10年のキセキ(121) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月14日は、2014年、BABYMETAL WORLD TOUR 2014 @幕張メッセ二日目が行われた日DEATH。

本日、自由民主党総裁選挙/両院議員総会において、菅義偉(すがよしひで)官房長官が377票(国会議員288票・地方89票)で同党総裁に選出された。岸田文雄元外務大臣は89票(国会議員79票・地方10票)、石破茂元防衛大臣は68票(国会議員26票・地方42票)だった。
9月15日に党三役人事が決まり、9月16日に衆参両院での首班指名選挙と、天皇陛下による親任式での任命を経て、第99代内閣総理大臣に就任する見通し。秋田県生まれ、法政大学卒の総理大臣は史上初である。

2020年2月16-17日、BABYMETALはベルギー・ブリュッセル公演@ABとオランダ・ティルブルフ公演@013を行った。
この地域は古代ローマ人に「ベルギエ」と呼ばれたケルト系の人々が住んでいたが、中世にはゲルマン人のブルグンド(ブルゴーニュ)族が支配し、ブルゴーニュ公の支族ハプスブルグ家の領地となっていた。ハプスブルグ家はカール5世の時代になってスペイン王と神聖ローマ皇帝(ドイツ、オーストリア)を兼務した。この地は北海に面した商業の中心地であり、王家の大切な直轄領だった。
1568年に始まった80年戦争によって、北部のネーデルランド連邦(オランダ)が独立したが、南部はスペイン領ネーデルラント→オーストリア領ネーデルラントとしてハプスブルグ家の領土のままだった。ナポレオン時代に北部とともにフランス領に編入されるが、1814年に再度独立し、1830年~1834年のベルギー独立戦争で、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのいわゆる「ベネルクス三国」に分かれて独立した。
両国とも立憲君主制国家だが、宗教的多数を占めるのは、ベルギーがカトリック、オランダがプロテスタント、である。言語は、オランダがオランダ語、ベルギーはオランダ語の一種であるフラマン語とフランス語が公用語となっている。
オランダはイギリスと並んでアジアに植民地を拡げ、太平洋戦争で追い払われるまでインドネシアを支配した。江戸時代の日本と、ヨーロッパで唯一、長崎出島での貿易を行った国でもある。
一方のベルギー王家は、アフリカのコンゴ、ルワンダ、ブルンジに植民地を作り過酷な支配を行ったが、1960年代にこれらの国々は相次いで独立した。現代では首都ブリュッセルにNATOの本部が置かれ、国際関連機関が多く設置され、EUの首都と呼ばれている。
イギリス、ドイツ、フランス、ロシアといった大国に比べ、小国であるオランダとベルギーは、良くも悪くもヨーロッパの歴史が凝縮された地域といってよい。
BABYMETALにとって、ベルギーは今回が初めてのライブ開催である。
一方、オランダは2016年6月にナイメーヘンのFORTAROCKに出演したのが最初で、Darksideの2018年には6月5日・6日の2日間、ユトレヒトで単独公演を行った。2020年は、2月のティルブルフに続いて6月にもユトレヒトで単独公演が予定されていた。オファーが引きも切らない大人気外タレバンドになっていたのだ。
さて、そんなベルギーとオランダで、2020年のBABYMETALはどのように受け入れられたか。
ベルギー・ブリュッセルの会場ABの正式名称はAncienne Belgiqueといい、メインホールは収容人員2,000名の由緒あるオペラ会場で、両脇に3階までの桟敷席があり、ピット自体は広くない。
オランダ・ティルブルフの会場Poppodium 013は1998年に3つの施設を統合してオープンした現代的なデザインの建物で、場内はABとは対照的に、黒塗りの無機的なライブハウス仕様となっており、2階席もあるメインホールの収容人員は3,000人。
セットリストも異なり、オープニングは「FUTURE METAL」「DADADANCE」、フィニッシュは「ヘドバンギャー!!」「Road of Resistance」で共通しているが、3曲目~10曲目が、ブリュッセル公演では「ギミチョコ!!」「Shanti Shanti Shanti」「BxMxC」「Kagerou」「Oh! MAJINAI」「メギツネ」「PA PA YA!!」「Distortion」となるAセット、ティルブルフ公演では「Distortion」「PA PA YA!!」「BxMxC」「Kagerou」「Starlight」「Oh! MAJINAI」「メギツネ」「ギミチョコ!!」となるBセットだった。
オープニングの「FUTURE METAL」と「DADADANCE」では、観客の反応がやや異なった。
「FUTURE METAL」が始まると、美しいヨーロッパの町に、「近未来からやってきたハイパー美少女メタルユニットが当地に飛来した」という感じになる。
2016年のFORTAROCKではBABYMETALのオーバーチュアは「BABYMETAL DEATH」であり、2018年は「In the Name Of」だった。いずれも「日出づる国からやってきたメタル魔法少女戦士」というギミックであり、Kawaii少女三人組なのに、宗教的で戦慄的な雰囲気を前面に押し出していた。
だが「FUTURE METAL」では宇宙空間/テクノ/オートチューン/転送といったSFっぽさが強調されている。
初見のベルギーの観客にとっては、それがBABYMETALのイメージになるが、何度もBABYMETALを見ているオランダのファンにとっては、「イメージチェンジ」「ポップ化」のように受け取られた可能性がある。
それは、2曲目の「DADADANCE」でハッキリする。


