解題メタル銀河(7) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月26日は、2014年、BABYMETALが出演したGoogle公式AndroidのTVCMが放映された日DEATH。

『METAL GALAXY』の各国最高位チャートが確定した。
日本ではオリコン10月10日付デイリーで1位、10月21日付ウィークリーで3位。ビルボードジャパンの10月21日付ウィークリーで3位。
アメリカでは、10月26日付ビルボード200で13位、Top Album Salesで2位、Top Rock AlbumsとHard Rock Albumsでいずれも1位となった。
イギリスでは、Official Albums Chart Top 100の10月18日付で19位。Rock & Metal Albumsで1位。
その他、ドイツ・オフィシャルチャートで18位、フランスのSNEP公式チャートで115位、スイスのシュヴァイツァー・ヒットパラーデで46位、オーストリア・アルブントップ75で30位、オランダのダッチチャートで95位、フィンランドで40位といったところ。
登場2週目で順位を上げたところはなく、BABYMETALは各国のコアなファンに支えられており、初動型であることを示している。また、チャートの元になったアルバム換算ユニット数のほとんどがCDの実売数となっており、他のメタル/クラシックロックバンドと同様、「古風な」ファンがBABYMETALの主要顧客であることも鮮明になった。

「FUTURE METAL」「DADADANCE」「Brand New Day」「↑↓←→BBAB」「Night Night  Burn!」「BxMxC」と分析してきたが、ここまで宇宙船『METAL GALAXY』号が巡ってきたのは、1980年初頭のテクノ、1980年代後半から90年代前半のMAX・TK・ジュリアナサウンド、シティポップ、サンバ調、ヒップホップ/ラップといった、過去の日本の音楽シーンに現れた様々なスタイル、いわば「音楽史の惑星」を巡ってきたわけだが、ここからは世界各国の音楽を取り入れた「民族誌の惑星」を巡る旅となる。
まずは、2017年の広島Legend-S-で初披露され、2018年Darksideツアーのオープニングに使われていたインスト曲「In The Name Of」。
KOBAMETALは『ヘドバンVol.24』のインタビューで、南米のメタルバンド、セパルトゥラの『Roots』(1996年)収録の「Roots Bloody Roots」のような“ポポン”という太鼓の音を入れた曲をやってみたかったと語っている。(『ヘドバンVol.24』P.84三段26行目~)


だが、BABYMETALの「In the Name of」のイントロ部分はラテン語?のチャント付きのゆったりしたもので、2012年の「第2回アイドル横丁祭り」出演時にオープニングに使われたフランスのニューエイジバンドeRaの雰囲気がある。
このパートは、2017年広島の「Legend-S-洗礼の儀」ではキツネ男たちが、SU-の乗ったキツネ像円盤を鎖で引いてゆくときに使われたので、「Roots Bloody Roots」MVに出てくるブラジル先住民の部族やカポエラの映像というより、なんとなくハリウッド映画に出てくる古代エジプト王朝の奴隷労働シーンみたいだと思っていた。
KOBAMETALがやりたかった“ポポン”という太鼓の音は、広島ではSU-が矢を放ちDjentなギターのイントロからバンドが始まるときに響く。
そこからは、森の中に住む部族の儀式とか、奴隷の反乱を思わせる、原初的な人間の魂が呼び起こされるような曲調となっている。
歌詞カードには「In The Name of FOX GOD」とあるだけだが、この曲にはちゃんと歌詞がある。

