10年のキセキ(116) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月6日は、2019年、米ジョージア州アトランタ公演@Coca Cola Roxyが行われた日DEATH。

2020年2月8日、BABYMETALはドイツ・ハンブルグ公演@Große Freiheit 36を行った。


今から60年前の1960年8月、イギリスのリヴァプールで、ジョニー・ジェントルという歌手のバックバンドを務めていたLong John & Silver Beatlesというバンドに、ハンブルグからのオファーが舞い込んだ。
当時のメンバーは、ジョン・レノン(G)、ポール・マッカートニー(G)、ジョージ・ハリスン(G)、スチュアート・サトクリフ(B)の四人。ドラマーが脱退してしまっていたので、リヴァプールのクラブオーナーの息子だったピート・ベストを助っ人ドラマーにしてハンブルグに渡り、Große Freiheit 36の北200メートル北にある小さなライブハウス「Indra Club 64」で48日間演奏した。
当時の音楽性はコーラス中心の大人しいもので、激しいロックンロールを求める客からクレームもあったというが、毎日6~8時間におよぶステージをこなすうち、演奏技術が向上し、人気グループになっていった。
10月、ビートルズは、同じオーナーが経営する「Kaiserkeller」に移る。店に貼り出されたポスターにはLong John & Silver BeatlesではなくThe Beatlesと記載された。
「Kaiserkeller」は「Indra Club 64」より一回り大きく、同時期に同じイギリス出身の「ロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ」というバンドも出演していた。そのバンドのドラマーがリンゴ・スターだった。The Beatlesの出演スケジュールは、2-3ステージ×56日連続という過酷なものだったため、ドラマーのピート・ベストは度々ライブを休んだ。その際、対バンのリンゴ・スターが代役を務めた。
1961年、二度目のハンブルク公演の後、脱退したスチュアート・サトクリフの代わりにポール・マッカートニーがベース担当となり、1962年6月、レコードデビューするにあたってEMIのプロデューサー、ジョージ・マーティンはピート・ベストを解雇し、リンゴ・スターが正式加入する。史上最高のロックバンド、The Beatlesの誕生である。
過酷なスケジュールの中で、ジョン、ポール、ジョージとリンゴ・スターとの絆が生まれた「Kaiserkeller」の別名がGroße Freiheit 36である。2020年2月8日、BABYMETALは、その歴史的なライブハウスで公演を行ったのである。
デビュー前のThe Beatlesにとって、1,000人という収容定員は手ごろだったかもしれないが、イギリスのオフィシャルチャートのロック部門で1位となり、ヨーロッパのロックフェスでは数万人を集めてしまうBABYMETALにとっては、小さすぎた。
古めかしい木製の手すりがついた二階バルコニー席までびっしりと観客が入っており、一階のピット席はすし詰め状態だった。
セットリストは、コペンハーゲンと同じ“Bセット”。ただし、7曲目に「Starlight」が入り、全13曲に戻った。
1.FUTURE METAL
2.DADADANCE
3.Distortion
4.PAPAYA!!
5.BxMxC
6.神バンドソロ~Kagerou
7.Starlight
8.Oh!MAJINAI
9.メギツネ
10.ギミチョコ!!
11.KARATE
12.ヘドバンギャー!!
13.Road of Resistance
アベンジャー:鞘師里保
神バンド:下手からChris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)

オープニングの「FUTURE METAL」は、テクノの発祥地ドイツで観ると「もうひとつのテクノ大国=日本」からやってきた未来人の少女ユニットという印象を受ける。
レーザー光で焼き付けられるBABYMETALのロゴが大写しになると、イントロが繰り返され、点滅するライトに生身の三人のシルエットが浮かんでは消える。そのたびに客席から大歓声が起こる。
そして「DA DA DANCE」が始まると、客席は一気にヒートアップした。


