気は熱気を帯びている。だがどうしても後方の観客はタイガー状態で、頭さえ動かさない。この曲の曲調はBABYMETALの楽曲としてはDjent色の強いパワーメタルである。映像もMVと同じものである。「メタルらしくない」わけがない。だから、観客が大人しいのは、おそらく『METAL GALAXY』のコンセプトが気に入らないという理由ではなく、また曲を知らないというわけでもなく、単にスコティッシュ気質で感情を表に出さないということなのだろう。でなければわざわざチケットを買って見に来ないはずだからだ。
11曲目「KARATE」。
青い照明の中、三人が斜めに腕を上げる構えをとる。きれいにそろったところでヘヴィなリフが始まる。観客は歓声を上げ、三人の正拳突きに合わせて「Hey! Hey!」と声を合わせる。「♪ウォーウォーウォー!」の合いの手も入る。スコットランドの観客は日本的なイメージの曲になると盛り上がるのが不思議。そういえば2019年ラグビーワールドカップで、日本がスコットランドに勝利している。日本に敬意を抱いているのか。
間奏部。三人が倒れ込み、起き上がり、肩を組んで前進し、SU-が「Everybody, Jump!」と叫ぶと、観客の2/3くらいがジャンプしていた。やはりこの会場ではジャンプが似合う。
12曲目「ヘドバンギャー!!」。
この曲がイギリスで演奏されるのは、2014年11月のBack to US/UKツアー、ロンドン公演以来である。
したがって、馴染みのないスコットランド人観客の地蔵率は高かったが、間奏部にMOAと百々子がステージの端まで行って、笑顔でヘドバンを促した。すると大人しいスコットランド人も、頭を動かさないわけにはいかなくなった。


これでわかったが、グラスゴーの観客は『METAL GALAXY』のコンセプトが嫌いなわけでもないし、もちろんBABYMETALが嫌いなわけでもない。内心は興奮しているのだが、感情や動作に表せないのが北国の観客の特徴なのだ。MOAは「ヘドバンヘドバン」ではなく、ちゃんと英語で「Head Bang!Head Bang!」と言っている。それに応えて、後方の観客も、短い時間だったがちゃんとヘドバンしていた。
フィニッシュは「Road of Resistance」。
この曲は「ヘドバンギャー!!」が最後にイギリスで演奏された2014年のロンドン公演で生まれた。イギリスを第二の故郷とするBABYMETALのアンセムでもある。

「ヘドバンギャー!!」でようやく心のほぐれた観客は、SU-の仕草でピットに大きなWODを形成し、MOAの「1234!」で曲が始まるとモッシュを始め、シンガロングパートでは「♪ウォーウォーウォーウォー…」と大合唱した。グラスゴーの観客は大人しかったが、それは『METAL GALAXY』のコンセプトが嫌いだったからではなかった。
(つづく)