解題メタル銀河(1) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日10月19日は、 2011年、BABYMETAL Facebookページが開設され、2013年、DVD 「Live Legend、I、D、Z Apocalypse」が発売され、2018年、YUIMETAL脱退が発表された日DEATH。

 

2018年の今日、YUIMETAL脱退が発表された。

あれから1年。

YUIMETALへの思いは、メイトなら誰しも抱えている「棘」のようなものかもしれない。

だが、BABYMETALは、前進し続けている。

 

『METAL GALAXY』は2枚組16曲からなるコンセプトアルバムである。
そのコンセプトとは、BABYMETALが「メタル銀河」を旅していくというものであるが、もちろんこれはメタファーに過ぎない。
「メタル銀河」とは、空間的には世界各国の様々なエスニック音楽、時間的には日本の音楽シーンに現れた様々なスタイルの音楽を指す。
リリース前後に、『ヘドバンVol.24』、『ぴあMusic Complex(PMC)Vol.15』、『Rolling Stone Japan 2019年11月号』、『Young Guitar 2019年11月号』などの雑誌で、SU-、MOAだけでなく、プロデューサーのKOBAMETAL、振り付けのMIKIKO先生らがインタビューに答えているので、それらを参考に、『METAL GALAXY』とは、BABYMETAL史においてどんなアルバムなのか、それが日本や世界の音楽市場にどんな位置や意味を持つのかを、ぼくなりに考察してみたい。
色々なインタビューの中で、ぼくが最も衝撃を受けたのは、次のSU-METALの発言だった。
「そもそもメタルっていう音楽に対するレジスタンスをずっとやってきたわけじゃないですか。そしたら、今度は「BABYMETAL」はこうじゃなきゃいけない」というものが広まり始めて、BABYMETALって凄く自由にメタルを楽しくやってたのに、それが確立されてしまっていて。それって、私たちが今までやってきたものではないよねっていう思いになってきたんです。」(『ヘドバンVol.24』P.22下段13行目)
「元々は既存のメタルにレジスタンスする存在として始まったものだったのが、ありがたいことにBABYMETALというものが知られてきて、そこで“理想のBABYMETAL像”みたいなものがみんなの中に出来あがっていったと思うんです」(『Young Guitar 2019年11月号』P.16中段40行目)
言葉遣いは多少違うが、語っている内容は同じである。
2012年のLegend-I-以来、「紙芝居」で語られたメタルレジスタンスとは、メタルを武器に「巨大勢力アイドル」ないし、メタル音楽が絶滅しかかった音楽状況をくつがえし、「メタルで世界を一つにする」ための戦いだと思っていたのだが、そうではなく「そもそも」「元々」「既存のメタル」に対する反抗だったというのだ。

SU-の言葉を素直に読めば、「既存のメタル」こそが「悪」であり、BABYMETALはそれらを根絶するために戦ってきたことになってしまう。
だが一方で、SU-とMOAはメタリカやジューダス・プリーストといったメタルレジェンドへのリスペクトを表明し続けている。
SU-「私たちにとっての“メタルの神”みたいな存在は、やっぱりメタリカさんなのですよね。たぶん、そこはずっと変わらないと思います。」(『ヘドバンVol.24』P29二段18行目)
MOA「ロブさんにお会いしたときに、「Stay Metal」っていう言葉をいただいて。それと同時に、「君たちが未来のメタルを背負ってくれ」という言葉も託していただいているので、その言葉を受けて、私たちはそういう存在になりたいなっていう思いが強くなりました。」(同3段15行目)
SU-は2013年サマソニでメタリカを見て初めてメタルという音楽が理解できたと常々語っているし、『PMC Vol.15』では、Q87「どなたかとツアーを回るとしたら、だれと回りたいですか」という質問に対して、「メタリカさん」と即答している。(P.50二段4行目)
MOAの発言は2016年のAPMA’sでのロブ・ハルフォードとの共演のことを言っているのだろう。
ステージ上でも、BABYMETALは2017年1月にはメタリカのソウル公演のOAを務めたし、2018年11月にはジューダス・プリーストのシンガポール公演のOAを務めた。
だから、BABYMETALが安易に「既存のメタル」を否定するとは思えない。
つまり、引用したSU-の発言とは、「メタル」ではなく「既存の」に重心がかかっていると考えた方がいいだろう。
だから、『METAL GALAXY』は、「既存のメタル」(正)に対して、レジスタンス(反)を示し、「新たなメタル」像(合)を提示する、弁証法的な性格を持ったアルバムなのだ、ととりあえず言っておこう。
その上で、
「『METAL RESISTANCE』がBABYMETALからメタルへのレジスタンスだとしたら、今回のアルバムは今のBABYMETALからそれまでのBABYMETALへのレジスタンスという意味もあると思うんです。」(『ヘドバンVol.24』P.25一段1行目)
というSU-の言葉をどう考えるか。

