エルフの国へ(6) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日1月4日は、2013年、日テレ「ハッピーMusic」に出演し、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」を地上波で初めて演奏し、“世界征服”の書初めを披露した日DEATH。

2019年12月27日から、シネマート新宿&心斎橋ほかで公開されているフィンランドのメタルコメディ映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』(2018年作品)の主人公たちが組む田舎メタルバンド、「インペイリアル・レクタム(直腸陥没)」のモットーは、「終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進」である。


ギャグのようだが、ここまでお読みになった方はもうわかるだろう。
これは北欧メタルに典型的な、北欧神話にもとづく終末観、オダリズムの反キリスト教、そして、ヴァイキングの血に由来する戦闘精神の表現なのだ。
「トナカイ粉砕」というのは、バンドのギタリストが働くのが、トナカイ食肉工場だからだ。
トナカイ(Reindeer)は、フィンランドでは牛のような位置づけで、一般家庭で肉として食卓に上る食材なのである。
だが、反キリストを貫徹するため、キリスト教の聖人St. Nicholas=サンタクロースのそりを引くトナカイのイメージをぶち壊すという意味かもしれない。古ゲルマンの伝承では、サンタクロースは日本の「なまはげ」のように年末に家々を訪れ、いい子にはプレゼントを、悪い子にはお仕置きをする双子の精霊だったという説があるのだ。
音楽担当は、フィンランドを代表するメタルバンド、ストラトヴァリウスのラウリ・ポラー。しかしこの映画は、あくまでも「笑い」を追求したメタルパロディ青春B級ギャグ映画なので、メタリカの「Through The Never」みたいな芸術的メタルファンタジーを期待したらダメ、ゼッタイ。
フィンランドは、スカンディナビア半島ではなく、ロシアに隣接したユーラシア大陸側にあり、北方ゲルマン人=ノルマン人によって建国されたデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドとは違って、民族的には北アジア起源のY染色体ハプログループNを持つフィン人(92%)が主要民族である。
ウラル・アルタイ語族のフィンランド語のほか、スウェーデン語が公用語になっている。これは、1155年から1809年までの654年間、スウェーデン王国の支配下にあったからである。1809年からロシア革命までの108年間はロシアの属領となり、1917年にようやく独立してからも、ソ連、スウェーデンとの紛争が続いたが、第二次大戦後の冷戦時代には中立を維持し、現在に至っている。
フィンランドもまた、メタル大国である。
1982年結成されたSTRATOVARIUS(ストラトヴァリウス)は、メタルレジェンドの一人ティモ・トルキ(G)が加入した1980年代後半にはネオクラシカルメタル寄りの音楽性だったが、1990年代になるとリーダーとなったティモ・トルキの意向でメンバーを入れ替えて、パワーメタルへと方向転換し、1996年の6thアルバム『ヴィジョンズ』が世界的なヒットとなった。シングルカットされた「ブラック・ダイアモンド」と「キッス・オブ・ジューダス」はストラトヴァリウスの代表曲となった。2000年の8thアルバム『インフィニット』もヒット作となり、フィンランドでゴールドディスクに輝いた。
だが、この頃からティモ・トルキとメンバー間に確執が生まれ、2004年にスペインでファンに肩を刺されるという事件もあって、2008年にはバンドを離脱してしまった。
1993年に結成され、1995年にデビューしたChildren Of Bodom(チルドレンオブボドム)は、メロディックデスメタルバンドで、1998年のシングル「Children of Bodom」はフィンランドで連続8週第1位を記録して国民的バンドとなった。たびたび来日もしており、1999年の川崎クラブチッタ公演は、『Tokyo Warhearts - Live In Japan 1999』としてリリースされている。
2019年3月に10thアルバム『Hexed』をリリースしたが、12月に草創期メンバーであるヘンカ・ブラックスミス(B)、ヤスカ・ラーチカイネン(D)、ヤンネ・ウィルマン(Key)の3人が脱退する事態となった。
1997年にデビュー・アルバム『エンジェルズ・フォール・ファースト』でデビューしたNightwish(ナイトウィッシュ)は、オランダのWithin Temptation(ウィズイン・テンプテーション)と並んで、シンフォニックメタルの元祖と言える存在である。


