何じゃこりゃ!?の逆襲(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月10日は2012年、初海外公演となるAnime Festival Asia Singapore 2012に出演した日DEATH。

「メギツネ」は、それまでミニライブでは披露されていたが、神バンドの生演奏で披露されたのはLegend “1999”が初めてだった。
現在まで「メギツネ」MVは、「ギミチョコ!!」に次いで多い6000万回を超える視聴件数を集めている。
特に海外のファンは、阿佐ヶ谷神明宮の能舞台、日本家屋で遊ぶYUI&MOA、赤坂日枝神社の千本鳥居、「舐めたらいかんぜよ」でSU-がドスを抜くところなどに、クールジャパン=「BABYMETALらしさ」を感じているようだ。
2013年1月9日にリリースされたメジャー1stシングル「イジメ、ダメ、ゼッタイ」は、ソナタ・アークティカを彷彿とさせるメロスピの曲調で、C#m→B→A→G#m→Eという下降コード進行と、A→B→C#mという上昇コード進行がせめぎあい、転調に次ぐ転調で、最後はC→D→Em→Bm→C→D→Eと上昇して終わるドラマチックな楽曲だった。
「♪見つけちゃいやー」「♪イエスタデー」という合いの手や、「♪愛しくて切なくて心強くて」といった”オマージュ“が散りばめられているが、SU-の卓越した歌唱力とYUI&MOAの激しいダンスパフォーマンス、神バンドの演奏力が一体化した名曲である。
フェスではこの曲がフィニッシュ曲となることが多く、その過酷な経験が「アウェーな舞台でも最後にはキツネサインを掲げさせてみせる」という気概につながり、2014年のソニスフィアでは、”本場“UKのメタルファン6万人をノックアウトした。
この曲に続くメジャー2ndシングルが、6月19日にリリースされた「メギツネ」だった。
カッコいいメロスピの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」に対して、「メギツネ」のモチーフは「和風」「お祭りメタル」であり、コスチュームも黒いキモノ風になった。


