解題メタル銀河(9) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月28日は、2018年、初のヘッドライナーフェスDarknight Carnival@SSAが行われた日DEATH。


「PA PA YA!!」は、横アリ公演開催前に配信リリースされ、『METAL RESITANCE EPISODE Ⅶ -APOCRYPHA- CHOSEN SEVEN』THE ONE 版BDのパッケージにも同封されていた。
すでにお馴染みのように、ライブではパイロの炎が上がり、観客は湘南乃風よろしく、タオルを振り回す熱狂チューンで、タイ人ラッパーのF.HEROをフィーチャーしているので、タイ風なのかと思うが、実はタイの大衆音楽っぽくはない。


同じ東南アジアでも、フィリピンの楽曲(OPM)は、カトリック教会音楽とアメリカンポップスの影響を強く受けているので、ボサノバ級とまではいかないが、少なくとも日本の70-80年代歌謡曲よりもお洒落である。
例えば、普通に教会で歌われる楽曲に、Key=EでG#m7→C#m7→F#m7→B7とか、Key=CでC→Caug→F→Fmとか、Key=GでG→Ddim→Am-Aaug-Am7→D7→G△とかが頻出する。
しかしタイ、マレーシア、インドネシアといった国々の大衆音楽、とりわけカラオケで歌われる流行歌は、基本的に日本の演歌や70-80年代のニューミュージックを、コブシを利かせて歌っているような感じがする。
タイに関して言えば、ルークトゥンと呼ばれる大衆歌謡は、演歌っぽい47抜き音階、それを脱していても循環コードを中心とした哀愁を帯びたメロディ、アコースティックギター+泣きのギターといったバンド編成、さもなくば、コブシを利かせつつK-POP風に16ビートのセクシーダンス化したものが多い。
「PAPAYA!!」にその痕跡を求めるなら、F.HEROがラップしているバックに流れるKey=Cmの「♪ソソドソ/ラ#ソファレ#/ファレ#ソレ#/ファレ#ドラ#…」という大正琴のようなマイナー47抜き旋律がそれに当てはまる。
このスケールはマイナーペンタトニックに似ているが、ファ#がないので決定的にダサい。
逆に言えば、ファ#の音をチョーキングやスライドで入れれば、一気にアメリカ南部デルタの香り漂うブルースになってしまう。
この音を絶対使わずに、ディストーションをかけたパワーコードで、
Cm→D#→G#→A#→Cm→D#→G#→G7
というコード進行にさっきの47抜き旋律を重ね、正真正銘のタイ人ラッパー、F.HEROのラップを入れることで、70-80年代ニューミュージックにも、K-POPにもならない範囲で「タイ風」を演出しているのだ。
なぜ、素直にペンタトニックを使わないで、こんな面倒くさいことをやるのか。
それは、ファ#の音を入れてマイナーペンタトニックにすると、「Kagerou」になってしまうからだ。
「Kagerou」もKey=Cmで、「♪I I I knew it 隠していても You You don’t believe it わかることでしょCrazy Crazy Crazy どうかしてる」のところのコード進行は、
Cm→D#→G#→A#→Cm→D#→G#→「♪どうかしてる」のユニゾン
であり、「PA PA YA!!」とほとんど同じなのである。
「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のKeyはC#m。それより半音低いのはSU-の音域が、成長にともなって下がってきたからだろう。
同じKey=Cmだが、ファ#の音を絶対使わず「♪ドンツク/ドンドン/ドンツク/ドンドン」という2拍子のリズムにするとタイ風の「PAPAYA!!」になり、ファ#の音を入れたペンタトニックで「ズンズンチャーツカ/ズンズンチャーツカ」という4拍子のリズムにすると、アメリカのR&B風になるのだ。
「PAPAYA!!」をタイ風にしたのは、テーマが「お祭り」だからだ。
「In The Neme Of」が原始部族の呪術、「Oh! MAJINAI」が中世の呪文だとすれば、「PAPAYA!!」はアジア的な「お祭り」。
「お祭り」は元々宗教的な行事である。
近代合理主義や科学的思考とは真逆であり、目には見えない神様のご加護に感謝し、収穫物や酒、歌や踊りを奉納し、神様から下されたそれらを、みんなで蕩尽するのが「お祭り」の本質である。
横アリで初披露されたとき、新生BABYMETALの再出発を祝して、ぼくらはタオルを振り回して笑顔で歌い踊った。あれはキツネ様に捧げる祝祭だったのだ。
「ねぶた」のハネトを想起すれば、「お祭り」につきものの動作は「飛び跳ねる」ということである。だからSU-はこの曲で「んJump! んJump! んJump!」と煽るのだ。
では「Kagerou」のモチーフであるR&Bとは何だろう。
ブルースは南部デルタ地帯の黒人音楽だった。正式に音楽教育を受けていないギタリストが、3コードだけで起承転結を持った歌を作り、歌に合わせて我流で弦をビヨーンとチョーキングしたら、それが得も言われぬ感情表現となった。
ブルースはシカゴなどの都会でR&Bへと発展した。
2018年のDarksideで、SU-はこの曲をソロで歌い、ユラユラと踊った。


あれは、悩みを抱える女性が、ひとりクラブで踊っている姿だ。都会には共同体がない。みな孤独だ。だから、ひとりで踊り、運命=神と対話する。
今年になって三人で踊るようになったが、この曲のモチーフは孤独なダンス、つまりたった一人の「お祭り」なのだ。
ジャズに発展していく流れもあったが、R&Bはカントリー音楽(ヒルビリー)と「融合」してロカビリーになり、ロックンロールになった。ここからディスコ、ヒップホップへと発展していく流れもあったが、イギリスに渡ったR&Bはブリティッシュロックになり、ハードロックが生まれ、メタルが生まれた。
その原点としてのR&Bが「Kagerou」のモチーフなのだが、それはアジア的なお祭りメタルである「PAPAYA!!」と双子の曲だったのだ。
我ながら、小泉文夫みたいになってきたぞ。
いや、それほど『METAL GALAXY』が広大な音楽観を持っているということだろう。
(つづく)