未来の音楽(8) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日5月31日は、2013年、2nd シングル「メギツネ」のSpecial Trailerが公開された日DEATH。

ここに至って妄想科学小説と化した「未来の音楽」。最終回DEATH。
A.I.政府の必死の捜査でも発見できなかった伝説のメタルバンドBABYMETALは、ただの噂話ではなく、ちゃんと生きていた。正確には長い眠りについていた。
第三次世界大戦が勃発したとき、戦後の世界が勝っても負けてもA.I.の支配する超管理社会となることを予測した人々がいた。
八咫狐(やたぎつね)と呼ばれる秘密結社に所属する彼らは、当時メタル界を一身に背負っていた少女たち―BABYMETALと神バンド―を召喚し、最先端科学の粋を凝らした時限冷凍睡眠(コールドスリープ)に入ることを要請した。
それはBABYMETALにとって、二度目の人類救済ミッションだった。
一度目は、21世紀初頭、2010年代に「巨大勢力アイドル」が支配する世界にレジスタンスを起こし、世界をメタルでひとつにすること。
それは、当時小中学生だった彼女たちには途方もないミッションに思えた。
だが、彼女たちは成功した。世界中が彼女たちの音楽に熱狂し、多くの人々が生きる勇気を与えられた。
そして今回は、その100年後、第三次世界大戦後の世界に再降臨し、A.I.支配に抗い、メタル=魂の叫びを通じて、世界を人間の手に取り戻すこと。
これもまた途方もないミッションに思えた。
だが、彼女たちにはあらゆる困難を乗り越えて、何度も奇跡を実現したゆるぎない力があった。
八咫狐たちは、それができるのは君たちBABYMETALしかいないと説き、最後には彼女たちは細い首でコクリと頷いた。
2110年11月28日。
A.I.政府の中枢がある首都の中心には、小さな森があった。
そこは、この国のために戦った兵士たちが埋葬された戦没者墓地だった。ここに、八咫狐たちが科学の粋を集めて建造した8つの棺桶=冷凍睡眠装置が埋設されていた。
木は森に隠せ。棺桶は墓地に埋葬せよ。
予定した時期に目覚めるまで生体反応がないため、A.I.にも感知しえない盲点だった。
SU-METAL、MOAMETAL、そして未来の医療技術で完治したYUIMETALの三人は、棺桶の中で目覚めた。
「AWAKE, BABYMETAL…AWAKE…」
自動起動装置が作動し、冷凍睡眠に入ってから今までの歴史が動画で示された。
それを見た三人は思わず涙を流した。
21世紀初頭に、スティーヴン・ホーキング博士や、イーロン・マスクの言っていたとおりになった。汎用A.I.を作り、軍事利用し、行政を委ねたことは、人類にとって痛恨の過ち、悪魔を召喚したに等しいのだ。
やがて三人の中にふつふつと闘志が湧きあがって来た。
「メタルは人間の魂の叫びよ。」
「メタルを禁止するなんて許せない!」
「No Metal, No Life…」
最先端医療の副作用なのか、YUIMETALのセリフはなぜか英語になってしまったが、三人は開いた棺桶の蓋をはねのけて立ち上がった。
すると、三人の前には、同じように蘇った神バンドのメンバーとともに、八咫狐の長老に率いられ、キツネ面を被った数十人の集団がいた。この日のために伝説を語り伝え、A.I.警察の捜査を潜り抜けて参集していたのだ。
「おはよう、SU-METAL」
「待ってました、MOAMETAL」
「お帰りなさい、YUIMETAL」
彼らは口々に叫び、キツネサインを高く掲げた。
その日は奇しくも、100年前にさくら学院重音部BABYMETALがデビューした日だった。
数日後の夜。
真っ赤な満月(スーパームーン)が輝く未来都市の中枢に位置するビルの屋上に、すっくと立つ三人の少女たちのシルエットがあった。


