10年のキセキ(72) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日7月2日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

2018年5月8日カンサスシティ公演の続き。
暗転した会場に、三々七拍子が響く。5曲目「GJ!」である。
広島では、急遽ソロとなったため、YUIのパートは音源で、観客も唱和したが、この日からMOAは二人のサポートダンサーを従えた三人体制のセンターとして、歌詞のすべてを一人で歌い通した。


その歌声は、正確なピッチとよく通るシグネチャーボイス。相変わらずの笑顔とコケティッシュな表情。
キレのあるダンスで盛り立てる二人のダンサーとともに、YUIの分まで背負ってステージに臨んでいるのがよくわかった。MOAの意気込みを感じ取った観客は「もっともっと!」「もっともっと!」と大合唱した。
6曲目は、再びSU-ソロの「紅月-アカツキ-」。
この曲こそ、Darkside仕様の2018年BABYMETALの象徴となった。
プレリュードの日本風の哀愁を帯びたオーケストラは、マニピュレーターの宇佐美秀文によるもの。
「♪幾千もの時を超えて…」と歌い出したSU-の表情が悲しい。
「紅月-アカツキ-だー」と叫んで曲に入ると、Leda神、ISAO神のツインギターが唸る。青山神のドラムが炎のようなブラストビートを刻む。そしてBOH神の魂のこもったベースラインがバンドの芯になる。みんな4月23日のMy Little Godに出演したメンバーだ。
「♪静寂の中で 傷ついた刃差し向かい 孤独も不安も 斬りつける 心まで」
という一瞬だけバラード風になる歌詞を、祈るように歌い上げる。大切な人を失い、仲間が傷つき倒れている今、メタル少女戦士SU-METALは理不尽な運命に抗おうとしている。
間奏部、下手のLeda神と上手のISAO神は動かない。
その代り、一段高くなったステージ奥上手の佃井皆美がすさまじい気迫で正拳突きからの連続後ろ回し蹴りを披露。それに応えて同じくステージ奥下手の丸山未那子はキレのある正拳突きから地獄突きを繰り出す。
やがて二人はステージ中央でがっぷりと組合い、前転、側転、水面蹴り、ジャンプ、キックを繰り出し、美しい殺陣を見せる。


それはLegend-S-での「過去の時分と戦うSU-METAL」でもあり、封印された「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のYUIとMOAの擬闘のようでもあった。だが、ぼくは、大柄な身体とダイナミックな動きで「気」を発しながら闘う二人の殺陣は、困難な状況に直面したSU-とMOAの内的な葛藤、つまりBABYMETALの運命そのものを表現していたのだと思う。
ダンスもまたメタル表現になる―。これがメタルダンスユニットBABYMETALの大きな特徴である。
殺陣(タテ)は、歌舞伎の「立ち回り」に由来し、戦前から新国劇や剣劇映画の重要な要素になった。
刀で戦う時代劇の場合は殺陣だが、空手などの技を用いて素手で戦う現代劇の場合は技斗・擬斗ともいう。
志穂美悦子、早川絵美、森永奈緒美といった女性アクションスターが生まれたのは、アイドルと同じ1970年代。
BABYMETALは2018年の「紅月-アカツキ-」で、その伝統を導入したのである。
カンフー映画くらいでしか殺陣を見たことのないアメリカ人観客には、佃井皆美、丸山未那子という当代随一の日本人女性アクション女優が生で演じる「紅月-アカツキ-」の殺陣はAmazingだっただろう。そして、このパフォーマンスを通して、Darksideに陥ったBABYMETALのテーマが「戦い」であることがしっかりと伝わったはずだ。
7曲目「メギツネ」、8曲目「ギミチョコ!!」、9曲目「KARATE」は、BABYMETALの代名詞であり、これをYUI不在でどう表現するかが、Darksideの最も大きな課題だったと思う。
前述したように、これまで三人構成で演じられてきた曲を、四人のフォーメーションに改めるのは、ゼロからやり直すことと同じである。
一人がシンガーだから、残りの三人をバランスよくステージに配置するのは難しい。
だが、2018年前半、四人体制のBABYMETALは様々なバリエーションで、物語性のあるコレオグラフィを見せてくれた。
例えば「KARATE」。
イントロのSEでは、前にSU-、一段高い奥のステージに三人というフォーメーションで、四人の腕の角度は見事にそろっている。舞台が立体構成だから、SU-とMOAがセンターで重なっても大丈夫なのだ。
曲が始まり、MOAが透き通った声で「♪セイヤ、セ、セ、セ、セイヤ」と歌うところは、四人が同じ角度で手刀、正拳突きの動きをする。歌に入ると、SU-がすさまじい声量で「♪涙こぼれても立ち向かっていこうぜ」と歌い上げる。
間奏部。SU-は奥のステージへ這い上がり、倒れているMOAとダンサーを一人ひとり助け起こす。そして四人が肩を組んでステージ前面へ進んでいく。そこでフォーメーションが入れ替わり、奥の高いステージでSU-が「♪ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ…」とSU-が歌う中、MOAとダンサーたちがステージ前面で気迫に満ちた表情で踊る。
最後には、全員で握りこぶしをキツネサインに変えて掲げ、スッと胸に秘する。そのドラマチックな演出に、BABYMETALが直面している現実とステージの表現が交錯して感情がわしづかみにされ、涙があふれた。
10曲目「Road Of Resistance」では、四人が黒地にコロナの描かれた旗を背負って立った。四人の旗の角度はピッタリそろっていた。


