ギターとベビメタ(8) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
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★今日のベビメタ
本日1月15日は、2016年、2nd アルバムのタイトルが『Metal Resistance』であると発表された日DEATH。

1980年代に入ると、オーディオデジタル技術が急速に発展した。

ギター信号の音程(ピッチ)を変化させたり、原音とブレンドしたりできるピッチシフター/オクターバー/ハーモナイザーといったエフェクターも開発された。それを足踏み式でコントロールできるようにしたのがDigitech社のワーミーというペダルである。

BABYMETALの代表曲「ギミチョコ!!」のギターソロの最後の「キューン、キューン、キュイーン!!」という音がそれだ。あの音がないと、BABYMETALのエクストリームさは表現できない。
2017年まで、オープニングに演奏されることが多かった「BABYMETAL DEATH」のキーはB♭で、7弦ギターの7弦、6弦ベースの6弦より半音低い。
そこで、ベースのBOH神は半音下げにチューニングしたベースを使い、曲終わりにノーマルチューニングのベースに取り換えるシーンが見られたが、藤岡神や大村神は次の曲も同じギターを使っていた。これは彼らが、後述するKemperで、この曲だけ出音を半音下げるピッチシフトをかけていたからである。
数理科学で、ある現象が起こる要素を抽出し、再現する手法をモデリングというが、2000年代に入って、デジタルオーディオ技術にモデリングの考え方が導入され、アンプ設計に応用された。
真空管アンプやスピーカーには各機種それぞれ固有の音響特性がある。
ギターからの信号は、アンプで増幅され、スピーカー、マイク、PAを通って、聴衆の耳に入るわけだが、アンプに使われている真空管、トランス、コンデンサー、ポットなどの部品の種類や回路設計によって出てくる音色が変わる。
スピーカーキャビネットも同様で、スピーカーユニットの直径やマグネットの材質、キャビネットに何本入っているかによっても、音色は全然違う。
さらに、スピーカーから出た音を集音するマイクの機種や位置、スピーカーからの距離によっても、PAから出る音はかなり変わる。
こうしたアンプ、スピーカーキャビネット、マイクなどの機種ごとの音響特性を、コンピュータで精密に解析し、ギターから出た信号を、それぞれの機種と同じような出音になるようにデジタル化してエミュレートするのが、アンプモデリング技術である。
アンプやキャビネットだけでなく、各種のエフェクターの音もモデリングし、DSP(Digital Signal Processor)チップにして、アンプに組み込んだのがモデリングアンプである。
独立した筐体に納めたマルチエフェクターになっているものもあるが、シミュレーターとして使う場合には、ギターアンプにつなぐのではなくヘッドホンやライン出力で使う。

宅録に使うなら、パソコン上で使うアプリケーションとしてのアンプモデリングソフトもある。
ギターアンプとしてのモデリングアンプは、フェンダー・ツインリバーブのクリーンサウンド風、マーシャルJCM2000のハイゲインサウンド風…というふうに各社各機種のアンプモデルとキャビネットモデルを切り替えられる。その音色が本物と似ているかどうかはメーカーの「解釈」やエミュレーションの精度によるのだが、現在では、フェンダー、マーシャルなど老舗アンプメーカーも含めて、各社から数多くのモデリングアンプが販売されている。
トランジスターアンプなので、一般的には真空管アンプより安価だが、真空管「らしさ」やピッキングへのレスポンスなどの挙動も含めてエミュレートされているため、よほど耳のいいひとでなければ聴き分けられないほどのクオリティに達しているものもある。
フェンダーのTONEMASTERシリーズは、自社の真空管アンプと同じキャビネット、スピーカーユニットを使ったモデリングアンプで、YouTubeにいくつか比較動画がある。ブラインドで聴くと「芸能人格付けチェック」の問題になりそうなくらいわからない。
BABYMETALのギタリストは、デジタルモデリングアンプのひとつであるドイツ製のKemperというアンプを使っている。

Kemperでは、プロファイリング(トーン・キャプチャー)といって、プレイヤーが自分のギターで本物の真空管アンプを演奏している音をマイクで録音し、Kemperからの出音がその音と同じになるように、自動的にコンピュータ解析してエミュレーションデータ=リグにする。
お気に入りのアンプの音をリグにしておき、Kemperを現場に持ち込んで、ステージ上の同じスピーカーキャビネットにつなぎ、同じマイクで集音すれば、同じ音が出るという仕組みだ。
リグはわずか数十キロバイトのデジタルデータなので、USBで持ち運ぶこともできるし、ネットでダウンロードすることもできる。極端な話、プレイヤーは、ライブ会場にKemperとキャビネットを用意しておいてもらえば、ギターとUSBだけ持って行けばいい。
往年のHR/HMバンドは、プライベートジェットで大量の機材を運んでいたが、その必要がなくなり、ワールドツアーのハードルは劇的に下がった。
『99%藤岡幹大(仮)』(シンコーミュージック)によれば、藤岡氏がRegularとして使っていたリグは以下のとおり。
<ディストーションサウンド>
Peavey 5150Mk1(アンプ)+Hesu4×12(キャビ)
ENGL E650 Ritchie Blackmore Signature(アンプ)+E412XXLB(キャビ)
<クリーンサウンド>
Hughes & Ketner Grandmeister 36(アンプ)+Two Notes CSG EV(キャビ)
Marshall 1960 TVのキャビネットモデルだけを使ったTAKAYOSHI MS-Clean
<クランチサウンド>
MS Vint-MOD(アンプ)+1960TV(キャビ)
Peavey 6505(アンプ)+Mesa 4×12 OS(キャビ)
TAKAYOSHIはもちろん大村孝佳氏の意味で、MS Vint-MODというアンプモデルもマーシャルのビンテージモダンをイメージした大神様の作とのこと。
前述したように、これら5つのリグを同じ設定で半音下げ、1音下げ、1音半下げにしたパフォーマンス・セットもあった。このほか、藤岡神のKemperには、Marshall JCM2000-DSL(アンプ&キャビ)のリグもあった。
Peavey 5150(6505)は、エディ・ヴァン・ヘイレンが愛用したアンプであり、ENGL E650はレインボー時代のリッチー・ブラックモアのアンプだ。Marshallは前述したとおりメタルのアイコンである。藤岡神=BABYMETALのギターサウンドは、ロックギター史に輝くレジェンドギタリスト、メタル黄金時代そのものの音なのだ。