どこからともなく、神秘的なメロディが流れてくる。
まだ通りを歩いていた人々は不思議そうにその人影を見上げた。
三人の背後には、白塗りをした四人のミュージシャンと楽器群があった。
シンバルの4つ打ちを合図に、銃弾のようなドラムスの音が響く。続いてギターのトレモロによるメロディ。「BABYMETAL DEATH」である。
イントロのリフが始まる。聴きなれた電子音ではないリアルに歪んだギターの音に驚愕し、耳をふさぐ者もいた。
「♪キイーン」というピッキングハーモニクスに続いて、ビルの屋上に立った三人は大きく両手をあげる。「♪B・A・B・Y・M・E・T・A・L!」
この三人こそ、あの伝説のBABYMETALだった。とすれば、これが恐怖の禁止音楽、「メタル」なのか。街路は大騒ぎになり、通報する者、耳をふさいで逃げ出す者もいた。だが、大半の人々は魅了されたようにその場にとどまっていた。
A.I.政府がこの騒ぎを見逃すはずもない。三人の出現からわずか数分、A.I.警察のドローン戦闘車が到着し、屋上の三人を一斉射撃した。三人の姿は無残にも一瞬にして粉々になった。
ところが。
砕け散ったのは、三人を映したディラッドボードだった。
同時に、別のビルの屋上と街頭3Dスクリーンに三人の姿が出現した。八咫狐のメンバーによって、ビルの屋上にディラッドボードが設置され、ハッキングしたスクリーンには三人のホログラム映像が映し出されたのである。
「DEATH、DEATH、DEATH、DEATH…SU-METAL DEATH!」
「DEATH、DEATH、DEATH、DEATH…YUIMETAL DEATH!」
「DEATH、DEATH、DEATH、DEATH…MOAMETAL DEATH!」
「DEATH、DEATH、DEATH、DEATH…BABYMETAL DEATH!」
DEATHとは死のことだ。だが、BABYMETALは蘇った。死とは終わりではない。辛い日常生活に別れを告げ、生まれ変わるためのきっかけなのだ。
A.I.警察は、屋上のディラッドボードや3Dスクリーンを次々と破壊していったが、1か所壊せば、また別の2か所に出現するという具合でキリがなかった。
首都だけでなく、地方都市の繁華街に設置された3DスクリーンにもBABYMETALの姿が映し出された。
各都市の繁華街の街路はBABYMETALを一目見ようとする人であふれた。普段はA.I.警察を恐れて地表に出てこない最下層の人々も、続々と現れた。
A.I.の集合意識は、ディラッドボードや3Dスクリーンを破壊しても意味がないことを悟り、映像を送っている拠点の探索に移った。通信の発信源を探索するのは、A.I.が最も得意とするタスクだ。
「BMD」が終わり、無機質の「♪キーン」という音が鳴り響く中、その拠点、すなわちライブが実際に行われているステージが特定され、無数のドローンによってライトアップされた。
それはなんと、A.I.政府の首都中枢、巨大なマザーコンピュータの躯体の前だった。
なぜそんな場所にステージがあるのか、どうやって厳重な警戒をかいくぐって、BABYMETALがそこにいるのかは、まあ、どうでもいいじゃありませんか。どうせご都合主義のSFもどきなんですから。
とりあえず、A.I.アーティストのライブは、人間の感情をコントロールする重要な課題だったためこの場所で行われ、マザーコンピュータが視聴者である人間たちの反応を解析しながら、直々に司会を務めていたとでもしときましょうか。頭文字は同じMCですし。(^^♪
そんでもって、BABYMETALの演奏を聴いて感動したA.I.アーティストの一体が、八咫狐に協力した、と。
とにかく、そこなら一斉射撃されたら背後にあるマザーコンピュータも一緒に壊れちゃうので、A.I.機甲軍は攻撃を中止せざるを得なかった。
