解題メタル銀河(6) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月24日は、2011年「ド・キ・ド・キ☆モーニング」DVD+タオルが限定販売され、2012年、雑誌「Studio Voice」でBABYMETAL特集が掲載され、2015年、名古屋放送「ドデスカナイト」に出演し、2018年、World Tour 2018 in Japan@幕張メッセイベントホール二日目が行われた日DEATH。

Disk 2の4曲目に置かれた「BxMxC」は、『METAL GALAXY』の収録曲で、最もメタル度が高い曲だと思う。
「B、M、C」と繰り返すデスボイス、バックに流れる9弦ギターの9弦開放(C#)を使った重低音のリフは、「BABYMETAL DEATH」以来のデスメタル調であり、電子音とSU-のラップがなければ、ドゥームメタルの雰囲気さえある。

ラップメタルということでいえば、この曲は「おねだり大作戦」の後継者かもしれない。

ところが、『PMC Vol.15』の百問百答のQ48「実は、最初「これは無理!」って思った曲がある?」という質問に、SU-METALは、「「BxMxC」かな。」と答えている。(P.49左段35行目)
それはなぜか。
4/4拍子を三連符の連続にするのは、ディープ・パープルの「Black Night」以来、ロックギターの基本だが、日本語のラッパーも多用するらしい。
ラップでは、韻の踏み方をライム(Rhyme)、歌い回しをフロウ(Flow)という。
「BxMxC」は歌詞が決まっているのでライムを気にする必要はないが、SU-はシンガーだから、正確にラップしながらフロウで勝負しなければならない。
『Rolling Stone Japan』のインタビューで、SU-はこう語っている。
―引用―
SU-METAL:そもそもラップの経験はなかったんです。これまでの歌入れは、まずはとりあえずラララーと歌ってみて、ヴォーカルラインみたいなものを作ってから、歌詞を作っていくというやり方が多かった。でもこの曲に関しては違って、オケがあって歌詞があって、じゃあラップしてみてって。だから最初は本当に探り探りでした。ヒップホップでよく言われる…なんかあの…あーど忘れしちゃった!
MOAMETAL:フォ…フォールじゃなくて?
KOBAMETAL:フロウ?
SU-METAL:フロウだ!(笑)。そのフロウの感覚を掴むのに、どうやって上から下に下げるのとか、逆にどうやって下から上に上げるのとか、どのタイミングでそれをやったらいいのかとか、いろいろトライしてみたのでいい挑戦になりました。
(『Rolling Stone Japan 2019年11月号』P.121一段3行目~)
―引用終わり― 
この曲のキーは「イジメ、ダメ、ゼッタイ」と同じC#m。SU-のもっとも得意な音域である。
基本となるSU-のフロウの音をとってみると、「ド#ド#ド#/ド#ド#ド#/ド#ド#ド#/ミド#ド#/」という音階。声のトーンはサディスティックなほど冷たく強いが、そこに1オクターブ高い「♪それはそれは(ソ#ド#(OcUpド↑)・ソ#ド#(OcUpド↑)」が入る。最後の音はわざと調子外れに基音のオクターブ上のド#ではなく半音下げたドから、ギターのチョーキングのように音を上げている。
「♪流行り廃り気取り↑ 身振り手振りかまし↑ 誇り↑ 証し↑ 探し↑ バトり↑」のところは、ファルセットを用いて「ソ#ソ#(OcUpソ#)↑」のような音階で歌っている。
三々七拍子の「♪Wanna Wanna Wanna be」と「♪What Some What Some What Some Beat」のところでも「ド#ド#ド#(1OcUp)ソ#↑」という音階である。
アカペラの「♪言葉 巧み 飾り ひとり ふたり 踊り↓ 狼煙 火消し↓」のところでは、逆に1オクターブ高いところから「ド#(OcDnファ#ド)↓」のような下降音階で歌っている。ここも、基音のド#ではなくドから音を下げ気味に歌っている。これはギターのアームダウンないしスライドダウンのような感じ。
おそらくシンガーとして難しいのは、基本の「ド#ド#ド#/ド#ド#ド#/ド#ド#ド#/ミド#ド#/」が正確なピッチなのに、「↑」「↓」のところでは、ファルセットを使って、わざと正確な音階ではなく、調子外れにするところだろう。
経験したことのない表現方法だったから、悩みながらレコーディングしたのだろう。
MOAMETALは、『PMC Vol.15』で、タイトルの語感が似ていることから、「『PMC』を読んでくださってる方に聴いてほしいのは「BxMxC」。今日、これは言いたかった(笑)。」とチョケながら推している。(『PMC Vol.15』P.23左段23行目~)
ラップに関してはこんな具合だが、バッキングのサウンドはやはり一筋縄ではいかない。
前述したように9弦ギターの開放9弦はC#で、通常の4弦ベースの最低音である開放4弦Eより1音半も低い音だ。
これをルートにしたパワーコードにオカズが入った程度のリフが3連符で流れ続ける。ソロもない。ただただ重低音のC#mが続く。
これが「BxMxC」の異様さを演出している。

