BABYMETALは壮大なエンターテインメントだ 3人のトライアングルが生んだ荘厳な光景

BABYMETAL、横浜アリ公演レポ

 BABYMETALとは、壮大なエンターテインメントだ。ジャンルやカテゴリーなどといった概念に収まり切らないほどのものが今のBABYMETALにはある。横浜アリーナにて2日間行われた『BABYMETAL AWAKENS - THE SUN ALSO RISES -』は、日本のみならず世界中の人々をも熱狂させるBABYMETALのパワーと勢いをあらためて高らかに知らしめた、そんなライブだった。

 この度足を運んだ2日目はほぼ定刻通りの開演だった。会場が暗転するとスクリーンにオープニング映像が流れる。“約10年間の長きに渡る激動の年を経て――”ステージには狐の仮面に白装束の3人の姿。ポニーテールのシルエットをツインテールの2人が囲むその布陣は、これまでのBABYMETALを象徴するアイコニックなものだ。

 “この日出る国から戦いに挑むのだ――”

 新たな戦いのはじまりを告げるナレーションが、SU-METAL、MOAMETALの紹介へと続いていくと大歓声が巻き起こった。そして、後方にはBABYMETALの2人と同じ衣装を纏った3人の勇敢なアヴェンジャーズが現れる。毎公演ごとにその中から1人だけが選ばれるのだという。誰が召喚されるのかはキツネ様のみぞ知る。

 ‟諸君、首の準備はできているか?”

 2019年6月、<メタルレジスタンス第8章>は“3人のBABYMETAL”によるライブで幕を開けた。

 BABYMETALにとって、昨年2018年<メタルレジスタンス第7章>は激動の年だった。5月に「キツネ様に選ばれし、DARK SIDEの7人の勇者達“THE CHOSEN SEVEN”が降臨する」というお告げにより、始まったワールドツアー『BABYMETAL WORLD TOUR 2018』は、SU-METAL、MOAMETALの2人がダンサーを率いる4~7名体制で行われた。そして10月19日、体調不良により休養していたYUIMETALが正式にBABYMETALから脱退した。

 その後、BABYMETALの快進撃がとまることはなかったが、大幅にシフトチェンジした“ダークサイド”と位置付ける体制に違和感を覚えていた者は少なくはなかったはず。であるから、この<メタルレジスタンス第8章>はBABYMETAL本来の姿に近いものであり、まさに多くの者が待っていたであろう形での新体制である。そして何よりも彼女たちの新たな決意を感じられるステージだった。まごうことなきBABYMETAL流メタルを振りかざした新曲を1曲目に持ってきたことからもそれが十二分に伝わってきた。メロディックな旋律を高らかに歌い上げるSU-METALがオーディエンスを圧倒する。その姿に我々はただただ息を呑んで見守るしかできないほどだった。

 SU-METALをセンターにMOAMETALとダンサーが両脇を固めるトライアングル。「メギツネ」の和情緒を3人が描くシンメトリーが躍動し、新境地というべきエスニックな雰囲気の新曲も、夏を感じさせるお祭りナンバー「PA PA YA!!(feat. F.HERO)」も、リズミカルに魅せていく。対して、煮え立つ獰猛の中に落とされた一滴の冷水であるかように、SU-METALの歌声が猛り狂う神バンドのアンサンブルの荒波を突き抜ける「Starlight」。そのしなやかで凛とした強さに会場全体が心酔した。

 BABYMETALは意外性の連続が奇跡を呼び起こしたものだと思っている。そもそも「アイドルとメタルの融合」という発想自体がありそうでなかったものだ。とはいえ、アイドルらしく満面の笑みを見せながら歌い踊るわけでもなければ、メタルバンドさながらの激しいステージというわけでもない。そのパフォーマンスは、実直な歌唱力とどこか愛くるしいダンスで観る者を惹きつけるBABYMETAL唯一のものであり、心地よい中毒性を帯びてくる。SU-METALのボーカルは、メタルのシャウト混じりのハイトーンボーカルとは異なり、ノンビブラートで真っ直ぐな歌声を響かせていくスタイル。神々しさを見せながらも純朴な少女性を内包し、どこかあどけない表情をも感じさせる、そんな不思議な歌声だ。

 メタルを掲げながら、BABYMETAL自身はメタルの直球でもないところが面白い。それでいて随所に先天的なメタルイメージを散りばめながらファンタジックに昇華させていく。これはアイドル性を持ち合わせていなければ成立しない部分だろう。そしてその表現がメタルへのリスペクトであることは、多くのメタルファンを取り込んでいることが証明している。様式美を重んじどこか保守的でもあったメタルシーンに新たな息吹を呼び込んだことは、今更言うまでもないことだ。

 BABYMETALに限らず、与えられたテーマを表現する者に対して「大人の敷いたレールの上を走っているだけ」と揶揄する声をたまに耳にするが、私個人としては始まりこそそれで良いと思っている。肝心なのはそこをどう走るか? 最高の走りを魅せられるか? であるからだ。そして、それがいつしか大人の思惑を超えるものになったとき、奇跡を起こすのである。BABYMETALはまさにそうであったように思える。海外の大型フェスでメタルの重鎮やロックスターたちと肩を並べることなど、当初は誰もが想像できなかったはずだ。

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