10年のキセキ(95) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日8月1日は、2014年、Lady GAGA’s Art Rave@ラスベガスMGMグランド・ガーデンのサポートアクトを務めた日DEATH。

2019年7月6日-7日のBABYMETAL ARISES ~BEYOND THE MOON~ Legend-M-。
7曲目は「シンコペーション」。大スクリーンに心電図のようなグラフが映り、心音が徐々に高まっていく。
この心電図の映像は、2017年の巨大キツネ祭りが初出だが、それ以降、BABYMETALの大規模ライブでは大スクリーンが常設となった。
2018年の幕張、SSA、神戸WMHでは、Chosen Sevenの7人体制と△▽組み合わせ舞台に目を奪われたが、ステージの奥には大スクリーンがあった。
初期BABYMETALのステージ奥には、Marshalの四発入りスピーカーキャビネットを二段重ねにしたスタックアンプの壁、いわゆる「Wall of Marshal」が組まれていた。
ハードロックが勃興した1960年代後半、ギターアンプは最大200Wの真空管アンプであり、野外フェスなどで大音量を出すには、巨大スピーカーの「壁」が必要だった。
だが、2000年代以降は、楽器や音響機材のトランジスター化・デジタル化が進み、PA技術の大幅な進歩によって、大規模ライブでも、ステージに巨大なスタックアンプを並べる必要はなくなっていた。
「アイドル」のライブはカラオケがメインであり、グループによっては口パクで済ますところもあった。
BABYMETALも初期の「バックバンド」は全身タイツのBABYBONE、通称「骨バンド」であり、音源はカラオケだった。だが、小中学生の三人が「メタル」を自称するために、音の出ない「Wall of Marshal」を並べて、そのイメージを拝借していたわけだ。
2013年の国内ロックフェス修行以降、BABYMETALには生演奏の神バンドがついたが、かつてのヘヴィメタルバンドのように巨大な機材を運ぶ必要はなかった。

藤岡幹大神はスピーカーからの出音を解析してあらゆるアンプ+スピーカーの音を再現する画期的なモデリングアンプであるKemperをいち早く導入し、データを大村孝佳神と共有していた。

BOH神が愛用するベースアンプMarkbassEVO-1もデジタルモデリングアンプであり、サイズはわずか幅36cm×高さ10cm ×奥行25.4 cmに過ぎない。
各プレイヤーがアンプとスピーカーキャビネットを運ぶ場合もあるが、現地でレンタルできれば、楽器とエフェクターとモデリングデータを持っていくだけで、「いつもの音」が出る。それをラインでPAミキサーに送れば、ステージ上の巨大なスピーカーから出力する必要はなく、チェック用のモニタースピーカーだけでよい。もっといえば、PAミキサーから各プレイヤーのイヤモニに返してもらえば、モニタースピーカーさえ不要だ。
巨大な機材を持ち運ぶ必要がなくなったことは、国内ツアーや海外ライブのコストを大幅に下げた。
デジタルモデリングアンプの音を「本物じゃない」「平板だ」と嫌い、真空管アンプしか使わないプレイヤーも多い。だが数千人~数万人規模のライブ会場では、真空管アンプの出音をマイク録りしてPAミキサーに送り、そこでバランスをとってミキシングするので、観客の耳に届くのはPAスピーカーからの音になる。だとすればスピーカーシミュレータ付きのデジタルモデリングアンプで直接PAミキサーにライン出力した方が、様々な調整がしやすい。大規模なライブを行うプレイヤーほど、デジタル化の恩恵を受けるのだ。
ライブの機材は各プレイヤーとチェック用のスピーカーキャビネットにのっけた小さなアンプと足元のエフェクターだけでいい。楽器とアンプ/エフェクター、PAミキサーからイヤモニの接続もワイアレスが主流なのでケーブルも少なくなり、大規模会場でも、ステージ上は非常にスッキリした。
本物の超絶技巧の生演奏なのに、カラオケ音源の「アイドル」並みに、BABYMETALが広いステージを縦横無尽に移動しながらダンスできるのは、こうした音響技術の革新のおかげだ。
1970年代~80年代のアーティストは果たせなかったのに、BABYMETALが海外で活躍できているのは、インターネットの発達もそうだが、音響機材の発達によるところも大きい。
そして、BABYMETALでは2017年秋から導入した巨大スクリーンは、演奏・ダンスに加えて、映像というもうひとつの表現手段になった。
闇を切り裂くようなAmのリフから、歌に入ると、ヴィジュアル系バンドのようにクリーンギターのアルペジオと、歪んだコードバッキングが交互に繰り返される。SU-の歌は絶好調で、MOAは、アベンジャーとともに、しなやかに踊り続けながら、「♪スキ、キライ、スキ、キライ、スキ!」という合いの手を響かせる。
1番の後のペンタトニックのギターソロ。2番の途中で入るジミヘンコード。それまでのBABYMETALにはなかったブルージィな響きがカッコいい。BABYMETALの楽曲のメロディやコード進行は、転調こそ多いが、西洋音階であるマイナースケールとメジャースケールでできており、R&B的なブルーノートが意識的に使われているのは、この「シンコペーション」と「Elevator Girl」と「Kagerou」くらい。
BABYMETALにとって、ブルノートの響きが「オトナ」のシンボルなのだとすれば、Legend-M-でセトリに入るのは当然だったかもしれない。ちなみに次にこの曲がセトリに入るのは、2020年1月26日のLegend-METAL GALAXY-@幕張メッセである。
8曲目「ヤバッ!」は、アベンジャーズのKawaii METAL適性がはっきりわかる曲で、ぼくは特に「♪チガウチガウってないよ」のところの行進ポーズが好きなのだが、鞘師里保も藤平華乃も大きな振りと表情でKawaiく演じていたのに対して、MOAは、かつてのYUIのようにやや「ラグ」をつけて、エレガントさを感じさせ、逆にオトナっぽく見えた。
曲が終わり、アジア風のプレリュードが流れると、客席ではみんな首や腰に巻いたタオルを取り出し始める。
9曲目「PAPAYA!!」である。
短いイントロが始まったとたん、「パッパパパヤ!」の合いの手。


