解題メタル銀河(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月20日は、2013年、LOUD PARK 13フェス@さいたまスーパーアリーナに、史上最年少で出演し、2015年には、名古屋放送「BOMBER-E」「ドデスカ」で報道された日DEATH。

『METAL GALAXY』には、一般的にメタルのサブジャンルとは思えない楽曲がいくつかある。
冒頭の「FUTURE METAL」で、オートチューンを加えてロボット風の声になったSU-のナレーションは、BABYMETALを今まで通りのメタルバンドだと思っているファンにいきなり痛烈な一撃を加える。
「We are on the ODYSSEY to the METAL GALAXY. Please fasten your neck brace to HEAD BANG. Are you still playing guitar? This ain't HEAVY METAL. Welcome to the world of BABYMETAL.」
(Jaytc和訳:私たちはメタル銀河への旅をしています。ヘドバンに備えてコルセットを締めてください。あなたはまだギターを弾いているの?これはヘヴィメタルではありません。BABYMETALワールドへようこそ。)
ところが、日本盤に付属している歌詞カードには、最初の1文と最後の1文しか書かれていない。肝心かなめの4文目、「これはヘヴィメタルではありません」が隠されているのだ。
横アリやなごやでは、現場での聴き取りだったから、キーが1音(C#m→D#m)上がった「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のコード進行だなあ、メタルギャラクシー、ヘッドバング、ヘヴィメタルといった言葉が並んでいるなあ、メタルの未来を予告しているのかなあといった感想にとどまっていた。
しかし、『METAL GALAXY』が届き、何度も聴いているうちに、これは只ならぬことだという気がしてきた。
前回書いたように、これが2枚組の冒頭に置かれることで、『METAL GALAXY』のコンセプトが、「既存のメタル」「今までのBABYMETAL」の否定ないし超克を目指すという宣言になっているからだ。
3文目の「あなたはまだギターを弾いているの?」は、取りようによっては、暗い部屋で速弾きに命を懸けていたHR/HMギター小僧=既存のメタルヘッズへの憐みにさえ思えてくる。もう、目を吊り上げてシュレッドギターにのめり込むメタルの時代は終わったのよ、とでもいいたげに。
確かに、続く2曲目の「DA DA DANCE」は、完全なユーロビートであり、KOBAMETALが『ヘドバンVol.24』で語っているように、1980年代後半~1990年代前半の音楽シーンを彩ったMAX、TK、ジュリアナ東京の「お立ち台」の雰囲気である。
時折入る「フォー!」というサンプリングボイスは、元々は1986年にトラメイン・ホーキンスがリリースした「In the Morning Time」のエンディングに入っていたものを、オランダのHOUSE OF VENUSの「Dish & Tell」にサンプリングされ、同じくオランダの2アンリミテッドの「Twilight Zone」に引き継がれ、ジュリアナ東京でかけられた「Can’t Undo this」を経由してTRFの「EZ DO DANCE」へとつながっていったのだという。(『ヘドバンVol.24』P.94)。
サビに入ると転調するTK風編曲、01:30過ぎに入るローデチューンされたMOA(OTFGKですが)による日本語英語風ラップ(「ダッダンス、ダーダダンス…オーバーナイトでセンセーション」)、最後のモー娘。「ラブマシーン」風の終わり方などなど、80-90年代風の要素はいたるところにちりばめられている。
そもそも冒頭から入る「♪ベイビーベビーベイビーメロッ」というオートチューンの合いの手にしたって、これまで頑固に、ヘヴィとベビーをかけているから「ベビーメタルですっ」と言ってきた「設定」を自らぶち壊しているし、「DA DA DANCE」というタイトルも、「EZ DO DANCE」のオマージュなのだろう。
The Forum公演で初披露されたとき、「お立ち台」に乗ってボディコン、ワンレンの女の子たちが羽扇をヒラヒラ振るパートがMOA、MOMOKOのダンスに組み込まれてもいた。


とはいえ、マーティ・フリードマンがかつて語った言葉を引用するまでもなく、ジュリアナ東京で女の子とチャラチャラ踊る輩は、暗い部屋で速弾きや禍々しい楽曲の制作にいそしむメタル小僧とは対極ではないか。
しかし、である。
実は、「DA DA DANCE」は、恐ろしいほど高度な演奏技術に支えられた曲である。
曲始まりのリフには9弦ギターが用いられ、0:006-0:010には、DjentなアップダウンフレーズからBABYMETALらしいピッキングハーモニクスで幕を開ける。
曲に入っても、9弦ギターの重低音とDjentなリフは終始鳴り続けている。
16ビート、キーボード+ファンキーなカッティングでは、決してあの音は作れない。
そして、2:22過ぎから、きわめて難度の高い変拍子のDjentなギターリフが始まり、続いて2:34からは松本孝弘によるアームを使って音を揺らした速弾きソロが始まる。
このソロが出色で、使い古された「ユーロビートに絡むディストーションギター」の典型とは明らかに違うプログレッシブなセンスでフレーズが組み立てられている。
つまり、「DA DA DANCE」が16ビートのMAX、TRF風だとて、これは決してノスタルジックな曲ではないのだ。ましてやBABYMETALはメタルを捨てたのではない。


その象徴が『Young Guitar 2019年11月号』 の表紙およびグラビアだ。
EⅡ(ESP)の9弦ギターを抱えたSU-とMOAの写真がふんだんに使われている。
通常のロックバンドは、6弦のエレキギターと4弦のエレキベースが用いられる。
だが、BABYMETALの楽曲を演奏するには、藤岡神、大村神、Leda神が使う7弦ギターが必須で、BOH神は6弦ベースを使っていた。
『METAL GALAXY』の楽曲では、ISAO神が使っていた8弦ギターに加え、ついにAnimals as Leadersなど、超絶テクニックのDjentバンドが用いる9弦ギターが導入された。
9弦ギターはあまりにもフレット幅が広いので、セーハ(すべての弦を左手の人差し指で押さえること)はできないから、通常のコードは弾けない。開放弦を多用し、正確で素早い運指、ミュート、タッピングなどを縦横無尽に使いこなす演奏技術が求められる。
「DA DA DANCE」は、安易に80-90年代の雰囲気を「メタル風」に演奏しているのではない。むしろ、多弦ギター、Djentのリフという高度なメタルの演奏技術をもって、80-90年代の16ビートダンス音楽を「更新」しているのだ。
それはメタル音楽の「更新」でもある。
さらにいえば、それこそ「既存の音楽」には決して留まらず、ジャンルそのものを進化させねば気が済まない、BABYMETALの音楽的な「志」なのだ。
(つづく)