60年前のThe Beatles は当時最先端だったR&B/ロックンロールにアメリカンポップス的なコーラスやケルト民謡的なコード進行、のちには電子楽器やインド音楽まで、様々な要素を「融合」することで、ロック音楽の可能性を切り拓いた。現代のポピュラー音楽で、The Beatlesの影響を受けていないアーティストはいない。
メタルとアイドル=J-POPをベースに、ダンスミュージック、民族音楽まで「融合」したBABYMETALは、音楽史的に見ればThe Beatlesが進化させたロック音楽の最先端を走るアーティストといっていい。
ユーロビート+メタルという組み合わせに一回フロア全体がうねるように踊る。
超絶技巧の銀河神バンドの演奏に乗って、SU-のパワフルなボーカルが会場の空気を切り裂き、MOAと鞘師里保はすさまじいキレと豊かな表情で踊り続ける。ライブバンドだったThe Beatles同様、BABYMETALもその演奏力・パフォーマンスのクオリティは高い。
3曲目は、コペンハーゲンと同じく「Distortion」。
間奏部、「Hey! Hamburg!」とSU-が笑顔で呼びかけると観客は「Ja!!!」と叫ぶ。MOAと鞘師は笑顔で手拍子を促し、目線で客席とコミュニケートする。
2018年のRock am Ring、Rock im Parkでは、ヘッドギア付きコスチュームとド派手なメイクアップが物議を醸した。当時はこの曲が新曲で、フェスの観客の多くが“地蔵”だった。あの1年を乗り越え、Darksideの力を手に入れたBABYMETALは、Light Sideのオーラを放って、再びドイツの地に立っている。
SU-の「Sing!」に観客が「Woh Woh Woh Woh!」と応えるコール&レスポンスの速さがうれしかった。
悲壮感のあった「♪このセカイが壊れても~」は、今やどんな過酷な運命にも真っ向から立ち向かう闘争心の表現となっていた。
暗転した場内のスクリーンに真っ赤な炎が映し出される。短いイントロに、観客がすかさず「パッパパパヤー!」と叫ぶ。4曲目「PA PA YA!!」である。
もちろん、BABYMETALの「戦い」とは、国境・人種・言語・性別・年齢といった相違を超えて、すべての人が“お祭り”のように楽しめるライブを提供することに尽きる。だがそれは演奏で、歌唱で、ダンスで、それを邪魔する先入観や偏見を打ち破ることである。セトリ“Bセット”では「Shanti Shanti Shanti」は入らないが、アジアの熱風を極寒のヨーロッパにもたらすのも、その戦略のひとつだ。
SU-がイントロとともに「Hamburg!んJump!んJump!んJump!んJump!…」と叫ぶと、一気に客席が灼熱のアジアと化した。The Forumの映像がMVとしてアップロードされているから、観客席はタオル振りを含めてノリ方をわかっている。


SU-の「祭rrrりだ!祭rrrりだ!」の巻き舌はドイツ語に似ているが、MOAと鞘師は「盆踊り」のような手つきでKawaiく「祭りだ!祭りだ!」と歌いながら踊っている。フロア席の観客もそれを真似る者が多い。
アジアの祭りで熱気に包まれた場内が真っ暗になると、無機的な電子音のイントロが流れた。これも前の曲とは全然曲想の違う新曲「BxMxC」である。
モノクロのスクリーンに、日本語=日本文字のセリフが浮かんでは消える。ステージ中央に立つSU-がラップを始めると、客席は拳を振り上げながら聴き入る。
日本人がヒンディ文字やウルドゥー文字やタイ文字やハングル文字が読めないように、ドイツ人にとって日本語も日本文字もまったく意味不明だろう。だが、両サイドで激しく踊るMOAと鞘師里保は、ダンスによってその歌詞の「意味」を、言語体系の異なるドイツ人観客にも伝えていく。
SU-は2014年以降、海外進出した経験を、「音楽には国境がないんだなあって実感しました」とよく話す。
音楽が世界共通のコミュニケーション手段となっているのは、人類の脳が、音の持つ「意味」を理解できるからだ。たとえば、メジャー三和音を聴けば明るい感じを受け、マイナー三和音を聴けば悲しい感じを受ける。7thやaugの音には「次の展開」を予想し、dimには「不安」を感じる。速い2拍子系リズムには疾走感を覚え、ゆったりした3拍子系のリズムにはリラックスした気分になる。
明治維新で日本人は西洋音楽に触れ、その素晴らしさを受容したが、西洋人もまた「さくらさくら」や「君が代」のメロディラインに東洋のエキゾチズムを感じた。
こういう人類の脳が生まれつき持つ共通の音の感じ方を、ぼくはノーム・チョムスキーにならって「普遍音楽文法」と名づけた。この本能によって、音楽はノンバーバル(非言語的)な世界共通のコミュニケーション手段となっているのだ。
「BxMxC」によってハッキリ気づかされたのは、ダンスもまたノンバーバルな観客とのコミュニケーション手段だということだ。