イントロでSU-が「なごやー!んJumpんJumpんJump!」と客席を煽り、八角ステージは、下部から花火を発しながら、客席中央まで移動してくる。客席は一気にヒートアップし、「♪祭りだ祭りだ…」のところでは、観客全員がタオルを振り回した。横アリのレポートでも述べたが、この曲は本来汎アジア的な「お祭り」を意識しており、MOAとアベンジャーのダンスは「盆踊り」である。だが、本人たちも驚いたというように、タオル振りによって、熱帯アジアのジャングルを思わせるサマーチューンとなった。PMなごやではスクリーン出演のみだったF.HEROの存在も大きい。
熱気が冷めない中、「Give Me…」のグロウルが響いた。10曲目「ギミチョコ!!」である。
「PAPAYA!!」からの連投はキツイ。一人で「♪あたたたたーた…ズッキュン」「♪わたたたたーた…ドッキュン」を歌うMOAも、初日はさすがに後半は辛そうだったが、二日目はしっかり最後まで歌い切った。
間奏部。ステージ下手にいる大村神が右手を挙げてアピールした。フレット移動の多い激しい展開のあと、最後のワーミーの「キューンキュンキュン、キュイーン、イーン、イーン」というような激しいワーミーのフレーズはMOAをお祝いするための祝砲に聴こえた。
そのあと、3番に入る前に下手側に回ったMOAがSU-のホッペに両手の指を近づける距離は、初日は3センチ、二日目は1センチだった。その瞬間、SU-は反対側のホッペをぷくっと膨らませ、大きな目をくりくりさせた。成人してもKawaiiメタルを貫く。これこそBABYMETAL魂である。
11曲目「KARATE」は、ステージ上のパフォーマンスがスクリーンに合成され、新たな表現となる楽曲である。
青い光の中で始まった曲は、歌に入ると、三人の身体から炎が立ち昇り、熱気に満ちたグルーヴを感じさせる。
二日目のMOAと藤平華乃のシンクロ率は素晴らしかった。「♪セイヤ、セセセ、セイヤ」のときの二人の手の角度、正拳突きや足の運び方シンクロ度。ツインテールの揺れ方まで、ほぼ同じだった。
助け起こされた時のMOAの表情とSU-のまなざし。そしてSU-が藤平華乃の腰に手をやり、MOAがSU-の方を抱いて、三人が前へ進むときの迫力は、「成人」が一つの通過点に過ぎず、戦いはどこまでも続くことを示していた。
場内に雷鳴がとどろき、オルガンが響く。場内からは大歓声が沸き起こる。

Legend-M-で、観客全員が一番見たかった曲、「ヘドバンギャー!!!」である。
「♪伝説の…」と歌いだしたSU-は、一番のサビで「♪ハータチのよーるを忘れはしない…」と歌った。Legerend-S-を思い出す。そして、間奏部。
SU-はゆっくりと場内を見渡し、MOAに微笑みかけ、マイクを渡した。八角舞台の中央にしっかりと立つMOA。滅茶滅茶奇麗だ。


