ギターとベビメタ(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日1月7日は、2013年、HMV「一曲入魂!爆音ライブ」@HMV渋谷クアトロに出演し、2013年には、Yokohama FM「Tresen+」に出演、2015年には「Live at Budokan」DVD/BD&CDがリリースされた日DEATH。

ギター専門誌『Young Guitar』2019年11月号は、BABYMETALとESPのコラボレーション・モデルE-ⅡMF-9を抱えたSU-とMOAが表紙を飾っている。


同モデルは9弦ギターで、アルダーボディ、メイプル3ピースネックのボルトオン、EMGの9弦用アクティブピックアップがリアに1つ、1ボリュームで、アームなしというシンプルな仕様で、32万円(税込み)というお値段。
ぼくは、小神様が2015年まで愛用していたE-ⅡFR7、藤岡幹大シグネチャーペダルCaesarX、BABYMETAL MINI-ARROWを所有しているが、これはちょっと手が出ない。
『Metal Resistance』まで、BABYMETALの楽曲は、その多くが7弦ギターによって演奏されるものだったが、『METAL GALAXY』では、8弦、9弦が必須のアレンジになっている楽曲が多い。
ギターに詳しくない方のためにちょっとだけ説明しておくと、通常のギターは6弦で、6弦=E、5弦=A、4弦=D、3弦=G、2弦=B、1弦=Eがレギュラーチューニングである。
ちなみにベースは通常4弦で、4弦=E、3弦=A、2弦=D、1弦=Gと、ギターを構えた時の上側4弦の1オクターブ低いチューニングにするのが普通。
メタルバンドのギタリストは、6弦ギターの6弦を1音下げてDにした「ドロップD」チューニングにして、6弦=D+5弦=Aの2本で重低音のパワーコードを弾くことも多いが、BABYMETALでは、これまで7弦ギターを用い、7弦=B、6弦=Eの2本で、パワーコードやリフを弾く楽曲が多かった。
例えば、「ギミチョコ!!」は、「♪タンタンタン(ん) タンタンタン(ん) タンタンタン(ん) タンタンタン(うん)」のリズムで、7弦5フレット+6弦7フレット→7弦4フレット+6弦6フレット→7弦3フレット+6弦5フレットのパワーコードを繰り返す。
「メギツネ」の「♪(ちゃららちゃっちゃーちゃらー)ソレ!(ちゃららちゃっちゃーちゃらー)ソレ!(ちゃららちゃっちゃーちゃらー)ソレ!ソレソレソレソレ!」のところは、7弦6フレット+6弦8フレット→7弦4フレット+6弦6フレット→7弦2フレット+6弦4フレット→7弦4フレット+6弦6フレットのパワーコードを繰り返す。
両曲とも、6弦ギターのまま6弦-5弦あるいは、5弦-4弦で同じ音階のパワーコードを弾くこともできるが、2つの音のうちひとつは1オクターブ高くなってしまうため、重低音=ベビメタ感は出ない。やはり7弦ギターが必須なのである。
通常の6弦以上の弦をもったギターを多弦ギターといい、弦が多い分、表現の幅が広がるが、奏法の難易度は高くなるので、プログレッシヴ・メタルやDjentなど、テクニカルなジャンルの音楽を演奏するギタリストが用いる。
ただし、アコースティックギターにもある12弦ギターというのは、複弦といって、6-3弦のとなりに1オクターブ高い弦を、2-1弦のとなりには同じ音の弦を張って、6×2=12弦としたもので、6弦ギターと同じポジションでコード弾きすると、複雑な響きになるというものである。複弦ギターは伝統的なもので、取り立ててテクニカルというわけではない。
神バンドでは、Leda神、藤岡神、大村神が7弦ギターを愛用し、ISAO神は8弦ギターの使い手、ベースのBOH神は6弦ベースを使っている。
ロックバンドのアンサンブルにおいて、通常、ギターは中高音域を担当し、ベースは低音域を担当する。
ギタリストがひとりで練習しているときは、中高音域が出過ぎるとキンキンして気持ち悪いので、中音域を絞ったセッティングを「いい音」と感じるのだが、バンドではギターが低音をブーミーに出し過ぎるとベースと被って全体の音が濁り、中音域を絞っているとギターの音が聴こえない=「抜けない」ということになりがちである。そこで、できるギタリストはトレブル(高音域)をブースターで強調したり、Ceasar Xのようにベース成分をカットする回路をつけたりして「抜ける」音を作る。
多弦ギターは、7弦=B、8弦=F#、9弦=C#にチューニングするが、9弦は通常の4弦ベースの4弦開放のEより音程にして1音半も低い。
そのため多弦ギターとアンサンブルを組む6弦ベースは、6弦を7弦ギターの7弦より1オクターブ低い6弦=low Bとし、5弦=E、4弦=A、3弦=D、2弦=Gとして、1弦=high Cにチューニングする。BOH神もこのチューニングである。

ただこれでも、9弦ギターだとギターの9弦とベースの6弦の音程差は1音半しかない。
そのため、多弦ギターを使うDjentのバンドの中には、例えばPeripheryやAnimals as Leaderのように、低音が重なることを避けて、楽曲によってはベースレスの編成とするバンドもある。
BABYMETALは、これまで7弦ギターと6弦ベースだったので、バランスが崩れることはなかったが、9弦ギターのアレンジがなされた『METAL GALAXY』の楽曲は、ライブでの音域調整が難しくなるかもしれない。
「アイドルとメタルの融合」というわかりやすいキャッチコピーとは裏腹に、こんなことが心配になるほど、BABYMETALはメタルバンドの中でも、エクストリームかつテクニカルな進化系バンドなのだ。
ロックは、ギター音楽である。ギターの進化によってロックの表現の幅が広がり、ついには現代のBABYMETALにまで至ったといってよい。
そこで本稿では、ギターの歴史を振り返りつつ、BABYMETALの音楽の革新性を考察してみたい。

