10年のキセキ(117) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月8日は、2019年、米ワシントンDC公演@The Anthemが行われた日DEATH。

2020年2月9日、BABYMETALは、フランス・パリ公演を行った。


会場の@Élysée Montmartre(1380人収容)では、前日の2月8日に、DIR EN GREYがライブを行っていた。
これは1月25日のロシア・モスクワからスタートし、フィンランド、ドイツ、ポーランド、イギリス、フランスを巡るヨーロッパツアーのファイナル公演となるものであり、その翌日というタイミングでBABYMETALが乗り込んだわけだ。
さらに、2月19日〜21日には、人間椅子が、ドイツ・ベルリン、ドイツ・ボーフム、イギリス・ロンドンの3都市を巡る初のヨーロッパツアーを行った。
武漢ウイルス禍が世界を覆う直前の2020年1月~2月、日本人メタルバンドはヨーロッパを席巻していたのだ。
以前も書いたように、かつて、ロックやメタルは「欧米文化の一部」だった。
キリスト教をベースにした近代的な良識や資本主義・商業主義への反逆をモチーフにした様々なサブジャンルが台頭しても、それはあくまで欧米人の価値観の中のことだった。1970~80年代、様々な日本のバンド、アーティストが欧米市場に挑戦したが、いくら歌唱力や演奏力が秀でていても、歌詞が英語でなければ、なかなか受け入れられなかった。逆に、完全インストゥルメンタルだったYMOは、わずか2年間しか欧米ツアーを行わなかったが大人気となり、日本=テクノオリエンタリズムのアイコンとなった。
“失われた20年”の後、2010年代に入って高速インターネットが普及すると、動画配信や自動翻訳によって、バンドのバックグラウンド情報も含めたプロモーションが容易になり、デジタル音響技術の発達で、バカでかい機材を空輸する必要もなくなったことで、欧米ツアーのコストが以前に比べて劇的に下がった。
とりわけメタルでは、サブジャンルが細分化したことで、欧米人に受容されるか否かは、もはや従来のメタル文法にいかに忠実かではなく、「ユニークネス」の勝負となっていた。
おりからのジャパニーズ・サブカルチャーブームもあって、日本語で歌うことは、もはやハンディにはならなくなった。アイドルやジャパニメーションのイメージも含めて、「日本的」であることは「ユニークネス」の要素となった。
特にフランスでは、毎年「ジャパンエキスポ」が実施され、AKB48、モーニング娘。、アイドリング!!!、ももいろクローバーZ、でんぱ組.Inc、Berryz工房、℃-ute、乃木坂46など、日本のアイドルがミニライブを行い、数十万人が集まっていた。
きゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」はYouTubeの視聴件数1000万回を超え、「アイドルとテクノの融合」であるPerfumeもヨーロッパツアーを行った。
2014年の「Fusion of J-POP and Heavy Metal」としてのBABYMETALの欧米デビューは、そうした文脈にあり、ベビメタに続けとばかりにBAND-MAID、LOVEBITESといった女性バンドも積極的にヨーロッパツアーを行った。
それは大局的に見れば、欧米人の価値観中心だったメタル音楽のジャンルに、日本的あるいはアジア的な価値観を持ち込むことだった。
あまりに細分化されたサブジャンルによってかえってシュリンクしてしまったメタル界に、アジアの風が吹き、新しい「世界音楽」が生まれつつあった。とりわけ、卓越した演奏を聴かせるバンドと、Kawaiiビジュアルで激しく歌い踊るシンガー&ダンサーと、様々な音楽を「融合」するプロフェッショナルな作編曲者を切り離したBABYMETALは、The Beatles以来の自作自演の「ロックバンド」という形態へのアンチテーゼでもあった。
「何じゃこりゃ!?」「これはメタルなのか?」という驚きや反発こそ、「ユニークネス」の証明だった。
さらに言えば、BABYMETALは、卓越した演奏力、歌唱力、楽曲にちりばめられたメタル史への“オマージュ”を通じて、従来のメタルをきちんと修得していることを立証しつつ、欧米人には思いつかなかったユニークなアプローチの楽曲を見せつけることで“メタルの未来”を提示していた。
『METAL GALAXY』は、そうしたBABYMETALらしさを集大成したアルバムであり、その名を冠したワールドツアーこそ、Japanese Invasionの本陣といってよかった。

