エルフの国へ(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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★今日のベビメタ
本日12月31日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

アイスランドがノルウェーの支配下にはいるまでの中世(1120-1230年ごろ)に成立した「サガ」は、古代ノルマン諸族=ノルド人の共通語である古ノルド語で書かれており、主題は、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの王家の由来とアイスランドの歴史である。アイスランドの住民が、これらの国々から移住してきたからである。
現在約200点残っている「サガ」は、大きく4つに分類される。
「王のサガ」は、スウェーデンとノルウェーの歴代王の事績を描き、「司教のサガ」はアイスランドのキリスト教化の過程を、「アイスランド人のサガ」は、アイスランドの首長や伝説の戦士について、「古代のサガ」は、アイスランド入植以前のノルド人の伝承や古ゲルマン民族の伝説が記されている。
また、文章の教本として、アイスランド人のスノッリ・ストゥルルソンによって書かれた『エッダ』(1222年ごろ成立)には、古代のエッダ詩(古エッダ)やゲルマン人の伝説が引用されていた。
この時期にアイスランドで「サガ」や『エッダ』が書かれたのは、結局は支配されてしまうことになるノルウェー王国によるキリスト教化の外圧と無関係ではないだろう。
キリスト教という「先進的」な文化によって、「記述」という手法が普及すると、同時に、カトリックの公用語であるラテン語ではなく、自分たちが話している言語によって、民族の英雄や歴史、信仰のありかを書き留めておきたいという気運、つまり一種のナショナリズムが発生したに違いないのだ。
日本の奈良時代から平安時代にかけて、「先進国」である隋・唐の政治体制を範としつつ、万葉仮名、ひらがな、カタカナが生まれ、国風文化が形成されたのと同じことだ。
創造神ヤハウェを唯一の神とするユダヤ・キリスト教に対して、北欧神話はまったく異なる神々の系譜を持つ。
スノッリの『エッダ』や『王の写本』にも引用されているエッダ詩の一節『巫女の予言』には、世界の創造と終末、神々や妖精について記されている。
宇宙は、世界樹ユグドラシルに支えられ、その中にアース神族の住むアースガルズ、ヴァン神族の住むヴァナヘイム、人間の住むミッドガルズ、炎の世界ムスペルヘイム、氷の世界ニヴルヘイム、光の妖精エルフの住むアルフヘイム、黒いエルフの住むスヴァルトアルフヘイム、ドワーフや小人たちの住むニダヴェリール、巨人族の住むヨトゥンヘイムの9つの領域がある。


神々にはアース神族、ヴァン神族、巨人族ヨトゥンの三種があり、互いに抗争している。
主神オーディン、雷神トール、トリックスターの悪神ロキ、軍神テュール、光の神バルドル、女戦士ヴァルキリアなどはアース神族に属する。「サガ」も、もともと『巫女の予言』の巫女=女神の名前である。
「光り輝くもの」を意味するヴァン神族には海神ニョルズ、平和と豊饒を司る双子の男神フレイ・女神フレイヤが属する。フレイは妖精の王でもあり、アルフヘイムを支配するとともに、スウェーデン王家の祖ともされる。超絶メタルギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンの“イングヴェイ”はフレイの別名である。
ヨトゥンは、原初の混沌の中で誕生した巨人ユミルの一族である。
ヨトゥン(Jotun)は、英語のEat、ドイツ語のEtan(食べる)の語源といわれ、人間を食い殺す大自然の破壊的な力を擬人化したトロール(トトロの語源)のイメージの元でもある。
アース神族とヴァン神族は対立していたがのちに和解し、共同で巨人族ヨトゥンを敵としているが、神々は人質を交換したり、異種同士で結婚したりもしている。もともと主神オーディンは巨人から生まれたものであり、ロキも巨人族の血を引く。
ロキが光の神バルドルを殺すことによって、神々の間に諍いが生じ、ついに世界が滅びるのが「神々の黄昏」=最終戦争ラグナログである。
審判の日に神によって裁かれ、善人は永遠に天国で生きられるユダヤ・キリスト教とは違い、北欧神話では、人間は「世界の終わり」に向かって、つかの間生きている存在に過ぎない。
このような神話体系は、もともと古ゲルマン~ノルマン人に共有されていたが、早い時期にキリスト教化された大陸のゲルマン人諸国や北欧では、記述されずに消えてしまった。
それが、北の果てにある島国で、キリスト教化が遅れたアイスランドでは入植者たちによって「サガ」や『エッダ』に記述されて残ったわけだ。
例えば、「王のサガ」に属する『美髪王ハーラル1世のサガ』には、主神オーディンの神通力を受け継いだ異能の狂戦士「ベルセルク」が登場する。
「古代のサガ」に属する『ヴォルスンガ・サガ』は、古ゲルマン伝説の「ニーベルンゲン」と同じ内容で、オーディン、双子の男神フレイと女神フレイヤ、女戦士軍団ヴァルキリア(ワルキューレ)が登場する。
同じく『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』には、魔剣ティルヴィングを掘り出す「盾持つ乙女(shield-maiden)」ヘルヴォル が登場する。
ヴァルキリアや「盾持つ乙女」は、鎧コスチュームを着たSU-やMOAを思わせる。


