10年のキセキ(98) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日8月7日は、2010年、さくら学院として初めて東京アイドルフェスティバルに出演し、水野由結、菊地最愛が「転入」。また、2011年には「お台場合衆国」に出演した日DEATH。

2019年9月4日、BABYMETALは史上最長となるUSツアーをスタートした。
日程は以下の通り。
9月4日のフロリダ州オーランドを皮切りに、大西洋岸を北上して9月6日ジョージア州アトランタ、9月8日ワシントンDC、9月11日マサチューセッツ州ボストン、9月13日ペンシルベニア州フィラデルフィア、9月15日ニューヨーク州ニューヨークまではいわゆる東海岸エリアを巡る。
9月18日からは中西部でミシガン州デトロイトと9月20日イリノイ州シカゴ、9月21日にミシシッピ川を超えて西部エリアへ入り、北からミネソタ州セントポール、9月23日ミズーリ州カンザスシティー、9月24日南部テキサス州ダラスへと下り、9月27日のコロラド州デンバーのあとロッキー山脈を超えていよいよ西海岸へ。
9月28日ユタ州ソルトレークシティ、9月30日ネバダ州ラスベガス、10月1日アリゾナ州テンピ、10月4日カリフォルニア州サンフランシスコ、10月11日カリフォルニア州ロサンゼルスのThe Forumがアメリカ初のスタジアム公演で、10月13日カリフォルニア州サクラメントのAftershock 2019フェスに出演後、10月15日オレゴン州ポートランド、10月16日ワシントン州シアトルが最終公演となる。
42日間という日程も長いが、公演を行う20都市は、このようにアメリカ全域に及ぶ。
BABYMETALのアメリカでの公演は2014年7月のロサンゼルス、11月のニューヨーク、2015年5月のシカゴ単独公演+コロンバスRock on the Rangeと三大都市の単発ライブを経たのち、2016年5月にニューヨーク~シルバースプリング(東海岸)~デトロイト~シカゴ(中西部)、7月のシアトル~ロサンゼルス(西海岸)とエリアに分けて数か所でのライブを行う形式に拡大、2017年は4月にレッチリ帯同でニューヨーク~オーランド(東海岸)、6月にHeadliner Show+KOЯN帯同でロサンゼルス~ナンパ(西海岸)を巡り、Darksideの2018年は5月にカンサスシティ~コロンバスRock on the Rangeまで中西部・南部を回った。
2019年のUSツアーは、これらの集大成といえるもので、ぼくは「全米横断ツアー」と名づけた。
また、各単独ライブのチケット購入者には、登録しておけば『METAL GALAXY』のCDが送付されるという特典がついていた。Billboardのルールでは、ライブチケットの「おまけ」でもフィジカルCDの売り上げ枚数になるので、来場者が全員登録すれば、各会場の収容人員合計約7万人分が基礎数になる。競合アーティスト次第ではあるが、Billboard 200では、初週売り上げ10万枚を超えれば、上位にランキングされる可能性があった。
そのため、2019年の全米横断ツアーは新生BABYMETALにとって、非常に重要な「決戦」となった。
ツアー初日のフロリダ州オーランド公演のライブ会場に入った観客が驚いたのは、ステージ上に並べられた神バンドミュージシャンの楽器が、これまでとは全く違っていたことだった。その後、神バンドのメンバーは、2018年のDarksideジャパンツアーでサポートを務めてくれたGalactic Empireを中心としたアメリカ人ミュージシャンであることが判明した。


下手ギタリストは、Dark VaderことChris Kelly。
ベースはGalactic Empireの三代目Red Guardを務めたClinton Tustinが楽器を持ち換えて担当。彼は、2020年からChris Kellyに代わって二代目Dark Vaderを襲名した。
ドラムスはGalactic Empireメンバーと親しいプログレッシブ・メタルバンドShadows of IntentのドラマーAnthony Barone。
上手ギタリストはKyle RenことC.J. Masciantonioだった。
Bass CommanderことCarson Slovak(B)と、Boba SettことGrant McFarland(D)は音楽プロデューサーでもあるので、長期にわたる神バンドミュージシャンとしての帯同は回避したらしい。
このGalactic Empireを中心とした神バンドは、「西の神バンド」と称されたが、3rdアルバムのタイトルである『METAL GALAXY』のキャンペーンツアーにもふさわしいので、ぼくは「銀河神バンド」と呼ぶことにした。
Galactic Empireは、2018年のDarksideジャパンツアーでは幕張2公演とDark Night Carnivalに出演し、YUIMETAL脱退のショックを吹き飛ばす「援軍」となってくれた。それが今、チームBABYMETALの一員として、過酷な全米横断ツアーと2020年2月からの汎ヨーロッパツアーを共に戦ってくれることになったのだ。
USツアーのアベンジャーは鞘師里保と岡崎百々子が交互に担当した。出演日は以下の通り。
<鞘師里保>
9月4日オーランド、9月6日アトランタ、9月15日ニューヨーク、9月20日シカゴ、9月23日カンザスシティー、9月27日デンバー、9月30日ラスベガス、10月4日サンフランシスコ、10月11日ロサンゼルスThe Forum、10月15日ポートランドの10公演。
<岡崎百々子>
9月8日ワシントンDC、9月11日ボストン、9月13日フィラデルフィア、9月18日デトロイト、9月21日セントポール、9月24日ダラス、9月28日ソルトレークシティ、10月1日テンピ、10月11日ロサンゼルスThe Forum、10月13日Aftershock 2019フェス、10月16日シアトルの11公演。
セットリストは、10月11日ロサンゼルスThe Forum、10月13日Aftershock 2019フェス以外は共通で、以下の通り。
01. メギツネ
02. Elevator Girl
03. Shanti Shanti Shanti
04. Kagerou
05. Starlight
06. FUTURE METAL
07. ギミチョコ!!
