全米1位になる日(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月10日は、2012年、雑誌『MARQUEE』にBABYMETALの記事が掲載され、2016年には、豪雨のDownload Festival UKフェスに出演した日DEATH。

横アリ、ポートメッセなごやともにSOLDOUTとなりました。目出度い。
米ビルボード総合アルバムチャート200では、今のところ、2018年のJoji『Ballads 1』の3位が日本人として最高位であり、1963年の坂本九『Sukiyaki and other Japanese Hits』(14位)、2016年のBABYMETAL『Metal Resistance』(39位)がトップ3である。
日本のオリコンチャートがすべてではないのと同じように、米ビルボード200がすべてでないのは言うまでもない。
だが、BABYMETALは、メジャーデビュー時に「世界征服」の抱負を掲げた。米ビルボード200は、その明確な指標の一つである。


ファンとしてはBABYMETALの音楽が、日本だけでなく、欧米で、世界で受け入れられ、楽しまれ、評価された結果として、これまで日本人の誰もが成し遂げられなかったポジションに達するのは、やはり誇らしい。
この連載で書いてきたのは、ビルボード200という指標が、もはや1990年代のように「全世界売上何千万枚」の世界ではなくなっているということだ。
CDは売れなくなったが、売上=「所有」=人気ではないはずだ。
もともと、ビルボード社は、ジュークボックスの売上や、ラジオ局へのリクエストも人気のバロメーターとして使ってきた。
インターネット/スマホ時代になって、ダウンロードで音楽を「所有」するだけでもなく、有料/無料のストリーミングでアーティストの音楽に「接触」するオーディエンスも多くなった。また、ライブに足を運ぶ観客も増えてきた。
そこで、ビルボード社では、フィジカルCDの実売枚数はそのまま、ダウンロードは収録曲10曲でアルバム1枚換算、ストリーミングは収録曲1500回視聴で1枚に換算する「アルバム相当単位」を算出し、さらに伝統的なラジオへのリクエストだけでなく、SNSでの言及なども加味して、ランキングを決定する。
だから、アーティストによって、あるいはそのアーティストのファンの属性や特性によって、「所有」ないし「接触」するメディアが異なり、「アルバム相当単位」の内訳が異なる。
異種格闘技戦のようなものになっているのだ。
2019年1月5日付の全米1位は、A Boogie Wit Da Hoodie『Hoodie SZN』の5万8000ユニットで、内訳はフィジカルCD実売823枚+ストリーミング5万5300ユニット(≒8300万回視聴)だった。フィジカル:ストリーミング比は5:95である。
2019年2月23日付の全米1位は、アリアナ・グランデ『thank u, next』の36万ユニットだったが、内訳はフィジカルCD実売11.6万枚+ストリーミング22.8万ユニット(≒3億4200万回視聴)だった。フィジカル:ストリーミング比は32:68となる。
2019年2月2日の全米1位は、バックストリート・ボーイズ『DNA』の23万4000ユニットで、内訳はフィジカルCD実売が22万7000枚、ストリーミングは7000ユニット(1050万回視聴)に過ぎなかった。フィジカル:ストリーミング比は97:3である。
2018年11月5日付 で全米3位になったJojiの『Ballads1』は5万7000ユニットで、そのうちCDセールスが3万4000枚、ストリーミングは2万3000ユニット(3450万回視聴)だった。フィジカル:ストリーミング比は60:40である。
ヒップホップ系のアーティストでフィジカルCDの実売がストリーミングを上回るのは珍しい。Jojiは元YouTuberであり、MV動画の視聴回数は多いが、集計時点では前回推計したほどの回数には達していなかったらしい。それでも、やはりストリーミングによるアルバム相当単位は全体の4割を占めている。
同じ2018年11月5日付の全米1位は、イタリアのベテランテノール歌手アンドレア・ボチェッリの『Sì~君に捧げる愛の歌』の12万6000ユニットで、内訳は12万3000枚がフィジカルCDの実売だったが、これは、2018年から2019年にかけて行われたツアーのチケット償還によるものだった。フィジカル:ストリーミング比は98:2である。
ビルボード社はライブのチケットに「お土産」としてフィジカルCDを購入したことになるこの手法を認めており、ビルボードジャパン2018年11月5日の記事では、「昨今では、この手法により高セールスを記録するアルバムが増えている。特に、ロックやカントリー、ベテラン・アーティストの作品で多くみられる傾向。」と分析している。
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/69466/2
つまり、アーティストは、各々の「得意技」で勝負すればいいわけで、BABYMETALが9月からのアメリカ横断ツアーでこの手法を用いてニューアルバムを実売数にカウントするのは、反則でも何でもない。
と同時に、仮にアメリカ横断ツアーのライブチケットが完売したとしても7万枚の売り上げに過ぎないから、A Boogie Wit Da Hoodie のように収録楽曲数を増やすとか、JojiのようにYouTubeでのMVのアップ曲数を増やして、ダウンロード/ストリーミング視聴を増やし、「アルバム相当単位」を上乗せするという戦術も必要だとぼくは思う。
そして、何よりも大切なのは、ニューアルバムに収録された楽曲たちが、1963年の坂本九の「SUKIYAKI」のように、重層的な内容を含み、アメリカ人たちの心を動かすものであることだ。

