10年のキセキ(69) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月28日は、2019年、BABYMETAL AWAKENS The Sun Also Rises@横浜アリーナ初日が行われ、鞘師里保がアベンジャーの一番手として登場し、「アルカディア」「シャンティ」が初披露され、さらに3rdアルバム『METAL GALAXY』が10月11日にリリースされ、11月にはJapan Tour、2月には北欧、ロシアを含むヨーロッパツアーが行われることが発表され、「PAPAYA!!」の配信がスタートした日、つまり、新生BABYMETALがリスタートしたDEATH。
そしていよいよ本日夜8時、YouTubeにて、「Legend-S-Baptism XX」がプレミア配信されます。

映像作品は、主に二日目のライブを記録しているので、初日の模様を時系列に従って説明する。
2017年12月2日、ぼくは前日遅くまで仕事があったため、品川のホテルに泊まり、そこから朝一番の博多行きのぞみに乗り、広島に到着したのは10:00ごろ。
土地勘がないので、広島駅からタクシーで広島県立総合体育館グリーンアリーナへ直行した。
台風の影響で太田川は濁っていたが増水は治まっており、空は快晴。
城南通り側でタクシーを降りたので、アリーナに近づいてもメイトさんの姿はまばらだった。初日はTHE ONE限定だからまだみんなのんびりしているのかなと思ったが、それはもちろん勘違いで、中庭の方へ回ってみると、入場ゲートから千人近い人たちが列をなしていた。
三種の神器引き換えと物販は、入場ゲートから少し離れた武道場の入り口で、12:00から粛々と始まった。
三種の神器は、
・細かい銀のルーン文字風のデザインが描かれた黒い貫頭衣
・額に例のライトが仕込まれた銀黒の半仮面
・V字が2つ重なったようなデザインのずっしり重いペンダント
の三つで、ライブ時にはこれをすべて着用することが義務付けられていた。
神器引き換えから物販列へ並び替えて首尾よくグッズを買い終え、物販待機列で知り合ったメイトさんたちとお好み焼き屋さんで食事。その後、折り鶴会館で終演後の再開を約して別れ、原爆ドーム~平和公園へ行った。
Legend-S-直前の11月29日-30日、広島では7月の国連核兵器禁止条約採択を受けて、「核廃絶」をテーマにした第27回国連軍縮会議が開かれていた。
それをあざ笑うかのように、11月29日未明、北朝鮮は核弾頭を搭載可能とする「火星15」型ICBMの発射実験を行った。独裁者にとって核ミサイルは体制存続のための道具でしかないが、もしそれが使われれば、一人ひとり泣き笑い今を生きている数十万人が一瞬にして焦熱に焼かれ、命を奪われることになる。その過ちの実例が広島だった。
国連の会議に集まったのは世界12か国とNGOの代表60名に過ぎなかった。
だが、SU-METALの凱旋公演が行われるにあたって、広島には世界中からのべ2万人が集まった。その多くが、原爆ドームや資料館を見学し、平和公園で祈りをささげた。ぼくも広島に来たのは初めてだった。
路面電車「稲荷町駅」稲生神社には、原爆にも耐えたコンクリート製の「お守り狐」がある。


Led Zeppelinを呼び寄せて広島にロックスピリットの種を植え、長い時を経てSU-METALの覚醒とともにBABYMETALの守護神となり、北朝鮮が狂気の核実験とICBM発射を繰り返して世界に再び核戦争の脅威を振りまいていたまさにそのとき、SU-METALの20歳の聖誕祭に世界中から2万人のファンを集めて、核兵器の不条理を見せつけたのは、この「お守り狐」ではなかったか。それもまたBABYMETALのキセキだった。