2014年、BABYMETALがクールジャパン担当大臣に招かれた際、YUIは、「YUIMETALとMOAMETALはダンスを任されているので、日本語の歌詞の意味をお客さんに伝えるようにやっています」と述べた。
BABYMETALの音楽の世界共通性は、「表現としてのダンス」=言語を超えたノンバーバルなコミュニケーションによっても、下支えされていたのだ。
ぼくは米ビルボードの上位をにぎわすラッパーの凄さが全く理解できない。ぼくは日常会話レベルなら英語が話せるし、外国人神父の英語による説教はほぼ理解できる。だが、早口のスラング交じりのラップを聴いてもその意味は半分もわからない。ある種のカッコよさや雰囲気は伝わるが、ラッパーが速射砲のように放つフレーズに込めた皮肉やジョーク、さらにそのラッパーの「独自性」をリスペクトするまでには至らない。
批判を承知で言えば、ラップというジャンルは、英語圏の人間にしか理解できない、それこそアメリカ文化帝国主義を補完するジャンルなのではないか。だから、当初アメリカの黒人ラップを「カッコいい音楽」として受容した各国では、現在、自国語ラップが盛んになっている。
「BMC」で意味不明な日本語ラップをダンス表現で補完してみせ、「PAPAYA!!」でタイ北部少数民族のモーラムによるラップを導入することによって、BABYMETALはラップを英語文化の軛から解放し、世界音楽としての可能性を拡張してみせているともいえる。
サビのように繰り返される「Wanna, wanna, wanna」「Be!」と「Want some, want some, want some」「Be!」の三々七拍子が、「Black Night」風の三連符ロックのリズムと相性がいいことにも気づく。
「BxMxC」の異様なダークネスとグルーヴ感は、今、世界音楽史的な何かが起こっているという不可思議さに起因するものではないか。しかも、The Beatlesが誕生した場所で。
6曲目は、銀河神バンドのアドリブソロからの「Kagerou」。
曲調はブルースロックであり、なじみやすいが、SU-が歌う日本語の歌詞の意味をMOAと鞘師里保がしなやかなダンスで伝えることによって、欧米人にもより親しみやすくなる。思えば1970年代のハードロックバンドを、英語の歌詞ではなく、ボーカリストのハイトーンや、バンドの演奏力で「凄い」と思っていたぼくら世代と逆の現象が2020年のヨーロッパで起こっているということなのだろう。
曲が終わると、一瞬の暗転を挟んで、スクリーンに満天の星空が映る。「♪ララララーラーラーララー…」というコーラス。
今回のツアーで初めてセトリに入った7曲目「Starlight」だ。以降、“Bセット”には7曲目にこの曲が入り、13曲構成となる。
2018年6月のDarksideヨーロッパツアーではこの曲はまだリリースされていなかったから、公式MVがアップされている曲として、「Shanti Shanti Shanti」に代わってこの曲が入るのは理解できる。
藤岡幹大氏の存在は、欧米のメタルヘッズがBABYMETALファンになる動機の一つだった。彼の卓越した演奏力は、欧米でギターのVirtuoso(達人、大家)として高く評価されていた。だからこの曲は、「♪ララララーラーラーララー…」というコーラスの中、三人が両手を胸の前で組む祈りのポーズで終わる。その思いはドイツ人のBABYMETALファンも同じだっただろう。
余韻を残して曲が終わると、「♪ナイナナ、ナイナイ、ナイナイナイ…」というイントロが始まり、スクリーンにSABATONのヨアキム・ブローデンが大写しになる。客席から爆笑と大歓声が起こった。
ポルカ+メタル。K-POPグループのダンスが、ジャズダンスやヒップホップといった「カッコいい」アメリカ流のダンス文法に依拠するのに対して、BABYMETALは「表現としてのダンス」にこだわり、民族的伝統文化のダンスを大胆に「融合」し、「ダンス概念の拡張」を行っている。どちらがアメリカ文化帝国主義の補完をしているかは一目瞭然だろう。
赤旗を担いだヨアキムが増殖し、つるはしを持って労働する映像をバックに、SU-、MOA、里保の三人は手をつなぎ、フォークダンスする。楽しい、楽しい。