ベルギー・ブリュッセルでは、青い照明の点滅にポージングを決める三人がシルエットになって見えると大歓声が沸く。スクリーンが爆発するように真っ赤になり、三人が「♪BABY、BABY、べいびめろっ」「♪フォー!」と踊りだすと会場は一気にヒートアップした。曲中、ラップでセンターの位置へきて、ツインテールを振りながら大きなアクションでラップするMOAにも声援が飛ぶ。SU-がハイトーンで「♪ダッダッダーンス、ダッダダーンス、舞い踊れ…」と歌い上げると、早くも密集した場内でクラウドサーフが発生した。
一方、オランダ・ティルブルフでは、これまでの小箱とはやや異なり、熱狂するピット前列付近と静観する後方の客との温度差がある感じだった。
2016年のFORTAROCKは、「BABYMETAL DEATH」「ギミチョコ!!」「神ソロ+Catch Me If You Can」「META!メタ太郎」…というセトリだった。記憶に新しい2018年のユトレヒト公演では、「In the Name Of」「Distortion」「Elevator Girl」「Kagerou」…とつながるセトリだった。
オランダのファンは、BABYMETALにオールドスクールなメタルを期待しているのか、Darksideからの進化としてシンフォニックメタルを期待していたのか。それともあまりの「イメチェン」ぶりに戸惑っているのか。
だが、3曲目以降は、曲なりに熱狂を生んでいった。
ブリュッセル3曲目、ティルブルフ10曲目の「ギミチョコ!!」では、「♪Give me Chocolate…」のグロウルからイントロが始まると同時にモッシュとクラウドサーフが発生した。ベルギーの観客は恐ろしく激しい勢いでモッシュし、ティルブルフの観客も後方までうねるように客席が動いていた。なんのことはない、ティルブルフの観客がオープニングでおとなしかったのは、曲を知らなかっただけなのだ。
間奏部でSU-が客席を煽ると大歓声が沸く。左右に散って拍手を促していたMOAと岡崎百々子が中央に駆け戻り、三人で頭指差しヘンテコダンスを始める。息の合ったシンクロ率は、やはりBABYMETALの魅力である。
一方、ティルブルフの3曲目は、ブリュッセルの10曲目となった「Distortion」。


2018年のDarksideでは、ユトレヒト二日間を行っているから、オランダ人ファンには当時の最新チューンだったこの曲は思い出深いだろう。グロウルがアリッサ・ホワイト・グラズに代わっているのがわかるだろうか。
間奏部、SU-が「Hey!てぃるぶるーふ!」と叫ぶと、大歓声があがる。MOAと百々子が手拍子を促す中、SU-は厳しい表情で「Sing!」と命じながら「♪WohWohWohWoh!」のシンガロングを要求する。これにはティルブルフの観客もシンガロングで応えた。どんな会場でも圧倒的なオーラで屈服させるのがメタルクイーンSU-の真骨頂である。
ブリュッセルの4曲目は、ティルブルフではセトリに入らなかった「Shanti Shanti Shanti」だった。
インド舞踏+メタルのこの曲では、興奮しすぎたのか、「ギミチョコ!!」からのエスニックがお気に召さなかったのか、飲み物のプラスチックカップをステージに投げ入れる観客がいた。SU-は瞬時に身体をひねってよけたが、日本人遠征組の方たちが憤っていた。


