10年のキセキ(53) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月5日は、2015年ボローニャ公演@Estragon Clubが行われ、2016年、FORTAROCKフェス@ナインメーヘンGoffertparkに出演し、2018年には、オランダ・ユトレヒト公演@Tivoli Vredenburgが行われた日DEATH。

■武漢ウイルス関連データ
●累計    
・世界 感染確認者6,455,912人>死者384,728人
・日本 感染確認者17,018人>死者903人・退院14,867人・要入院1,241人>重症102人
●10万人当たり
・世界 感染確認者83.68人>死者4.99人
・日本 感染確認者13.45人>死者0.71人
出典:厚労省「新型コロナウイルスの現在の状況について」(6月4日12:00現在)

2016年9月19日、東京ドーム上空は厚い雲に覆われていた。
ぼくが物販列に並んでいた12時過ぎにポツポツと降り始めた雨は、開場1時間前には大降りになった。
水道橋駅周辺は黒いTシャツを着た数万人の人々であふれ、ペデストリアンデッキの待機列はドームを二重三重に取り巻いた。
ずぶ濡れになりながら、列が少しでも動くとワクワク感がぐんぐん上がっていく。入場の際、チケットの種類に応じて透明または赤い模様付きのコルセットを手渡された。
入場して全体を見渡すと、ものすごい湿気で霧が立ち込めていた。空調が利いているので、蒸し暑さは感じない。マウンドの位置には巨大なタワーのようなものがあった。よく見ると、上部は数本の無骨な鉄柱で支えられた巨大な円盤状の構造物で、黒と赤でカラーリングされ、周囲にトゲトゲのついた王冠のような形をしていた。トゲトゲの下にはぐるりとライトがついていて、巨大なアダムスキー型UFOにも見える。
円盤のスカート部分は360度会場のどこからでも見える巨大スクリーンになっており、中心点の真下はリフトになっているらしく、それを降りたところにドラムセットや機材類が置かれたバンドブースになっている。そこを中心点として、上部構造物より二回りほど大きい直径の赤い円形ステージが広がっている。さらにそこから三方に20メートル近くある“棺桶型”の花道が、アリーナ席に突き出すように伸びていた。
アリーナの床には人工芝を傷つけないようにビニールシートが敷かれており、折りたたみ式のパイプ椅子が置かれていた。ぼくの座席はCブロックの真ん中で、ステージからも花道からも距離がある。そこから見あげる中央構造物は、入場時に階段を下りながら見たよりはるかに巨大だった。
東京ドームでのライブは、ローリングストーンズの初来日公演以来だが、アリーナ席から見るとあらためてその広大な空間にため息が出る。ここを毎日満員にするジャイアンツはやっぱり凄いんだなと思う。
開演まで1時間。客席を見上げると、まだ空席が目立つ。なにせ5万5000人だから、入場には時間がかかるのだ。いつもどおりのBGMの合間に流れるライブ中のご注意も、巨大な空間にエコーがかかって聴こえる。開演15分前になるとフロアはもちろん、2階席、3階席、天空席までびっしり観客で埋まった。
定刻。BGMが止まり、客電が落ちた。大歓声が響き渡り、アリーナの観客もシートの観客も一斉に立ち上がった。
中央タワーの巨大スクリーンに骨タイツのKOBAMETALが映る。
「キツネだおー」
大歓声がわき起こる。
KOBAMETALは、ライブ中の注意を繰り返すとともに、二日間で『BABYMETAL』『METAL RESISTANCE』の収録曲をすべて演奏するが、一度演奏した曲は二度と演奏されないとか、コルセットを“おねだり大作戦”でお持ち帰りできるというルールを説明した。その都度「ウォー!!!」という歓声が上がる。
ここからは、#STAYHOME #STAYMETALで無料公開された『Live at Tokyo Dome』どおりである。
初日Red Nightのセットリストは以下のとおり。
1.    BABYMETAL DEATH
2.    ヤバッ!
3.    いいね!
4.    シンコペーション
5.    Amore-蒼星-
6.    GJ!
7.    悪夢の輪舞曲
8.    4の歌
(神バンドソロ)
9.    Catch Me If You Can
10.    ギミチョコ!
11.    KARATE
12.    Tales of the Destinies
13.    THE ONE
神バンド:藤岡幹大(G)、BOH(B)、青山秀樹(D)、大村孝佳(G)
ただし、アリーナ席では、正直言って映像ほどはっきりと全体像が把握できたわけではない。
1曲目の「Road of Resistance」が始まった瞬間、アリーナで見ている者には、UFOの王冠部分は死角になっていたため、BABYMETAL旗を担いだ三人がどこにいるのかまったくわからず、スクリーンを見つめ続けるしかなかった。