同じ時間にSABATONはウェンブリー・アリーナでライブを行っていた。不思議な因縁である。
9曲目。聴きなれた「さくらさくら」のメロディが流れると、客席から「待ってました!」とばかりに大歓声が起こる。
繰り返されるリフと点滅する照明。スクリーンには銀色に怪しく光るキツネ様のお面。
天照大御神を天岩戸から引きずり出した日本最古の歌と踊りの神アメノウズメを母に持ち、荒ぶる神素戔嗚尊を父に持つ宇迦之御霊=別名豊受大神=通称お稲荷様ことキツネ様の降臨である。
もちろん、そんな神話はドイツ人観客には知ったことではないが、この曲が「Shanti Shanti Shanti」のインド風、「PAPAYA!!」のタイ風と並んで、アジアンエスニックな曲調とダンスがメタル音楽になりうることを立証したことは十分に理解されていただろう。少し敷衍して考えれば、ユーロビートやポルカはヨーロッパの民族音楽であり、ブルースロックやラップがアメリカの民族音楽だということにも気づけるはずだ。
つまり、BABYMETALがやっていることは、すべての音楽・ダンスに優劣はなく等価であるという認識に立ち、それらを「融合」させることで、新しい「世界音楽」を創造するという前代未聞の挑戦なのだ。
そして、華夷秩序や白人優位主義にとらわれず、あらゆる文化を「融合」して新たな価値を創造してきた日本だからこそBABYMETALが生まれたのだとぼくは思う。
和楽器の「カラリンコン」というイントロをバックに、MOAと鞘師里保が「狛キツネ」ポーズをとり、客席にキツネサインを突き刺すと、曲が始まる。MOAの「♪ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」というScreamが場内に響き渡り、三人が見事にそろった空中平行移動を見せる。SU-の歌はピッチのブレもなくハイトーンが空間を切り裂いた。
間奏部。キツネ面を被ったSU-に、上手のMOAが変顔を仕掛け、それを見た下手の鞘師里保が大笑いしていた。そのあとのSU-の煽りはドイツ語。ちょっと照れながらニコニコ顔で呼びかけると観客は大喜び。
あくまで楽しい。これがBABYMETALだ。
10曲目は、代表曲「ギミチョコ!!」。この曲こそ、無国籍=世界音楽そのものである。Kawaii少女たちがハードコアの曲調で挑発的に踊り、それを癒すかのような「♪チェケラチョコレートチョコレート…」というSU-のボーカルのコントラストは、世界中の人々に衝撃を与えた。
60年前、The Beatlesがライブを行っていたGroße Freiheit 36=Kaisarkellerの狭いフロアの中ほどにモッシュピットが形成され、ガタイのいいドイツ男たちがぶつかり合った。
11曲目「KARATE」も、日本的なモチーフを持ったグルーヴメタルだが、「♪ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ 悲しくなって立ち上がれなくなっても…」という歌詞や、間奏部の「小芝居」には、2018年に藤岡幹大氏が逝去し、YUIMETALが脱退するという苦難を乗り越えたBABYMETALのリアリティが感じられる。ラストシーンで、握りこぶしをキツネサインに変えて掲げ、胸に秘める仕草が感動を呼ぶ。
12曲目「ヘドバンギャー!!!」が終わってから、三人がBABYMETAL旗を持って登場するまでの時間、「♪チャッチャッチャチャチャ、ベイビーメートウ」というコールも起こった。
そして、フィニッシュ曲の「Road of Resistance」では、観客全員が総立ちで「♪ウォーウォーウォー…」というシンガロングパートを歌い、「We are?」「BABYMETAL!」というC&Rを叫んでいた。
終演後ドイツ人観客がアップしたツイートがすべてを物語っている。
Frederik Bauerさん:「Crowd was amazing. BABYMETAL was amazing. Concert was just super amazing!」(Jaytc訳:観客は凄かった。BABYMETALは凄かった。コンサートは超凄かった)
Kitsuneさん:「Don’t know what I say.. it was just awesome.. cant believe it was real! Perfect Crowd. Perfect Songs, everything was perfect」(Jaytc訳:何と言ったらいいかわからない…それはただただ素晴らしかった。現実とは思えない!カンペキな観客、カンペキな曲、すべてがカンペキだった)
ロックの聖地であるKaiserkellerでライブができたのは日本音楽史上に残る快挙であり、結成10年目にしてここに辿り着いたメンバー、スタッフの喜びもひとしおだったと思う。

2020年2月8日は、ベビメタ史に残る記念日になった。
(つづく)