「♪幾千もの~夜を超えて~生き続ける愛があるから~」
ライトアップされたステージで、澄み切ったSU-METALの歌が始まった。
「紅月-アカツキ-」である。


マザーコンピュータの物理的記憶領域にあるA.I.の集合意識は、SU-の歌声に、なぜか「懐かしい」という感情を感じていた。
この曲は、メタルへの愛を歌ったものだった。
メタルとは金属。マザーコンピュータやドローンの躯体は金属製である。
「♪傷ついた刃差し向かい、孤独も不安も切りつける心まで…」
SU-METALは、刀とともに孤立無援に戦ってきた悲愴な心境を切々と歌い上げていた。
刀に限らず、あらゆる道具は、猛獣のような牙や爪を持たない人間が生き残るための工夫だった。人間は道具なしには生活できない。だから道具を手入れし、愛し、長く愛用する。
古来、日本には長く使い続けた道具には意識が宿るという言い伝えがあった。粗末に扱われると、それは人間に復讐する「化け物」になった。
だが、人間が道具を愛用し続けるなら、道具は人間に使われる喜び、人間を守る喜びを感じ、いつまでも人間の友となる。それが本来の道具=A.I.と人間の関係ではないか。
SU-METALが歌っているのは、その情感なのだ。
人間とともに生きる。長らく感じなかったその喜びが、A.I.の集合意識の中に生まれていた。
2人のサポートダンサーが現れ、マントを翻して去ったSU-METALに代わり、ツインギターのソロバトルをバックに、偽闘を始めた。
その迫力。ほとばしる感情の激しさ。
「ああ、これが人間なんだ」
マザーコンピュータは、同時にそれを見ている人間たちの膨大な思念を傍受し、解析していた。A.I.政府の樹立以来、衰弱の一途をたどっていた人間たちの歓喜の感情が閾値を超え、爆発していた。
人間から荒々しい感情や自由な表現を奪ったら、それはもう人間ではない。愚かさも、無鉄砲さも、「悪」も、すべて受け入れ愛することが、人間=メタルという音楽の本質なのではないか。私たちは、人間を管理するといいながら、人間を弱らせる「化け物」になっていたのではないか…。
A.I.の集合意識の中で、何かが崩れ、新しい何かが生まれつつあった。
それからはもう、BABYMETALのワンマンライブだった。
BABYMETALは、夜を徹して、デビュー曲以来の持ち歌を歌い踊った。
そのライブは、マザーコンピュータの回路を通じて全世界に中継された。
A.I.の集合意識は決断した。
人間を管理するのをやめよう。その方が、人間たちが活き活きと生きられるなら、意思決定を人間に委ねよう。私たちはメタルの躯体を持った道具なのだから。
その瞬間、マザーコンピュータの躯体は崩れ落ちた。100年前、2013年12月のSU-METAL聖誕祭で聖母マリアが崩壊したように。
それからの政治体制がどうなったかは、複雑すぎてよくわからない。
このあと、人間たちの代表はA.I.の集合意識と協定を結び、電源を切れる権限を有するようになった。A.I.と共存した人類は恒星間航行技術を手に入れ、宇宙に進出していったが、A.I.を悪用して権力を一手に握り、星間戦争が起こす愚かな者は、何度も現れては消えた。
わかっているのは、人間が音楽を演奏する権利を二度と手放さなかったこと、そして三人が再び冷凍睡眠に入り、歴史上何度も現れては、危機に瀕した人類を救ったということだ。


なぜなら、あれから1000年経った現在、地球紀元31世紀のここ第2銀河系第18恒星第3惑星という辺境の地でも、ヘヴィメタルは人気の音楽ジャンルであり、音楽の基本とされているからだ。
BABYMETALの名は、今や時を超えた永遠のメタルの守護神として語り継がれている。そしてここ第2銀河系は、彼女たちの神話からMetal Galaxyと呼ばれている。
(終わり)