日本人でありながら、アメリカ人に数千万回、数百万回と視聴される楽曲/動画とはどんなものだろう。
Jojiの動画を見ていると、「面白い=Funny、Crazy」ということがその大きな要素になっていると思わされる。
最初期の「JAPANESE 101 - "HOT DOG" (WITH SAFARI MAN)」(2013/09/13)
https://www.youtube.com/watch?v=RCqW0NZCwUM&list=RD6pbKB2TL3Jk&index=24
では、流ちょうな英語でヘンテコな日本語を教えるという動画だった。
それが、現在1058万回視聴されている「TRAP DUMPLINGS」(2015/06/04)
https://www.youtube.com/watch?v=0AMRP9JTHlw&list=RD6pbKB2TL3Jk&index=27
になると、シュールなコント風の動画になる。
撮影場所は「広洋建機」や「勝尾寺口」という地名から、大阪府箕面市で撮影されたと思われ、英語のラップでなければ吉本芸人がアップする動画のようだ。

これ以上紹介しないが、Pink Guy=Filthy TVの動画は、とんでもないエロ・グロ・ナンセンスのオンパレード。そのCrazyさは日本の深夜テレビでさえ流せないものであり、YouTubeならではだが、それがネイティヴな英語で次々とアップされるので、アメリカで一種カルト的な人気を博した。

それが2017年以降、音楽にシフトして、一躍全米3位を記録した。
考えてみれば、2016年8月25日にアップされ、10月29日付でビルボードHot100の77位になったピコ太郎の「PPAP」も、9月27日にジャスティン・ビーバーがツイートし、BBCおよびCNNが報じたことによって火がついたとはいえ、アメリカ人が「面白い=Funny、Crazy」と認識したからこそ、現在1億3352万回もの視聴回数に達したのだと思う。
アメリカ人が日本人アーティストに求めているのは、正統派のシリアスさではなく、Funnyなもの、Crazyなものではないのか。
BABYMETALでは「ギミチョコ!!」が1億0314万回、「メギツネ」が5759万回、「KARATE」が5044万回とYouTubeオフィシャルMVのダントツ・トップ3になっている一方、メロスピ/パワーメタルの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」は2314万回、「Road of Resistance」は2118万回と半分以下にとどまっている。壮大な3拍子系プログレ・メタル「THE ONE」は1165万回、バラードの「No Rain No Rainbow」は184万回に過ぎない。
これも、そのことと関係しているのではないか。


その意味で、SU-METALが『ぴあMusic Complex Vol.13』で、
―引用―
新体制に対するいろんな考え方とか、受け入れられ方があると思うんですけど、私はBABYMETALはもっとおもしろいものだと思ってるんです。」(P.23中段45行目)
「なんでもオッケー!」みたいな(笑)あはは!だから、そういう意味でも最近は過去を振り返ることが多いんですよね。「前ってこんなふざけたことやってたよね!」みたいな。(P.23右段16行目)
―引用終わり―
と発言しているのは、注目に値する。
2018年に配信リリースされた「Distortion」と「Starlight」は、Djent風のギターリフを軸とした疾走感あふれるシリアスなメタルだったが、ぼくらのようなコアなメイトが感涙にむせぶ一方、「ギミチョコ!!」や「メギツネ」のようなFunnyさ、Crazyさはない。
「Elevator Girl」はこの2曲よりはコケティッシュだが、肝心の動画がない。
もちろん、BABYMETALはギャグバンドになれと言っているわけではない。
だが、BABYMETAL神話に奇跡的なものを感じ、SU-の熱唱、MOAの顔笑りに涙するコアなファンだけでなく、「ギミチョコ!!」のヘンテコ頭指差しダンス+背景のマリア像+大観衆のような、Kawaiiと戦慄を併せ持ち、「良識」や「常識」をぶち壊すような楽曲、動画こそ、一般アメリカ人のイメージするBABYMETALらしさだったのではないかと思うのだ。
卓越した演奏力、歌唱力、ダンス。
それでいて、Kawaiさとカッコよさとコケティッシュさとシリアスさを併せ持ち、見てよし、聴いてよし、ライブに参加すれば、戦慄と熱狂と日常からの解放を味わえるライブ・バンド。
全米1位になる日とは、そうしたBABYMETAL像を再構築できる日だろう。
(この項終わり)