キリスト教化によって、北欧神話の神々は消えたわけではなく、現代の日常生活にも生きている。
英語の日曜日Sundayは太陽のSun Day、月曜日Mondayは月のMoon Dayだが、火曜日Tuesdayは北欧神話の軍神テュールTyrの日、水曜日Wednesdayは主神オーディンOdinの日、木曜日Thursdayは雷神トールThorの日、金曜日Fridayは女神フレイヤFreyjaの日である。土曜日Saturdayだけは、ローマ神話のサトゥルヌスに由来する。
「サガ」(サーガ)、世界樹ユグドラシル、最終戦争ラグナログ、始祖の巨人ユミル、狂戦士ベルセルク、女戦士ヴァルキリアといった名は、日本のラノベ、RPG、アニメにも頻出する。
では肝心の妖精族エルフはどんな存在なのか。
実は、「サーガ」では、神話体系のひとつとして言及されるだけで、エルフがストーリーに登場することはほとんどない。
スノッリの『エッダ』によれば、エルフには2種類あるという。
「空には“アルフヘイム”(エルフの故郷)」と呼ばれる土地がある。「光のエルフ」と呼ばれる人々がそこに住んでいる。しかし、「闇のエルフ」は地下に住み、外見は彼らと違っているが、中身はもっと違っている。光のエルフは太陽よりも明るいが、闇のエルフはピッチよりも黒い。」らしい。
だが、これも前述した9つの世界のうち、アルフヘイムとスヴァルトアルフヘイムに対応して説明されているだけである。
ここから推測されるのは、アルフヘイムはヴァン神族の男神フレイが統治しているので、エルフもヴァン神族に属するとみられるが、「サガ」では「アース神族とエルフ」という慣用句が「すべての神々」を表すので、ヴァン神族とエルフはアース神族とは別系統の土着の神々であったと思われる。
アース神族が主神の位置を占めた北欧神話の序列の中で、土着神だったヴァン神族はアース神族と「和解」し、眷属であった光のエルフを間接支配し、まつろわぬ土着の神々が、闇のエルフ、小人ドワーフ、「神の敵」=巨人族ヨトゥンとされたのではないか。
この構造は日本神話の体系によく似ている。
すなわち、アース神族とヴァン神族の関係は、天津神と国津神、天照大神と素戔嗚尊の関係を彷彿とさせるのだ。
『古事記』によれば、素戔嗚はもともと海を司るよう命じられた。これはヴァン神族の海神ニョルズに対応する。
ニョルズの子で、エルフを支配する男神フレイの双子の妹である豊饒の女神フレイヤは、素戔嗚尊の娘であり、国津神猿田彦尊の妻とされる宇迦之御魂=豊受大神=キツネ様に対応する。
となると、その眷属であるエルフは、宇迦之御魂の眷属であるキツネにあたる。


岩の下に住むというアイスランドのエルフは、人間が入植する前、唯一の哺乳動物だった白キツネの化身ではないのか。エルフの語源albhは「白い」を意味するし、長い耳はキツネの特徴そのものではないか。
(つづく)