広島駅からグリーンアリーナ/平和公園エリアまでは東西一直線の道路で結ばれており、路面電車も走っている。土地勘のないぼくでも非常にわかりやすい。
いったんホテルへ行って荷ほどきをし、シャワーを浴びて着替え、会場へ戻ろうとしていた15:20。
THE ONEに登録されたアドレスにBABYMETAL公式から一斉メールが送信された。
―引用(改行略)―
本日12月2日(土)及び3日(日)広島グリーンアリーナにて行われるBABYMETAL「LEGEND − S − 洗礼の儀 − 」公演におきまして、メンバーの一人YUIMETALが体調不良により、本公演への出演が難しいと医師から診断された為、残念ながら二日間ともライブへの出演を見送ることにさせて頂きました。
本公演を楽しみにされていたファンの皆様・関係者の皆様に謹んでご報告申し上げるとともに、深くお詫び申し上げます。
本公演の中止も検討いたしましたが、YUIMETAL自身が強く公演の開催を願っている事、ファンの皆様がすでに多数広島にご参集いただいている状況を踏まえ、SU-METAL、MOAMETAL、スタッフも含め、ぎりぎりまで協議をさせて頂き、ファンの皆様の為にも、BABYMETALの為にも、本公演を実施すべきである、という結論に至り、広島公演を予定通り行わせて頂く事を決定致しました。
今回出演できないYUIMETALの思いも含め、SU-METAL、MOAMETAL、スタッフ一同、お集まり頂いた皆様と一緒に、「LEGEND – S − 洗礼の儀 − 」の会場がひとつ「THE ONE」となるような公演を目指して参りますので、参加される皆様、そしていつもBABYMETALを応援してくださる皆様のご理解、ご協力を宜しくお願い申し上げます。
BABYMETAL・スタッフ一同
―引用終わり―
YUIMETAL欠場。
心は千々に乱れるが、「SU-METAL、MOAMETAL、スタッフ一同、お集まり頂いた皆様と一緒に、会場がひとつとなるような公演を目指して参ります」というのだから、腹をくくるしかない。
とりあえず路面電車に乗って会場へ戻り、顔見知りのメイトさんがいたので少し話したあと、入場列に並ぶ。
開場は17:30だが、列が動き出したのは18:05。そこから番号呼び出し、チケット・IDチェックを経て、20分ほどで入場となった。
入り口を入ってすぐに、客席後方にある巨大なマットグレーの親狐の口と、メインステージに一直線でつながる花道にある円盤の間を潜り抜ける。円盤には人間の身長くらいある6体の子狐の頭がついている。写真撮影はスタッフが制止するが、みんな触っている。ウレタン製で、表面はぷにぷにしていた。正面のメインステージは、「洗礼の儀」の告知画像にあったようなゴシック調の階段舞台になっている。


1100番台のぼくが入れたのは下手側中央のOブロック中央、花道柵から3列目くらい。
18:55。会場は9割がた埋まった。スタンド席AとBの間にある席は、少し椅子が広いロイヤルシート席になっていて、みんなもよく知っている関係者が座ったのが見えた。
19:02。開演時間だがまだ始まる気配がない。場内からBABYMETALコールと拍手。
19:15。BGMが「ペインキラー」になる。そして、場内が突然暗くなり、「紙芝居」が始まった。
ここからは映像作品と同じ。2日間セットリストは変わらなかった。
1.    In The Name Of
2.    イジメ、ダメ、ゼッタイ
3.    ギミチョコ!!
4.    ド・キ・ド・キ☆モーニング
5.    紅月-アカツキ-
6.    GJ!
7.    シンコペーション
8.    META!メタ太郎
9.    No Rain No Rainbow
10.    4の歌
11.    メギツネ
12.    KARATE
13.    Road of Resistance
14.    ヘドバンギャー!!
