10年のキセキ 番外編~アザトカワイイ | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日8月31日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

昨夜放映された『日向坂で会いましょう』はスゴかった。いわゆる「神回」だと思う。
企画タイトルは「第2回ぶりっ子選手権」で、渡邊美穂(二期生)の提案を受け、9月23日リリースの日向坂46としての1stアルバム『ひなたざか』のリード曲「アザトカワイイ」にちなんだものである。


何がスゴかったか。
大げさにいえば、1980年代以降の「アイドル」の魅力要素を集大成し、別次元の魅力へと昇華させたからである。彼女たちの確信に満ちた爆笑演技は、1980年代のアメリカで、男性の欲望を逆手に取る戦略でトップスターになったマドンナ級といってよい。
企画タイトルになっている「ぶりっ子」とは、1980年代のトップアイドル松田聖子を揶揄した言葉で、もともと、カワイイ子のふりをする=「カワイイ子ぶる」という動詞の順番を入れ替えて名詞化し「ぶる」「子」→「(カワイ子)ぶりっ子」とした造語である。
若い女性の魅力を表現する場合の「カワイイ」は、幼さを残した美しさ、愛らしさ、純真さ、天真爛漫などを表している。わがBABYMETALも欧米デビューの際Kawaii Metalと表現された。


1970年代の天地真理、南沙織、小柳ルミ子、浅田美代子、麻丘めぐみといったアイドルは、「カワイイ」以外に形容詞はなく、私生活は徹底的にブロックされていた。アイドルには、恋愛はもちろん、排泄もオナラもしない「お人形」のような振る舞いが要求された。
だが、1980年にデビューした松田聖子に冠せられた「ぶりっ子」は、単なる「カワイイ子」ではなかった。
松田聖子は「カワイイ」のではなく、カワイイ子「ぶっている」、つまり、本当はそうじゃないのに、カワイイ子のふりをしている、演技しているというのだ。失礼な話だが、この「ぶりっ子」という言葉は松田聖子の代名詞となった。実際、松田聖子はアイドル離れした抜群の歌唱力を持ち、コントもこなす演技力やバラエティで起こったハプニングに対応する機転もあり、私生活では恋多き女性でもあった。


そもそも生身の女性を「カワイイ」とだけ規定するのは、男性の勝手な欲望であり、ある種の女性蔑視である。
だが、「ぶりっ子」ならば、男性の欲望に応える「商品」として芸能界を生き抜く「戦略」になり得た。
それは男性に欲望される「カワイイ女性」を演じつつ、自分らしさを忘れない女性の生き方のロールモデルになった。1970年代の女権運動のイデオロギーとは真逆に、1980年代、日本の街は松田聖子のヘアスタイルを真似た「聖子ちゃんカット」の女性であふれた。
さらに、自らが男性ファンに欲望される「アイドル」という「商品」であることを誇らしげに示してみせたのが、小泉今日子だった。小泉今日子は1985年の「なんてったってアイドル」で、「♪なんてったってアイドル、私はアイドル」「♪アイドルは~やめられな~い」と歌った。


小泉今日子もまた、俳優として素晴らしい演技を見せ、時折政治的な発言もなさっているように、しっかりした自己主張を持った女性である。1985年当時はどうだったかわからないが、この曲で宣言されていたのは、戦略として「カワイイ女の子」を演じる「ぶりっ子アイドル」こそ、女性の王道であるという堂々たる哲学だった。ちなみにこの曲の作詞は秋元康、作曲は筒美京平である。
だが、すべてのアイドルは「ぶりっ子」なのだというところまで開陳してしまったアイドル界は、1990年代に入ると冬の時代を迎える。90年代前半は小室哲哉ブーム、90年代後半はBeingブームで、J-POPアーティストには音楽性や歌唱力が求められた。一方、女性に「カワイさ」だけを求める内気な男性は、2次元のヒロインが活躍するアニメへと惹きつけられていった。
女性アイドルが再び大人気となったきっかけは、SU-METALが生まれた1997年12月、テレビ東京の『ASAYAN』でつんく♂がプロデュースすることが発表され、翌1998年1月にデビューしたモーニング娘。だった。
モーニング娘。は、その「成長過程」をテレビ番組でドキュメンタリーとして追っていくことができ、メンバーの「卒業」と新メンバーの「加入」があるという、現在の女性グループアイドルのフォーマットを作った。もちろん、1985年の『夕焼けニャンニャン』のおニャン子クラブなど、すでに1970年代に秋元康がプロデュースした女性グループもあったが、シングル曲のプロモーションを「成長過程」としてドキュメンタリー化し、ファンに感情移入させるというプロデュースのスタイルは、モーニング娘。が最初だった。


