音楽の呪術性(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月11日は、2015年、「Kerrang!」誌の「The Spirit of Independence Award」を受賞し、2016年には、Download Festival Parisフェスに出演した日DEATH。

音楽は降神・祓魔・呪術を起源とする。

そういうとおどろおどろしい感じがするが、ライブはちっぽけな自分をツマラナイ日常から解放し、そこに集まった仲間とともに生を謳歌する場だといえば、うなずく人は多いだろう。
とりわけ、インターネットやスマホの発達によって、食事はともかく、そのあとお茶の間のテレビの前で家族が団らんする光景がほぼ消滅した今、ライブはまったく異なる出自のオーディエンスが仲間としての絆を確認する場となっている。
ぼくもそう思っているが、BABYMETALのライブの薄暗く密集したピットで、あるいは白昼の野外ステージ前の圧縮の中で、ふと、人間はこういうことをずっと昔からやってきたんだよなあと思うことがある。
現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)が、体も、脳の容量も一回り大きかったネアンデルタール人(ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス)やデニソワ人との生存競争に勝ち残ったのは、何らかの宗教的儀式によって、超自然的なパワーを利用できたからではないかという説がある。
ホモ・サピエンスの共通祖先で、東アフリカでカバを食べていたヘルト人(ホモ・サピエンス・イダルトゥ)から、80万年前にネアンデルタール人が分岐して中東~ヨーロッパに広がり、64万年前に中東のネアンデルタール人からデニソワ人が分岐してロシア~アルタイ地方に分布した。最後に28万年前にヘルト人から現生人類が分岐し、「出アフリカ」を経て中東~ヨーロッパ~アジア~アメリカへと広がった。ヘルト人は16万年前に絶滅した。
ネアンデルタール人の絶滅は2万数千年前で、現生人類がヨーロッパに住み始めたのは4万5000年前なので、両者は約2万年間、ヨーロッパで共存していた。
デニソワ人も4万1000年前まで生存しており、少なくとも数千年間、アジア内陸部に進んだ現生人類と共存していた。


この三種は兄弟種(亜種)であり、共存/競争するだけでなく、おそらく頻繁に交雑していたので、現生人類は、絶滅したネアンデルタール人、デニソワ人の遺伝子を数パーセント受け継いでいる。かつては白人の金髪碧眼はネアンデルタール人由来といわれていたが、現在は日本人こそ最もネアンデルタール人のDNA含有量が多いといわれる。
なお、ネアンデルタール人、デニソワ人との交雑は、現生人類の「出アフリカ」後に起こったので、アフリカ人はこれら絶滅人類のDNAは受け継いでいない。
なぜ現生人類が生き残り、ネアンデルタール人とデニソワ人は生き残れなかったのか。
ネアンデルタール人の文化は、火の使用、打製石器の創作、埋葬の習慣など、現生人類の旧石器時代に相当する段階に達していたとされ、一括してムステリアン文化と呼ばれる。
イラク北部のネアンデルタール人遺跡で、埋葬跡から大量の花粉が発見された。遺体を屈葬の形で埋葬した際、花を供えていたのだ。
また、現生人類のヨーロッパ到達以前である6万5000年前のスペインの洞窟遺跡では、抽象的な線で描かれた「絵」が発見された。これらのことから、ネアンデルタール人にも、「死」の概念や死者を悼む心、絵画芸術の芽生えがあったことがわかる。
だが、現生人類は、体の大きさや脳の容量ではネアンデルタール人には及ばなかったのに、芸術的には遥かに高いレベルにあった。
同じスペインにあるアルタミラ洞窟の躍動する牛の絵や、アフリカのサハラ砂漠にあるタッシリ洞窟壁画に見られるように、現生人類は、具象的な動物や人間、角の生えた奇怪な化け物などをダイナミックに描いた。