だが、三人が「♪ウォーウォーウォウォー…」とシンガロングを始めた時には、鳥肌が立った。5万5000人の大合唱。そしてSU-は「かかってこいやー!」と叫んだ。
2016年、ウェンブリーアリーナに始まり、『METAL RESISTANCE』がBillboard 200で坂本九以来53年ぶりに40位以内にランキングされ、『Kerrang!』AwardsでBest Live Bandに選出され、ロブ・ハルフォードに「メタルの未来」と称されたBABYMETALが、今、東京ドームにUFOで降臨した。そのことが、非現実的なまでのリアリティを持って観客の心と体を揺さぶった。
2曲目の「ヤバッ!」では、ステージ面に降り立った三人を乗せて円形ステージが回転し、「正面」がAブロックからBブロックのほうへ移った。曲ごとに「正面」を変えて全方位の観客に見えるようにするのかなと思ったが、実際にはステージの回転は限られた曲でしか行われず、基本的にはAブロックが「正面」のようだった。
三人のコスチュームは、2016年ワールドツアー仕様の黒を基調としたもの。ツアーファイナルでも奇をてらわず、いわば「戦闘服」のまま登場したのは素晴らしい。
3曲目の「いいね!」では、もちろんラップパートの「♪ヨウ、ヨウ」からSU-「東京ドーム!東京ドーム!」のC&Rが行われたが、あまりにも残響が遅くて笑った。
残響といえば、4曲目の「シンコペーション」は、「紙芝居」で心臓の鼓動音が響き、SEのノイズが高まる中、Amのリフがエコーの中から聞こえてくるのだが、それが東京ドームの残響タイミングにバッチリはまって、滅茶苦茶カッコよかった。
照明が落ち、フルオーケストラのプレリュードが巨大な空間にこだますると、最上部の王冠ステージにいるSU-に、スクリーンの中で白い翼が生えていくイリュージョン。5曲目「Amore-蒼星-」である。
「♪愛の言葉~響け夜空へ」とアカペラで歌い出した瞬間、またも心が震えた。東京ドームの中心=王冠ステージの上で歌い踊るSUに、5万5000人の目と耳が集中する。多人数アイドルグループのドーム公演はそれなりの迫力や感動があるだろうが、これだけの大観衆の前で、たったひとり、歌一本で勝負する実力と度胸は、世界的な歌姫、メタルクイーンという称号がまさしく本物であることを証ししていた。
6曲目はYUI・MOAのBLACK BABYMETALによる「GJ!」。今度は、激しく歌い踊る二人のエネルギーに5万5000人が圧倒される。ここでも三々七拍子のリズムに「パンパンパン(おー!)」の合いの手の残響が追い付かない。だが、その楽しさに観客は酔いしれた。
7曲目は、またSU-ソロの「悪夢の輪舞曲」。この曲は3/4拍子と5/4拍子が交互に繰り返されるダークなプログレメタルであり、2014年の欧米デビューツアーで、これを寸分の狂いもなく歌いこなせるSU-の実力は、欧米のメタルファンを驚愕させ、BABYMETALがKawaiiだけのJ-POPアイドルでない証明となった。それが東京ドーム5万5000人の前で再び実証された。
8曲目は打って変わって、BBMの「4の歌」。
「♪シッシッシシシ、シシシシ」と最初のフレーズが出た瞬間に、5万5000人が「よんよん!」と反応した。またも残響は遅れて聞こえるが、その楽しさは比類ない。
間奏部で、YUIとMOAは「次はこっちだよー」とニコニコしながら円形ステージを走り回り、「チーム4」「幸せの4」「おいC!」など4つに名づけられたブロックごとに「シッシッシシシ」「よんよん!」をやってくれた。
二人が去ると、「ギュイーン!」というハウリング音が鳴り響き、青山神が8ビートを刻み始める。藤岡神、BOH神、大村神がそれぞれバンドブースから出て、花道にまで進んでくる。藤岡神が海外のメタルファンを驚愕させたスケールアウトした速弾きフレーズで5万5000人の大歓声を浴びると、大村神は花道上で舌を出し、客席を煽りながらシュレッドギターを聴かせる。BOH神は豪快なスラップ奏法やタッピングを交えながらメロディアスなアドリブを聴かせ、青山神は緩急をつけた超絶ドラミングで、観客の心を揺さぶり、最後には両手を上げたダブルバスドラでキメてくれた。この方たちが神バンドでよかった!と思える瞬間だ。
そこへ「ハイ!ハイ!ハイ!」と三人が入ってくる。9曲目「Catch Me If You Can」である。
5曲目から9曲目ではっきりわかるこのコンビネーションこそ、BABYMETALの本質である。
要するにBABYMETALは、Kawaii容姿やキャラクターの魅力もさりながら、歌と踊りと演奏を「見せる」アーティストなのである。Kawaii容姿やキャラクター、言葉のセンスで惹きつけるアイドルがテレビの中には大勢いるし、それぞれの「推し」ファン×多人数という構造は、CDの売り上げやライブ動員力に貢献するだろう。
だが、BABYMETALはテレビを主戦場にはせず、SNSもやらず、たった三人の歌とダンス、神バンドの卓越した演奏力で勝負してきた。その戦いはまずさくら学院父兄を惹きつけ、国内のロックファンの目を開かせ、欧米のバンドマンやメタルヘッズに高く評価され、かつてHR/HMにハマった中高年ファンの情熱を呼び覚まし、ついには、東京ドームに5万5000人を集めた。東京ドームの見えにくいアリーナ席で、それを実感した。その一人としてその場に居合わせたことが心から嬉しかった。
そこからは夢のような展開だった。
「ギミチョコ!」では、「♪ずっきゅん」「♪ドッキュン」の残響がこだまする中、間奏部の「Hey!東京ドームScream!」に5万5000人が絶叫した。