そして、ぼくの私見では、モーニング娘。は「カワイさ」よりも「根性」とか「がんばり」が魅力の源泉になっていた。「カワイさ」は、しょせん演技=「ぶりっ子」に過ぎない。それより若くてカワイイ女性であるメンバーが、体当たりで現実を変えていく姿が、ファンの共感を呼んだ。
その傾向は、2005年に結成されたAKB48でも同じだった。当初、案に相違して集客に悩んだ秋葉原のAKB劇場から1830mの距離の東京ドームを埋めるまでのド根性物語や、「センター」を目指してメンバー同士が競い合う選抜総選挙は、AKB48を国民的アイドルに押し上げた。
テレビ東京や日本テレビに冠番組を持つAKB48では、「カワイイ」「ぶりっ子」「根性」に加えて、もう一つのアイドルの魅力が加わった。
それは、「バカ」という要素であった。
ぼくの知る限り、AKB48メンバーを「バカ」呼ばわりして、逆に魅力を引き出したのは2011年4月に放映された『めちゃめちゃイケてる』(フジテレビ)の「国立め茶の水女子大学付属高等学校期末テスト」だった。
2000年7月にスタートした当初、同番組の「抜き打ちテスト」は、めちゃイケメンバーにデヴィ夫人など少数のゲストを加えた形で実施されていたが、「東京スカイバカ」を決める第10回では、AKB48の秋元才加、指原莉乃、小嶋陽菜の3人が参加した。その中で、最下位=「東京スカイバカ」を重盛さと美と最後まで争ったのは、小嶋陽菜だった。小嶋陽菜は第11回にも出場したが、2013年4月20日放送された第13回では、AKBならぬBKA48のセンター、すなわち「センターバカ」を決めるため、AKB48から14名が参加した。


結果、川栄李奈が最下位で、晴れて「センターバカ」となった。本人はだいぶ辛い思いをしたそうだが、このことは逆に川栄李奈の魅力となり、5月22日発売の31stシングル「さよならクロール」のカップリング曲で「BKA48」名義の作品「ハステとワステ」のセンターを務め、32ndシングル選抜総選挙では25位、翌年の37thシングル選抜総選挙では16位と人気上昇のきっかけとなった。
「抜き打ちテスト」のフォーマットは、さくら学院の学年末テストにも受け継がれており、2010年末から毎年、年度DVDの特典映像として発売されている。収録されたタイムラインでいえば、中元すず香の「少年よ、土地を抱け」(2010年度)は、小嶋陽菜の「東京スカイバカ」最下位争いより3か月早く、「職人がちからずくでねったうどん」(2011年度)は川栄李奈の「センターバカ」決定より3か月早い。確かに『めちゃイケ』のパクリではあるが、抜き打ち学力テストをアイドルに適用したのは、実はさくら学院の方がAKB48より早いのだ。
「バカ」は、学力や常識に欠けるという意味だが、そこには「イノセント」「無垢」というポジティブや魅力も加わっていた。そこで、「バカ」は別名「天然」とも呼ばれた。
こうして「カワイイ」→「ぶりっ子」→「根性」→「バカ・天然」とアイドルの魅力要素が拡大されてきたが、AKB48の公式ライバルとして結成され、今やトップ女性アイドルグループとなった乃木坂46で、もう一つの要素が加わった。それが「あざとさ」である。
その体現者が、桜井玲香が卒業した後、乃木坂46のキャプテンに就任した秋元真夏である。
「あざとい」は、媚びを売る演技がわざとらしく鼻につくといった意味であり、ハッキリ言って悪口である。
秋元真夏は2011年8月の乃木坂46の1期生オーディションに合格、暫定選抜メンバーに選ばれ、立ち位置は前列センター横だったが、学業のため正式加入は2012年10月の「制服のマネキン」からになった。秋元が加入したため、中元日芽香や西野七瀬が序列を下げられてしまい、ぎくしゃくしたこともあった。
だが秋元は、野外ロケ中、何にもないところで転ぶ、レッスンに肩を露出させたセクシーな服で登場する、ソフトクリームを食べると必ず鼻についてしまう、三輪車で逆走する、といった演技なのか天然なのかわからない「ぶりっ子」ぶりを見せた。


それをバナナマンが番組で面白がって取り上げ、メンバーの白石麻衣が怒って「黒石さん」になってしまうなどの発展を見せた。
実際には、秋元真夏は乃木坂46内の学力テストでトップをとるほどの才媛であり、運動は全くダメだが、料理、小物づくり、メンバーへの気遣いなど、女子力は抜群であった。やがてメンバーも秋元の振る舞いを「あざとい」といいながら面白がり、受け入れていった。
「ぶりっ子」の過激化が「あざとい」である。そして、乃木坂46で「あざとさ」もまた、「アイドル」の魅力の一つに加わった。メンバーの中では、二期生の堀未央奈もまた「あざとさ」の体現者である。