日本盤のBD画面には表示されないが、なぜかアメリカのiTunesで配信される『Legend-S-洗礼の儀』映像にはスーパーで表示されるのだという。
Redditでファンの方が書き出してくれたのを元にぼくが聴き取りなおしたのが、これ。翻訳はJaytc。
―「In the Name of」歌詞引用―
Night and Days(夜と昼)
Heaven and Hell(天国と地獄)
Joy and Sorrow(喜びと悲しみ)
Light and Shadow(光と影)
Praise be to fire(讃えよ、火を)
Praise be to light(讃えよ、光を)
Praise be to hope(讃えよ、希望を)
Praise be to dark(讃えよ、闇を)
What is dead(死せる者は)
May never die(二度と死なない)
What is dead(死せる者は)
May never die (die)(二度と死なない、死なない)
In danger, in danger, in danger, in danger x2(危険だ、危険だ、危険だ…)
Night and Days(夜と昼)
Heaven and Hell(天国と地獄)
Joy and Sorrow(喜びと悲しみ)
Light and Shadow(光と影)
Praise be to fire(讃えよ、火を)
Praise be to light(讃えよ、光を)
Praise be to hope(讃えよ、希望を)
Praise be to dark(讃えよ、闇を)
What is dead(死せる者は)
May never die(二度と死なない)
The forces against me(私に迫る力は)
Will all be destroyed(すべてを壊すだろう)
Death(死)
Queen(女王)
God(神)
Devil(悪魔)
…聴き取り不能…
In danger, in danger, in danger, in danger x2(危険だ、危険だ、危険だ…)
…聴き取り不能…
In the name of the Goddess(女神の名のもとに)
In the name of justice(正義の名のもとに)
In the name of the Fox God(キツネ様の名のもとに)
―引用終わり―
歌詞カードのクレジットでは、Lyrics & Music:KITSUNE OF METAL GODとなっているので、KOBAMETALの手になるものだろう。
二項対立的な単語が並び、原初の人間集団が火を囲んで行う呪術儀式を思わせる。
かつてのオープニング曲「BABYMETAL DEATH」は、キツネ様に召喚された三人が「DEATH!DEATH!」と叫びながらトランス状態に入り、最後の「キーン」というハウリング音で、真っ赤に染められた会場が、降臨したキツネ様の「結界」になる。日常のしがらみに「死」を宣告し、非日常への扉を開ける曲だった。
「In The Name Of」にもそうした雰囲気があるが、この曲で呼び覚まされるのは、キツネ様の神秘というより、人間が本能的に持つ原初の感情である。
現代に生きるぼくらは、電気・ガス・水道はもとより、鉄道、自動車、船舶、飛行機、テレビ・ラジオ、家電製品、電話、インターネットなど文明の利器に囲まれて暮らしている。
ぼくらの生活は、政治、流通、経済、社会のシステムに組み込まれることなしに成立しない。
学校、職場の友だちや同僚とのつながりや、個人ビジネスであっても取引先との人間関係に縛られており、ネガティブな感情を露わにすることは恥ずかしいこととされる。
だが、そうした日常を生きながら、ぼくらの心の奥深くには、言葉では表現しがたい本能的な感情が眠っている。

それは、5万年前にアフリカを出て、ユーラシア大陸を東進し、最も早い集団は2万年前、最も遅い集団は2000年前~1500年前の弥生時代~古墳時代に日本列島にたどり着いたぼくらの祖先の種族的記憶である。

餓え・渇きへの不安、自然の脅威や危険な動物への恐怖、獲物を追い詰めるスリル、木の実や食物収穫のうれしさ、新しい生産技術への驚き。子どもが生まれる喜び、親しい者が死んでいく悲しみ。侵攻してくる他部族への憎悪。それらすべてを乗りこえる超自然的な力への渇望と祈り。
もちろん、DNAは身体のハードウェアの設計図であって、ソフトウェアである個人的記憶までが遺伝するはずはない。
にもかかわらず、極限状況に対するリアクションや惹起される感情は、類縁集団で異なる傾向を持つことを、ぼくらは経験的に知っている。
それがその集団が歩んできた歴史による淘汰の結果なのか、後天的な代々の教えの結果なのかはわからないが、「民族性」や「国民性」といわれるものの元になっているように思う。
ともあれ、「In the Name of」は、ぼくらが日常性の中に眠らせている原初の感情を刺激し、かつて、自然と共に生きるしかなかった人間の小集団=本来の意味でのBandだったご先祖様の記憶へとタイムトリップさせてくれる楽曲である。

SU-とMOAは、ぼくらを導くシャーマン(巫女)である。音楽こそ、ぼくらを日常から解き放つトリガーであり、そこでぼくらメイトは新たな部族(トライブ)の契りを結ぶ。
この曲があるおかげで、『METAL GALAXY』は、太古の部族社会から、すべてがデジタル化された未来のメタルまで、人類が辿る数万年の時間を巡る旅にもなっているのだ。
(つづく)