エルフの国へ(5) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日1月3日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

「汎ヨーロッパツアー」2日目にBABYMETALが訪れるノルウェーは、ビートルズの「ノルウェーの森」とも、村上春樹の「ノルウェーの森」とも全く関係なく、北欧メタルの中で群を抜くブラックメタル大国である。
ブラックメタルの起源はいくつかある。
ヘヴィメタルの祖、イギリスのBlack Sabbath(ブラックサバス)は、「黒い安息日」の意で、1stアルバムは1970年2月の「13日の金曜日」にリリースされた。
同じくイギリスのバンドで、反キリスト、地獄、悪魔崇拝を歌詞に織り込み、質の悪い録音と凶暴なライブで知られたVenom(ヴェノム)が1982年にリリースした『ブラックメタル』は、サブジャンル名そのものとなった。
1981年に結成されたデンマークのMercyful Fate(マーシフルフェイト)のボーカリスト、キング・ダイアモンドは、コープスペイントの始祖である。BABYMETALが出演した2013年のLOUDPARKのヘッドライナーをキャンセルしたのはこの男だ。


1984年にスイスで結成されたCeltic Frost(セルティックフロスト)は、ブラストビートと無調の重低音のギターリフに、悪夢のようなグロウルを重ねるブラックメタルの定番スタイルで、多くのバンドに影響を与えた。
Celticとはケルト民族のことで、Celtic Frostの楽曲「Circle of Tyrants」の歌詞には、君臨する暴君と戦う鋼の戦士や不滅の神々が出てくる。スウェーデンのシンフォニックメタルバンドTherion(セリオン)や、ノルウェーのブラックメタルバンドDarkthrone(ダークスローン)は、Celtic Frostの楽曲からバンド名をつけ、ニルヴァーナのカート・コベインやフーファイターズのデイヴ・グロールもファンだと公言していた。
1983年に活動を開始したスウェーデンのBathory(バソリー)の5thアルバムはその名も『Twilight of the Gods(神々の黄昏)』で、スラッシュメタルの曲調に北欧神話の世界観を取り入れ、ヴァイキングメタルの始祖となった。
これらのバンドの影響を受けて、1980年代後半~1990年代のノルウェーに、ブラックメタルバンドが多く生まれた。
1968年生まれのユーロニモス(本名オイスタイン・オーシェト)は、1983年にMayhem(メイヘム)を結成する。

バンド名はVenomの楽曲から名づけたもので、1986年に1stデモ『Pure Fucking Armageddon』、1987年にミニアルバム『Deathcrush』をブラジルのPosercorpse Musicからリリースする。ユーロニモスは、反キリスト、反資本主義、反個人主義(共産主義≒全体主義)を信奉しており、バンド活動だけでなく、レコードショップ「ヘルヴェテ」を経営し、そこに集まるファンやミュージシャンで「ブラックメタルインナーサークル」を組織して、ノルウェーブラックメタルシーンの中心人物となる。
1986年に結成されたDarkthroneは、Celtic FrostやBathoryの影響を受けたが、ユーロニモスと出会って「インナーサークル」に加入した後は、コープスペイントを施し、ブラックメタルバンドになっていく。
1989年頃、「インナーサークル」に1973年生まれのヴァルグ・ヴィーケネス(本名クリスティアン・ラーション・ヴィーケネス)と名乗る男が加入する。
1990年、Mayhemのボーカリスト、デッドがショットガンで自殺するという事件が起こったが、その数カ月前に弾丸を贈ったのはヴァルグだとされる。
ヴァルグは1992年にMayhemの1sアルバムにベーシストとして参加し、自らも『指輪物語』の暗黒語で「闇」を意味するバンドBurzum(バーズム)を結成して音楽活動をする一方、「インナーサークル」の会員と共にリレハンメルのキリスト教会への放火など、犯罪行為を重ねる。
1993年、ヴァルグは関係の悪化したユーロニモスをアパートで刺殺して逮捕され、教会への放火、窃盗などの罪で翌年懲役21年の判決を受ける。教会放火事件には、「インナーサークル」の会員で1991年に結成されたブラックメタルバンドEmperor(エンペラー)の3人のメンバーも関わっていたため、連座して逮捕され収監された。
これによって、MayhemとBurzumは消滅するが、Emperorは、1994年に1stアルバム『In the Nightside Eclipse』をリリース。さらに、出所した主要メンバーが活動を再開し、1997年、プログレッシヴ色を強めた2ndアルバム『Anthems to the Welkin at Dusk』は世界的ヒットとなった。
Darkthroneは「インナーサークル」の会員だったが、犯罪行為には手を染めず、1992年以降はライブ活動を休止し、メディアへの露出も避けて、現在に至るまで、高い音楽性を持ったアルバムをコンスタントに出し続けている。現メンバーのうち一人は学校の先生、一人は政治家になった。
1991年に結成されたIMMOTAL(イモータル)は、「インナーサークル」の過激な直接行動とは一線を画し、1995年の3rdアルバム『Battles In The North』は、ブラックメタルとしては異例の3万枚以上のセールスを記録するなど、ノルウェーを代表するブラックメタルバンドとなった。