パリはBABYMETALにとって、2014年のヨーロッパツアーの初日「YUIMETAL 聖誕祭in Europe」@La Cigale、2016年のDownload Festival Parisのロンシャン競馬場以来のお目見えだった。
セットリストは以下の通り。
1.FUTURE METAL
2.DA DA DANCE
3.ギミチョコ!!
4.Shanti Shanti Shanti
5.BxMxC
6.神バンドソロ~Kagerou
7.Oh! MAJINAI
8.メギツネ
9.PA PA YA!!
10.Distortion
11.KARATE
12.ヘドバンギャー!!
13.Road of Resistance
アベンジャー:鞘師里保
神バンド:Chris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)

セットリストは、ツアー初日ストックホルムと同じものに戻り、アベンジャーは鞘師里保だった。
パリらしい古風なアールデコ調の会場に、SF的な「FUTURE METAL」が始まる。
メタル銀河から正八角形の宇宙船に乗って転送されてくるSU-METALとMOAMETALの映像は、まさに未来から飛来したメタル少女というイメージになる。
続いて、青い照明の中に生身の三人のシルエットが浮かんでは消える。それがじらすように繰り返された後、まるで爆発するかのようにスクリーンが真っ赤になり、「DA DA DANCE」が始まる。
「♪Baby Babyべイビーめろっ」のリズムに合わせ、「♪フォー!」というスクリームの一瞬に三人が腕を斜めにポージングするのがめちゃめちゃカッコいい。メタルらしからぬユーロビートに、会場は一気に盛り上がる。
MOAがセンター位置に回って、「Get dance EZ do dance ヴィーナスタイムでチークダンス…オーバーナイトでセンセーション」とラップするパートでは、パリジェンヌのメギツネさんから悲鳴のような歓声が沸いた。
これがジュリアナ東京やTRFのパロディだということはわからなくても、ツインテールを左右に振り、右手でDJ卓を操るような振りでダンスするMOAはあまりにKawaii。
3曲目は代表曲「ギミチョコ!!」。
「Give me…Chocolate!」で曲が始まると、ピットでは早くもモッシュとクラウドサーフが始まり、フロア全体が一つの生き物のようにうねるような動きを見せた。
間奏部、SU-は「Hey!Paris!」と叫び、MOA、鞘師里保はニコニコ笑顔でステージの前面に出て拍手を促す。その一挙手一投足にパリっ子は大歓声で応える。
モーニング娘。が音楽主賓としてジャパンエキスポに出演したのは2010年7月1日~4日で、鞘師里保は「女子中高生女優オーディション」に合格したばかり。アイドルファンのパリっ子がどこまで知っていたかはわからないが、のちに“あの”モーニング娘。の“エース”になった鞘師がパリ初見参したわけだ。
4曲目は「Shanti Shanti Shanti」。シタールのイントロがかかると、またもパリっ子メイトの大歓声が上がる。
フランス人は19世紀のジャポニズム以来、日本文化が大好きである。
ぼくが2018年にDownloadで知り合ったフランスのメイトさんたちは、「メタルヘッズ」というより「Kawaiiアイドルが激しく歌い踊るショー」に魅力を感じているという人が多かった。「正統派」であるよりも「ユニークネス」に価値を見出すのは、フランス人固有の感性なのかもしれない。
メタルらしからぬエキゾチックな曲調に乗って、三人がインド舞踏をしなやかにこなすこの曲では、指先まで神経の行き届いた体の動きとセクシーな足さばきを見せるMOA、鞘師のダンスは、パリっ子の熱狂を生むにふさわしいものだった。
5曲目は「BxMxC」。
真っ暗になった場内に電子音とヘヴィなリフが響き渡り、日本語の文字が映示され、SU-の日本語ラップが客席に突き刺さる。もちろん、パリっ子には意味はわからないだろうが、それを補完するようにMOAと鞘師里保がノンバーバルなメッセージとしての荒ぶるダンスを見せる。

