ラウド系アイドルの現在(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日12月24日は、過去BABYMETAL関連では大きなイベントのなかったDEATH。

2015年結成だが、今年ようやくメジャーデビューしたのが、めろん畑a go go(以下めろん畑)というグループである。


令和元年も終わりだというのに、彼女たちの音楽性はサイコビリーという昭和の匂いのするニッチなジャンルである。知ってる人もいると思うが、一応説明しておくと、1950年代のロカビリーにホラーの要素をブレンドして1980年代以降にパンク/ガレージロックのサブジャンルとして誕生した音楽である。
裏拍8ビートの楽曲で、クリーンアンプでリバーブを利かせつつ、ディレイのレイテンシーを100-120msくらいに短くして、スプリングエコーのピチャピチャ音を出し、ビグスビー付き箱ものギターとスラップ奏法のウッドベース、あるいはガレージロック風にトレモロアーム付きシングルコイルのギターとプレシジョンベースまたはSGベースで演奏しつつ、プレイヤーは側面を剃り上げた「サイコ刈り」やゾンビペイントのいで立ちというハローウィーンパーティのようなミスマッチが特徴。
これを右も左もわからないアイドル志望の女の子たちにやらせるのだから、日本のアイドル文化はやはり世界の音楽ジャンルのルツボないし吹き溜まりである。
しかし考えようによっては、サイコビリーはデスメタルに対するパンク側のホラー解釈かもしれず、アイドル+ジャパニーズホラーで成功したBABYMETALへのリフレクションとして、めろん畑のチョイスは案外正解なのかもしれない。
「銀河の彼方めろんの星からやってきた”“サイドキックなヒーローアイドル”」という設定で、音楽活動を「地球侵略」と称する。
コスチュームは赤か黒のワンピースに怪傑ゾロ風の目だけの覆面+黒マントで、子どもアニメの悪役といった趣だが、ライブの登場曲「Sick Idol」は、サイコビリーの曲調にアイドルMIXが含まれ、パンクフェスであっても、めろん畑a go goの世界に観客を引き込む。
https://www.youtube.com/watch?list=RDlI4BB7rGbWc&v=lI4BB7rGbWc
結成時のオリジナルメンバーは2017年~2018年に全員卒業し、現在は中村ソゼ(2017年6月加入)、琉陀瓶(るたかめ)ルン(2017年11月加入)、ルカタマ(2018年1月加入)、崎村ゆふぃ(2018年2月加入)の4人。
実質的な活動開始は2016年10月の四谷grrotoでの初ライブからで、以後、小規模なライブハウスでの主催ライブを「CRAPE SHOW」と称して20回以上継続している。
ニッチなジャンルの音楽性で、尖がったアイドル好きの面々からの評価が高い。
2017年2月の「吉田豪×南波一海の“このアイドルが見たい2017”」に出演、2018年8月にも南波一海のアイドル三十六房」に出演した。
4月20日に3枚同時にリリースされた1stシングルのうち、「めろん畑a go go」が、杉作J太郎の監督映画「チョコレートデリンジャー」挿入歌に選ばれた。ただし、この楽曲はサイコビリーではなく、典型的なアイドルソングである。
また、2018年4月と2019年2月の二回にわたってAbemaTVの『矢口真里の火曜The Night』に呼ばれている。
パンク/ガレージ系のフェス出演や海外バンドの前座もこなした。
インディーズデビュー直後の2017年6月25日に、渋谷CLUB CRAWLで行われたサイコビリーのフェス「SPACE CATS EXTRA」に出演し、アメリカのサイコビリーバンドThe Living Deads、日本のサイコビリーバンドSPIKE・THE MONSTER A GOGO'Sと共演。同年9月にはデンマークのサイコビリーバンドNekromantixのJapan Tour@足利ライブハウス大使館に出演した。
現メンバーに固定した2018年6月以降は、定期ワンマンライブ「CAPTAIN IDOL MARKET」を開始し、秋葉原のカレー店が主催するキッチュな文化祭「カリガリフェス」や、電撃ネットワークのギュウゾウがプロデュースする音楽祭「ギュウ農フェス」にも出演している。
2019年1月、日本コロムビアからメジャーデビューアルバム『IKASUZE IDOL 1.2.3!!』をリリース。5月にはイタリアで行われたアイドルフェス「Monster of Dolls 2019」に出演。
7月には、ネムレスと共同で、初の東名阪ツアー「スパルタンX2ツアー」を行い、8月には「TOKYO IDOL FESTIVAL 2019」に出演。
さらに10月にはパンクフェスの「KAPPUNK」にも出演し、10月17日に、初の2000人超の会場であるZepp Divercityで単独ライブを行った。
メンバーのソロ活動も盛んで、中村ソゼはSOZELICAとして、ルカタマはルカタマ ago goとしてブリティッシュロック風の楽曲をリリース、崎村ゆふぃはGARUDA として2019年4月にイギリスで開催された「Indie, Idol and Infamous」ツアーに参加し、ロンドン、バーミンガム、マンチェスターでの公演を成功させた。
前述の「Sick Idol」、「Horror Billy Nights」、「Nightmare Before Vampire」、「Idol Cats」、「IDOL FROM PLAN 9」、「イカすぜIDOL」など、楽曲はサイコビリー、ガレージ、サーフロックへのオマージュが深く、とにかくクリーン~クランチ気味のギターの音がいい。ダンサブルなアイドルソングが多い中で、裏拍8ビートにこだわる姿勢は、オジサンの琴線に触れる。
1980年代のアメリカで、ロカビリーを復興させたブライアン・セッツァー率いるストレイキャッツや、ブルース一本で勝負して惜しくも事故で亡くなったギタリスト、スティーヴィ・レイ・ヴォーンがそうだったように、時代遅れといわれようが、自分の好きなジャンルの音楽をとことん追求することで、逆説的だが「新しさ」が生まれる。
その意味で、めろん畑a go goは、ニッチな音楽性にこだわることで、日本のアイドル文化の中で特筆すべき存在になっている。
もっとも、最新シングル「Final Game-Idol of The Phantasm-」は、メンバーやプロデュースに携わってきたスタッフの“本音”をつづった青春ロックの趣で、Zepp Divercity公演のラストに披露されたデビュー曲「めろん畑a go go」では、前座を務めた事務所の後輩グループThe Grateful a MogAAAzが応援にステージに上がり、中村ソゼが感極まって号泣するシーンが見られた。
中村ソゼは、めろん畑最長在籍メンバーであり、オリジナルメンバーの脱退やプロデューサーとのいざこざ、右膝のけがなどを乗りこえて、ついにZepp Divercity公演にこぎつけた。そんな彼女の姿を見てきたファンたちも「泣くな!」と声をかけた。清々しいシーンだった。
BABYMETAL同様、ヒーローアイドルを演じていても、やはり生身の少女たちなのだ。

