Kawaiiの力(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日12月6日は、2016年、Red Hot Chili Peppers UKツアーのSpecial Guestとして、ロンドンThe O2アリーナに出演(2日目)した日DEATH。

BABYMETALが2014年に欧米デビューするにあたって用いられたのが「Kawaii Metal」というキャッチコピーだった。
「カワイイ」は、日本のコミックス、アニメ、コンピュータゲーム、ファンシーグッズ、ファッションなど、少女をテーマにしたサブカルチャーのキーワードだが、英語にはそのニュアンスがないため、日本語の「Kawaii」がそのまま使われている。
中学英語で「Beautiful」は美しい、「Pretty」は「可愛い」と教わるが、実際にはこの2つが表す意味はかなり違う。
「Beautiful」は完成された美しさを表す形容詞で、人の態度や内面、景色、ものごとの素晴らしさを表現するときにも使われる。「令和」の英訳は「Beautiful Harmony」である。
「Pretty」はおしゃれで美しいという外見を表す形容詞で、「She is so pretty.」と言うと、「彼女はとても美しい/きれいだ。」となり、赤ちゃんや少女には使わない。また、アメリカ英語では「Pretty Good」(とてもよい)のように、副詞的に用いられることもある。いずれにしても「Pretty」には「幼い」というニュアンスはない。
赤ちゃんや幼女に使うのは「Cute」だが、動物・もの・しぐさなどにも用いられ、外見というより、見ている人が思わず微笑んでしまうような「愛らしさ」を表す形容詞である。これを成人女性に対して使うと失礼に当たる。
一方、日本語の「カワイイ」は、もっと複雑な内容を含んでいる。
『ビジネスをつくる仕事』著者の小林敬幸氏によれば、「カワイイ」には、(1)萌えオタク系、(2)赤文字系、(3)原宿青文字系の3系統あるという。
(1)萌えオタク系の「カワイイ」とは、アニメ、コンピュータゲーム、アイドルなど、「オタク」と呼ばれるアキバ系サブカルチャーファンが感じる「萌える」少女のイメージを指す。
もともと想定された顧客層は男子中高生であるが、高年齢化が進み、少女漫画のイメージも混入しているので、現在の顧客には女性ファンも少なからず存在する。
(2)赤文字系の「カワイイ」とは、「JJ」(光文社)、「ViVi」(講談社)、「Ray」(主婦の友社)、「CanCam」(小学館)といった雑誌や、東京ガールズコレクションに代表される女子大生や若いOL向けのファッションについて用いられる。これらの雑誌の題字が赤であったことから名づけられた。同じ「カワイイ」でも、男性に「モテる」ための「カワイイ」であり、必然的にコンサバティブ(保守的)なので、フェミニストからは敵視されている。
(3)原宿青文字系の「カワイイ」とは、同じく女性向けでも、男性に「モテる」ことよりも、自分を個性的に表現し、同性から「カワイイ」と評価されることを編集方針とするファッション誌の題字が青だったことから名づけられた。
とはいえ、赤文字系ほどの統一感はなく、「CUTiE」(宝島社)や「Zipper」(祥伝社)は片側にバリカンを入れたりする非対称の髪型、「mer」(GAKKEN PUBLISHING)は前髪ぱっつん+リュックサック、「KERA」(ジャックメディア)はゴスロリなど、それぞれの雑誌が固有のファッションを表現していた。「キモカワ」とか「ゆるキャラ」を「カワイイ」とする感性も、このあたりから来ているのではないか。BABYMETALにとって、Kawaiiアイドル欧米進出の先輩であるきゃりーぱみゅぱみゅは、この一派に属する。「原宿青文字系」の名づけ親は、彼女が所属するアソビシステムの中川悠介社長である。
(以上、https://biz-journal.jp/2014/12/post_8361.htmlを参照しつつ記述。)