08. PAPAYA!!
09. Distortion
10. KARATE
11. ヘドバンギャー!!
12. THE ONE Unfinished Ver.

13.Road of Resistance
神バンド:Chris Kelly(G)、Clinton Tustin(B)、Anthony Barone(D)、C.J. Masciantonio(G)
初日9月4日のフロリダ州オーランド公演の会場はHard Rock Caféの敷地内にあるHard Rock Live(収容人員3,000人)。2017年のレッチリサポートツアーの最終地で、1年ぶりにそこからリスタートしたことになる。
もちろんチケットはSOLDOUTしており、アベンジャーズによる「新三人組」体制&3rdアルバム収録の新曲が目白押しで、アメリカ人メイトさんにとっては待望のライブとなった。
セットリストは、ロンドン・Academy Brixton公演に準じたもので、和風お祭りメタルの「メギツネ」でBABYMETALらしさと熱狂を生み出した後、新生BABYMETALのデビュー曲ともいうべき“オトナKawaii METAL”の「Elevator Girl」でコケティッシュな魅力を訴求し、エスニックな「Shanti Shanti Shanti」で新境地を見せるオープニング。
ロンドン公演では「Distortion」→「Starlight」と進むところを、USツアーでは銀河神バンドのアドリブソロからの「Kagerou」→「Starlight」へと変更した。
Darksideでは神バンドのアドリブソロは封印されていた。それが銀河神バンドで復活した。
銀河神バンドの演奏は、日本の神バンドと比べて、パワフルかつ粗削りに聴こえた。
下手Chris Kellyのソロは速弾きではあるがコード進行に忠実なマイナーペンタトニックを多用したブルージィなもので、いわば「正統派」。上手C.J. Masciantonioのソロは、対照的にネオクラシック系のシュレッドギターにスケールアウトしたフレーズやタッピングを混ぜるテクニシャンぶりを見せた。
ベースのClinton Tustinは、もともとギタリストであるため、6弦ベースを使い、ブルージィなフレージングで高音弦をチョーキングしたりするギターソロのようなアドリブを展開し、ドラムスのAnthony Baroneは、青山神と似た、比較的軽く、手数の多いドラミングを見せた。
ただし、銀河神バンドでは、この「Kagerou」前のアドリブソロは、各メンバーとも、USツアー中ほぼ「書き譜」のように毎回変わらず、ツアーが進むにつれて「マンネリ感」が出てきたことも事実だ。日本の神バンドは、毎回アドリブでスケールアウトした変態フレーズを奏でていた藤岡神、その国の国歌を入れ込みつつ、表情で観客にアピールする大村神、リズム感の権化のようなスラップベース&タッピングを聴かせたBOH神、手数の多いテクニックを見せたあと、最後に立ち上がって喝さいを浴びた青山神など、演奏はどうなるかわからないスリリングさがあった。
それでも、銀河神バンドの演奏力を堪能させた後、三人が腰をくねらせてステージに登場し「Kagerou」が始まるという構成は、「メタルとダンスの融合」であるBABYMETALらしさを観客に強く印象付けるものだった。
「Starlight」は、アメリカでは初披露となる曲で、アメリカ人観客も藤岡神に捧げられ、しかもYUIMETAL脱退の苦しみを乗り越える曲として認知されていたから、「♪Fly higher in the star…」や「♪Wherever we are, we’ll be with you. We never forget shining starlight」のところを合唱したりして、それぞれの思いを表現した。
セトリの中盤に置かれた「FUTURE METAL」は、新生BABYMETALの近未来性を示すインストナンバーだが、ぼくは、この曲がアメリカで物議を醸すのではないかと心配していた。この曲が受けいれられるかどうかは、『METAL GALAXY』のコンセプトを含め、新生BABYMETALにとって、大きなポイントだった。