ちなみに、MOAのこれが「あざとい」かどうかは、微妙な問題である。


さて、日向坂46である。
欅坂46のアンダーグループだったけやき坂46(ひらがなけやき)が日向坂46になる過程については以前も書いたが、先の見えない中で、アンダーからのし上がるために、スタッフが与えるフィジカルな試練に、キャプテンの佐々木久美、井口真緒(2020年3月卒業)の最年長メンバー以下、全員が身体を張って取り組んだ。
もともと日向坂46には運動能力の高いメンバーが多い。
例えば、坂道グループの冠番組で収録された50メートル走において計測記録のあるメンバーのうち7秒台だったのは、乃木坂46では桜井玲香7“88、堀未央奈7“90の2名/42名(4.8%)、欅坂46では守屋茜7“47、小林由依7“90、渡邊理佐7“91の3名/21名(14.3%)だが、日向坂46では加藤史帆7“62、渡辺美穂7“65、東村芽依7“69、潮紗理菜7“72、小坂菜緒7“91の5名/19名(26.3%)で、ひらがな時代の運動会では漢字欅を圧倒した。
アンダー時代の曲を集めた1stアルバム『走り出す瞬間』のヒット祈願では、全員バンジージャンプを行った。2名が飛べなかったが、佐々木久美と井口真緒が肩代わりをした。
日向坂46としてのデビューシングル「キュン」のヒット祈願は、港区日向坂から静岡県三島大社まで、120㎞の駅伝で、二日間をかけ、バンジーを飛べなかった2名を含め、全メンバーが襷をつないで完走した。
モーニング娘。以来の「根性」ドキュメンタリーだが、ひらがなけやきの経緯を知るファンにとっては、やはり感動的である。


冠番組の企画でも、性格の明るいメンバーが多く、受け答えのワードセンス、笑いのテクニックの習得など、オードリーのイジリ方もさることながら、バラエティ向きのタレントを持つメンバーが多い。
そして、最新曲のタイトルが「アザトカワイイ」(作詞:秋元康)である。
8月30日に放送された「第2回ぶりっ子選手権」では、メンバーが「天然」チームと「やってる」チームに分けられていた。
「天然」とは、意識していないのに自然にカワイクなってしまう、無垢・イノセントだという意味らしく、「やってる」とはカワイイ演技をしているのがバレバレだということらしいのだが、このグループ分けは、渡邊美穂が適当に分けただけで、実際にはほぼ全員が「天然カワイイ」を演じる「あざとい」「ぶりっ子」なのである。
それがどれほどあざとく、爆笑を誘うかは番組を見てもらう他ないが、加藤史帆のヨチヨチ歩き、佐々木美玲の「あたち?」など、笑いながら思ったのは、「あざとさ」に満ちて「天然」「ぶりっ子」を演じれば演じるほど、メンバーが「カワイク」見えてしまうということだ。
そもそも「ぶりっ子」とは男性の欲望に応え、生き残る戦略として「カワイイ」を演じることだった。
それが過激化すれば、鼻につくほどの「あざとさ」になる。だが、番組を盛り上げるため、「あざとさ」も笑いを取る武器として、恥ずかしさを抑え、全力で「ぶりっ子」を演じる日向坂46のメンバーは、なんと「カワイイ」ことだろう。
「第2回ぶりっ子選手権」となっているのは、第1回の優勝者、柿崎芽実が2019年8月に卒業してしまったからだが、「あざとさ」をパロディ化した結果、『日向坂で会いましょう』はアイドルの概念を更新してしまった。
1980年代の松田聖子・小泉今日子が作った「ぶりっ子アイドル」は、2000年代のモーニング娘。の「根性」、2010年代前半のAKB48の「バカ・天然」、2010年代後半の乃木坂46の「あざとい」を経て、2020年、日向坂46によって、1970年代アイドルの原点=「カワイイ」に回帰したのだ。
それが「アザトカワイイ」の意味だ。
もちろん、日本にはKawaiiという言葉をメタルと融合し、世界に発信したBABYMETALがいる。


『METAL GALAXY』でKawaii Metalは「何じゃこりゃ!?」の楽しさを残しつつ、バラエティに富んだ音楽性に昇華した。そこには「ぶりっ子」や「あざとさ」はない。CDを「デロリアン」と言った中元すず香は、今や英語で大観衆を煽るメタルクイーンSU-METALとなった。
BABYMETALのKawaiさは、2018年のDarksideを乗り越え、正真正銘の「美しさ」へと成長したのだ。
「アザトカワイイ」はアイドル文化の集大成だが、「美しさ」もまた「カワイイ」の正常進化だ。
もちろん、ぼくはBABYMETALの味方だが、どちらも魅力的である。

日本のアイドルファンはなんと幸せなのだろう。