曲前に流れる「♪キーツーネー、キーツーネー、わたしはメギツネー」というSU-のアカペラ&イントロのメロディの原曲は「さくらさくら」であり、「既存のメタル」にはあり得ない純和風の設定だった。
今でこそ、和楽器バンドや陰陽座など「和ロック」バンドが注目されているが、70-80年代にはロックと言えば洋楽であり、そもそも日本語がロックに馴染むかどうかが論争を呼んだりもした。寺内タケシの津軽じょんがら節じゃあるまいし、一言で言って「和風」を売りにするのは「ダサい」と思われていた。
背景には、当時の日本はまだWGIPの強い影響下にあり、「日本=太平洋戦争でアジアを侵略した悪い国」という思い込みが強かったこともあるだろう。
2013年には、すでにそんな間違った固定観念を持つ人は少なくなり、「アイドル」であるBABYMETALが和風の楽曲をやることに問題はなかった。
アイドルとロックフェスの垣根を超えた先輩であるももいろクローバーのインディーズデビュー曲「ももいろパンチ」だって、ピンク色のキモノ風コスチュームに和楽器を使った16ビート和風楽曲だったのだから。
だが、「既存のメタル」から見れば、さすがにキモノ風コスチュームを着て、「さくらさくら」をモチーフにして「♩そうよいつでも女は女優よ~」という演歌のような歌詞の「和風メタル」は「何じゃこりゃ!?」だった。
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」がカッコよかっただけに、違和感を覚えたファンもいたと思う。「イジメ、ダメ、ゼッタイ」がオリコンウィークリー6位だったのに対して、「メギツネ」はランクアップを果たせず7位だった。
しかし、この曲のバッキングは、「和風」とは程遠いものだった。
曲のKeyはFmなのだが、三人が登場してくるところの、キーボードで奏でられるイントロ「♪キーツーネー、キーツーネー、わーたーしーは」のメロディのパワーコードは7弦2F6弦4Fだけで演奏される。これは「イジメ、ダメ、ゼッタイ」と同じC#mで、「メギツネ」では、メロディとパワーコードのミスマッチが異様なエクストリームさを醸し出す。
続く「♪メーギツネー」のところは、6弦1F5弦1F→6弦3F5弦5F→6弦1F5弦1F→7弦2F6弦4Fと演奏され、「キューン」という機械音が流れる。屋内ライブの場合にはここでステージ上の照明がくるりと動いて客席を照らす。
これが繰り返されるうち、場内は異様な「キツネ様降臨」の予兆に包まれていく。
そして、三人もしくはSU-がキツネのお面をかぶって登場してくる。神バンドは白いロングガウンに白塗り、長髪(ひとりは禿)である。和風は和風でも、怖い日本=ジャパニーズ・ホラーの雰囲気なのだ。
ジャパニーズ・ホラーといえば、1998年に映画化され、アメリカでもリメイクされた『リング』や、2001年に公開され、第52回ベルリン映画祭で金熊賞、第75回アカデミー賞で長編アニメ映画賞を受賞した『千と千尋の神隠し』が、海外で高く評価されていた。
経済産業省が「クールジャパン室」を設けたのは2010年で、BABYMETALは2014年の渡欧直前に、当時担当大臣だった稲田朋美氏と面会しているのだが、21世紀に世界的に日本の文化が再注目される先駆けとなったのは、「日本という国には欧米人にとって不可解な神秘がある」という畏怖にも似たジャパニーズ・ホラーだったのだ。
「メギツネ」は、メタル=洋楽という先入観をぶち壊す「和風メタル」だったが、その演出がジャパニーズ・ホラーだったのは、こういう背景があったわけだ。
考えてみれば、ホラーとデスメタルはきわめて相性がいい。
メタルを標榜する日本人アイドルであるBABYMETALが海外で人気のジャパニーズ・ホラーをテーマにするのは、ごく自然なことだった。
イントロ終わりの「♪女は女優よ」のところのメロディは、5弦3F4弦5F→6弦4F5弦6F→5弦3F4弦5F→5弦4F4弦6F→5弦3F4弦5F・5弦3F4弦5F→6弦4F5弦6F→6弦3F5弦5Fとパワーコードだけで演奏され、続く6弦1Fの「ダダダッダンダダン」のあとに「カラリンコン…」と和楽器が入る。
YUI&MOA、あるいはMOA&アベンジャーが狛ギツネポーズをとると、6弦1F5弦3F→7弦2F6弦4F→6弦1F5弦3F→6弦4F5弦6F→7弦2F6弦4F(×7)→7弦4F6弦6F(×5)のところで、キツネサインを観客に向けて放射すると、ピッキングハーモニクスが「キーン」と入る。MVではキツネ面のアップだが、ライブでは「狐火」を表現しているかのようだ。
このイントロで、「メギツネ」が単なる「和風」ではなく、ジャパニーズ・ホラーメタルなのだということがわかる。
そのあとは、ブラス風のシンセサイザーが入って、「♪ソレ!ソレ!ソレ!ソレソレソレソレ!」と踊りまくる「お祭りメタル」になるわけだが、お祭りとはもともと「神」を讃える宗教行事である。
久保有政氏によれば、神道も元は一神教であり、東方キリスト教徒だった秦氏が創建したお稲荷様はINRI=イエス・キリストだというのだが、一般的な欧米人にとって、「キツネ様」は異教の魔神であり、畏怖の対象に他ならない。


その魔神を讃えるお祭りメタルの「メギツネ」は、やっぱりジャパニーズ・ホラーであり、逆説的だが、欧米一般人の「良識」の埒外にあるメタルファンにとっては、かえって面白がられたのかもしれない。
リリース当時、「なんで和風?」と思った日本のベビメタファンも、2014年に海外進出したBABYMETALにとって、この曲がアウェーなファンを一気にヒートアップさせる効果を持つことに驚いた。
「さくらさくら」をモチーフにした「メギツネ」がなければ、メロイックサインとは似て非なるフォックスサインを掲げるBABYMETAL=FOX GODの巫女というギミックが、これほど欧米人に定着することはなかっただろう。
BABYMETALはKawaiiメタルだけではなく、畏怖すべき日本の神秘性を帯びているというイメージこそ、海外でのBABYMETAL人気の基盤になったのだ。
続く12曲目「イジメ、ダメ、ゼッタイ」で、いったんライブは終わり、アンコールのあと、
SU-ソロの「紅月-アカツキ-」、YUIとMOAの聖誕祭を祝う熱狂の「ヘドバンギャー!!」が演奏された。だが、ここで終わりではなかった。
曲の終了ともに暗転した舞台に「アヴェ・マリア」が流れ、黒いフードを被り、ろうそくを持った男たちが現れた。
異様な雰囲気の中、三人は立ち上がり、スモークの中に消えていった。
これは次回、Legend “1997”の予告編だった。またしても何じゃこりゃ!?の展開。
ここから、生身のBABYMETALは過酷な全国ロックフェスツアーをこなしていく。
前述したようにサマソニ2013とLOUDPARK13は、メタルバンドとしてのBABYMETALのメルクマールだった。
そして迎えた12月21日、幕張メッセで行われたLegend “1997“は、運命となる世界的大ヒット曲を初披露することになる。「アヴェ・マリア」とはいったい何を意味するのか。
(つづく)