解題メタル銀河(12) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月1日は、2014年、「メギツネ」MVのYouTube再生数が1000万回を突破した日DEATH。

英語版ウィキペディアでは、「Elevator Girl」を“electronic flurry”(電撃的突風)、"languid jazz"(気まぐれジャズ)と紹介している。


確かにピアノのBm7→Em7・Em7→Bm7というコード弾きから始まり、逆回しテープのようなSE、SU-のオートチューンボイス「♪Hey! Lady are you going up dadada dadada ah」などを聴くと、テクノとジャズの融合っぽい印象だが、乾いたディストーションのかかった9弦ギターのリフが2回入り、0‘13“から始まるイントロは、激しいメタル調になる。
歌に入ると、また「♪ポロリン」というピアノのコード弾きがバックに流れる。Key=Dだが、ピアノの和音はD→D6→DM7→D6→D7と少しずつ構成音が動き、都会的で大人っぽい雰囲気を醸し出す。
「♪Are you going up?」のF↑の音は、Key=Dではブルーノートになるが、そこに合わせるピアノのバッキングはルート=Dのハイノートで、そこまでジャジーなアンサンブルにはなっていない。
というか、この曲のキーとコードは、「♪Hey! Lady are you going …」のところはKey=DでDだけ、「♪上へ参ります下へ参ります…」のところはKey=BでBだけという、完全2キー&コード構成である。
ジャジーどころか、超シンプルなのだ。
Key=Bに入ると、バッキングはジャジーな雰囲気を脱し、ディストーションギターのコードストロークで、明るいハードコアパンク調になる。
「♪締まるドアにお気をつけください」の「気をつけ」のところをSU-はD↑で歌う。この音はKey=Bではブルーノートになる。ところが次の「♪火あぶり針地獄のフロアです」の「地獄の」のところは、SU-のボーカルは半音上がってD#になっていて、コードBの構成音(BD#F#)に含まれるので、カラッと明るい感じが維持される。
つまり、ここでのブルーノートは、感情の表現というよりは、半音だけ階段を上るような意味合いであり、「ガンバレ!ガンバレ!」とでも言いたげに「♪Going up Going down Going up going to Hell, yeah」と合いの手を入れるMOAとアベンジャーのコケティッシュさを際立たせるために用いられているようである。
間奏部に入ると、Djentな速弾きのリフが左右から広がり、ツインギターでハモり、ハードコアというより重低音を生かしたメタルらしさが目立ってくる。
そしてKey=BのDjentリフが続いたまま「♪Hey Lady are you going up…」が歌われる。このとき9弦ギターのパワーコードはBmみたいに聴こえ、イントロと同じく、ベースラインはB→A→F#→E→D→Bの間を上がったり下がったりを繰り返す。これは、「上へ下へ」というこの曲のテーマそのものではないか。
考えてみればDとBの2キー&コード構成もそうだし、ピアノやブルーノートの「都会のお洒落さ」と、パンクっぽいコード進行やヘヴィなメタルリフの「浮き沈みの激しい都会の地獄っぷり」の対比もそうだ。歌詞のテーマに合わせてすべてが綿密に作られている。驚くべき構成力と言わざるを得ない。
Key=Bのままサビを繰り返し、最後は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」と同じように「♪上へ参ります下へ参ります」「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」と合いの手を入れたくなる曲終盤で、ぼくらは気づくのだ。


小中学生だったデビュー曲で、BABYMETALは「♪一直線なら一等賞よ」「チョーすごーい」「♪女子会参加でガールズトークよ」「チョーヤバーい」とカワイク背伸びしていた。
それが今や、エレベーターのように浮き沈みの激しい地獄の都会で、「♪だからいつもイノチガケ」といいながら、メゲずに明るく、ポジティブに生きている。
二人とも20歳を過ぎたから、本当の女子会だってできる。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」はBPM166くらい、「Elevator Girl」はBPM177くらいでややテンポアップしているが、リズムは裏拍8ビートで共通している。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」はKey=AmからKey=Aへ転調、「Elevator Girl」はKey=D、またはBmっぽいパワーコードからKey=Bへ転調して、明るいサビにつながるのも共通する。
最初の方に大人っぽいジャズピアノを入れているが、その目的は「ジャズとメタルの融合」ではない。あのジャズピアノは、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」の冒頭に入るKawaiiシンセサイザーのBeep音と同じで、ひとつのモチーフとして使われているに過ぎない。
要するに「Elevator Girl」は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のアップデイト版なのだ。
YUIの長期欠場が確定した2018年5月に初披露されたのも、そのためではないか。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」がパンテラ風のリフを使ったのに対して、アップデイトされた「Elevator Girl」ではDjentのリフが使われている。それを強調するかのように、速弾きリフとうねるベースラインが全面に広がり、曲を締めくくる。
「Elevator Girl」は、女の子の日常生活をメタルのパワーで励ますBABYMETALの原点ともいえる曲なのである。
(つづく)
 

追記:11月2日

ロサンゼルス出身のミュージシャンで、ベビメタファンでもある井上ジョー(Joe Inoue)によるサビの英訳については、ご本人が動画で解説しているのでご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=mDvBEH7LnVE&t=684s
「上へ参ります下へ参ります」のところは、「Girl we’ re going up Girl we’re going down」と「Girl」を用いて、女の子同士が呼びかける感じを出し、次の「See the whole world spin, spin, spin around」のところは「spin,spin,spin」と繰り返すことによって、歌詞が聴き取りやすく、世界がぐるぐる回る感じを出したそうだ。
「Life can be such a pain in the butt」の「pain in the butt」はお下品な表現だが、人生のキビシさを表現しているという。
合いの手をはさんで、「Its like, oh my gosh Life's so scandalous」は「Its」で始めることでフランクな感じになり、「my gosh」と「scandalous」が韻を踏んでいるという。
「One day I’m happy, one day I’m a mess」「Hang on cause I will never give up」は、いい日もダメな日もあるけど、しっかりつかまって絶対ギブアップしないという素直な表現になっている。
日本語の歌詞とは全然違うが、女の子の日常をメタルパワーで応援するという意味では、この曲のテーマを深く読み込んだ上で、ネイティブな語感で素晴らしい英訳をしてくれたと思う。ありがとうございます。