ギターとアジア(4) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日1月21日は、2017年、Guns N’ RosesのSupport Actとして、大阪・京セラドームに出演した日DEATH。

日本を代表する電子機器メーカーROLANDも、生産拠点をアジアに分散させている。
ギタリストにはなじみ深いBOSSブランドのエフェクターは、現在台湾の桃園県にあるRoland Taiwan Electronic Music Corp.で製造されているが、かつて日本で造られていたコンパクトエフェクターSD-1の「日本製」と「台湾製」の音の違いを比較する動画もYouTube上に存在する。
藤岡幹大氏が店頭デモ演奏をしていたBOSSのデジタルアンプKATANAは、ぼくも持っているのだが、バックプレートにはMADE IN MALAYSIAと記載されている。
ROLANDは、中国・江蘇省蘇州にもRoland Electronics Suzhou Co. Ltd.を2001年に設立しており、ここでもギター関連機器を生産している。だが、同社のニュースリリースを見ると、ここの製品はすべて中国の国外へ輸出されるとしており、部品として日本や台湾、マレーシアなどに供給されているものと思われる。
こうしたグローバルな分散型生産体制は、パソコンや携帯電話でも同様で、最終組み立て工場のある国がMade in表記になるわけだから、「国産」にこだわるのは、実はたいして意味がない。機種の設計から加工、組み立て、パッケージングに至るまで、そのブランド、会社の哲学なり、品質管理が貫かれているかどうかの方が大切だと思う。
そうでないと、日用品や電子機器の中にある国の部品がいっぱい入っているのに、不買運動をするナンセンスさと同じことになってしまう。
さて、台湾は、BABYMETALにとって昨年のスーパースリッパ10に続いて、今年も4月3日にMetal Galaxy Tour台北公演@NTU Sports Center 1Fを行う国であるが、初めてライブを行ったのは、欧米初遠征の5ヶ月前の2014年2月、台湾のブラックメタルバンド、ChthoniC(ソニック)との2バンライブ「完全櫻樂団重音偶像大対決」だった。

そのChthoniCは、昨年、台湾のグラミー賞といわれる第30回金曲奨の最優秀バンド賞に輝いた。
知ってる人は知ってると思うが、ChthoniCのメインボーカルのフレディ・リムは、2012年に来日し、元メガデスのマーティー・フリードマンとともに、ももいろクローバーZのヘヴィメタル・カバー・プロジェクト、鉄色クローンXを結成して、アルバムをリリースしたほどのアイドル好きだった。
だが、バンドとしてのChthoniCは、2011年に日本軍と共に戦った高砂義勇兵をテーマにした『高砂軍(Takasago Army)』をリリース、2013年にはナチス・ドイツと国民党の合作をモチーフに、暗に独裁者=中国共産党を批判した楽曲「破夜斬(Supreme Pain for the Tyrant)」を含む『武德(Bu-Tik)』をリリースしていた。
BABYMETALが共演したのは、その直後である。


BABYMETALは、前年の2013年11月に台湾のテレビ三立電視台の番組『完全櫻樂』に二週連続で出演していた。だが収録は上野のカラオケ店だったので、初訪問は2014年である。
この番組では、YUI、MOAが巨大なカエルをもってSU-と司会者を追い回し、MOAが勝利のご褒美にハニトーを頬張って口の周りをクリームだらけにするというバラエティ対応を見せた。ライブ実現はその延長だったのかもしれない。

フレディ・リムは、2015年、中国寄りの傾向を強めた国民党に反発する「ひまわり学生運動」に呼応して、台湾独立派政党「時代力量」の創設メンバーとなり、2016年の立法議員占拠に立候補。台北第五区で国民党の対立候補に数%の接戦で勝利して、日本の国会議員に当たる立法議員となった。
その後、蔡英文総統の民主進歩党に、野党の立場で協力してきたが、対中政策を巡って党内で対立が深まり、2019年8月に時代力量を離党。
台湾の歴史についてはネットやYouTube上にたくさんアップされているので、ここでは触れないが、昨年、香港の学生運動への弾圧を機に、中国共産党の「一つの中国」「一国二制度」への国民の嫌悪感が高まり、「台湾は一つの国家」とする蔡英文総統や、台湾独立派への支持が広がっていった。
2019年12月、台北の凱達格蘭大道で開いたChthoniCのライブには、蔡英文総統も参加した。

