10年のキセキ(113) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日9月1日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

2020年2月3日、BABYMETALは、スウェーデンの首都ストックホルムに降臨した。


ここから、ノルウェーのオスロ、デンマークのコペンハーゲンと初めてライブを行う北欧の国々を巡り、ドイツのハンブルグ、フランスのパリ、オーストリア・ウイーンから再びドイツのケルン、ベルリン、ベルギーのブリュッセル、オランダのティルブルフを経てイギリスへ渡り、グラスゴーからカーディフ、マンチェスター、ロンドンへと南下、そこから再び北欧のフィンランドへ飛び、ロシアのサンクトペテルブルグ、モスクワへと至る11か国16都市の25日間にわたるツアーが始まる。
この時点では、2020年6月以降にスペインとポーランドでの単独ライブを含めたツアーも予定されていたので、ぼくはこのツアーを従来の西欧だけでなく、北欧、南欧、東欧、ロシアを巡る「汎ヨーロッパツアー」と名づけ、2月からのツアーをその第1ラウンドと位置づけた。
METAL GALAXY WORLD TOURは、2019年9月~10月の全米横断ツアー、2020年2月の汎ヨーロッパツアー第1ラウンド、2020年3月末~5月の東南アジアツアー、2020年6月の汎ヨーロッパツアー第2ラウンドと、文字通り「世界征服」へ向けた快進撃となる予定だった。
そして、そのFinalとして2020年10月10日のMETAL RESISITANCE Episode X=BABYMETAL結成10周年記念ライブがセットされるはずだった。
だがBABYMETALが、北欧、西欧、ロシアを回っている25日間に、世界は「闇の力」に覆われ始めた。
1月下旬~2月中旬まで中国で猛威を振るった武漢ウイルスは、2月下旬になると他国へと侵入した。
PCR検査陽性者≒「新規感染者」数は、韓国では2月21日に初めて100人を超え、2月23日に256人、2月25日に505人、2月28日に813人を記録した。
イランでは、2月28日に104人、3月3日523人、3月7日1234人、3月16日2262人、3月29日3076人と爆発的に広がった。
ヨーロッパで最も早く「感染」が広がったのはイタリアで、2月25日に105人、3月2日に561人、3月8日に1247人、3月12日に2312人、3月15日に3497人、3月20日以降は連日5,000人を超え、各都市でロックダウンが発動されたが、一部の医療機関では医療崩壊が起こった。
他のヨーロッパ各国およびアメリカでは、3月12日前後から「新規感染者」が数百名規模になり、3月中旬~4月いっぱいは、連日数千人の「新規感染者」があふれ、ロックダウンが行われた。
日本では、3月上旬まで「新規感染者」数は数名~20名だったが、3月5日に33人、3月7日に59人、3月28日に118人、4月1日に225人、4月4日318人、4月9日511人、4月14日897人を記録した。4月7日に日本でも「緊急事態宣言」が発出されたが、潜伏期間を考えるとその時点ではすでに「新規感染者」はピークアウトしていた。
BABYMETALが汎ヨーロッパツアー第1ラウンドを行っていた2月中に「エンデミック」となった国は限られ、ツアーが影響を受けることはなかったのは、奇跡的なタイミングだったことがわかる。
欧米、日本で「パンデミック」が広がったのは、BABYMETALがモスクワ公演を終えて、無事帰国した後だった。実は、この時期、日本からはDir En Gray、人間椅子などのバンドもヨーロッパツアーを行っていた。
その後、大観衆が密集するロックコンサートなど考えられなくなったことを考えれば、ギリギリまでライブが行えたのはキツネ様のお導きだったのかもしれない。
2020年3月20日に予定されていたKnotfest Japan@幕張メッセは延期され、来年2021年1月11日に行われることが決まっている。東南アジアツアー、汎ヨーロッパツアー第2ラウンドはすべて延期され、再開の目途はまだ立っていない。
2020年10月10日に予定されているMETAL RESISITANCE Episode X=BABYMETAL結成10周年記念ライブが実施される可能性も、現状では極めて薄い。
だが、Knotfestを皮切りに、2021年3月から丸々1年遅れで、もう一度ツアーをリスタートさせる可能性は残っているとぼくは信じる。
武漢ウイルスは、インフルエンザと同等の社会的リスクを持つ感染症なのであって、決して「死病」ではない。
マスメディアも、IT関係者も、医療関係者も、武漢ウイルスを「罹ってはいけない病気」であるかのように煽り、人と人との触れ合いや自由な移動を避け、家にいてテレビやネットにかじりつくように仕向ける。
奴らの魂胆はミエミエだ。
だが、人は人の中で生きるのだ。街に出て買い物や食事をし、自然の中で遊び、友達や恋人や家族とじゃれ合うのだ。「コロナ後の世界」が、ロックコンサートができない世界であってたまるか。
これから記述する2020年2月の汎ヨーロッパツアー第1ラウンドは、2018年のDarksideを経て、『METAL GALAXY』リリースから、ようやく「世界征服」へ向けてリスタートしたBABYMETALの現時点における最後のツアーである。