海外では、萌えオタク系の「カワイイ」がクールジャパンの代表であり、モーニング娘。、AKB48、ももクロなど日本のアイドルが欧米に招聘されるのも、ジャパニメーションを中核としたジャパンカルチャーフェスティバルが多かった。BABYMETALが初めて海外でライブを行ったのも2012年のAnime Festival Asiaシンガポールだった。
しかし、萌えオタク系アイドルそのものであるAKB48よりも、原宿青文字系のきゃりーぱみゅぱみゅの方が欧米で評価されたのはちょっと不思議だ。
そしてまた、少なくとも萌えオタク系でも赤文字系でもないBABYMETALが、ビルボード200の13位まで上り詰めたのは、一体なぜか。欧米人はBABYMETALの何を「Kawaii」と思ったのだろう。
さらに言えば、MOAが20歳になった今、新生BABYMETALが目指す「大人Kawaii」とは何か。
本稿ではそのあたりを考察してみる。

西欧文化は、古代ギリシア哲学(ヘレニズム)とキリスト教(ヘブライズム)の2つの源流を持つと言われるが、女性観についてもこの2つが絡み合っている。
ギリシア神話で、恋心と性愛を司る神をエロースという。
エロースはもともとカオス(無窮の天空神)、ガイア(大地母神)と同じく、原初神だったが、のちにクピードー(キューピット)やアモールと混同されて、翼と弓矢を持った少年あるいは天使の姿で描かれるようになった。


太陽神アポロンが侮ったため、怒ったエロースがアポロンとダフネを弓矢で撃ち、恋に落ちたアポロンが言い寄るので、それを恐れた初心なダフネが月桂樹に変わってしまうのがオリジナルだが、アレクサンダー大王以降のヘレニズム時代には、エロース自身が誤って自分の足を矢で傷つけ、絶世の美女プシュケーに恋をしてしまい、それを恥じて隠れたエロースをプシュケーが探し出し、最後に両者が結ばれるというハッピーエンドの別バージョンも作られた。
つまり、エロースは理性を失って誰かに恋してしまう性的本能の象徴だった。
ギリシア哲学では、それを人間の「受苦」のひとつとしていたが、それは抗いえない人間性の一部であり、肯定されるべきものと見なされていた。
一方、キリスト教では、女性は「彼に合う助ける者」として「アダムのあばら骨から造られ」(創世記2-18)たものであって、貞淑さが求められた。
イエス・キリストは「みだらな思いで他人の妻を見る者はだれでも、既に心の中でその女を犯したのである。もし、右の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して捨ててしまいなさい」(マタイ5-27)とか、「不法な結婚でもないのに妻を離縁して、他の女を妻にする者は、姦通の罪を犯すことになる」と言った後で、「結婚できないように生まれついた者、人から結婚できないようにされた者もいるが、天の国のために結婚しない者もいる。これを受け入れることができる人は受け入れなさい。」(マタイ19-9)と言っている。
きわめて厳格な規定であり、現在でもローマ・カトリックでは離婚が認められないし、神父や修道女は独身を保つことが条件となっている。
もっとも、イエスは犯してしまった罪については寛容である。姦通の現場で捕らえられ、ユダヤの律法に従って民衆に石打ち刑にされそうになっていた女が連れてこられたとき、イエスは民衆に「あなた方の中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」と言い、民衆が一人ひとり自問しつつ立ち去ったのを見て「私もあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない。」といって赦した。(ヨハネ7-53)


だが、こうしたキリスト教の倫理観は、西欧文化に根づいており、十字軍以降、再び流入したギリシア哲学とローマ・カトリックの教えとの相克がルネッサンスや宗教改革の原動力となった。
国王の離婚問題でローマ・カトリックから離れ、英国国教会ができたイギリスで産業革命が起こり、西欧近代が幕を開けたのも、大雑把に言ってしまえばその結果であるが、皮肉なことに、大英帝国華やかなりし19世紀後半~20世紀初頭のヴィクトリア朝では、キリスト教道徳がもっとも厳格だった。
そんな時代に、オックスフォード大学の数学講師だった男が、少女を主人公にしたシュールなおとぎ話を創作した。本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン、そのアナグラムをペンネームにしたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』(1865年刊)である。
(つづく)