15.    BABY METAL DEATH
16.    THE ONE Unfinished Ver.
神バンド:藤岡幹大(G)、BOH(B)、青山秀樹(D)、大村孝佳(G)
以下はライブ実況なので、今夜「Legend-S-XX」を初めて見る方はネタバレになるので、読まない方がいいかもしれない。ただし、この記述は初日のもので、映像に収められた二日目は、この2割増しくらい練度が上がっていたことを付け加えておく。
「紙芝居」はいつもとは全く違い、「20XX年」に人類に放たれた「光」についての、英語のナレーションだった。あまりに発音がいいので、初めはネイティブの女性ナレーターかと思った。しかし、その声は間違いなくSU-の声だった。
英語版の「紙芝居」が「A long time ago…」で始まるように、BABYMETAL神話において、過去は未来であり、未来は過去である。ナレーションの大意は「20XX年、Dooms Dayが訪れ、希望の光は失われ絶望に変わった。だが、メシアによって新たな光がもたらされる。再び地上に光を取り戻すために、この地に生まれ、女神となる」というもので、これがSU-METALを主人公としたLegend-S-洗礼の儀全体のテーマのようだった。
もちろんこれは、Legend -S-が広島を舞台にしたものであることを意識したものだろう。
ステージ後方の巨大な親狐の口の中から、スモークが放たれ、逆光の中、クレオパトラみたいな銀色のガウンに身を包み、三種の神器のペンダントと同じデザインの環をつけた杖を持ったSU-が出てきた。

SU-が狐円盤の上に立つと、ゆっくりした「♪ドン、ドン、ドン…」という太鼓のリズムとともに、6人の狐男たちが現れ、狐円盤についた鎖をステージに向かって引っ張り始める。
シンプルだった巨大キツネ祭りとは打って変わって、スペクタクルなミュージカル仕立てのオープニングだ。
狐円盤に乗っているSU-は、ステージに近づくと客席側へ向き直る。杖を客席に向けると、それに合わせてレーザービームが放たれる。会場に潜む「魔」を焼き殺しているかのようだ。ステージに上がった6体の狐男が太鼓を叩く中、SEが高まり、SU-の杖からシューッと花火が放たれると、花道の上の導火線を伝って、後方の巨大親狐に引火し大爆発。その瞬間、ヘヴィなギターのリフから、1曲目「In The Name Of」が始まる。
全くの初披露であり、『METAL GALAXY』(Japan Complete Edition)では2枚目=Darksideの冒頭に収録されている。
現場で見ていたぼくは、この大スペクタクルに圧倒されたが、問題は、次からの通常楽曲だった。
2曲目は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」。
YUIはかつて体調不良でラジオの収録(『オリラジのツギクルッ』)を休んだことがあり、日本武道館「赤い夜」では花道から落下して「ヘドバンギャー!!」の後半はMOAが一人で踊った。だが、ライブを最初から欠場したのは初めてだった。
このときは、多くのメイトは、YUIはおそらく現地入りしてからインフルエンザなどで高熱を発して、医者に見せたところ、両日とも出演を禁じられたと考えたが、多人数アイドルならいざ知らず、三人しかいないBABYMETALでは、ペアになるMOAの負担は倍になる。
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のイントロが始まったとき、ステージを疾走したのは上手のMOAだけだった。
中央に戻って踊るMOAの表情にすべての観客が注目したが、その表情は引き締まり、気迫に満ちていた。