アカペラ・パートでは、ラップの切れ目ごとに客席から歓声があがった。意味は分からないが、感情は伝わる。BABYMETALが演じる「メタル」とはそういうものだ。そのユニークネスにフランス人の観客が魅了されていることがよくわかった。
6曲目、神バンドソロ~「Kagerou」は、オーソドックスなブルースロックの曲調であり、銀河神バンドのアドリブもマイナーペンタトニックを基本とした「王道」的な演奏である。各メンバーのアドリブが終わるとその都度拍手・歓声が沸いたが、パリではそこに肩をゆすってMOA、鞘師、最後にSU-が登場した瞬間の歓声が一番大きかった。メタルらしさよりも全体的なパフォーマンスのユニークネスを求めるフランス人らしい反応といえた。
7曲目「Oh! MAJINAI」では、パリっ子たちの本性が現れてしまった。「♪ナイナナナイナイナイナイナイ」というイントロが流れ、スクリーンにヨアキム・ブローデンが映ると、会場は「ウォー!」という雄たけびに満たされた。

ヨアキムがつるはしを振り、三人が手をつないでコサックダンスをするシークエンスでは、ピットの観客も手拍子をとりながら、もみくちゃになりながら踊った。フランス人だって元々はフランク人=ゲルマン民族であり、ポルカがかかれば自然に踊りだしてしまうのだ。

宇宙を旅していくと、ある惑星はハイパーテクノロジーの未来的な世界であり、ある惑星はバブル期の日本みたいだった。そしてある惑星には原始的な「民族」がいて、独自のお祭り文化があった。それがコンセプトアルバムとしての『METAL GALAXY』のストーリーであり、メタルで世界を一つにする=BABYMETALの方法論そのものだった。
ライブ中盤、いよいよキツネ様のお出まし。8曲目「メギツネ」である。
「♪キーツーネーキーツーネーわーたーしーはメーギツネー…」のメロディは「さくらさくら」である。この曲もまた日本という惑星に住む民族のメタルだ。
「♪ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」会場は休む間もなく、熱狂のお祭り状態になる。
間奏部。パリでのMOAは変顔ではなく、SU-の向こうでニコニコしている鞘師里保に何か語りかけていた。SU-はなぜかフランス語ではなく英語で「Are you Ready to Jump?」と繰り返し、観客を熱狂の頂点へ追い込んでいく。Chris Kellyのバックメロディが流れ、観客が大歓声を上げる中、SU-が「♪1、2、123Jump!」と叫ぶと、会場は大ジャンプ大会と化した。
そして9曲目は、またも熱狂の「PA PA YA!!」。
イントロが鳴った瞬間から、客席は「♪パッパパパヤー!!」と絶叫する。SU-は歌に入る直前に「パリーッ!」と叫び、続いて「♪んJump!んJump!んJump!んJump!」と煽るから、それに応えて観客はジャンプと手拍子とタオル振りに入っていく。この持続する熱狂は、おそらく現在、世界中のどのバンド、アーティストよりすさまじいのではないか。
10曲目「Distortion」では「♪ウォーウォーウォーウォー!」とシンガロングし、11曲目「KARATE」では「♪押忍!押忍!」と叫ぶ。合いの手は、日本アイドル文化の標準装備であり、観客の参加を前提として曲が作られていることがこのノリを生み出しているのだ。
12曲目は「ヘドバンギャー!!」。
パリの「ヘドバンギャー!!」といえば、2014年7月1日のLa Cigarで、YUIMETALが2番を歌ったのが思い出される。
この曲はBABYMETALの成長を表すテーマ曲である。観客が両手を上げて「ヘドバン、ヘドバン…」とやるのは、一夜にして成長し、生まれ変わった女神を讃えるためである。あれは「ヴィーナスの誕生」なのだ。


だから、初の欧米ツアーに旅立つことを告げる2014年3月2日の日本武道館二日目黒い夜「召喚の儀」でこの曲が演奏され、その初欧米ツアーでもセトリに入ったのは当然である。
そして、2020年にこの曲をパリで披露することには、やはり大きな意味があった。なぜなら、2014年当時はモーニング娘。の絶対的“エース”だった鞘師里保が、今は新たなスタートを切ったBABYMETALの一員としてともに戦ってくれているのだから。
フィニッシュは「Road of Resistance」。
BABYMETAL旗を担いで登場した三人は、Darksideを乗り越え、一段と強くなった誇りに満ちていた。
SU-が客席を分ける仕草をして、MOAが「♪1234!」と掛け声をかけると、観客は最後の力をふりしぼってモッシュし、「♪ウォーウォーウォーウォー」のシンガロングを歌い続けた。
「We are?」「BABYMETAL!」のC&Rが終わり、SU-が「Get your Fox ha---nds、U---p!」と叫んでライブが終了し、スクリーンにワールドツアー日程のロールが流れても、観客はなかなか帰らなかった。
(つづく)