2012年のLegendコルセット祭り@目黒鹿鳴館では、「マーシャルの壁」がセットされていたが、これはその雰囲気を出すためのダミーだった。


実のところ、現代のライブでは各楽器のアンプやエフェクターを収めたラックからラインでミキサー卓につないでバランスよくミックスし、客席に向けたスピーカーから出すPAシステムが主流なので、ステージ上にバカでかいスピーカーを置く必要はない。
演奏者用のモニタースピーカーも必要ない。PAミキサー卓から演奏者のイヤモニに、ミックス後の音を返してもらえばいいのだ。

2016年にBABYMETALが米CBSの「The Late Show with Stephen Colbert」に出演したとき、アンプの出音をマイクで集音しようとした番組スタッフに、神バンドのメンバーがライン録りすることを提案して、クリアな音で収録できたという。

現在、BABYMETALのライブステージでは、各プレイヤーのラックとスピーカーキャビネットが、ひとつずつ置いてあるだけである。これはおそらく微調整用で、最近ではラック自体、奥の方に引っ込んでいて見えないこともある。
スタックアンプの壁の代わりに、巨大なバックスクリーンの映像の方が重視されているのが、BABYMETALのステージ風景である。
一家言持つベテラン・プレイヤーの中にはモデリングアンプの音を、「いくら似せてもしょせんニセモノ」とか「不自然」とかいう人もいる。
だが、BABYMETALのライブの音像・音圧と迫力は、スタックアンプがズラリと並んだ往年のヘヴィメタルバンドと同等であり、それで世界的なメタルアーティストになったのだから、モデリングアンプ=「本物」でないことなど問題にならないだろう。
最近、YouTubeでLOUDNESSのボーカリスト二井原実とB’zの稲葉浩志の対談を見た。
二井原氏は、1980年代には、ステージ上の大音量で難聴気味になり、モニタースピーカーの音が聴き取れず、どうしても無理してガナってしまう悪循環で喉を傷めたが、イヤモニを使うようになってからは、自分の声とバンドの音がバランスよく聴きとれるので、そういう心配がなくなったと言っていた。
ミュージシャンの健康管理の面から見ても、スタックアンプ幻想は過去のものなのだ。
以上見てきたように、BABYMETALの音楽は、ギターという楽器の世界史的進化の結果、生まれたといっていい。
ルネッサンス期のイタリアで、指板にフレットがついたリュートが生まれ、ドイツ、イギリスでの進化を経て、スペインでスパニッシュギターが完成した。
スペインが世界帝国になったことによってアメリカ大陸に渡ったスパニッシュギターは、マンドリンやバンジョーを用いるカントリー&ウェスタンに対応してスチール弦化された。
ハワイ併合によってアメリカ本土で流行したハワイアンで用いるスライド奏法専用のスチールギターが最初のエレクトリックギターだった。大音量で演奏できるエレクトリックギターやエレクトリックベースは、ドラムスと管楽器を用いるジャズでも用いられるようになり、その後の大衆音楽の主役となる。
白人のカントリー&ウェスタンと黒人のブルース・R&Bが合体してロックンロールが生まれ、イギリスに渡ってハードロックになり、そこからメタルが生まれた。
ストラトキャスター、レスポール、フライングVといったモデルと、マーシャルなど高出力の真空管アンプの組み合わせは、ハードロック/メタルギタリスト御用達だった。
BABYMETALで神バンドのギタリストが使っているモデルは、それらのシェイプを生かし、ピックアップやトレモロを改良した進化系ギターである。
また、デジタルモデリング技術によって、マーシャルのスタックアンプを壁のように並べなくても、往年のヘヴィメタルバンドのサウンドが出せるようになったことは、BABYMETALが海外進出する上での技術的ブレークスルーとなった。
ぼくらが現在楽しんでいるBABYMETALの音楽は、ギターという楽器の技術革新の積み重ねの上にあり、どのピースが欠けても誕生し得なかった。
日本のバンドであるBABYMETALが世界的な存在になったのは、「メタルへのオマージュ」という形で、音楽の世界史にちゃんと連なっているからだとぼくは思う。
どんな安物のエレキギターやアンプでも、それにはギター職人やアンプ技術者たちの工夫や苦労が詰め込まれている。それに気づくことが、楽器や音楽をリスペクトし、魂を込めて表現する気持ちにつながる。
そんなことに思いを馳せながら、BABYMETALのライブ映像やアルバムを聴き直してみるのも一興だろう。
(この項終わり)