「何も(Nothing!)言えずに(Say Nothing!)隠れ続けた(見つけちゃいやー!)昨日(イエスタデー!)までの自分サヨナラ(バイバイ!)」「イジメ(ダメ!)イジメ(ダメ!)カッコ悪いよ(ダメダメダメダメ!)」「キツネ(飛べ!)キツネ(飛べ!)きっと飛べるよ(飛べ飛べ飛べ飛べ!)のそれぞれで、観客はYUIの分までとの思いで力いっぱい合いの手を歌った。
MOAが一人で行う間奏部の擬闘も、そのジャンプは高く、素晴らしかった。
曲が終わると間髪を入れず「♪Give me…Give me…」のSE。3曲目「ギミチョコ」である。
イントロが始まるとSU-とMOAを乗せた狐円盤は、花道を移動し、ぼくの目の前まで来た。
「♪あたたたたーたたーたたたたズッキュン」とMOAが歌うと、観客はすかさず「♪わたたたたーたたーたたたドッキュン」と歌った。その後もMOA「ズキュン」観客「ドキュン」MOA「ズキュン」観客「ドキュン」MOA&観客「ヤダヤダヤダヤダネバネバネバー!」と掛け合いになった。大丈夫。YUIのパートはメイトに任せろ。その気迫が会場にみなぎっていた。
ギターソロで、SU-は拍手を促しながら、満面の笑みで場内を見渡す。MOAもいつものように微笑みながら客席に視線を送っている。YUIの不在が、逆にSU-・MOAと観客の一体感を醸成していた。
4曲目はデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。
YUI不在のため、「SU-の回りで踊る双子の天使」感は失われたが、その分SU-の歌い方もMOAのダンスも思いっきりKawaii方面に振り切ったパフォーマンスだった。
観客も1番から「今何時!」と叫んでそれを盛り立てた。
曲が終わると、抒情的なインターリュードが流れる。それがピアノのアルペジオに変わると、スポットライトの中にマントを着たSU-METALが浮かび上がった。
5曲目「紅月-アカツキ-」である。
「♪幾千もの夜を超えて生き続ける愛があるから…」その澄み切った歌声に、観客はしわぶきひとつ立てずに聴き入る。
イントロが始まり、SU-が「アカツキだー!」と叫ぶとパイロの炎が上がり、観客は「ウォー!」と歓声をあげた。
ギターソロのところで、階段を駆け上がったSU-の前に、銀の仮面をかぶり、赤いスカートをはいたもうひとりのSU-が現れた。過去と決別するSU-の内面を表現した擬闘が終わり、「♪過ぎてゆくー」のところで、狐円盤についた子狐の目が赤く光り、レーザーを発した。歌だけでなく、壮大な演出。やはり、Legend-S-はミュージカル仕立てなのだ。


「♪ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドンドンドンドン」という三々七拍子が響く。
6曲目、本来ならBBMによる「GJ!」だが、今日はLegend “1999”の「ラブマシーン」以来のMOAソロになった。
テンポは速いが、観客は「Wall of Death!」「Dive Dive!」と合いの手を入れながら、MOA「もっともっとホラ」観客「もっともっとホラ」MOA「もっともっとホラ」デスボ&観客「One more time!」とYUIパートを担当して掛け合いを行った。
このブログではたびたび言及しているが、もともとMOAは類まれなシグネチャーボイスと正確なピッチ感を持つシンガーである。すぐ隣に世界的シンガーSU-METALがいるから控えめにしているが、MOAだってソロ曲を出せば即座にソロシンガーとして世界的に認知され得る知名度と実力を持っている。早いラップパートをこなしながら、狐円盤の中央で一人歌い踊るMOAはまぶしかった。
7曲目「シンコペーション」は、5曲目、6曲目でそれぞれソロを披露した二人が再びBABYMETALとして歌い踊り、BABYMETALの新しい魅力が発揮された。