これは現生人類が「死」の概念を拡大し、なんらかの超自然的な力=神を感じ、宗教的な儀式を生み出したことを意味する。自分たちの理想とする情景をリアルに描いた絵画は、非現実の世界を出現させる呪術そのものだからだ。
神聖な夜、赤々と火を燃やし、これらの絵画を前にして行われる儀式は、例えば降神の儀式=シャーマニズムだったり、病気や厄災を「魔」の仕業とみる祓魔の儀式だったり、狩りの成功や戦の勝利を祈る踊りだったりしたのだろう。
そしてそこには、遺跡や遺品には残らない、音楽というもうひとつの呪術があったはずだ。
例えばこんな感じ。
男たちが輪になって太鼓を鳴らす。ただそれだけで空間は神聖化される。
次に男たちは狩りや戦に使う弓の弦を弾く。その音は空間を切り裂き、何かが起こる気配を呼ぶ。これが弦楽器=ギターの始まりである。
とりわけ、部族一の大男が使う巨大な弓は低い音でリズムを刻む。これがベースである。
ちなみに、弓2本をこすり合わせればヴァイオリンになる。
内部が空洞になっている竹や巻貝や角や骨に穴をあけ、一方の口から強く息を吹き込めば笛になる。トランペットやフルートのもとである。そのファンファーレの中、オーラを放つ女性シャーマンが登場する。
シャーマンは踊りながら虚空に叫び、澄んだ声で歌う。
彼女はその華奢な身体に神を降ろし、神に成り代わって荒ぶる魔を打ち破り、豊作や戦勝、部族の繁栄を約束する。
美しきシャーマンの超自然的な力を目の当たりにした人々は、雷に撃たれたように感動に打ち震える。
卑弥呼?
いえいえ、Legend-S-洗礼の儀の「In The Name Of」を思い出した方、大正解です。


いよいよ6月28-29日THE SUN ALSO RISES@横アリ&7月6-7日BEYOND OF THE MOON@ポートメッセなごやが近づいてきましたね。
BABYMETALの大祝祭空間は、数万年前から繰り返されてきた、人類が人類である証=起源の音楽そのものなのだ。それにまた参加できると思うとワクワクしますね。
右太腿が完治しなければ、初ハッピーモッシュピットですけど。
それはともかく、その儀式で音楽=霊の力に満たされた人間たちは、それまでの常識=日常を超えた能力を発揮した。
宗教的な儀式=呪術としての音楽こそ、より高い能力を持っていたはずのネアンデルタール人やデニソワ人に打ち勝った原動力ではなかったか。
以前書いたように、ホモ・サピエンス・サピエンス=現生人類のすべての人種には、生まれつき共通の「普遍音楽文法」というべきものが備わっている。それは他の類人猿や動物種には見られないものだ。
例えば、一小節二拍子(=マーチ)のリズム「♪タッタタカタタッタター…」を聴くと、人間は本能的に行進してしまう。「アンパンマン」なら、赤ちゃんでも気持ちよさそうにリズムをとる。
一小節四拍子を八分音符で刻み、二拍目、四拍目にアクセントのある8ビートのリズム「♪ズンタンズズタン…」を聴くと、人間は本能的にヘドバンしてしまう。
一小節四拍子でも、十六分音符あるいは三十二分音符で細かく刻み、全拍頭にアクセントのある16ビートないし32ビートのリズム「♪ドンツクドンツク…」を聴くと、自然に踊りだしてしまう。
別の例。
純正律で周波数264Hzをドとすると、その1.25倍の330Hzがミ、ドの1.5倍の396Hzがソで、この割合で周波数を組み合わせた3和音ドミソは、明るい感じの和音C(長三度)になる。
真ん中のミを半音さげて、264Hzのド、314Hzのミ♭、396Hzのソとしたドミ♭ソの3和音にすると悲しい感じの和音Cm(短三度)になる。
なぜ真ん中の音を半音さげると悲しい感情を呼び起こすのかはわからない。人間の脳はそういう風にできているのだ。
リズムにしても和音にしても、犬や猫や猿は、人間と一緒にその場にいても、決して同じような反応は示さない。
そもそも可聴帯域が違う。人間は20Hz~20000Hzだが、犬と猫は70Hz~60000Hz、ニホンザルは28Hz~34500Hzと人間よりも高い。
それに動物はリズムやメロディ、和音というもの自体がわかっていない。
なぜ人間には音楽があり、他の動物にはないのか。
それは、なぜ人間には宗教があり、他の動物にないのかときっと同じ理由だろう。
以前書いたように、それはおそらくA.I.にとっても理解不能だろう。
音楽は、宗教と同じく、論理ではなく、本能で感じるものだからである。
(つづく)