「KARATE」では、残響もものともせず5万5000人が「♪押忍!押忍!」と叫んだ。間奏部、SU-の「How you Feeling Tonight?How you Feeling Tonight、東京ドーム!?」の呼びかけに大歓声が沸き、「Let us hear your voice」「Could your hands in the air!」からの「♪ウォーウォーウォウォー…」のシンガロングの繰り返しに、思わず涙があふれた。ライブで泣くことは滅多にないのだが、この時ばかりは我慢できなかった。
そして12曲目、ライブでは一度も演奏されたことのなかった「Tales of the Destinies」が演奏された。
「THE ONE」のギターによる三連符のリフメロディは通常のスピードでも演奏難度が高いのだが、「TOTD」ではデジタル処理で2倍速になっており、しかも曲中のテンポは頻繁に変わる。もちろん歌もScreamもリズムをとるのが極端に難しい。これを神バンドは正確に生演奏し、SU、YUI、MOAもきっちりと歌い踊った。
途中、ホンキイトンク風のピアノが流れるシークエンスでは、YUIとMOAがコケティッシュなダンスをKawaiくキメた。
この難曲を5万5000人の中で、何一つミスなくやってしまえるグループは、他に存在しない、ゼッタイ。
後にインタビューで語ったところによると、東京ドームでライブをやること自体には緊張しなかったが、この曲を初披露することの方が緊張したという。このへんもパフォーマンスのクオリティに命を懸ける「職人」らしさだ。
「TOTD」が終わると、『METAL RESITANCE』の音源通り、切れ目なくインターリュードが流れる中、照明が落とされ、神秘的なSEが重なると、入場時に5万5000人全員に配布されたコルセットから白い光が発せられた。


これはアイドルのライブなどでも使われる赤外線(IR)遠隔操作ができるLEDで、コルセットから取り出して形状をよく見ると、白い表面には東京ドームの屋根と同じ数の線が刻まれている。KOBAMETALはこれを発注する際、わざわざ東京ドームの形を指定し、目黒鹿鳴館や日本武道館の来歴に因んで、コルセットに仕込んだのだ。その思いを考えると、やっぱり感動する。
5万5000人の放つ白い光で満たされた東京ドームは、星々が煌めく宇宙空間のようだった。
その幻想的な光景の中、「THE ONE」が始まった。
三人は金色のガウンをまとっていた。2016年の始まりのウェンブリーアリーナでは銀色だった。過酷なライブツアーを経て、三人が大きく成長した証だった。
「♪…Open your mind, we can understand it」という歌詞のとおり、BABYMETALを先入観で見る者には、彼女たちの凄さは、決して理解できないだろう。だが、一度でもライブに足を運べばわかる。
歌唱力やダンスや演奏技術が卓越していなければ、優れた音楽じゃないなどというのは間違いだ。ロックの原点はアメリカのデルタブルースだし、粗末な楽器を使って歌う子どもたちが、聴く人の心をぐいぐい動かすことだってある。逆に言えば、いくら演出に凝り、技術を駆使してプロの演奏家がカラオケを作り、Kawaii振り付けで歌い踊っていても、口パクでは心を動かされない。
その意味で、生歌生ダンス生演奏のBABYMETALは、両面を兼ね備えているのだ。
「アイドルとメタルの融合」とは、「Kawaiさと実力の融合」でもある。
相反する要素がひとつ=「THE ONE」になったのがBABYMETALなのであり、さまざまな立場の人々を引き寄せた東京ドーム公演はその証だった。
不思議な浮遊感を持つ「♪Standing in Circle pit side by side(hand in hand)」のパートで、5万5000人は日本が生んだ奇跡のユニットであるBABYMETALと同時代に生まれ合わせた幸運を感じたはずだ。
「♪ララララー…」の大合唱は東京ドームを揺るがし、Red Nightは大団円を迎えた。
(つづく)