アップになるSU-の表情は驚くほど多彩で、歌詞に情感を込め、時には突き刺すように、時にはふんわりと歌い上げた。MOAは観客一人一人に届くような目線を放ちながら、歌詞にはならない感情を体の動きで表現した。YUIがいない分、SU-の歌による表現も、MOAのダンスによる表現も一段ギアが上がり、それが拮抗して、ひとつのパフォーマンスを形成していた。今思えば、Legend-S-初日のこの曲が、その後のBABYMETAL二人体制の基礎になったと思う。
そこに、観客という要素が加わったのが次の8曲目「META!メタ太郎」だった。
場内に「♪ドンドン、ドドン」という太鼓の音が響くと、観客はすかさず「META!」と唱和。
黒いケープを羽織り、ペンダントをぶら下げ、マスクをかぶった1万人が「META!」と叫び、一糸乱れず敬礼振り付けをする。巨大キツネ祭り以上に異様な光景である。
BABYMETALは二人になったが、苦境を支えてこそメイトだ。その熱気があふれていた。「♪ウォーウォーウォーウォウォ、ウォーウォーウォー」と大合唱する客席に、MOAのニコニコ顔、SU-の遠くを見つめるような表情が印象的だった。
大歓声が上がる中、スクリーンには黒い雨が降っている映像が映る。再びSU-の英語による「紙芝居」が始まった。
大意は、「人々は“閃光”によって希望の光を奪われ、絶望が始まった」だが「止まない雨はない」。
これは明らかにかつて、すなわち未来にも起こりうる核爆弾の投下とそこからの復興をイメージしている。『黒い雨』は井伏鱒二の小説のタイトルだ。この小説は広島市内で被曝し、被爆者差別を受けながら鯉の養殖に賭ける主人公と、原爆投下後に降った雨の残留放射能で被曝し、原爆症を発症してしまう同居の姪を描いたもので、最後は、主人公が彼女の回復を祈って、空に奇跡の虹を見るシーンで終わる。
階段上にはフード付きの黒いケープを着用したピアニストと弦楽四重奏団。
9曲目、東京ドーム以来の「No Rain No Rainbow」である。


この曲がLegend-S-の一つのハイライトで、二日目の映像は藤岡神逝去後にオフィシャルMVとなった。
階段上のピアノの横で「♪どうして眠れないの…」と歌い出すSU-の顔がアップになると、驚くほど悲しい表情をしている。
今見ると「♪君がいない未来」という歌詞に、どうしても不在のYUI、そして藤岡神を思ってしまう。
だが「♪絶望さえも光になる」から歌い上げるSU-の目力はあくまでも強く、凛々しい。「♪悲しい雨が虹を架けるよどこまでも」という絶唱に鳥肌が立つ。間奏部の藤岡神、大村神のツインギターは激しく、美しく、すべての音に日本人ミュージシャンであることの思いが込められていた。
もう、このコンビネーションも映像作品の中でしか聴けない。
曲が終わり、あまりの感動に客席から、「SU-!」「SU-ちゃーん」の声が響き渡る。
だが、次の曲まで約3分の間が空く。何かトラブルがあったのか。場内は騒然としてくる。BABYMETALコール、拍手、ザワザワザワ…。
そのとき、場内に「シッシッシシシシ、シシシシ」というコールが響いた。
観客はすかさず「よんよん!」と叫ぶ。MOAソロによる10曲目「4の歌」である。
MOAは客席後方の巨大キツネの口の前、狐円盤の上にいた。なるほど移動が遅れていたのだ。
MOAは花道を移動する狐円盤の中央で、たった一人で歌い踊った。
YUIパートはカラオケだが、もちろん観客も歌詞を覚えている限り歌う。MOAの表情、歌の声量やピッチ、目配りは見事なもので、小さな体からオーラがあふれ、光り輝いていた。1万人を楽しませる究極のアイドル。きっとYUI欠場を知った時のMOAは心臓が縮まるほど怖かったと思うのだが、腹をくくったMOAの爆発力はスゴイ。その資質は、さくら学院初年度の「スーパーマリオ」や「変なおじさん」からちっとも変っていない。