クラシックの発声をする女性ボーカリストが特徴で、2007年まではターヤ・トゥルネン、2007年から2012年まではアネット・オルゾン、以降はフロール・ヤンセンをリードシンガーとして活動している。
ブラストビートとヘヴィなギターリフに、壮大なオルガン、シンセサイザー、クワイヤーのハーモニーが加わり、マルコ・ヒエタラ(B、V)による男声シャウトと、オペラのような澄み切った女性ボーカリストの歌声が響き渡る。
ドイツのヴァッケン・オープンエア2013のフロール・ヤンセンのデビューライブは、シンフォニックメタルの魅力を余すところなく伝えている。
特に34分過ぎの「I Want My Tears Back」(『Imaginaerum』2011年収録)におけるダンスシーンは、トロイ・ドノクリーによる古楽器イリアン・パイプスをフィーチャーし、メタルとルネッサンス音楽を見事に融合させたもので、8万人のエルフたちの大宴会を思わせる。
https://www.youtube.com/watch?v=QX0Tqwtkr-I
こうした音楽性は、ソングライターでキーボード奏者のツォーマス・ホロパイネンの個性によるもので、歌詞は『指輪物語』や『不思議の国のアリス』、ディズニー作品などのファンタジーの世界をモチーフに、現代に生きる人間の心理を描いている。
5thアルバム『Once』(2004年)や、6thアルバム『Dark Passion Play』(2007年)で世界的な人気を博し、これまで、フィンランド国内で90万枚以上、世界では800万枚以上のシングル、アルバムを売り上げている。ぼくは、一時期、BABYMETALの将来像はこうしたシンフォニックメタルの方向だと思っていた。
1999年にデビューしたSONATA ARCTICA(ソナタ・アークティカ)は、フィンランドを代表するメロスピ/パワーメタルバンドで、日本での人気も高い。
BABYMETALの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の元ネタ、いやオマージュ先は、Helloweenの2ndアルバム『Walls Of Jericho』(1985年)所収の「Ride The Sky」だという説と、ソナタ・アークティカの1stアルバム『ECLIPTICA』(1999年)所収の「8th Commandment」であるという説が拮抗している。
どちらも確かにイントロはソックリであるが、ピアノやシンセサイザーが入ることや、SU-の透明なボーカルにYUI、MOAのKawaii合いの手が絡むメロディライン、ブレイクダウンのポエム・リーディングなど、全く違う。
強いて言えば、前者はKey=Emだが、後者は「イジメ、ダメ、ゼッタイ」と同じKey=C#mなので、ソナタ・アークティカに軍配が上がるとぼくは思っている。
もう一つ、BABYMETALと関係するフィンランドのバンドを挙げると、KORPIKLAANI(コルピクラーニ)がある。


当ブログの「解題メタル銀河」で書いたが、KORPIKLAANIは、「Oh! MAJINAI」と曲調の似た「イエバン・ポルカ」(『MANALA(邦題:コルピと黄泉の世界)』2012年収録) をレパートリーとする「森メタル」である。
2004年に『Spirit Of The Forest』でデビューしたKORPIKLAANIは、日本では2005年、2ndアルバム『Voice Of Wilderness(邦題:荒野のコルピクラーニ)』が初お目見えだった。その際、珍妙なMVとともに、つけられたのが「森メタル」というサブジャンル名で、2006年4月26日には3rdアルバム『Tales Along This Road(邦題:世にもコルピな物語)』がリリースされた際には「旅メタル」と称された。同日に1stアルバムが『翔び出せ! コルピクラーニ』と題されてリリースされた。2009年の6thアルバム『Karkelo』には『コルピの酒盛り』という邦題がつけられ、その際には「酒メタル」と称された。
要するに、話題づくりのためにサブジャンル名が捏造されたわけで、バンドの音楽性の変化を示すものではない。
KORPIKLAANIの音楽的なサブジャンルは、通常のメタルバンドの編成にフィドル(ヴァイオリン)とアコーディオンが入ったフォークメタルである。
もともとフィンランド北部の少数民族サーミ人の音楽を演奏していたが、メジャーデビューにあたって、サーミ人の古楽器の使用とヨイクと呼ばれる発声法をやめ、スラッシュメタルのスタイルとなった。
とはいえ、民族衣装を着たフィドル奏者とアコーディオン奏者が入っているので、いくら激しい曲調でもフォーキッシュになってしまい、ボーカリストが叫べば叫ぶほど、どこか可笑しい。
この楽しさは、陰鬱なブラックメタルや壮大なシンフォニックメタルの対極にあるのだが、それも含めて北欧メタルなのだ。
イギリスのロックバンドは、アメリカ黒人に由来するブルースの影響を受けて誕生したが、北欧のメタルバンドは、それをほとんど感じさせない。ネオクラシカルメタル~メロディックスピードメタル~メロディックデスメタルのバンドが用いるクラシカルな音階は、古ゲルマン/ノルマン人の心に沁みついた旋律であり、それを聴くと、オーディエンスは、本能的に神話の神々やエルフたちと過ごした古代の記憶が蘇り、無邪気に歌い踊った幼い頃を思い出すからだ。
「汎ヨーロッパツアー」で、北欧メタルシーンに登場するBABYMETALの楽曲もまた、ブルースの影響をほとんど感じさせない。ベビメタの楽曲でブルーノートらしい音は、「シンコペーション」の2番の間奏部に一瞬だけ入るのジミヘンコードE7(#9)や、「Kagerou」の一番終わりの「♪ユラユラユラ ユラユラ揺れる」の「揺れ」と、「Elevator Girl」の「♪締まるドアにお気をつけください」の「気を」ぐらいだ。
その意味で、BABYMETALは、アメリカやイギリスのメタルバンドより北欧メタルに近い。
2014年に欧米デビューしたとき、まだ幼い日本のアイドルなのに、一大センセーションを起こしたのは、ライブパフォーマンスの素晴らしさや神バンドの演奏力によるところが大きいが、フィニッシュ曲「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の北欧メタルとの親和性も一因だと思うのだ。
(つづく)