解題メタル銀河(8) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月27日は、2012年、さくら学院祭2012@恵比寿ガーデンホールが行われた日DEATH。

SU-が『METAL GALAXY』収録曲で一番好きだという「Oh! MAJINAI」は、「META!メタ太郎」のバイキングメタルに続く、ヨーロッパの民族音楽をモチーフとするフォークメタルの雰囲気を持っている。
フィーチャリングされているJoakim Broden(V)が属するSABATONは、歴史上の「戦闘」をテーマにした勇壮なバイキングメタルで、聴けばテンションが上がる。とりわけ西南戦争のLast Samurai=西郷隆盛軍をテーマにした「SHIROYAMA」は、日本人には涙チョチョぎれる曲で、2018年のDarknight Carnival@SSAや神戸ワールド記念ホール公演で、ファンになったメイトも多いだろう。


だが、「Oh! MAJINAI」は、スウェーデン出身のSABATONというより、フィンランドのフォークメタルバンド、Korpiklaaniの楽曲に近い。
Korpiklaani は、1997年に結成されたフォークバンドShaman(シャーマン)が前身で、2003年のデビューアルバム『Spirit of the Forest』の邦題が『飛び出せコルピクラーニ』で、MV配信曲「Wooden Pints」が「酒場で格闘ドンジャラホイ」だったりしたため、メタル以外でも話題になり、サブジャンル名も「森メタル」「旅メタル」「酒メタル」などと称されている。
メタルバンド編成に、ヴァイオリン、ヨウヒッコ(フィンランドの民族弦楽器)、アコーディオンなどが加わっており、ライブでのレパートリーには、乃木坂46の生田絵梨花が得意とするフィンランドの伝統民謡「Ievan Polka」もある。


(「イエバンポルカ」Korpiklaani版 Key=Dm)
https://www.youtube.com/watch?v=EaTISifHaeg
(「イエバンポルカ」生田絵梨花版 Key=D#m)
https://www.youtube.com/watch?v=84EHpM6x4NY
「Oh! MAJINAI」は、このポルカの2拍子のリズム(♩♪♪/♩♪・/♩♪♪/♩♪・/)で作られている。キーは生田版と同じ(Key=D#m)で、BPMはKorpiklaani版に近く、ヴァイオリンもメロディラインに終始入っている。
ヨーロッパの民謡なのにアジアの香りがするポルカは、19世紀の東欧チェコで生まれたとされるが、チェコ=スロバキアはハンガリー王国の侵攻、支配を受けていた時期が長かった。
ハンガリーは地理的には東欧に属し、現在はスラヴ人などと混血しているが、かつての主要民族はマジャル人という。「マジャル」は「モンゴル」が訛ったものといわれ、中央アジアから移動してきた遊牧騎馬民族、ヨーロッパ人から見て、広義の「フン族」に属する。ハンガリー語は言語学的にはウラル語族に属する。
フィンランドのフィン人もまた、男性のY染色体ハプログループは、モンゴロイド由来のN型が圧倒的に多く、ハンガリーと同様、中央アジアのフン族が西へ西へと民族移動した果てにたどり着いたと考えられている。フィンランド語はウラル語系であり、フィンランド人は外見的には金髪碧眼の北欧人っぽいが、バイキングというより、中央アジアの遊牧民族の文化を継承しているわけだ。
だから、どこかアジアの匂いがするポルカが、チェコやフィンランドで盛んなのだ。
さて、「Oh! MAJINAI」のテーマとなっている「オマジナイ」は呪文のことである。
「In The Name Of」が原始部族の呪術儀式の雰囲気を持つとしたら、「オマジナイ」は、呪術がより日常化したものといえる。
歌詞にある「Oh my gosh, oh my gosh, we’ve hit a dead end no where to go…」「Let’s make a wish!」(Jaytc意訳:神様、神様、私たちは追いつめられましたどこにも行けません…お願いしよう!)は、ぼくらが日常生活で行き詰まった時、いつもやっていることである。
西欧的な合理主義、科学的思考では、お祈りやオマジナイは、無意味だ。
だが、人間は理性だけでは生きていけない。状況を変え得るオマジナイがあるなら、頼りたくなることだってある。そして祈りやオマジナイは、実際に効くのだ。
できる限りのことをやった上で、どうしようもなければ、オマジナイを唱えることで、人間は超自然的な力が働くことを期待する。その結果、状況が好転することもある。それはやったことが後になって効果を発揮した結果、あるいは単なる偶然かもしれないのだが、それが「ご利益」だと信じることで、その後の行動がより積極的になる。
江戸時代に、そうした庶民の信仰を一身に集めたのが、キツネ様こと稲荷神社だった。
お稲荷様を信仰することで、庶民は「すべては自分の責任である」という重圧から解放され、人間の力の及ばないことには「神様に委ねる」と達観して生きることができる。
この曲の舞台は北欧もしくは東欧の森であるが、そういう感覚は洋の東西を問わず、庶民の生きる知恵だ。
時間軸としては、「In The Name of」が狩猟採集部族の時代だとすると、「Oh! MAJINAI」は牧歌的な中世ということになる。
「♪ナイナナナイナイナイナイナイ…」の部分は、少女たちと大男とが輪になって踊っているように思えるが、「Let’s make a wish!」のあとの「♪Help me please! Please! Save me please! Please! Please, please, oh, please!」のところは誰が歌っているのだろう。
ぼくの推測では、これはMOAのグロウルだ。オートチューンをかけているかもしれないが、これで「魔女」の声を表現しているのではないか。
だから、この曲は村の外れ、森の中で深夜、願いを叶えたい少女たちと魔女と大男が輪になって呪文を唱えている情景になる。
なぜ、村の外れの深夜でなければならないのか。
それは、オマジナイ=呪術は、社会の「良識」から見れば異端だからだ。
ここにロックやメタルの意義がある。決してポリティカル・コレクトではない、庶民の本音を歌うのが流行り歌、その中でも人間の魂の叫びを表現するものがロックであり、その極北がメタルという音楽だ。
「音楽史の惑星」でも見てきたように、『METAL GALAXY』の楽曲は、時代ごとに流行した音楽を取り入れているようで、実はそれらはすべて、メタル的に再解釈されていた。
「Oh! MAJINAI」は北欧・東欧のポルカのリズムで、バッキングサウンドに過激なものはないが、「オマジナイ」をテーマにしているのは、そこに西欧的合理性では割り切れない人間性の本質があるからだ。
ともあれ、BABYMETALの楽曲群、「メギツネ」(日本)~「PAPAYA!!」(タイ)~「Shanti Shanti Shanti」(インド)~「Oh! MAJINAI」(フィンランド)は、ユーラシア大陸を東から西へ横断する旅となっていることがわかる。
イギリス発祥のメタルは、アメリカを経由して日本にたどり着いたわけだが、BABYMETALは日本を起点として、アメリカを経て、2020年にはイギリス、西欧、中欧、北欧、東欧へと東進していくのだと考えることもできる。
いずれにせよ、『METAL GALAXY』は、壮大なメタル世界一周をやっているわけだ。
やっぱりすごいよね。
(つづく)