前にMOA、中央ステージにSU-、両脇にダンサーというフォーメーションのシンクロ率は半端ない。バンドを取り囲むようにダイナミックに踊る四人の迫力は圧倒的だった。
何よりもYUIの不在を感じさせないように、CuteというよりCoolなBABYMETALの新しい魅力を創り上げようとする気迫がビンビン伝わってきた。
「♪今日が明日を作るんだ、そう、ぼくらの未来、On the Way!」の後のSU-の叫びは「カンサスシティ!」だった。YUI欠場継続という秘密を誰にも明かせないまま、この言葉を発する日を目標に、四人は練習に練習を重ねたに違いない。それを思うと、また涙があふれた。
フィニッシュは、広島Legend-S-と同じく、静かなピアノのアルペジオで始まる「THE ONE Unfinished Ver.」だった。
「♪No reason why, I can’t understand it…」と歌い出したSU-の後ろからバックライトが当たり、後光のように見えた。

「♪We are THE ONE…」のコーラスにYUIの声が聴こえた。
SU-が2番を歌い終わると、広島と同様、一瞬の静寂の後、大音量のバンドが入り、後ろのステージにMOAとダンサー二人が気迫のこもった顔で登場してくる。その演出は、YUIの不在に、MOAが二人の心強い新しい仲間を率いてきたという物語性を帯びていた。
そして、C→DonC→Cm7→F→Cという浮遊感のあるコード進行が、「♪Stand in the circle pit side by side(Hand in hand)」という歌詞と相まって、会場を一つにする。「♪Stand in the circle pit raise your hand(Ah-Ah-)」
ここからは、2018年5月10日に、ぼく自身がアップした文章をそのまま引用する。あの時の感動をそのままみなさんにお伝えしたいからだ。
―引用―
神は、乗り越えられぬ運命を人に与えない。
世界の終わりを呪詛するメタルバンドは多い。だが、世界はまだ終わっていない。
BABYMETALはそれを証明するために生まれたのだ。
だから、どれほど理不尽な運命が襲い掛かろうとも、BABYMETALは仲間とともに乗り越えていく。
だから、THE ONEのみんなも私たちについて来て。
Metal Resistanceの旗のもとに。BABYMETALとともに。
そういうメッセージが伝わってきた。
SU-の「Singin!」という叫びに応えて、客席が揺れ、「♪Lalalala…」と大合唱する。
BABYMETAL World Tour 2018 Metal Resistance第7章。
荒野を彷徨うツアーは始まったばかりだ。
―引用終わり―
(つづく)