KOBAMETALは『ヘドバンVol.24』で、「BABYMETALというというものを媒介にして触れていったもの…例えば、メタルと違うジャンルの音楽もそうですし、メタルカルチャーとは別のカルチャーとか…(中略)ツアーをやっていく中で、色々な国に行くじゃないですか。そこに色んなカルチャーがあって。色々な音楽があって、そしていろんな人たちがいて(中略)」「“METAL GALAXY”をテーマにいろんな世界を旅するという。『世界の車窓から』のメタル版というか。(笑)」(P.71四段8行目~P.72一段15行目)と述べている。
もともと「アイドルとメタルの融合」をキャッチコピーとするBABYMETALは、メタルを基調としながら、そこに様々な音楽の要素を「融合」させ、BABYMETALならではの楽曲にまとめてきた。
普通の新人メタルバンドは、どこかのサブジャンルに“所属”しているといわれるのだが、BABYMETALの楽曲群は、スラッシュメタル風、デスメタル風、ラップメタル風、メロスピ風、ハードコア風、ビジュアル系風、バイキングメタル風、シンフォニックメタル風といったメタルのサブジャンルを“オマージュ”したバラエティ豊かなもので、BABYMETALのサブジャンルを一言で言えば「なんでもあり」のニューメタルなのだ、と説明されてきた。
確かに、2016年の前作『Metal Resistance』では、「GJ!」「Sis. Anger」はブラックメタルに、「META!メタ太郎」はバイキングメタルに「挑戦」したものと言われたし、メンバーも雑誌のインタビューでそう答えていた。

US盤、EU盤にのみ収録され、東京ドームで1回だけ生演奏された「Tales of the Destinies」と、2017年ハリウッドで1回だけ生演奏された「From Dusk Till Dawn」や「THE ONE」は、今後BABYMETALが進むプログレメタル、シンフォニックメタルの方向性を示し、2018年に発表された「Distortion]や「Starlight」はDjentを「取り入れた」楽曲だと思っていた。
だが、『METAL GALAXY』はそういうメタルのサブジャンルでは説明しきれないアルバムだ。
というか、「そもそも」BABYMETALの楽曲は、「メタルがベース」だったのかどうか、今となってはかなり怪しいのだ。


例えば、デビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。
この曲は、美少女アイドル三人組としてのさくら学院重音部=BABYMETALにふさわしいキャッチーなメロディラインとカワイイ歌詞がまず先にあり、そこにあとからパンテラ風のリフを無理やり「融合」したものだ。

さくら学院時代のSU-の日誌に「部員もアッ(MOA)と驚くくらいかわゆい(YUI)ですよ。最初の仮歌を聴いたときはかわいいーっ♪って思った曲がアレンジで全く別の曲になったと思ったら…ダンスがついてまた雰囲気が変わって…」(2010年11月26日)とあるからだ。

「いいね!」も、ユーロビートのリズムにブレイク・ダウンを作り、ラップを加えた上に、グロウルや「コガネムシ」を無理やり接ぎ木したものだった。
ライブのオープニングにメタリカの「ONE」の間奏部のようなスラッシュ感とデスメタルの不気味な雰囲気をもたらし、三人がトランスフォームしていく「BABYMETAL DEATH」にしても、幼くKawaiiアイドルの三人が「DEATH!DEATH!」と叫ぶギャップにこそ、「なんじゃこりゃ!?」感が生まれたのではなかったか。
つまり、BABYMETALは、メタルを基調にしているというより、中元すず香という天才少女シンガー+菊地最愛・水野由結という同じく天才的なオーラを放つダンサーアイドルからなるユニットを、他のアイドルと決定的に差別化するための「演出」「設定」として、アイドルとは水と油の「メタル」という要素を組み合わせたプロダクトではなかったか。
それをKOBAMETALは「New Style of Heavy Metal」と名づけ、「巨大勢力アイドル」と戦う「Metal Resistance」、メタルの神キツネ様による「召喚」というBABYMETAL神話を作り、凄腕のメタルバンドをつけ、メタルフェスに出演させた。
思い付きだけなら、すぐに破綻しそうなその企画は、三人の類まれな才能と、血のにじむような献身的な努力によって、異常に高いクオリティのパフォーマンスとなり、彼女たちを支持するファンは、さくら学院の父兄からロックファン、メタルファンに、そして中高年ファンに、海外のメタルヘッズたちにまで広がった。


そのため2015年の新春キツネ祭りは、海外で「メタルで再び世界を一つにするため」、「Metal Resistance」を戦った「幼い魂」=BABYMETALの凱旋公演となり、日本人が最も好むDragon Force仕込みのパワーメタル「Road of Resistance」は、前進を続けるアンセムとなった。
それ以降、2015年~2017年には、欧米10か国ツアー、Rock on the Range、レディングフェス、国内Zeppツアー、Wembley Arena、日本四大夏フェス、東京ドーム、レッチリ、メタリカ、KOЯNの帯同など、BABYMETALは「日本を代表するメタルバンド」として大活躍してきた。


メタリカのカーク・ハメット、Dragon Forceの両ギタリスト、『METAL HAMMER』編集長、ロブ・ゾンビ、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード等々、BABYMETALを認める大物メタラーも続出した。
だから、海外進出当時あった、「BABYMETALはメタルか否か」論争など吹き飛び、ベビー「メタル」なんだからメタルバンドなんだというのが、大方のファンの認識だった。
しかし、『METAL GALAXY』は、そういうBABYMETAL像を「壊す」ものと位置づけられており、SU-の「今のBABYMETALからそれまでのBABYMETALへのレジスタンス」という言葉もその文脈にある。
では、2016年の『Metal Resistance』リリースから2018年までの歩みは、どう評価されるべきなのだろう。
(つづく)