会場のストックホルムFryhusetは、収容人員3,500人で、北欧四か国の会場の中では一番大きい。
ライブハウスというより、公民館みたいなところで、間仕切りの向こう側にはバスケットボールコートのようなフローリングの床が見えていた。場内の雰囲気としてはZEPP Tokyoを一回り大きくした感じだが、幕張メッセやSSAと比べれば、ステージとの距離が近い。
セットリストは以下のとおり。

1.FUTURE METAL
2.DA DA DANCE
3.ギミチョコ!!
4.Shanti Shanti Shanti
5.BxMxC
6.神バンドソロ~Kagerou
7.Oh! MAJINAI
8.メギツネ
9.PA PA YA!!
10.Distortion
11.KARATE
12.ヘドバンギャー!!
13.Road of Resistance
アベンジャー:鞘師里保
神バンド:下手からChris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)

北欧はメタルの本場であり、特にスウェーデンはEUROPE、イングヴェイ・マルムスティーンを輩出したほか、Arch Enemy、AVATAR、Amaranthe、SABATONなど、BABYMETALと縁の深いバンドも多い。
初日のアベンジャーは鞘師里保。
神バンドは全米横断ツアー同様、Galactic Empireを主体とした銀河神バンドだった。
オープニングは「FUTURE METAL」。
テクノの曲調、モノクロの幾何学的な映像にオートチューンされたSU-METALの「…This ain’t Heavy Metal. Welcome to the world of BABYMETAL」というアナウンスが重なり、やがて大宇宙を正八面体の宇宙船が飛び、デジタル化されたSU-METALとMOAMETALが転送されてくる映像はSF的で、明らかに「BABYMETAL DEATH」や「メギツネ」始まりが醸し出していた「日出づる国から来た魔法少女」のイメージとは違う。
そのイメージを残したまま、照明が点滅し、イントロが繰り返され、三人のシルエットが浮かんだ。
客席から大歓声が沸き起こる。
「♪フォー!」という奇声とともに、「DADADANCE」が始まった。オールドスクールな「ヘヴィメタル」の概念を覆すダンサブルな曲調。スウェーデンはABBAの国でもあるから、ユーロビートに乗って三人が「♪BABY、BABY、ベイビーメロッ!」とScreamしながら踊るのに抵抗はない。もちろん、スウェーデンの観客はジュリアナ東京など知らないし、バブル期をパロディにしたMOAの日本語ラップも意味不明だろう。


だが、曲の骨格を作るリフはしっかりディストーションの効いたギターサウンドであり、Tak Matsumotoが作ったギターソロも入る。ノリがいいけど、ただのダンスミュージックではない。これがメタルの未来=「メタルとダンスの融合」BABYMETALなのだ。
3曲目は、初見参の御挨拶に代表曲「ギミチョコ!!」。
間奏部、MOAと鞘師が笑顔で手拍子を促す中、SU-が「Hey! ストックホルム!」と声をかけると、観客は大歓声で応えた。街々を巡っていくライブバンドの“つかみ”であり、すっかりお手のものになった。
4曲目「Shanti Shanti Shanti」。
シタールとタブラの音色は、「DADADANCE」とも「ギミチョコ!!」とも全く違う。だが、考えてみればインド舞踊もダンスのひとつだ。ユーロビートやヒップホップだけがダンスではない。
MOA、鞘師のダンスは優雅に見えるが、止め・決めはキレキレで、回転するときの軸が一切ブレていない。
この曲でもギターのリフはヘヴィなディストーション・サウンドであり、「♪ドンドコ・ドンドコ・ドンドコ・ドンドコ」という二拍子のリズムはヘドバンに適している。三人がしなやかに踊る三拍子のところでも、そのリズムは続く。この曲もまたエスニックではあるが「メタルとダンスの融合」のバリエーションのひとつなのだ。逆に言えば、「メタル」を介して、ダンスミュージックの可能性を拡げているともいえる。
観客は手拍子を打ち、三人のダンスを見て大歓声を上げる。アジアの熱気を楽しんでいるのだ。
5曲目は、つい先日幕張Day-2で披露されたばかりの「BxMxC」だった。


