ギターとベビメタ(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日1月8日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

一本のギターにも世界史がある。

今や9弦ギターを使わないと演奏できない楽曲を歌い踊るBABYMETALは、ギターという楽器の進化の最先端をゆくアーティストである。逆に言えば、その積み重ねがなければ、BABYMETALは生まれなかった。

16世紀後半~17世紀バロック時代のイタリアで大きく進化したリュートは、18世紀の古典時代になると衰退していく。
ヴァイオリンは、中東イスラム圏のラバーブという楽器を祖として、16世紀初頭にはイタリアに登場し、舞踏会などで使われていたというが、リュートに比べて人気がなかった。
だが、17世紀~18世紀にかけて、アマティ、ストラディバリウス一族、グァルネリ一族などの名工が現れて改良され、現在のヴァイオリンの形が完成した。
ヴァイオリン登場以前、楽曲の中で音を長く伸ばせる楽器は、管楽器とパイプオルガンだけだった。人間の息には限界があり、加圧空気をリード付きの管に送り込むパイプオルガンは持ち運びできなかったが、ヴァイオリンは弓を往復させて無限に音を伸ばせる擦音楽器で、持ち運びもできる。
ヴィオラ、チェロ、コントラバスなど音域の違う楽器を複数使えば、メロディのバックで和音を奏で続けることができる。音量もリュートよりはるかに大きいので大会場でも使える。
音量とサステインは、同じ弦楽器でも、撥音楽器であるリュート~ギター属の致命的欠陥だった。
また、ルネッサンス期には、オルガンの鍵盤を応用して、金具やハンマーで弦を叩いて音を出すクラヴィコードやチェンバロといった打鍵楽器も発達してきていた。
リュートはフレットがつくことで演奏しやすくなったが、鍵盤楽器は楽譜どおりにキーを押さえるだけなのでもっと演奏しやすい。1700年代には、パドヴァ出身のバルトロメオ・クリストフォリによって、小音量(ピアノ)から大音量(フォルテ)まで自在に演奏できるピアノが発明された。
こうして、ヴァイオリン属とピアノがクラシック音楽の主役になり、リュートは表舞台から去っていった。
しかしリュートは、手軽に音楽を楽しめる楽器として庶民に親しまれ、進化していく。
後期ルネッサンスのドイツでは1オクターブ相当の12フレットに達する長いネックを持ち、複弦4-6コースのシターンCitternあるいはマンドーラMandoraという楽器になった。


当時描かれたシターンあるいはマンドーラの絵を見ると、ヘッドストックの仕込み角度が直角に近かったリュートとは異なり、ヘッドストックがヴァイオリンと同じように、ト音記号の渦巻き型になっていることがわかる。
弦楽器では、ナットからブリッジまでの長さを弦長=スケールという。
スケールは自由に決めることができ、糸巻き(ペグ)によって張力を調整することで、ナットからある音階を出すフレットまでの距離が決まり、半音の幅=フレット幅もそれに比例して決まる。
弦を押さえる力=弦の張りの強さ=テンションは、弦の材質や太さによっても変わる。スケールが長く、弦が太ければ、テンションが強くなる。
現代のエレキギターでは、ギブソン社のレスポールやSGのスケールは24 3/4インチ(628.65mm)、フェンダー社のテレキャスターやストラトキャスターのスケールは25 1/2インチ(647.7mm)なので、同じ太さの弦を張ると、フェンダーの方がテンションは強くなる。

