解題メタル銀河(13) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月2日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

「Starlight」が、2018年1月に亡くなった藤岡幹大氏に捧げる鎮魂歌であることは、いうまでもない。
だが、この曲は2018年10月19日、YUIMETAL脱退のお知らせと同日にリリースされた。だからこの曲を聴くと、どうしてもあの日の衝撃や、直後の10月23-24日に行われた幕張メッセ公演を思い出す。
ぼくは24日しか参加できなかったが、待機列で一緒になったメイトさんたちと、YUIの脱退について語り合った。
みなさん一様に悲しみ、YUIの復帰を願いながらも、体調が回復せずBABYMETALの激しいダンスに耐えられないなら仕方のないことだし、将来的に「水野由結としての夢」を叶えるために別の道を進む決意をしたというなら、これからも応援したいとおっしゃっていた。
多くのメイトさんたちの気持ちは今でも変わらないだろう。
2018年US、EUツアーのSU-、MOA+2人に、3人の新しいダンサーが加わったChosen Seven仕様の大迫力ライブが終わり、汗まみれになった会場を出ると満月だった。
あれから1年。2017年の巨大キツネ祭り@SSA&大阪城Hから数えれば2年。
YUIMETALこと水野由結が、公にあの笑顔を見せる日はいつになるのだろう。

夜空に広がるかのようなシンセサイザーのオーケストレーションに、「♪ララララララララ…」というコーラスは、どこか牧歌的で、幼い少女たちが草原で歌っているかのような印象をうける。ベビメタ都市伝説では、YUIの声も加わっているというのだが、真偽は不明だ。
そこへSU-の「♪ラー、ラララララー」というボーカルが加わると、二度と戻らない人への惜別と新たな出発の思い―この曲のテーマが顕わになる。
複雑なDjentのリフが響き、疾走感のあるパワーメタルの2ビートが始まる。
歌詞を分析すると、この曲もまた、きわめて綿密に作られていることがわかる。
ただ、『METAL GALAXY』日本盤に添付されたブックレットの歌詞には、1か所だけ疑問がある。
1番の最初の部分、ブックレットには「♪時空を超えて解き放てFar away 走り続け遥か彼方Run away」と書いてあるのだが、「Run away」だと「逃げる/逃避」となってしまう。
SU-は「Runway」(ランウェイ)と歌っていて、これなら「滑走路」となり、Bメロの「♪Fly Higher in the sky」と呼応する。歌詞は韻を踏んで「Run away」となっているところ、SU-の判断でそう歌っている可能性もある。
そのBメロだが、1番では「♪Fly higher in the sky. Fly higher in the night」だが、2番は「♪Fly higher in the night. Fly higher in the sky」と順番が逆になっている。
この微妙な違いが、BABYMETALの楽曲の真骨頂だとぼくは思う。
例えば「ヘドバンギャー!!!」では、1番2番と「♪もう二度と戻“ら”ないわずかな時を」と歌っていたのを、3番では「♪もう二度と戻“れ”ないわずかな時を」と歌っている。可能動詞を使うことによって、二度と戻ってこない青春への哀惜の念がより強く表現される。
それだけでなく、「戻“れ”ない」と自覚することは、「いい子ちゃん」だった幼い自分と決別し、メタルのパワーで自立していく契機でもある。だから「ヘドバンギャー!!!」のラストは、大人の「操り人形」だった自分がへなへなと崩れるシーンで終わるのだ。
このように、表現したいテーマに沿って、わずか1字にこだわり、綿密に作り込まれているのがBABYMETALの楽曲の歌詞なのである。
「Starlight」のBメロは、1番では「sky→night」の順で、意訳すれば「空よりも高く、夜を超えて」となり、「光照らすその先へ」という言葉は、遥か彼方にある憧れにとどまっているようにも聴こえる。
それが2番では、「night→sky」の順になり、「夜=絶望を乗りこえ、空へ飛び立つ」というように、気持ちがより積極的になり、「光放つあの場所へ」と具体的な目標を目指しているように感じられる。
MOAのコーラスも、1番では「The wind blows, the wind blows」(風が吹いている)で、茫然と佇んでいる感じだが、2番では「Dreaming now, dreaming now」(今こそ夢見よう)となっていて、気持ちが前向きに変化しているように感じる。
藤岡神の逝去、YUIの脱退という事態を受けて、ともすれば絶望に陥り、すべてが空しく見え、遠い目標へ向けて立ち上がるべきなのだが、意気込む言葉だけが空回りしてしまうような状況。
「Distortion」では、「キタナイセカイ」への怒りをテコにして、メタルパワーで自分たちを鼓舞している感じがあったのだが、「Starlight」では、歌詞に示されるように曲の中で気持ちが徐々に変化し、すべてを受け入れ、浄化しようとしているように感じられる。
間奏部は、変拍子を含むDjentなギターのフレーズが次々と現れ、激しい感情を表現するが、その後は祈りのようなコーラス部につながる。
Wherever we are, we’ll be with you(どこにいても、私たちはあなたと共にいます)
We’ll never forget shining starlight(私たちは決して輝く星の光を忘れません)
Whenever we are, we’ll be with you(いつでも、私たちはあなたと共にいます)
We’ll never forget shooting star(私たちは決して流れ星を忘れません)
Wherever we are, we’ll be with you(どこにいても、私たちはあなたと共にいます)
We’ll never forget shining starlight(私たちは決して輝く星の光を忘れません)
Wherever you are, you live in my heart(どこにいても、あなたは私の心の中にいます)
We’ll never forget shining star(私たちは決して輝く星を忘れません)
「shining star」が故・藤岡神を、「shooting star」がYUIを表すという説もあるが、これもベビメタ都市伝説の域を出ない。
ただ、「you」が複数形であってもいいと思う。この曲で、SU-とMOAは、小神様とYUIに惜別の思いを伝え、新たに出発したのだから。
これに続いてリフレインされる3回目のBメロは、また歌詞が微妙に変わる。
「Fly higher in the sky. Fly higher in the night」が二回繰り返されるのではなく、最後は「Fly higher in the sky. Starlight, shining in the night」となるのだ。
「night=夜=絶望」の中だからこそ、Starlightは光り輝く。夜でなければ星は見えない。
だから最後は、少女たちが草原で満天の星空を見上げているような「♪ララララララララ…」というコーラスに戻って終わる。
そこには運命への怒りはなく、すべてを受け入れ、浄化された心境が表現される。


2018年、結成以来最大の危機を迎えたBABYMETALは、苦しみながらも絆を深め、新たな「滑走路」へと踏み出した。

吹っ切れたBABYMETALがヘッドライナーとなったDarknight Carnivalに出演したGalactic Empireは今や銀河神バンドとなり、SABATONのヨアキム・ブローデンは「Oh! MAJINAI」にフィーチャーされた。

あれが、『METAL GALAXY』の出発点であり、「Starlight」はその記念碑的な曲なのである。
(つづく)