ラウド系アイドルの現在(1) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日12月22日は、2012年、ラジオ番組「Tokyo No.1カワイイラジオ」に出演し、2014年には、NHK「BABYMETAL現象~世界を変えた少女たち」が放送され、中高年の「NHK新規」ファンが激増した日DEATH。

イギリスのメタル専門誌『METAL HAMMER』2019年10月号は、BABYMETALの大特集だった。
表紙はSU-とMOAが宇宙空間に浮かび、“THIS IS THE FUTURE”、“BABYMETAL”、“REACH FOR THE STARS”というサブタイトルがついている。


記事は8ページにわたって、ジャパンツアーのレポートと、『METAL GALAXY』の楽曲や近況に関するSU-、MOA、ヨアキム・ブローデン、アリッサ・ホワイト・グラズ、荒金良介、阿刀大志のインタビューが掲載されている。付録は夜空に“キツネ座”をあしらったART PRINTと、ブルータル白キツネの布製ワッペンだった。
同誌には、もう一組、日本のラウド系アイドルの記事が掲載されていた。
“暗黒”をテーマとして2014年に結成されたNECRONOMIDOLである。


2017年10月に行われた巨大キツネ祭り@SSAの終演後、会場から出てくるメイトたちに、NECRONOMIDOLのメンバーたちが手ずからライブのチラシを配っていた。
今年11月に行われたBABYMETAL WORLD TOUR in JAPAN@SSAでも、目撃したというメイトさんがいた。
巨大キツネ祭り当時は、柿崎李咲、今泉怜、月城ひまり、瑳里、夜露ひなの5人組だったが、現在は、2019年1月に瑳里、夜露ひなが脱退し、みしぇると剣菱くのぎが加入したが、剣菱くのぎが9月に脱退したため、現在は4人組となっている。
ライブ活動は国内のライブハウスが中心だが、海外でもコンスタントにライブを行ってきた。
昨年までに、台湾(2015年)、ニューカレドニア、タイ(2016年)、イタリア、イギリス、フランス(2017年)、アメリカ(2017年・2018年)でライブを行っており、今年7月には、フランス、UK、オランダ、ドイツ、フィンランド、スウェーデンを回る二度目のヨーロッパツアーを敢行した。
ラヴクラフトの『魔導書ネクロノミコン』からグループ名をつけ、CDのアートワークは、市場大介、駕籠真太郎、千之ナイフ、前田俊夫、早見純、丸尾末広といった、知る人ぞ知る猟奇系成人漫画家が担当。
ファンを「暗黒教団の信者」と呼ぶが、ライブでの写真撮影は自由、“魔”ザー牧場でのオフ会やハローウィーンパーティをやったりもしている。
楽曲はブラックメタルをモチーフにしているが、MVやファンカムを見る限り、歌い方やダンスを含めた表現方法がアイドルチックなので、ぼくの勝手なイメージでは、音楽のテクニカルな領域で勝負するというより、カルチャー領域で突出することを目指しているように見える。
それが“本場”イギリスのメタル専門誌『METAL HAMMER』に掲載されたのは、メタルがカルチャーであるUKならではという感じがする。
非常に書き方が難しいのだが、『METAL HAMMER』は付録付きだし、掲載されているメタルバンドの新譜広告の多くが、中世の城や森を背景にしたマッチョな戦士とガイコツ軍団の戦いとか、魔導書を前に、いかつい男性メンバーを従えた魔女のような女性ボーカリストが鉤爪をこっちに向けているとか、はたまた荒廃したビル街で、デロリアン号が空を飛びギターやベースからマシンガンのように弾丸が発射されているとか、スキンヘッドの男が憂鬱な目をして緑色の炎に浮かび上がるとか、まあ、パルプフィクションの挿絵かホラー映画の宣材写真みたいなのだ。
同じページに掲載されている七色の銀河の中にマントを翻したSU-とMOAは、ちっともおどろおどろしくなく、クリーンで未来的に見える。
もちろん全部ギミックであり、中二病的というか、現実逃避的なファンタジーなのだが、それを楽しむのが”本場”のメタルカルチャーというものだ。
『METAL HAMMER』には、アーティストのインタビューやライブ・レポート、アルバムのインプレッションだけでなく、メタル関係のクイズとか、メタル関連グッズの紹介/プレゼントページが必ずある。
音楽性に関して、マニアックなまでにアルバム制作意図を問うインタビューや、奏法/機材解説が中心の日本のロック雑誌やギター雑誌と違って、「大衆的」なのである。そこがぼくは大好きなんですよね。

もっとも『ヘドバン』にはBOH氏のラーメン店巡りとか、メタル飯連載もあるし、何号だか忘れたが、コリィ・テイラーの青木ヶ原樹海探訪記みたいに、変な角度の記事も時々載るけどね。
そもそも商品としての音楽とは、楽曲そのものに聴く者の心を動かす/生きる糧となる力があるだけでなく、それを演奏し歌い踊るアーティストの個性への共感を含むものである。
アーティストが「演出」を拒み、社会的なメッセージを訴えるのも、共感するファンがいてこそである。逆にコスチュームや宣材写真、ライブで過剰なほどの「演出」をするメタルバンドが、インタビューでは意外に現実的だったりする。
要するに、アーティストが表現したいことと、ファンの共感が合致したとき、スターが誕生するわけだ。
『METAL HAMMER』がNECRONOMIDOLを掲載したのは、BABYMETALを掲載した2014年当時と同じく、イギリスのメタル文化の中に、一定数の共感者=ファン層が形成される可能性があると判断したからだろう。
BABYMETALの先例があったからというだけでなく、少なくとも楽曲やMVやジャケットイラストといったプロダクトレベルで、よりジャパニーズホラー、つうか猟奇的な設定がなされたNECRONOMIDOLが日本のアイドル文化ではなく、欧米のメタル文化の中で受容されるようになったのはなぜか。


ぼくの考えでは、ネットが普及し始めた2000代初頭から20年近く経って、国の垣根が低くなり、購買可能な商品の選択肢が圧倒的に多くなったからだろう。各国政府による様々な規制やフィジカルな商品の流通という問題が残っているとはいえ、少なくともAmazonやe-Bayや各種ストリーミングサービスが使える自由主義国間では、音楽商品の個人輸出入に関しては、国境はほぼ消滅した。
100%嗜好品である音楽の世界で、「従来品のコピー」ではなく、よりオリジナルな表現を求めたユーザーが、ジャパニーズホラーを取り入れた「日本のアイドル」という存在に辿り着き、MVを視聴し、データをダウンロードしてファンになる。そんなことはネット普及前には物理的にあり得なかった。
もっとも、世界には政府を批判するミュージシャンはプロとして演奏することを許されず、ウイグル人の状況をテーマにした日本のロックバンドの楽曲が携帯に入っていると拘束/消去されてしまう国もある。
そんな状況にも思いを馳せつつ、BABYMETAL以降に世界で活躍し始めたラウド系アイドル/ロックアイドルの現状を追ってみたい。
(つづく)