そのため、ギブソンには0.10mm-0.46mmの弦セットを、フェンダーには0.09mm-0.42mmの弦セットを張るとほぼ同じテンションになるといわれている。
アコースティックギターでは、マーチンのドレッドノートのスケールは25.4インチ(645.16mm)とフェンダー並みだが、弦は0.12mm-0.53mmが標準なので、エレキギターよりテンションが強い。
テンションが強いと指板を強く押さえなければならないが、弦の振動が大きくなるので、音量が大きくなり、音の輪郭がはっきりする。
ナットとペグの角度(ヘッド角)は、テンションとは直接関係ないが、仕込み角度が大きければ、弦をナットあるいはブリッジに押しつける力が強くなるので、一般的には、立ち上がりの良いクリアな音になる。
先ほどの例でいえば、ギブソンレスポールのヘッド角は14度~17度、フェンダーのテレキャスターはネックとヘッドを一体成型するので、6-3弦まではほとんど角度がなく、仕込み角をつけるためのストリングリテーナーを通した1-2弦で約10度になる。


ルネサンスリュートのスケールは56cm~60cmで現代のギターよりやや短いが、ヘッド角は80度~90度になっている。
弦はすべてガットだったため、短いスケールの個体では調弦を高くして強いテンションにし、ヘッドの仕込み角を大きくしてクリアな音にする必要があったのだろう。
それが後期ルネサンス期ドイツのシターンやマンドーラでは、ヴァイオリンと同じような渦巻き型のヘッドストックになっている。ヘッド角は20度くらいに見える。
これは、フレットを増やし、ネックが長くなったのでスケールが長くなり、テンションが強くなったので、仕込み角度を大きくする必要がなくなったからだろう。
なお、厳密にはシターンとマンドーラは違うのかもしれないが、コース数や調弦の違い以外、ぼくにはよくわからない。
同じ頃、イギリスにはボディを花の形にし、指板のハイフレットをスキャロップド加工したオルファリオンという特殊な楽器もあったという。
スキャロップド加工とは、指板を横から見て凹型に削ったもので、指板に触れずに、軽い力で弦を押さえるだけでフレットに密着するので、速いパッセージが演奏しやすい。

現代ではリッチー・ブラックモアやイングヴェイ・マルムスティーンなどの速弾きギタリストが好む加工だが、力を入れすぎると音がシャープするのでコード弾きには適さない。(写真はスキャロップド加工が施されたイングヴェイの愛機ダックのレプリカ)

きっと、当時のイギリスのミュージシャンにも、速弾きしまくる奴がいたのだろう。
そのイギリスで、1750年代、また一歩ギターに近づく改良がなされた。
弦はネック側のナットとボディ側のブリッジの間に張るわけだが、リュートやシターンでは、ネックの表面=指板だったので、指板はボディ表面と同じ高さだった。
それを、ボディにセットしたネックの上に指板を貼り、ボディより数ミリ~1cm程度高くして、ボディの一部までフレットをせり出すようにしたのである。
これがイングリッシュギターという楽器である。


イングリッシュギターは、シターン同様、丸いボディだったので、ハイフレットの演奏性もよかったと思われる。
横から見ると弦とボディの中間に指板がくるので、ブリッジの高さを変えることで、指板と弦の間隔=弦高を調整することもできる。
さらに、イングリッシュギターでは、弦長が42cm程度と小型で、丸底ではなく、平底だったので、ストラップで吊るして、立って歩きながら演奏することもできた。

テイルピースはボディの端に設置され、木製のブリッジはヴァイオリンや現代のフルアコと同じように可動式なので、オクターブチューニングも意外に正確だったのではないか。
弦の数は複弦6コース12弦から複弦10コース20弦までバリエーションがあったようだ。
時代は18世紀。
清教徒革命の嵐が終わり、「権利の章典」が制定され、イングランドとスコットランドが合併したスチュアート朝の断絶を受けて、ドイツからジョージ1世を迎えて成立したハノーヴァー朝。
ドイツからの移住者によってシターンが伝わり、イングリッシュギターが作られたわけだ。
丸い形と複弦以外は、ほぼ現代のアコースティックギターと同等の機能であり、名前からしてもギターの祖といえる。
だが、ギターと言えばスペインというイメージがあるのは、リュート、シターンとは別に、スペインではボディの両脇がくぼんだビウエラ・デ・マーノという楽器が同時並行的に進化していたからである。
(つづく)