解題メタル銀河(5) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月23日は、2011年、さくら学院祭2011で「ド・キ・ド・キ☆モーニング」が披露され、2018年、World Tour 2018 in Japan@幕張メッセイベントホール初日が行われた日DEATH。

SU-METALによれば、「一番長く時間がかかった曲は「Night Night Burn!」で、6年ぐらいかけてやっと完成した…ようやく形になったっていう。」(『ヘドバンVol.24』P.22中段)だそうだ。
確かに「Night Night Burn!」=「いない、いない、ばあ!」は「Catch Me If You Can」=「かくれんぼ」と同じく子どもの遊びだから、BABYMETALに相応しく、2013年頃から原型があったというのは理解できる。
では、なぜ6年間もお蔵入りにしていたのか。
それは、サンバのリズム=16ビートが、「本格的なメタルらしさ」を訴求しようとしていた初期BABYMETALには不適だと考えられていたためだろう。
確かに、最初のヘヴィギターのリフのあと、00‘14“過ぎのパーカッションから始まるイントロだけ聴けば、大黒摩季か、前田亘輝が歌い始めてもおかしくない。
つまり、この曲もまた90年代、それも1990-93年頃、バブル崩壊期の匂いがするのだ。
短調のサンバという曲調は大黒摩季の「あなただけ見つめてる」(1993年)にちょっとだけ似ているし、ラテンというならユーミンの「真夏の夜の夢」(1993年)の雰囲気もある。


間奏部のパーカッションが入るところは、TUBEの「あー夏休み」(1990年)にも似ているが、ブラスの入り方は「猪木ボンバイエ」(1977年)のイントロ「Fight! Fight!」のところにソックリである。
アントニオ猪木の参議院議員初当選は1989年。

崩壊したソ連のアマレスラーを呼んだり、湾岸戦争の最中、イラクのイベントで人質を解放したりして話題を集め、1992年には江本孟紀を擁立、「スポーツ平和党」は2議席を獲得した。バブル期は、政治家としての猪木ブームだった。今の山本太郎みたいな存在だったのだ。
なぜこの時代にサンバ、ラテン調の楽曲が流行ったのかわからない。今となってはちょっと暑苦しく、言っちゃ悪いが、ダサい。
しかし、実はそのダサさこそ、この曲の狙いではないか。

―歌詞引用―
「Night Night Burn!」作詞:NORiMETAL・ Hola-METAL
Hola!まぁ、マンマミーア! Hola!まぁ、マンマミーア!
おやまぁ、マンマミーア! ちょっと待ってちょっと待ってちょっと!
Hola!まぁ、マンマミーア! Hola!まぁ、マンマミーア!
おやまぁ、マンマミーア! 唄って踊ってバッタンキュー!
(中略)
アタッタッタッタッタッってオドって ハジケテ パーティピーポー
ノッて ノッて 朝まで ノッて ちょっと待ってちょっと待ってちょっと!
エビバディ気分は上々 BPMがキュッキュ急上昇 
さあもっと踊ってノッて クルっと回ってスットンキョー
―引用終わり―

こういう歌詞がストレートな感情表現とは思えない。そうではなく、バブル崩壊期の日本でなぜか熱狂的なサンバ/ラテン調の曲が流行していた「あの時代」へのオマージュなのだ。
MOAのコーラス部分も、
「Ole! Oh! Ole Oh! Oh! Oh! Oh!」とか、
「Tico Tico Tin、Tico Tico Tin、Tico Tico Tin Tin Tin」
とか、スペイン語でもポルトガル語でもないが、なんとなくラテンっぽい響きになっている。
そもそも「いない、いない、ばあ!」を「Night Night Burn!」と書くこと自体、パロディではないか。
メロディラインも、例えばサビ最後の「♪まだまだNight Night Burn!」のところは、(ファ#ミファ#ミファ#ソ#ド# コード:F#m7→G#m7→C#m)だって、トレンディドラマの主題歌みたいで、ハッキリ言ってダサい。
ところが、バッキングのサウンドはなかなかどうして複雑である。
冒頭の13秒間、メタルっぽい重低音のリフとツインギターで始まり、パーカッションのあとはシンプルなディストーションのリフでSU-の歌を支える。
「♪唄って踊ってバッタンキュー」のバックにはギターによる同じメロディがユニゾンで重なり、「♪Ole!Oh!Ole!Oh!…」のところはクリーンなカッティングになるが、「♪Night Night Burn!」から一転して、サビはディストーションギターがバッキングする。
2番では、「♪アタッタッタッタッタッってオドって ハジケテ パーティピーポー…ちょっと待ってちょっと」のところに複雑なDjentのギターフレーズが重なり、続く「♪Ole! Oh!Ole!Oh!…」のところには、クリーンなカッティングのほかにDjentとは真逆のスパニッシュギターが重なる。
2番のサビが終わり、間奏部に入ると、メタルギターのリフにスパニッシュギターの美しい音色が重なり、すぐにブラスの下降シークエンスが始まり、バックはディストーションのパワーコードになる。
「♪Tico Tico Tin…」のところは、このパワーコードが何度も繰り返され、どんどん前面に出てきて、サンバで使われるカウベル(アゴゴ)などの音も入ってくる。「♪みなぎる情熱で舞い上がれ」から1拍おいてトドメの「♪Night Night Burn!」。
終盤の繰り返しのサビは、重低音のパワーコードによる「♪ズクズクズクズク…」というダウンピッキングの刻みが入り、曲の終わりを暗示する。
いたるところにメタルとラテンの「融合」が聴け、何度も聴くうちに、重層的な仕掛けに必ずハマってしまう。
ぼくの見るところ、この曲はバブル崩壊期の日本で、なぜか流行ったサンバ風ポップミュージックをオマージュしつつ、メタルの要素を入れて現代風に解釈し直したものである。
そういう立て付けだから、音楽の時空を巡るというテーマの『METAL GALAXY』だからこそ、陽の目を見たのではないか。
よく考えてみれば、パーカッション付きのサンバのリズムに、重低音のヘヴィなディストーションのリフとDjentのフレーズを乗せ、ブラスとスパニッシュギターを重ねてしまうという音作りは、ジャンルの枠をぶち壊す、常識はずれのものだ。
日本語の歌詞の意味や、日本の音楽シーンの知識がなければ、「何じゃこりゃ?」となるのが普通だろう。メタルではないというなら、それでもいい。
だが、これがBABYMETALなのだ。
(つづく)