音楽の呪術性(3) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月14日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

音楽に人の心を動かす力があることは、誰でも知っている。
だが、なぜそうなるのかは音楽心理学という学問分野の命題であり、現在までにはっきりした「理由」はわかっていない。
ぼくは、ノーム・チョムスキーの「普遍文法」にヒントを得て、ホモ・サピエンス・サピエンスの脳には、生まれつき「普遍音楽文法」というべきものが内蔵されていると主張しているのだが、これは単なる日本人ブロガーの直観に過ぎず、ちっとも学術的なものではない。
ただ、現象として、人種や年齢に関係なく長三度の和音に「明るさ」を感じ、短三度の和音に「悲しさ」を感じるというのは事実である。


また、音楽心理学では、「失音楽症」(Music-Specific Disorder)という人が存在することもわかっている。
失音楽症は「アムシア」(Amusia)とも呼ばれ、ピッチ(音程)の認識ができない、リズム(四分音符、八分音符、十六分音符といった継続する時間の分割やその規則性)が認識できない、トーン(楽器ごとの倍音の差)の認識ができない、メモリ(奏でられた楽曲の推移を記憶する力)の欠如、感情(メジャー/マイナーの和音が呼び起こすもの)の欠如などを指す。
そして、それぞれの病理は、脳のある場所の欠損によって起こることもわかってきている。
例えば、ピッチ(音程)を認識する能力は「ファイングレインピッチ処理」といい、後頭葉の第二皮質(posterior secondary cortex)という部分に依存しているという。
また、聴覚野のある側頭葉皮質に欠損があるとリズムの認識ができなくなることもわかっている。
メロディやトーンの記憶は前頭葉皮質に依拠するが、先天性失語症の原因になる短期記憶(ワーキングメモリ)障害のメカニズムとは異なるらしい。
最もよくわかっていないのは、「普遍音楽文法」でぼくのいう和音やリズムが引き起こす感情のメカニズムで、「皮質下の辺縁構造への直接アクセスがないことを示唆する一般的な皮質リレー」によって起こるらしい。
逆に言えば、脳のこれらの部分に欠陥のない健常な脳ならば、ピッチやリズムやトーンやの認識や、音楽が引き起こす感情が共通して起こるのが人類という種の特性であるともいえる。
このような研究結果から、いわゆる絶対音感とは、後頭葉のピッチ認知能力と、言語とは異なる前頭葉皮質によるワーキングメモリ(短期記憶)が発達した人には可能だということであり、生まれつき絶対音感というものがあるのではなく、後天的に身につけるものだとわかっている。幼いころから鍛え上げられたピアニストは、基準になる音C=ハ長調のドから始まって、鍵盤の位置にある音を脳に毎日記憶させている。グラスを弾いた音、人の声、何かだ倒れた音など、生活音や自然界の音を聞いた瞬間、その音程がわかる。聴いただけでアドリブを再現できる手練れのギタリストもそうだろう。
ぼくの場合、ギターのチューニングからEとAの音が記憶されているだけなので、Aを「ド」として「ドレ」と進みそれを半音上げて、レ#にするとそれがC=ハ長調のドである。そこからグラスを弾いた音を、「ドレミファ」と確かめていってようやく「ソ」だな、とわかる。時間がかかるのだ。それでも、本当に集中すればわかる。


それはともかく、メロディや曲の流れの認識、それによって引き起こされる感情は、言語中枢とは異なる脳の部位の働きによって起こるということだ。
失語症や認知症の方でも、音楽がわかる。
語彙が豊富で論理的な人でも、音楽が認識できない人がいる。
言語は、人間が日常生活を送っていくうえで、あるいは思考によって何かを構想するときに欠かせないものである。
ぼくらの日常生活は、言語によって成り立っているといってもいい。
新約聖書の4福音書のうち、最も神秘的な「ヨハネの福音書」は、「はじめに言葉があった」と書いてある。

人間が世界を認識するのは言葉によってである。
人間にあって動物にないもの、それは単に危険を知らせるというレベルではなく、抽象的・論理的な思考を可能にする言葉である。

だから、ヨハネの言っているのは、言葉こそ世界の創造者だという意味だろう。
しかし、音楽はそうではなかった。
音楽とは、日常生活を形作る言語とは全く異なる脳のチャンネルを用いた、かつホモ・サピエンス・サピエンスにしかできないコミュニケーションの方法だったのだ。

もっとも「猫が喜ぶ音楽」とか、メタリカを聴かせて熟成させたウイスキーというのもあるから、音楽がわかるのは人類だけではないのかもしれないけど。
(つづく)