全米1位になる日(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日6月4日は、2018年、オーストリア・インスブルック公演@Music Hall Innsbruckが行われた日DEATH。

BABYMETALの3rdアルバムは、米ビルボード200で前作『Metal Resistance』や、坂本九の『SUKIYAKI and Other Japanese Hits』(1963年)を確実に上回る。
それどころか、全米1位を狙えるとぼくは考えている。
前回書いた「アメリカ横断ツアーのライブチケットには、ニューアルバムの引換券が含まれている」とはどういうことか。
各会場のチケットをオンライン販売しているTicket Masterのサイトを開くと、こういう注意書きがある。
「Every online ticket purchase comes with one physical copy of BABYMETAL's upcoming album. Approximately 24-48 hours after purchase, you will receive an additional email with instructions on how to redeem your album. US residents only. One CD per online ticket. Not valid for Fan to Fan Resale.」
(Jaytc意訳:すべてのオンラインチケットの購入には、BABYMETALの来るべきアルバムのフィジカルコピーがついています。チケット購入後24-48時間で、アルバムの引き換え方法を説明した追加のEメールが届きます。US在住者のみです。オンラインチケット1枚につき1枚のCDです。ファンからファンへのリセールを禁じます)
つまり、すべてのアメリカ横断ツアーのライブチケットには、ニューアルバムのCD引換券が「おまけ」としてついているわけだ。これは事実であり、すでにチケットは売れている。
アメリカ横断ツアーは以下の日程である。

9月4日    フロリダ州オーランドHard Rock Live 3,000 
9月6日    ジョージア州アトランタCoca Cola Roxy 3,600 
9月8日    ワシントンDCワシントンThe Anthem 6,000 
9月11日マサチューセッツ州ボストンHouse of Blues 2,500 
9月13日ペンシルベニア州フィラデルフィアThe Fillmore 2,500 
9月15日ニューヨーク州ニューヨークTerminal 5 3,000 
9月18日ミシガン州デトロイトThe Fillmore Detroit 2,900 
9月20日イリノイ州シカゴAragon Ballroom 5,000 
9月21日ミネソタ州セントポール    Myth Live Event Center 3,000 
9月23日ミズーリ州カンザスシティーUptown Theater 1,700 
9月24日テキサス州ダラスSouth Side Ballroom 3,800 
9月27日コロラド州デンバーOgden Theatre 1,600 
9月28日ユタ州ソルトレイクシティThe Union Event Center 3,500 
9月30日ネバダ州ラスベガスHouse of Blues 2,500 
10月1日アリゾナ州テンピMarquee Theatre 2,500 
10月4日カリフォルニア州サンフランシスコThe Warfield 2,300 
10月11日カリフォルニア州ロサンゼルスThe Forum 17,500 
10月15日オレゴン州ポートランドRoseland Theater 1,400 
10月16日ワシントン州シアトルThe Paramount Theatre 2,800

最後の数字は各会場の収容人数である。合計7万1100名。
今回のツアーライブのチケットに、すべてBABYMETALのニューアルバムが付属しているのだから、チケットが完売すれば自動的に7万1100枚が売れたことになる。
チケットがCDの予約を兼ねているから、ニューアルバムのリリースがツアー開始と重なっていれば、CDの売り上げはすべて初動にカウントされる。
前回書いたように、今年1月、黒人ラッパーA Boogie Wit Da Hoodieのセカンドアルバム『Hoodie SZN』が8300万回のストリーミング視聴+フィジカルCD実売823枚で、5万8000ユニット(アルバム相当単位)となり、全米1位になった(1月5日付)。
だから、BABYMETALのニューアルバムがCD実売7万枚なら、間違いなく全米1位といいたいところだが、それほど甘くはない。
『Hoodie SZN』が5万8000ユニットで1位になったのは、クリスマス~年明けで、他に有力なアーティストがいなかったためである。
2019年、全米1位を記録したアルバムでは、アリアナ・グランデの『thank u, next』(2月23日付)が初動36万ユニットで最多、続いてビリー・アイリッシュの『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』(4月13日付)が初動31万3000ユニット、バックストリート・ボーイズが18年ぶりに全米1位を獲得した『DNA』(2月2日付)が初動23万4000ユニットだった。
3作連続で全米1位になったBTS(防弾少年団)の『Map of the Soul: Persona』(4月27日付)は23万ユニット、R&Bシンガー、カリードの『フリー・スピリット』(4月20日付)が初動20万2000ユニット、最直近のタイラー・ザ・クリエイターの『IGOR』(5月31日付)は初動16万5000ユニットで1位となっている。
フューチャーの『The Wizrd』(1月26日付)は、12万6000ユニットで1位を獲得しているが、やはり実売7万枚では心もとない。せめて初動10万ユニット、できれば20万ユニットに達しないとトップは見えない。
この中で、バックストリート・ボーイズの『DNA』の23万4000ユニットの内訳は、フィジカルCDセールスが22万7000枚だから、ストリーミングは7000ユニット(1050万回)に過ぎなかった。
バックストリート・ボーイズがフィジカルに強いのは、CD世代のファンが多いことと、5月からの北米ツアーのライブチケットと連動していたためである。BABYMETALと全く同じ仕組みである。ていうか、今回のBABYMETALアメリカ横断ツアーはこれを参考にしたのではないか。