初お目見えのベルギーではBABYMETALはメタルバンドとカテゴライズされていた可能性がある。
BABYMETALが提唱しているモッシュッシュという概念は浸透していないから、ライブはフラストレーションを吐き出す場と思い込んでいる観客がいても仕方ない。2015年ごろの日本でも明らかに暴れに来ている人たちがいた。
一方、ティルブルフの4曲目、ブリュッセルの9曲目にセットされた「PAPAYA!!」は、そんな観客のエネルギーを一気に吐き出させる曲になっている。イントロがかかるや否や「○○(都市名)!」と叫び「♪んJump!んJump!んJump!んJump!…」と煽れば、観客はその場でジャンプしながらタオルを振るしかなくなってしまうからだ。ブリュッセルで、ピットの中でもみくちゃにされながら撮影されたファンカムでは、大男ばかりの観客が「パッパッパ…」と大声で合いの手を入れながら踊り狂っていたし、ティルブルフでも、さすがに2019年にMVが公開されていたこの曲は「予習」してきたらしく、ステージ近くだけでなく、後方の観客の間でも「♪パッパパパパヤー!」の合いの手に合わせて頭を上下に動かす人が広がっていた。
5曲目「BxMxC」と6曲目銀河神バンドソロ~「Kagerou」は、ブリュッセル、ティルブルフとも共通。