そして、先日行われた2020年総統・立法議員選挙では、蔡英文総統が再選され、無所属のフレディ・リムも、国民党の対立候補に圧勝した。
独立の気運に満ちた現在の台湾で、第30回金曲奨最優秀バンド賞に輝いたChthoniCは、国民的バンドになった。
もちろん、中国共産党政権にとって、台湾独立は国家分裂の危機である。

習近平国家主席は、昨年1月に、もしそうした事態になったら、武力を以て阻止すると宣言していた。
総統選後、蔡英文氏の再選に祝意を伝えたアメリカ、イギリス、日本など世界26か国の首脳に対し、中国外交部は、断固抗議するというステートメントを出している。
だが、選挙結果は民意である。

香港では、大学に立てこもった学生たちを一斉逮捕したのちに行われた立法府議員選挙で民主派が圧勝した。
台湾の総統選挙・立法議員選挙も、独立派が圧勝した。
一方、中国本土では、共産党内での勢力争いはあっても、一般国民が自由に立候補したり、投票したりする普通選挙は行われない。

憲法第一条に明記された国是「人民民主主義独裁の社会主義国家」、つまり共産党独裁に反対することは許されないのだ。
それどころか、Great Wallの中では、天安門事件も、チベット人やウイグル人の民族浄化も、香港の民主化運動も、一切知らされない。
故事成語に、鼓腹撃壌(こふくげきじょう)という言葉がある。
中国古代の伝説の帝王尭(ぎょう)の時代、老人が大酒を飲んで腹鼓(はらつづみ)を打ち、大地を踏み鳴らし、太平の世の幸福を歌っていたのを一人の政治家が見て、「おれたちの苦労も知らずに」と憤慨して上司に言いつけたところ、逆に諫められたという。
このことから、国民が為政者や政治情勢について何も知らず、のんびりと暮らせるようにするのが理想の政治であるという意味である。
高校の教科書でこれを読んだとき、ぼくは激しく違和感を覚えた。それでは、国民はまるで「馬鹿」ではないか。
人生には喜びもあるが、常に不幸や苦労や悩みがあり、人が集まれば必ず不平等が生まれ、トラブルも起きる。それを、知恵や力を合わせて調整し、解決するのが政治であり、また、どうにもならない苦しみからは、文学や音楽も生まれる。
何も知らないことが幸福だと考えるのは、赤ちゃんの状態が一番幸せだということだ。
為政者が、人民に何も知らせない方がいいと考えるのは、赤ちゃんのように、生殺与奪の権利をすべて為政者に任せるということだ。これはあまりにも人間を馬鹿にした考えではないか。
鼓腹撃壌という言葉には、太平の世の幸せ=為政者を讃えるのが音楽の役割だという、音楽への蔑視も見え隠れする。
日本にも「知らしむ勿れ、拠らしむべし」が政治の要諦だという考えがある。これは教科書では教えられないが、穿って考えれば、鼓腹撃壌=善政という故事を高校生に刷り込むのは、政治に関心を持たず、為政者に従順な国民を作るための意図が含まれているのではないか。
当時は、そこまでハッキリ考えたわけではないが、巨大なイントラネットで情報統制する現在の中国を見ていると、この言葉が浮かんでくる。
ずいぶん脱線してしまった。

いずれにしても、台湾は今、中国共産党政権と鋭く対立しており、Great Wallの外=自由主義陣営の最前線になっている。
BABYMETALが今年ツアーを行うタイ、マレーシア、インドネシア、台湾、フィリピンは、グローバルに分散したギター生産の拠点を訪ねる旅であると同時に、アジア太平洋地域の自由の鎖をたどる旅でもあるのだ。
(つづく)