10年のキセキ(68) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月27日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

2017年10月15日、巨大キツネ祭り@大阪城ホールの最終日、終演後の大スクリーンには、2017年12月2日、3日、広島グリーンアリーナにて「Legend-S-洗礼の儀」が行われることがハッキリと表示され、その翌日からTHE ONE先行でチケット抽選受付が始まった。


SU-METALの20歳を祝う聖誕祭=ご祝儀であるためモッシュッシュピットのチケットは20,000円と設定されたが、それには当日配布される「三種の神器」が含まれ、新たな試みとして、メンバーと同年代の20歳以下の金キツネ世代に限り2,000円という格安チケットも用意された。
この発表で、「前座修業」で幕を開けたBABYMETALの2017年は、終わってみれば東名阪9公演の小箱限定ライブである五大キツネ祭り、「ついにここまで来ました」で感動したサマソニ2017、大規模会場4公演の巨大キツネ祭り、そしてSU-METAL聖誕祭のLegend-S-@広島と、国内ライブも充実したハッピーな一年間になったと思われた。


「紙芝居」で広島県立総合体育館グリーンアリーナを「聖地」とされたのには理由があった。
1971年、初来日したLed Zeppelinは、東京・日本武道館公演の後に広島に立ち寄り、9月27日にここで「愛と平和」チャリティコンサートを行い、原爆の後遺症に苦しむ市民のためにライブの収益金約700万円を山田市長に手渡した。
ミュージシャンを多く輩出する街としては福岡が有名だが、広島からも、1970年代以降、西城秀樹、矢沢永吉、吉田拓郎、世良公則、もんたよしのり、奥田民生、奥居香(プリンセスプリンセス)、吉川晃司、浜田省吾、森友嵐士(T-BOLAN)、ポルノグラフィティら、歌謡曲/ニューミュージックといったジャンルの中でもロック色の強いアーティストたちが出た。デーモン小暮閣下も、世を忍ぶ仮の父親の仕事の関係で、小学校高学年の一時期、広島に在住しており、そこでロックに目覚めた。ダンスを主たる表現とするHIRO(EXILE)、Perfume、鞘師里保といったアーティストにも、ロックスピリットが流れているのを感じる。
広島がロックシティになったのは、1971年という早い時期に、ハードロックの王者であるLed Zeppelinがチャリティコンサートを行ったため、かつて地方都市によくあった「エレキ/ロックは不良の音楽」という偏見から解放され、逆に、ロックこそ世界の音楽だという憧れを広島市民に抱かせたからではないか。
そして、SU-METALこと中元すず香は、Led Zeppelinによって蒔かれ、時代ごとのアーティストにリレーされてきたロックスピリットの最終ランナーとして、遂に世界のメタルクイーンとなった。

なぜ、Led Zeppelinは初来日時にわざわざ足を延ばして広島へ来たのか。
それはもちろん、この地が人類史上唯一、核爆弾が投下された場所だからである。
1971年といえばベトナム戦争(1955年~1975年)の末期であり、アメリカを中心とする資本主義国陣営とソビエト連邦(現ロシア)を盟主とする社会主義国陣営が、世界の覇権を賭けて争う冷戦の真っただ中だった。
ベトナム戦争反対運動は、1960年代後半からアメリカや日本でも起こっており、現在、その一部は資本主義国内に反体制運動を作り出そうとしたコミンテルンの工作によるものだったことが検証されているが、いわゆるノンセクトの中には、政治的というより、それまでの文化や価値観そのものをラジカルに疑う、ヒッピームーヴメントやフラワームーヴメント、ニューエイジムーヴメントのような動きもあった。
ベルボトムジーンズと長髪のバンドが大音量でエレクトリック楽器を奏で、ハイトーンでシャウトするハードロックは、既存の価値観をぶち壊す「時代の音楽」だったが、それは資本主義を非難し、コミュニズムを礼賛する政治的反体制運動の道具などではなかった。その証拠に、ソ連や東欧にはロックバンド=表現の自由そのものがなかった。