同じく1991年に結成されたENSLAVED(エンスレイブド)は、IMMORTALの楽曲からバンド名をつけたほど、ブラックメタル色が強かったが、やがてプログレッシヴ・メタルの方向へ進み、2008年の10thアルバム『Vertebrae』は、ノルウェーのグラミー賞に相当する「Spellemann Award」を受賞した。
パワーメタルバンドGUARDIANS OF TIME(ガーディアンズ・オブ・タイム)、女性ボーカルを擁するゴシックメタル/シンフォニックメタルバンドSIRENIA(シレニア)などがあるものの、ノルウェーが反キリスト教、終末観、コープスペイント、暴力性といった際立った要素を持つブラックメタル大国になったのは、アイスランドと共に、長い間他国の圧政に苦しんだ歴史と無関係ではないだろう。
前述のヴァルグ・ヴィーケネスは、服役中、「オダリズム」を信奉する団体Heathen Frontに加入し、ゲルマン民族の伝統的宗教に関する本を執筆した。
「オダリズム」とは、キリスト教到来以前のペイガニズム(多神教)を含む「本来のヨーロッパ人」≒汎ゲルマン/ノルマン民族の価値観を取り戻せと主張する思想で、「ネオ・フォーキッシュ・イデオロギー」とも呼ばれる。
ユーロニモスもそうだったが、ヴァルグは、サタニズム(悪魔崇拝)と反キリスト教を混同されることを嫌う。悪魔はキリスト教の神の被造物であり、かつて汎ゲルマン/ノルマン民族が信奉していた北欧神話の神々は、キリスト教徒から悪魔と見なされたとしても、本来は無関係だ。神話の神々やエルフたちと共に暮らしていた汎ゲルマン/ノルマン民族の世界を侵略して人々を虐げたのは、キリスト教徒の方だ。
だから、ヴァルグにとって教会放火は正当な「復讐」なのだ。
もちろんぼくは、ローマ・カトリック信徒だし、放火や窃盗などの犯罪行為が正当化されてはならないと思う。
だが、アイスランドやノルウェーの歴史を知れば、彼の思いに一分の理はあるとも思う。カトリック、プロテスタントを問わず、過去のキリスト教徒がやったことを考えると、いわゆるイスラム原理主義者を含めて、「復讐」に走る者たちの心情は無下に否定できない。
しかし、大多数のイスラム教徒やブラックメタル愛好者がそうであるように、信奉する神が違っても、人間は共存できる。テロリズムは、復讐の連鎖を生むだけだ。
わが日本国民もそうだ。1945年、米軍によって広島・長崎に人類史上初めての核爆弾を落とされた日本は、「復讐」のエネルギーを経済復興に注いだ。そのおかげで、色々あっても平和と繁栄のうちに令和二年のお正月を迎えることができた。
広島出身のボーカリストSU-METALを擁するわがBABYMETALも、そんな日本だからこそ誕生したのだ。
その意味で、ユーロニモスとヴァルグの悲劇以降も、かつて禁じられていた音楽とパフォーマンスで民衆の心情を表現し続けているノルウェーのブラックメタルバンドは称賛に値する。
ブラックメタルバンド、そしてかつて神バンドがしていた白塗り=コープスペイントは、死者の霊を表すとともに、印欧祖語やラテン語で「白い」を意味するAlbhを語源とする妖精エルフ=白キツネの化身を表しているのだ。
(つづく)