ギターという楽器は、2点間に張った弦の振動で音を出す弦楽器である。
2点間の長さが半分になると、音程は1オクターブ高くなる。弦の下にネックをつけ、表面の指板を押さえて弦の長さを変えることでメロディを弾くことができる。アコースティックギターの空洞のボディは、弦の振動音を共鳴させて大きな音にするものである。
あらかじめ音程を調律しておいたたくさんの弦をそのまま指で弾くのがハープで、鍵盤と機械的に連動したハンマーでたたいて音を出すのがピアノである。
ネックの先端=ヘッドストックに弦を巻きつける糸巻き=ペグがついていて、演奏者が自分で調弦した上で、指板を押さえつつ、弦を馬の毛などで作った弓でこすって音を出すのがヴァイオリンであるが、ギターは弦を直接指あるいはピックで弾いて音を出す撥弦楽器であるところが異なる。
また、ギターの指板にはフレットがついており、そこを左手の指で押さえて右手で弦を弾けば、決まった音程が出るというところもヴァイオリンとは違う。
日本の琴は縄文時代の遺跡からも出土しており、湾曲した共鳴板に弦を張り、指またはピックで弾く構造になっている。直接弦を押さえて弾く琴(こと)が日本オリジナルで、柱(じ)と呼ばれるブリッジで音程を調節しながら弾く筝(そう)は、大陸由来だという。
沖縄の蛇皮線が原型とされる三味線は、動物の皮を共鳴させるボディにネック(棹)がついた構造で、バチで弦を直接弾くが、指板にはフレットがない。
つまり、ギターという楽器の「定義」は、ペグ付きのネック、フレット付きの指板を持ち、直接弦を弾いて音を出す弦楽器であるということだ。
その源流は、大きく分けて5つある。
最も古いのは3世紀~7世紀のササン朝ペルシアで生まれたリュート(ぺルシア語でL‘ud、ラテン語でLute)である。現代でもギター製作者をルシアー(Luthier)というのは、この名残である。
さらにさかのぼれば、元々は中央アジアで発祥したらしいのだが、ササン朝ペルシアで、透かし彫りが施されたホールのついた丸胴のボディにネックを取り付け、90度近い仕込み角のヘッドストックにペグが装備され、指板にフレットが付いた形ができあがった。


フレットのないヴァイオリンや三味線は、指板を押さえる位置がズレやすいので、正確な音階を出すことが難しいが、フレットがあれば、チューニングさえ合っていれば、誰が弾いても同じ音階を出すことができる。
当時のフレットは7フレット程度なので、出せる音階は現在の3分の1程度に過ぎない。だが、これによって、リュートは演奏しやすい楽器になった。
指板のヘッド寄りの0フレットをナットといい、弦を通す溝が切られているが、これをコースという。当時のリュートは、1弦は単弦だが、2-4コースは同じ音程の弦を2本ずつ張った複弦7弦の楽器だった。
弦は羊などの動物の腱=ガット弦だが、複弦にすることで、同じ音がユニゾンで鳴り、大きな音が出せた。
これが中国を経由して奈良時代にわが国に伝わったのが琵琶である。盲目の琵琶法師が奏でることができたのも、フレットがあったからだ。
ちなみに、京都のそばにある大きな湖を琵琶湖というのは、その形に由来するというが、近くの山上から見ても琵琶湖全体を見渡せるわけではない。いったい誰が上空から琵琶湖の形を見ることができたのだろう。あれはやっぱり、エルサレム(平安の都)の北に位置するゲネサレト湖(琴の湖)に因んで、渡来ユダヤ人である秦氏が名づけたものではないか。
それはともかく、ササン朝ペルシアで生まれたリュートは、十字軍以降、ルネッサンス期にヨーロッパに入って複弦8コース15弦(1コースのみ単弦)となった。これは、ひとつのメロディを奏でるのではなく、いくつかのパートに分けて和声を奏でるポリフォニック化に対応したもので、リュートも、ソプラノ、アルト、テナー、バスなど様々なバリエーションが生まれた。
さらに、16世紀末フィレンツェのメディチ家で行われていたカメラータと呼ばれる音楽会で、独唱・重唱に伴奏をつけるモノディという形式が確立し、厳格な対位法ではなく、不協和音をも含めてより自由に表現する「第二作法」(stile moderno)という作曲法が生まれた。
そして、それに対応して、バスリュートのネックを延長し、150cm~170cmにも及ぶ拡張バス弦extended bass stringを張り、開放弦で重低音を奏でるテオルボtheorboまたはキタローネchitarroneと呼ばれる楽器も作られた。

指板で音程を奏でる通常弦は6-7弦、固定の拡張バス弦は7-8弦だったという。
18世紀に合奏楽器としてのヴァイオリンが脚光を浴びるまで、手軽に弾けるフレット付きのリュートは、音楽会の花形だった。そして、電気が発見されてもいない時代に、すでにボディの多様化と複弦による音響効果、さらに重低音と表現の幅を広げるための多弦化が進んでいたのだ。
現代エレクトリックギターの多弦化は必然であり、9弦ギターを導入したBABYMETALの登場もまた、歴史的必然なのだ。
(つづく)