バッキングサウンドからいえば、調子外れの電子音、1つのコードを延々と演奏し続けるという意味で、「BxMxC」は「ギミチョコ!!」(キー=E)にも似ている。


「♪アタタタタータたーたタタ、ズッキュン!」にあたるScreamは「♪それはそれは」だろう。
ただし、「♪C!I!O!(チェケラ)チョコレート、チョコレート…」の夢のようなコード進行は「BxMxC」にはなく、調子外れのラップが全編展開する。
ぼくのようなオールドマンは、メロディもハーモニーもないラップはあまり好きになれないのだが、日本でラップ/ヒップホップダンスがテレビで流れるようになったのも、実は1980年代後半から1990年代前半のバブル期である。
テレビ朝日系列でダンス番組『DADA L.M.D』の放送が始まったのは1989年。スチャダラパーが1stアルバム『スチャダラ大作戦』をリリースしたのは1990年。日本テレビ系列『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で、「ダンス甲子園」が始まったのは1991年。
その後m.c.A・Tの「Bomb A Head!」(1993年)、EAST END×YURIの「DA.YO.NE」(1994年)などが大ヒットした。
『元気が出るテレビ』といえば1987年頃、メジャーデビュー前のX-Japan(当時はX)を含む数組のヘヴィメタルバンドが、ヘビメタ野郎運動会、燃えろヘビメタ!!、早朝ヘビメタ、やしろ食堂ライブなどを生んだ人気コーナー「ヘビメタシリーズ」に出演していた。
だが、90年代に入ると「ヘビメタシリーズ」に代わって番組の中心になったのは「ダンス甲子園」だった。80年代のメタルブームは、90年代のダンス/ヒップホップ/ラップに取って代わられたのだ。
ちなみに、当時高校1年生だった山本太郎は「第1回ダンス甲子園」で人気を博し、芸能界入りした。曲はジューダス・プリーストの「ペインキラー」だった(^^♪。
だからX-Japanをオマージュし、メタルの後継者たるBABYMETALにとって、ラップとダンスをメタル的に再解釈することは、時空を超えたテーマなのだ。といっても、あの頃を知らない人や海外ファンには全然わかんないだろうなあ。
歌詞に頻出する「♪てきなメタルサイファー」とは、仲間が集まってフリーラップをする「サイファー」をメタル的にやっているという意味らしく、「BxMxC」というタイトルも、「BABY METAL CYPHER」の略語らしい。
ネットの板では、「ライブでどうやってノッたらいいの?」「とりあえずBMCとビーだけ叫んでおけばいいんじゃね」というような声もあるが、「中毒性がエグすぎる」「イカれてる(誉め言葉)」という書き込みも多かった。
これも「ギミチョコ!!」の中毒性と共通する。
なんなら、「BABYMETAL DEATH」と「ギミチョコ!!」と「おねだり大作戦」を1曲にまとめ、Kawaii要素を削ったら、ラップメタルの未来形=「BxMxC」になった…。そんな言い方ができるかもしれない。

ところが、1枚組の海外盤は14曲で、この曲と「↑↓←→BBAB」が入っていない。
ディスク容量から仕方ないこととはいえ、この前衛性、実験性こそがBABYMETALだというのに、残念である。
(つづく)