コドモメンタル所属のゆくえしれずつれづれ(Not Secured,Loose Ends)については、友人であるイギリス人メイトのRichard氏がファンなので、ぼくもデビューシングル「六落叫/ニーチェとの戯曲」、2ndシングル「MISS SINS」、1stフルアルバム『ポスト過多ストロフィー』を買って聴き込み、このブログでも以前ご紹介した。
「だつりょく系げきじょう系」をコンセプトとするラウド系アイドルグループだが、2017年頃はウィキペディアにも記載がなく、公式サイトはデザインのクセがすごくて、生身の情報がほとんどない、謎の多いグループだった。
ざっと歴史を紹介すると、2015年12月に配信シングル「凶葬詩壱鳴り feat. ぜんぶ君のせいだ。」をリリースしたのがデビュー。
当時は◎屋しだれ(ふたまるやしだれ)、まれ・A・小町(まれえーこまち)、想九里倫(おもくりりん)の3人体制だったが、2016年1月、初ライブを前にして想九里倫が脱退、潮賽乃吉(しおさいのきち)が加入するもライブを2回やっただけで脱退。
2016年5月に1stミニアルバム「Antino未deology」をリリースした際、英艶奴(あなたつやめ)と子子子(こここ)の2名が加わって4人体制となった。
この体制で2017年5月に、カナダで初めての海外公演を実施したので、BABYMETALに次ぐ日本のメタルアイドルとして、Richard氏の知るところとなったわけだ。
だが、2017年10月に子子子が、2018年9月に英艶奴が、2019年2月に◎屋しだれが脱退したため、デビュー時点から残っているのは、ダンス・歌唱ともにパフォーマンスを引っ張ってきたまれ・A・小町だけで、現在はメイユイメイ、个喆(こてつ)、たかりたからを加えた4人組になった。


とはいえ、その音楽性はいささかも揺らいでいない。
ゆくえしれずつれづれの歌やポエトリー・リーディングの声質はアイドルそのものなのだが、楽曲は、パンクやハードコアではなく、ゴリゴリの「メタル」であり、歌詞は「脱力」と「激情」が交錯する魂の叫びをつづった演劇的なものである。
「六落叫」の曲中に入るギターリフにはギンギンのディストーションがかかっているし、「MISS SINS」は激しい2ビートと女声グロウルが炸裂する正統派パワーメタルだった。
『ポスト過多ストロフィー』は全10曲、激しさと闇が同居する「アイドルの極北」といえるアルバムだった。ラストの「逝キ死ニ概論」のレコーディングでは、カッコいいシャウトではなく、文字通り「叫び」が要求されたという。
それは、2017年8月の3rdシングル「Loud Asymmetry」、子子子脱退、メイユイメイ加入後の2018年2月の4thシングル「Paradise Lost」、2018年8月の2ndフルアルバム『exFallen』、◎屋しだれと英艶奴が脱退し、現体制になってからの2019年4月の5thシングル「Odd eye」でも変わらない。エクストリームな演奏とグロウル入りのパフォーマンスはパワフルさを増したとさえいえる。
ただ、今年7月にリリースされた6thシングル「ssixth」は、やや毛色が違い、ドライブの利いたギターサウンドの明るいロックになっている。それはかつて『ナタリー』のインタビューで彼女たち自身が語っていたように、内向的なタイプが多かったメンバー構成が変わって、よりポジティブな心境になったことの反映かもしれない。
ウィキペディアには触れられていないが、ゆくえしれずつれづれも、毎年、レコード発売ツアーや全国都市ツアー、東名阪ツアーなど、ライブハウスやホールでのライブをこなしている。
ライブはBABYMETALと同じくMCなしのぶっ通しが原則である。
2020年1月からは、全国7都市ワンマンツアー「光闇光行脚」が実施される。
既にコアなファンがついているが、BABYMETALファンが「アイドルの極北」=ゆくえしれずつれづれを知ることは、日本のアイドル文化の「深み」を味わうことだと思う。
(つづく)