SU-とアベンジャーは土下座ヘドバンに移る。ピットに座り込み、土下座をするファンも多かった。
八角舞台はマイク=大人になる魔法の杖を握りしめたMOAを乗せて、花道を観客席中央へと移動して来る。
「頭!頭!頭!」のあとの短いギターソロを挟んで、ついにその瞬間が来た。
MOA「♪ハータチのよーるを忘れはしない、泣き虫な奴はここからー」観客「キ・エ・ロ!」
MOA「♪ハータチのよーるを忘れはしない、ジャマをする奴は即座に消え失せろー」
素晴らしくよく通る声。2014年のケルンでは最後ちょっとだけピッチを外したが、今はカンペキである。
この曲では、サビの「♪もう二度と戻“ら”ないわずかの時を」「♪この胸に刻むんだハタチの夜を」が、終盤のリフレイン部分では、「♪もう二度と戻“れ”ないわずかな時を」「♪思い出に刻むんだハタチの夜を」に変わる。
「戻らない」と「戻れない」は違う。戻「れ」ないと自覚するからこそ「今」を大切に生きる決意ができる。「この時」はすぐに「思い出」に変わるのだという視点を持つことこそ、大人の証である。
小学生のころ、活発に走り回っていたお茶目なMOAは、今、美しい大人の女性になった。モアシタンの視界が涙でにじんだ。
だが、それが感動のピークではなかった。
「FUTURE METAL」をはさんで、暗転した会場に、神秘的なメロトロンのクワイヤーによるメロディが流れた。
これこそ、Legend-S-の「紙芝居」と、Chosen Sevenのトレイラーで流れた「Shine」だった。
ステージにはスモークが焚かれ、黒いアコースティックギターを抱えたMOAが浮かび上がった。スクリーンには太陽の前に月が重なって、三日月のような形になっている映像。
MOAは前からインタビューでギターを習っていたと言っており、2016年のAPMAでも上手の大村神とリフを弾いていたように見えた。もし、MOAがギター弾き語りで歌うなら、「ふたりの女神」=ツインボーカル体制になる。
「Shine」冒頭のコードは、A→B→C#である。Aは2フレットの2・3・4弦を押さえるだけのオープンコードだが、B、C#はその形のまま、フレットの全弦を人差し指で押さえるセーハを使って、2フレット→4フレットと平行移動していくのだが、MOAの指使いはセーハでフレットを移動しているようには見えなかった。本当に弾いているとしたら、1~4弦だけをオープンコードで弾いているか、変則チューニングにしてあるかだろう。
待望のMOAソロ曲か、と思った瞬間、MOAの背後からSU-が現れ、「♪Twilight、きのう、きょう、あす、続く道、まだ、終わりなき道の途中でも、巡り合えたキセキ信じて…」と歌い始めた。
スタンドに固定してあった黒いギターから離れたMOAは、ダンスに徹した。
ステージ上にアベンジャーは現れない。PMなごやでの「Shine」は、SU-とMOAの二人だけの歌とダンスの競演となった。


初めて聴く歌詞の内容。Darksideを経てキズナを強めた二人だけのステージ。
Bメロの「♪果てしなく続く/闇の中さまよっても/わずかな光をたぐりよせて」「♪心が叫んだ/かまわない壊れても/まばゆい光が/ぼくらを照らすから~」の「ら~」の音は、同じKey=C#mの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の「♪君を守るから~」の「ら~」よりも1音上の、SU-METAL史上最高音となるE♭である。
スクリーンでは、太陽に月が重なり、Darksideの日蝕コロナになった。その瞬間、やはりぼくの涙腺は崩壊した。あの2018年を乗り越えたから、今のBABYMETALがある。
スクリーンには、大宇宙を飛翔する赤い光と青い光の映像。それは衝突し、一つになった。
フィニッシュは、横アリでは1曲目だった新曲「Arkadia」だった。
これで、BABYMETAL AWAKENSとBABYMETAL ARISESがひとつの組曲になっていたことがわかった。
明るいパワーメタルの曲調。アベンジャーも加わり、再び「三人組」となったBABYMETALの新アンセムだ。
SU-が「♪ああ、小さな胸に宿る暗闇に火をともす欠片は…」と歌い出すが、サビ前は、MOA「グローリアス!Just be ambitious!」SU-「誇り高く旗を掲げて」MOA「グローリアス! Just be ambitious!」SU-「星の欠片を抱いて…」と二人の掛け合いになる。
そして、サビはSU-とMOA「♪今、for your dreams、for your faith、for your life」SU-「動き始めた未来の地図は君の」MOA「君の」SU-「中に」MOA「中に」SU-「ある」SU-、MOA「今、No more tears、No more pain、No more cry」SU-「あの光の彼方へはるか遠く目指すは夢のアルカディア」と「歌割」がなされ、ボーカリストとしてのMOAの歌声が重要な役割を担っていた。
Bメロの「光よりも速く/鋼より強く/使命の道に恐れなく/どれほどの闇が/覆いつくそうと/信じたこの道を歩こう」とSU-が歌い上げる歌詞は、まさにSU-、MOA+アベンジャーによる新生BABYMETALの再出発を高らかに宣言する内容だった。
そして、これこそMOAMETALへの最高のバースデイ・プレゼントだったと思う。
菊地最愛は、さくら学院卒業直前のインタビューで、「卒業したら、すーちゃんとゆいと、信じた道を進んで、いつかMOAMETALじゃなくて菊地最愛として、戻ってきたいと思います」と述べた。
BABYMETALは菊地最愛にとって「信じた道」なのだ。それは永遠に続くものではない。だが彼女自身があきらめない限り、どんな障害が立ちふさがろうと、仲間やファンとともに乗り越え、進み続けることができる。その確信を、MOAMETALは20歳の聖誕祭であるLegend-M-でつかむことができたのだ。
曲が終わり、SU-が「We are?」と叫ぶと、観客は「BABYMETAL!!!」と叫び、特効の爆発とともに祝祭は終わった。
(つづく)