これまでBABYMETALは、日本および世界でCDをリリースしてきたが、ライブとは関連がなかった。お金を払ってライブに来る客でも、YouTubeで主要曲を「予習・復習」すれば終わりだった。言い換えれば、ライブで集客してもそれをCDの売り上げに直接結びつけることはできなかった。そもそも2016年以降、フィジカルCDの新譜は発売されなかった。
今回は、BABYMETALの集客力を直接CD売り上げに結びつけようという「戦略」である。
どうせフィジカルCDは売れない。だったら、チケットに「おまけ」としてつけてしまおう。それによってチャートの上位に入れるなら、プロモーション効果は高い。
全米1位となれば、「BABYMETALってそんなに人気があるのか」とツアー後半はさらに盛り上がり、CDないしストリーミングの売り上げも続伸するだろう。
2012年の「ヘドバ行脚」ライブは、インディーズデビュー曲「ヘドバンギャー!!!」CDを買った人だけが(抽選で)参加できるライブだった。BABYMETALの最初期、SU-、YUI、MOAを間近で見られるライブが、CDの購入者特典だったのである。
それを、今回逆転させた。生のBABYMETALを見られるライブチケットが、フィジカルCDの売り上げとなるしくみだ。しかも全米規模で。
ライブ参加者は、もちろんBABYMETALを見たくてライブに参加するわけだから、それにフィジカルCDがついていればラッキーである。
CDをもらっても再生装置がないとか、CDを持っていてもそれを保存用として、使い慣れたスマホやガジェットでストリーミング視聴するというオーディエンスもいるだろう。
要するに、これはいまだにフィジカルCD1枚の価値がストリーミング1500回分という高いレートになっていることを利用した「全米1位」の作り方なのだ。現にバックストリート・ボーイズはそれで18年ぶりの全米1位を達成した。
なんか腑に落ちない?
しかし、考えても見てほしい。
ファンがチケットを買ってライブに行くという行為は、CDを買ったり、スマホで気軽にストリーミングしたりすることよりも価値が低いだろうか。
お金と時間と肉体を捧げるその行為は、楽曲の購入よりはるかに価値が高いのではないだろうか。
アーティストにしても、1回録音すれば無限に再生産できるCDより、1回1回真剣勝負のライブの方が時間も手間もかかるのに、ランキングにおいてはCDの枚数だけが偏重されているのはどうなんだろう?
そもそもヒットチャートとは、シングル曲の売り上げ枚数の順位のことだ。
しかし、そこにはアーティストの個性への愛情や人気度が反映される。
前掲『ヒットの崩壊』には、オリコンのランキングを担当する編集主幹、垂石克哉氏の「シングルランキングはレコードの売り上げ枚数のランキングだから、一見すると“モノのランキング”に見えますよね。でも実はこれって“人間のランキング”なんです」という言葉が紹介されている。(P.65)
シングル曲についてさえそうなのだから、ましてアルバムなら、そのアーティストが現時点においてどれだけ支持されているか、つまりアーティストのトータルな人気を測るものになっているはずだ。
フィジカルCDが売れない時代になって、無料あるいはアーティスト単位では測れないストリーミングの視聴回数を一定のレートで売り上げに換算するのはいい。だが、最もはっきりアーティストの人気と実力が現れるライブがランキングにカウントされないのはおかしくないか?
現行のルールだと、新曲を発表しないベテランバンドのライブに大勢が詰めかけていても、それは一切ランキングには関係ない。逆にA.I.が作った曲をアップし、A.I.プログラムで多数のIPアドレスをハッキングして尋常じゃない視聴件数を稼げば、全米1位をとれてしまう。こういうことの方が変じゃないのか。
フィジカルCDの生産コストをチケットに反映させ、ライブの「お土産」とする。
それを売上としてカウントすれば、観客を数多く動員したアーティストが人気・実力ともにトップアーティストであるという証になる。
これは、ライブ集客力が全く反映されないのに「権威」となってしまっているビルボードやオリコンへのアンチテーゼではないだろうか。
間違っているかな?
(つづく)