暗転。「♪キーツーネー、キーツーネー…」というSEが入ると、狐円盤が花道中央でぐいーんと上昇し、周囲の狐像の目が光り、頭頂部からレーザービームが放たれた。すげー。
11曲目「メギツネ」である。
二人は、フード付きの黒いガウンに身を包み、顔の前にキツネ面をかかげてステージから登場した。
そのまま花道を進み、二人が乗ると、狐円盤はそのまま高く上昇した。ただし、その高さは二日目の方が高かった。ヘヴィなリフが始まると、MOAが一人で狛キツネポーズ。後ろにいるSU-の目力が強い。
イントロが始まると、二人は、「ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」と荒々しく踊る。膝の高さはSonisphere並みである。
場内は、熱狂のるつぼと化す。YUIの分まで心を込めて踊ることで、MOAのダンスは一つ一つの動きが大きくなり、MIKIKO師が歌詞の意味を振りに対応させていることがハッキリわかる。
ブレイクのSU-の煽りは以下のとおり。
SU-「C’mon! 広島グリーンアリーナ!」観客「Yeah!」(SU-ちゃーんの声)
SU-「We’re so happy to be here! I want to have an amazing time with you more! On the count of three, let’s jump up with Fox God. Are you ready? 」観客「Yeah!」
SU-「Are---You---Ready!?」観客「Yeah!」(SU-さま~の声)
SU-「1!2!123!Jump!」
1万人の観客は、ここまでBABYMETALを導いたキツネ様に感謝の思いを込めて、一糸乱れずジャンプした。
次の12曲目「KARATE」も、二人であることで振り付けの意味がリアリティを持ってより強調された。
冒頭、両腕を斜めにそろえるところでは、SU-、MOAの角度は完全に平行であり、そこから正拳突きに移るタイミングも完璧。MOAの正拳突き、体いっぱいを使った表現に観客の目は集中するが、SU-もまたいつもより振りが大きく、体でも楽曲の内容を表現していることがわかる。
間奏部、倒れた二人の距離は遠い。SU-の疲労困憊、立ち上がろうとしてまた倒れてしまう演技、MOAが誰かを求めるように虚空に目をさまよわせるところに、SU-が手を差し伸べ、二人が正面を向いて肩を組み、拳を振り上げて前へ進むシーンなど、苦境のリアル感が半端なかった。
巨大キツネ祭りと同じく、ラストシーンは、巨大キツネ祭りと同じく、握り拳をキツネポーズに変えて掲げ、スッと胸に秘める最後のポーズの一瞬手前で照明を切り、観客の心の中に映像を残す演出だった。
13曲目は「Road of Resistance」。
神バンドによるプレリュードが流れ、BABYMETALフラッグをもってSU-とMOAが登場。
YUIはいないが、その分二人の目力は強く、どんな状況にも負けないという気迫が伝わってくる。
「♪1234!」から、イントロが始まると、各柵できれいな円形のサークルモッシュが起こる。赤い光に照らされ、高速で走る客の姿が上空から映し出される。美しい。
「♪ウォーウォーウォウォー…」のシンガロングでサークルモッシュが止まる。やがてバンドも止まり、青山神のハイハットの「チッ、チッ」というリズムに声を合わせて大合唱する観客に、YUI不在をカバーして余りある思いを感じて、胸が熱くなった。
不穏な雷鳴とオルガンの音が響くと、「♪伝説の黒髪を華麗に乱し…」という歌声が響く。
14曲目「ヘドバンギャー!!!