この曲冒頭のオートチューンでは、「We are on an odyssey to the METAL GALAXY. Please, fasten your neck brace to HEAD BANG. Are you still playing the guitar? This ain’t Heavy Metal. Welcome to the world of BABYMETAL」
というものだった。英語なので、横アリ、PMなごや、サマソニを経ても日本人はほとんど意識していなかったが、このセンテンスには、従来のBABYMETAL観を覆す表現が混じっている。
意訳すれば、「私たちはMETAL GALAXYへ向けて出発しました。ヘドバンのため、コルセットをお締めください。あなた方はまだギターをプレイしているのですか?これはヘヴィメタルではありません。BABYMETALの世界へようこそ」となる。
問題は、4文目の「これはヘヴィメタルではありません」というところだ。デビュー以来、自分たちの音楽性を「アイドルとメタルの融合」「Fusion of Heavy Metal and J-POP」と自称してきたBABYMETALにとって、これは重要な自己否定、BABYMETAL音楽の再定義ではないか。
ヘヴィメタルはギターミュージックである。エレキギターのリフが曲の骨格を作り、ベースが厚みを加え、ドラムスが激しく重いリズムを作る。そこへハイトーンのボーカルやグロウル表現が乗り、速弾きのギターソロが重なることで疾走感のあるメタル楽曲になる。
それを「あなた方はまだギター(なんか)弾いてるの?これ(=BABYMETALの音楽)はヘヴィメタルじゃないのよ」というのだ。
もちろん、BABYMETALと名乗っている以上、BABYMETALの音楽がメタルをベースにしていることは間違いなく、『METAL GALAXY』各楽曲も、様々な音楽ジャンルと「融合」しながら、すべてブラストビート、Djentの技術、重低音の多弦ギター、ブラストビートなど最新のメタル要素が濃厚に入っている。
だから、「This ain’t Heavy Metal」の「Heavy Metal」というのは、「オールドスクールなメタル観」のことであり、逆に言えば「FUTURE METAL」をアルバム冒頭に置く『METAL GALAXY』は、新しいメタル音楽、現代の普遍音楽としての「メタル」の再定義なのだ。
だが、それをくどくど説明するのは野暮である。だからKOBAMETALは、あえて、音楽評論家や、ぼくのようなファンが勝手に解釈、解説するのに任せているのだ。
しかし、それが理解され、浸透するまで、「BABYMETALはヘヴィメタルを捨てた」とか「ポップ寄りになった」とか、メタルエリートのアンチがまた騒ぎ出す可能性もあった。
だから、同じ英語圏で、2014年のSonisphere以来、メタルヘッズの支持を得た2019年7月2日のロンドン公演で「FUTURE METAL」は披露されず、英語圏で最初に披露されたのが、ニューメタル以来、より多様なメタル観が許容されているアメリカの9月4日のオーランド公演だったわけだ。
果たして、このセンテンスを問題にするファンは、ほとんどいなかった。
もともとBABYMETALはメタルとJ-POPの融合なのであって、「メタル」の一種だとは考えていなかった人や、すでにサブジャンルが多様化し、クロスオーバーしていたメタル界にあって、BABYMETALの唯一無二のオリジナリティに価値を認めていた人が多かったからだろう。
だとしたら、わざわざこんな「宣言」をする必要はなかったのだが、いずれにせよ、『METAL GALAXY』は、あらゆるジャンルを融合して突き進むBABYMETALらしさを進化させたアルバムであり、それはアメリカで受け入れられた。


だから、「ギミチョコ!!」→「PAPAYA!!」と進むセトリも、エクストリームさとKawaiさが生み出す無国籍な熱狂という点で、「Heavy Metal」であろうがなかろうが関係なかった。観客は、BABYMETALらしさを堪能し、「KARATE」でシンガロングし、「ヘドバンギャー!!!」でヘドバン地獄を楽しみ、「Road of Resistance」で懐かしいBABYMETAL旗を担いだ三人に熱狂し、FOXサインを掲げた。
銀河神バンド、アベンジャーズによる新体制のBABYMETALは、こうして史上最長の全米横断ツアーのスタートを切った。
(つづく)