スクリーンに大写しになる日本語の文字やSU-の日本語の韻を踏んだラップの「意味」は、ベルギー人だろうがオランダ人だろうが理解不能である。ラップメタルは珍しくないが、日本語、アイドル、ダンスを加えた「BxMxC」はやはり異端だ。だが身体をくねらせて踊るMOAとアベンジャーのダンス、「B!M!C!」と繰り返すヘヴィな音像は、通訳アプリが伝える「意味」以上の感情の塊だ。そんなものなどなくても、人間には理解し合える感情がある。その確信と覚悟がなければBABYMETALは欧米市場へ進出しない。
「Wanna wanna wanna」「Be!」「Want some want some want some」「Be!」の合いの手を叫ぶ観客も増えた。だが、荒々しく素直なベルギーの観客に比べて、この曲ではオランダの観客はまたも静観する人が多かった。
銀河神バンドソロが始まる。下手Chris Kelly(Dark Vader)のソロはユニゾン奏法から入り、ペンタトニック中心のブルージィなソロで、上手C.J. Masciantonioは、クラシカルなシュレッドギターで、ダブルベンドを挟み、後半のタッピングはスケールアウトしたタッピングになる。
ティルブルフの観客は、プレイヤーのアドリブが終わるたびに盛大な拍手で応えているが、ブリュッセルの観客は、終始奇声を上げ続け、全部が終わって三人が肩をゆすって登場してくるときに大歓声となった。
2018年には神バンドソロはなく、ユラユラ身体を動かすSU-の歌唱スタイルも含めて、アーシィな雰囲気が漂っていた。そこにMOAとアベンジャーによる激しく妖艶なダンスが加わることによって、表現の幅がより広がった。ベルギー終演後には「おれは本当にMOMOKOが好きなんだ」と告白するファンも現れた。
一つのライブで軽々に比較できないかもしれないが、初見が多かったはずのベルギー・ブリュッセルの観客は新しいものを受け入れるのに対して、オランダ・ティルブルフの観客は比較的保守的で、評価が定まったものには敬意と情熱を傾けるが、新しいものは「じっくり見る」という姿勢のようだった。
ブリュッセルの7曲目、ティルブルフの8曲目は、このツアーの目玉である「Oh! MAJINAI」。
ブリュッセルでは「♪ナイナナ、ナイナイ、ナイナイナイ…」とイントロがかかり、スクリーンにヨアキム・ブローデンが映ると、会場から「ウォー!」という歓声が上がり、ピットは小刻みにジャンプし、手拍子を打ち、嬌声をあげて踊る観客で熱狂の巷と化した。
ティルブルフでも、巨大なヨアキム・ブローデンが画面の中で「♪なんでもなーい、きにしなーい、もったいなーい」と歌い、その前でニコニコ顔の三人がクルクルと踊ると、観客席は「♪ナイナナナイナイ、ナイナイナイ!」と大合唱し、クラウドサーフも出現した。
ポルカ+メタルは、ヨーロッパ人の魂を根底から揺さぶるのだろう。
ティルブルフの7曲目は、ブリュッセルではセトリに入らなかった「Starlight」だった。
会場が青い照明につつまれ、遠くから「♪ララララーラーラーラー…」というコーラスが聴こえる。この曲は2018年にはまだなかった。『METAL GALAXY』収録曲では、一番シンフォニックメタルに近い。2016年のFORTAROCKでは小神様が下手ギターを担当していた。あのテント会場でBABYMETALに初めて出会ったオランダ人メイトさんにとっては、この曲はひときわ重要な意味を持っているだろう。合いの手やシンガロングはないが、祈りのようなコーラスで曲が終わると、盛大な拍手が沸いた。
ブリュッセル8曲目、ティルブルフ9曲目は「メギツネ」。
テクノ、ユーロビート、インド風、タイ風、ラップ、ブルースロック、ポルカときて、ようやく日本風の楽曲となった。
このブログでは何度も書いているが、BABYMETALは本当に「メタルで世界をひとつにする」大事業を推進している。それは、BABYMETALをこの世に召喚し世界に送り出したキツネ様の意志だ。
「アイドルとメタルの融合」というコンセプトは、単純な足し算ではない。
「アイドルソング」とは、世界中で流行っている音楽の断片を融合して流行歌に仕立て上げてしまう職人芸の作曲・編曲で作られる日本の歌謡曲のことである。
「メタル」もまたNew Wave Of British Heavy Metalからスタートして、LAメタル、スラッシュメタル、デスメタル、メロディックスピードメタル、パワーメタル、ネオクラシカルメタル、ブラックメタル、ドゥームメタル、シンフォニックメタル、プログレメタル、ラップメタル…と限りなく細分化し、互いに融合を繰り返してきたジャンルである。
したがって、「アイドルとメタルの融合」は、融合×融合というべき無限掛け算の音楽のことなのだ。
BABYMETALの「メタル」とは、「パワーメタル」とか「デスメタル」というようなオールドスクールなジャンル固定のヘヴィメタルを意味しない。
オールドスクールなメタルの定義からは大きく逸脱した4つ打ちのユーロビート+「フォー!」とか、ポルカ+メタルとか、インド音楽+メタルとか、タイ少数民族ラップ+メタルとか『METAL GALAXY』で見せたバリエーションは、そもそも「サクラサクラ」+お祭りメタルの「メギツネ」から始まっていたのだ。
多くの観客がそれに気づかなくても、「♪ソレソレソレソレ!」と踊ればいい。
間奏部、ブリュッセルでは、SU-は「ぼんそわーる!ぶりゅっせーる!」と叫び、その後はフランス語で観客に語りかけた。ティルブルフでは、「Hey!てぃるぶるーふ!」のあと、オランダ語で客席を煽った。
どちらの会場でも、そのあとはMOAの「ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」の合いの手に合わせてジャンプ大会となった。
11曲目「KARATE」、12曲目「ヘドバンギャー!!」、13曲目「Road of Resistance」は、ブリュッセル、ティルブルフ共通。
「KARATE」では、イントロから観客が「イェア!イェア」と合いの手を入れる。スクリーンの中の三人がCGリアルタイム合成で燃えあがる演出は、ぼくらにはおなじみだが、ベルギー人とオランダ人には面白かったらしい。間奏部、三人が倒れて起き上がってからのSU-による「Everybody Jump!」の掛け声でまたもやジャンプ大会が始まる。女性ファンがもみくちゃにされて悲鳴をあげながらも「♪ウォーウォーウォー!」と叫んでいた。
12曲目「ヘドバンギャー!!」は、2015年以来、ヨーロッパでは演奏されなかったが、「ヘドバン!ヘドバン!」で盛り上がるのはやはり楽しい。
フィニッシュは「Road of Resistance」。

SU-がピットを分けるしぐさをすると、ピット中央に大きなWODができ、MOAの「1234!」の掛け声で、ものすごい勢いのモッシュがスタートした。モッシュッシュではなく正調モッシュである。
だが、かつては「痛そう」と客席を心配していたSU-、MOAは大きく成長した。ピットで激しいぶつかり合いが起ころうが、クラウドサーフしてきた人がステージ下に落とされようが、カップが投げ込まれようが、それを上回る熱量でパフォーマンスを続け、大喝采を浴びてしまう。
「♪WohWohWohWoh!」のシンガロングパートでは、MOAだけでなく、百々子も大きな笑顔で観客を煽っており、「We are?」「BABYMETAL!」のC&Rは、どんな会場でも最後にはキツネサインを掲げさせてみせるという気概にあふれていた。
(つづく)