1971年9月27日、広島県立総合体育館(現グリーンアリーナ)で行われた「愛と平和」コンサートは、「移民の歌」から始まり、「Communication Break Down」や、ジミー・ペイジが30分に及ぶアドリブを繰り広げた「Dazed and Confused」のほか、リリース前だった『Led Zeppelin Ⅳ』収録の「天国への階段」も披露された。
その歌詞は難解だが、一部を解説してみよう。(意訳:Jaytc)

There's a lady who's sure all that glitters is gold and she's buying a stairway to heaven.
(煌めくものはすべて黄金だと信じている女がいた。彼女は天国への階段を買おうとしていた。)
When she gets there she knows, if the stores are all closed with a word she can get what she came for.
(そこにたどり着き、お店がすべて閉まっていたとき、彼女は知る。ある言葉を唱えれば、そのために来たものを得ることができるのだと。)

「天国への階段」とは、永遠の命と幸福のことだろう。それをお金で買おうとするLadyという主人公の姿に、作詞者は、拝金主義や物質主義に走る人々の姿を託しているのだとぼくは思う。
拝金主義とは、金持ち=偉いというアメリカ的資本主義の弊害だが、宗教を否定し、この世のすべては「科学的」に分析/構築できると考える史的唯物論=マルクス主義もまた究極の物質主義に他ならない。
だが、金やモノであふれていても、永遠の命やいつまでも続く幸福は得られない。そこで初めてLadyは知ることになる。「ある言葉」がなければ願っていたそれを手に入れることはできないのだと。つまり、資本主義でも社会主義でも、それ自体が理想ではないのだ。
ある意味、この最初の連に、「天国への階段」のすべてが込められているといってよい。
では「天国への階段」への鍵となる「言葉」とは何か。

There's a sign on the wall but she wants to be sure 'cause you know sometimes words have two meanings.
(壁には何か書いてあったが、彼女は確信が持てなかった。なぜなら言葉には時に二つの意味があるからだ。)
In a tree by the brook, there's a songbird who sings, sometimes all of our thoughts are misgiven.
(小川のそばの木に、歌を奏でる鳥がいた。時々私たちの考えはすべて誤っていることがある。)
Ooh, it makes me wonder, Ooh, it makes me wonder.
(ああ、それは私を迷わせる。ああ、それは私を迷わせる。)

壁に書いてあったsignとは、「天国への階段」の鍵になるものかもしれなかったが、Ladyは信じることができない。前の連の「a word」が単数形=不定形で、この連の「words」が複数形=一般名詞であることに注意したい。
一般名詞としての言葉は思考の道具であり、理性の礎だ。だが思考すればするほど「信じること」から遠ざかってゆくのが人間だ。この世でお金やモノを手に入れようとするには頭を使わなくてはならない。拝金主義も物質主義も、幸福を理性で得ようとした結果だ。理性にとらわれたLadyだからこそ、「言葉」を信じることができずに、迷い続けるのだ。
こんな調子で、哲学的な童話のような連がいくつか続く。中にはこんな連もある。

In my thoughts I have seen rings of smoke through the trees, and the voices of those who stand looking.
(私は、木々の中に煙の輪が立ち上るのを見、それを茫然と立って眺める人々の声を思い出す)
Ooh, it makes me wonder, Ooh, it really makes me wonder.
(ああ、それは私を迷わせる。ああ、本当にそれは私を迷わせる)

「rings of smoke through the trees」とは、想像を逞しくすれば、原爆のことである。
核分裂のエネルギーを利用した原子爆弾は究極の理性の賜物だろう。そして、それが完成すると、トルーマン大統領はアメリカ軍兵士数百万人が戦死すると予想された日本上陸作戦を行うより、広島と長崎で数十万人の市民を殺傷した方が犠牲者も少なく、日本の降伏が早まると、冷徹に考えた。
日本軍の対米英開戦も、ABCD包囲網で追い詰められた時局を突破しようと考えた結果であり、日韓併合も満州国樹立も、混乱の極にあった中国・朝鮮半島を、日本が近代的に統治した方がアジア全体の利益になると考えたためだった。だが、その都度、最善手だったはずの外交・軍事政策が、結局、大戦争を導いた。理性の暴走は、悲惨な結果をもたらす。