である。
これも当然、SU-とMOAの二人だけである。いつもはYUIが渡すマイクスタンドはなく、SU-は普通にマイクをとって歌った。
「ヘドバン、ヘドバン…」のシークエンスで、二人を乗せた狐円盤は、またも高く上がり、6体の狐像の口から大量のCO2が吐き出される。かつてYUI、MOAの二人がやっていたことを今日は狐像がやっていた。
そして、Legrnd-S-のハイライト・シーンのひとつが生まれた。
「♪ハタチの夜を忘れはしない、泣き虫な奴はここから…キ・エ・ロ」
「♪ハタチの夜を忘れはしない、邪魔をする奴は即座に消え失せろ」
たった三文字の替え歌。その瞬間、イチゴがハタチになる5年間の歩みを思って、会場にいた多くのメイトさんが涙した。このために2017年五大キツネ祭りやサマソニ2017、巨大キツネ祭りでこの曲がセトリに入っていたのだ。
そして、この曲は海外デビューを予告した日本武道館「召喚の儀」で演奏されたように、次のステップへ向かう「成長」の曲である。このあとBABYMETALはどんなふうに「成長」していくのだろう。今日はYUI病欠だが、きっと1年半後にはYUIとMOAも「ハタチの夜を忘れはしない」と歌うのだろうな。みなそう思った。
暗転すると、「BABYMETAL DEATH」のイントロSEが流れる。だが、「紙芝居」のタイトルは、「In the name of」で、またもSU-による英語のナレーションが始まった。
大意は、「善行と悪行、光と闇、生と死。すべてのものは表裏一体。三つの願いが重なる時それは三位一体となり、メシアは自らの死と引き換えに炎の光となり昇天する…」というものだった。
15曲目「BABYMETAL DEATH」。
ああ、またも誕生日なのに磔にされるんだ。
これが2012年のLegend ”D”、2013年のLegend “1997”以来、SU-METAL聖誕祭のお約束、メシア受難劇だった。
二人でBABYMETAL体操1番を終えたところでSU-が階段の上で倒れる。三種の神器のペンダントと同じデザインの巨大な輪がステージに出現。フード付きガウンを着た男たちが現れ、SU-をその輪に磔にしてしまう。
MOAが狂乱する中、ステージにはパイロの炎が吹き出し、観客は「イエスを磔にかけろ」と叫んだ2000年前のエルサレムの民衆と同じく、SU-の処刑を望み「DEATH!DEATH!」と叫ぶ。そして、「BABY、METAL、DEATH」でMOAも倒れてしまう。
暗転した会場に、再びSU-のナレーションが響く。
「絶望の果てに、メシアは炎に包まれ、自ら天に上った。昇天したメシアは星となり、奇跡が起こった。新たな女神としてこの地に降臨し、歌う。小さな光は集まり、大きな希望の光となる。なぜメシアは歌うのか。それは選ばれし者の宿命だから。歌で人々に希望の光をともすのだ。新たな伝説が始まる…」
ここで、観客がかぶっているマスクの額が光りだした。東京ドームの再現だが、それをメシア=女神としてのSU-METALの復活―再降誕と結びつけたわけだ。
場内をスモークの霧が覆う中、後方の巨大狐の口の中から、黒字に金の刺繍が施されたドレスに、金色の巨大な王冠をつけたSU-が現れた。ちょっとバリ島の舞踏衣装っぽい。


ピアノのアルペジオが静かに響く。
ゆっくりと狐円盤に進んだSU-が、マイクをとって「♪No Reason why…」と歌い出す。
全編英語。あのナレーションの主がSU-であったことの意味が、ここにあった。
フィニッシュ曲「THE ONE Unfinished &English Ver.」。
ゆっくりと動く狐円盤。神秘的なスモークがたかれ、観客の額から放たれる光はまるで星が煌めく宇宙空間のようだった。YUIとMOAの美しい「♪We are the one…」「♪You are the one…」というコーラスをバックに、SU-は信じがたい歌唱力で、観客一人ひとりの胸に突き刺さるような歌の世界を繰り広げていった。
確かに、これは神話だった。だがそれは、原爆から復興した広島に生まれ、世界的な存在に成長した生身の中元すず香というアーティストの生誕を祝う儀式でもあった。ギミックと現実がひとつになった。
そして、静かさから一転、神バンドの全力演奏が始まると、MOAもSU-と同じ衣装でステージ側から登場し、花道を歩いて狐円盤に乗った。2人のアイコンタクトに涙がこぼれた。


そこから「♪Standing in circle pit side by side (Hand in hand)」からクライマックスの「♪ララララー」のパートに入ると、観客も大合唱した。
狐円盤がステージに着地すると、SU-とMOAはゆっくりと正面の階段を昇っていく。
そして正面からの強い閃光が放たれ、二人が消えると、特効の爆音が響き、ライブは終了した。
(つづく)