これも「Shanti Shanti Shanti」とは全く違う。本ツアーでは、OAを務めたのはミステリアスなSKYNDだったが、それに似たダークな曲調。画面には日本語の歌詞が浮かんで消えるが、もちろんスウェーデン人には読めない。「♪てきなメタルサイファ」「♪それなそれな」と耳では聴こえてもチンプンカンプンだろう。だがこれもヒップホップのBABYMETAL的解釈なのであって、英語だけがラップではないという「概念の拡張」でもある。
BABYMETALそのものが、欧米人の「メタル」とか「ダンス」とか「言語」とかの固定観念を拡張する存在なのであり、『METAL GALAXY』はそれをさらに進化させたものだ。その音楽史的な、あるいは文化史的な意義は、もっと評価されていい。BABYMETALだけでなく、同時期にヨーロッパでライブツアーを行っていたDir En Grayも人間椅子も、大きく見れば、欧米中心のメタル文化や価値観に、異物としての「日本」を対置し、融合・発展させる戦いをしていたのだ。
6曲目は、銀河神バンドソロからの「Kagerou」。
Galactic Empireにとってこのツアーは初めてのヨーロッパツアーだった。実はBABYMETALの汎ヨーロッパツアー終了後の2020年6月からGalactic Empireとしてのグラスゴー、マンチェスター、ロンドンを巡るUKツアーを予定しており、フランス・グリッソンで行われる予定だったHellfestにもエントリーしていた。
だから、「Kagerou」の前のアドリブソロは、実力を見せつける絶好の機会だった。
当然、演奏には気合が入りまくり、昨年の全米横断ツアーではマンネリだった各メンバーのフレージングも、かなり変わっていた。そして、肩を揺すり、腰を振って踊るMOA、鞘師里保のダンスもしなやか、かつセクシーだった。大人になった三人と気合の入った生演奏は、ライブバンドとしてのBABYMETALの魅力を拡張した。
7曲目は幕張Day-1で初披露されたばかりの「Oh! MAJINAI」だった。
スクリーンにSABATONのヨアキムが登場したとたん、会場は大歓声に包まれた。


KawaiiメタルであるBABYMETALと、国民的バンドとはいえ、ごっついミリタリーメタルのSABATONは、事情を知らない人にとっては完全なミスマッチである。終演後、スウェーデン人と思われる方のツイートには「WTF?なんで俺のベビメタにサバトンが出てくるんだ!」というのもあった。
だが、その「何じゃこりゃ!?」感こそ、BABYMETALの命である。
そして、この曲は徹底的に楽しい。ソ連をパロディ化したようなヨアキムの映像とともに、SU-、MOA、鞘師の三人がニコニコ顔でコサックダンスしている。幕張ではステージが遠かったが、ストックホルムでは観客とステージは、手が届く距離だ。
これも前述したとおり、「メタルとダンスの融合」であり、かつ古臭いポルカを「現代のダンス」に仕立て上げる「概念の拡張」のひとつである。
8曲目は「メギツネ」。
こうしてみてくると、この曲もまた、日本の伝統的な「サクラサクラ」をモチーフにし、日本のお祭りの「ソレソレソレソレ!」「ソイヤソイヤソイヤソイヤ!」を「メタルアイドル」に融合する試みであったことに気づくだろう。つい最近まで、「日の丸」「愛国」「日本の伝統」というだけで「右翼」だと目くじらを立てる馬鹿が日本にはいたのだ。


間奏部、MOAがキツネ面の向こうのSU-に何か話しかけていたが、これはそのあとのスウェーデン語の挨拶を確認していたものと思われる。そのことは、ノルウェー、デンマーク、ドイツとツアーが進むにつれて判明してくるのだが、それは後日。
9曲目は「PA PA YA!!」。
イントロが鳴ったとたんに観客が大歓声を上げ、ジャンプし始める。タオル振りは普及していないようだったが、2019年6月のリリースだから、さすがにBABYMETALのライブに来るほどのファンなら、極寒の北欧といえども、この曲の熱気は伝わっていたようだ。
10曲目「Distortion」、11曲目「KARATE」と進み、12曲目は「ヘドバンギャー!!」。
全米横断ツアーや幕張Day-2でもセトリに入ったこの曲は、BABYMETALの「成長と変化」を表現する曲であり、2019年~2020年のMETAL GALAXY WORLD TOURの裏テーマでもあった。
最後はMETAL RESISTANCEのアンセムである「Road of Resistance」。
「世界征服」へ向けてリスタートしたBABYMETALにふさわしいフィニッシュだったが、「Shine」→「Arkadia」という新アンセムは、大規模会場でのライブに温存された。
(つづく)