脱線してしまったが、「天国への階段」の中盤には、Ladyを批判的に眺める作詞者がWeで表され、それを聴くぼくら自身と思しきYouへの語りかけになる。

Yes, there are two paths you can go by, but in the long run there's still time to change the road you're on.
(そう、君の前には向かうべき二つの道がある。先は長いが行く道を変える時間はある。)

最後の連では、Youに対して、拝金主義・物質主義のLadyとは違う道を行こうという呼びかけが強まる。

There walks a lady we all know who shines white light and wants to show how everything still turns to gold.
(ぼくらのよく知っている女が歩いている。白く輝き、すべてを金に変える方法を見せたがる女が。)
And if you listen very hard the tune will come to you at last.
(だが、彼女の言葉が君に聞こえないなら、この曲がついに君に届いたということだ)
When all are one and one is all to be a rock and not to roll.
(すべてがひとつになり、ひとつがすべてになるとき、ぼくらはロックになる、ロールではなく)
And she's buying a stairway to heaven.
(そして彼女は天国への階段を買おうとしている)

出ました。「all are one and one is all」。
これは、「Road of Resistance」の戦国紙芝居に出てくる「One for All, All for One」とほぼ同じである。
このフレーズの語源はラグビーではない。最も古くは16世紀イングランドのサウサンプトン伯爵家の標語だったらしい。それをシェークスピアが『ルークリース凌辱』(1594)という戯曲に引用している。
「ぼくらはロックになる、ロールではなく」は、Led Zeppelinがやる「ハードロック」は商業化された「ロックンロール」にはならないよという意味ともとれるし、「ぼくらは岩のように固い絆で結ばれ、けっして揺らがない」という意味かもしれない。
いずれにしても、Ladyに象徴される拝金主義・物質主義、そのもとになる理性を過信していては「天国への階段」の鍵は見つからない。理性を超越した「all are one and one is all」という「言葉」でひとつになることが、ぼくらの歩むべき道である、というのが、ぼくの読み解いた「天国への階段」の意味である。
以下は蛇足。
社会主義国の「神」、カール・マルクスは「上部構造は下部構造に規定される」(『経済学批判・序』)と説いた。上部構造とは政治機構や思想や文化などを指し、下部構造とは経済体制を指す。政治体制は、生産や流通のしくみに応じて変わっていくというところまでは正しいような気がするが、「労働者の前衛党」が武力革命によって生産基盤を握ってしまえば、政治も牛耳れるし、人々の意識も変わるという恐ろしい結論になる。要するに「飯を食わせてもらっている人の悪口は言わないようになる」ということだ。
だが、これと正反対の教えを説いていた人がいた。イエス・キリストである。
彼は2000年前のエルサレムで、「人はパンのみにて生きるにあらず。神の言葉にて生きる」と説いた。物質的に恵まれていても幸福であるとは限らない。貧しくても、神の愛に満たされていれば心豊かに生きることができる。そういう意味である。
「今はたまたま飯を食わせてもらっているけど、本当のご主人は神様だから、殺されてもダメなものはダメでっせ」というのだから、支配者にとってこれほどやっかいな思想はない。ローマ帝国から中国共産党政権まで、自信のない政権ほど躍起になってキリスト教を弾圧するのもうなずける。
「天国への階段」は、もともと聖書の『創世記』で、ユダヤ人の始祖アブラハムの孫にあたるヤコブが旅の途中に夢で見た天使が行き来する階段のことである。
歌詞冒頭の「言葉」も、『ヨハネによる福音書』の冒頭、「初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった」(新共同訳)を想起させる。
つまり、ベトナム戦争およびベトナム戦争反対運動真っ盛りに作られた「天国への階段」は、資本主義、社会主義のどちらにも根底に流れている拝金主義や物質主義=理性の過信にラジカルな疑いを向け、キリスト教に限らず、ちっぽけな利害にとらわれないで、感性の力や信じる力を解き放とうと訴える曲だったのだと思う。
そんなLed Zeppelinが、初来日に当たって、有名な観光地ではなく、広島でチャリティコンサートを行うことを望み、平和公園の原爆ドーム前で祈りを捧げたのはむしろ当然だったのかもしれない。
そして、それが、政治とは異なる形で人々の心を動かし、THE ONEにするロックスピリットの「種」になった。
SU-METALは、その正統な伝承者だった。
(つづく)