未来の音楽(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日5月24日は、2015年、METROCK東京フェス@新木場、若洲公園に出演した日DEATH。

ボーカロイド初音ミクは、ヤマハの合成音声システム「VOCALOID」に対応して、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されているDTM音源であり、声優藤田咲の音声とKEIによるイラストキャラクター、16歳という「設定」を与えられたヴァーチャルアイドルである。


メロディと歌詞(日本語および英語に対応)を入力し、強弱や歌唱テクニックを加えることで、「歌う」ことができる。
2007年に発売された初音ミクは最初からキャラクターを付与したCV(Character Vocal)の「初号機」(CV01)で、2008年には、14歳の双子の男女という「設定」でCV02鏡音リン・レンが発売され、2009年には20歳の女性という「設定」のCV03巡音ルカが発売された。クリプトン社のCVシリーズ以前の「VOCALOID」だったMEIKO、KAITOもヴァーチャルキャラクターとしての人気が出、2008年には株式会社インターネットがGacktの声をサンプリングした神威がくぽ(がくっぽいど)も発売された。
初音ミクは、当初二次元のイラストキャラクターだったが、2009年7月にさいたまスーパーアリーナで行われた「Animelo Summer Live 2009」では、初音ミクがスクリーン上のアニメーションとして登場し、以降初音ミクの「ライブ」が行われるようになった。
2010年3月9日(ミクの日)に東京のZepp Tokyoで行われた、「ミクの日感謝祭」(セガ主催)は、初音ミクの初めてのソロコンサートであり、そこではNTTが開発したディラッドボード(透明薄膜)に投射する3Dホログラムとなった初音ミクが歌い踊った。
初音ミクの海外デビューはBABYMETALより1年早い2011年のアメリカ・ロサンゼルスでのAnime Expo 2011の中で行われた「MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES」である。
2013年からは、こうした3D技術やVR技術の展示会も兼ねた「マジカルミライ」が行われるようになった。
2014年7月~8月、BABYMETALはレディ・ガガの「The Art Rave」ツアーに帯同したが、その直前、5月~6月の「The Art Pop Ball」ツアーには、3Dの初音ミクが帯同していた。
ぼくは初音ミクの「マジカルミライ」に2回(2017年、2018年)、「ニコニコ超会議」における中村獅童らとのコラボ「超歌舞伎・花街詞合鏡」(2017年)も見た。


会場はいずれも超満員で、海外からの参加者も目立った。
つまり、BABYMETALと初音ミク(ボーカロイド)は、同時期に日本を代表して海外に進出し、衝撃を与えているアーティストなのである。
初音ミクは実在しない。3Dとはいえ、あくまでも人間が描いたアニメ・キャラクターに過ぎず、今のところA.I.ですらない。ホログラム投射装置の電源が落ちれば、消えてしまう幻である。
にもかかわらず、観客の多くは、初音ミクやその他のCVの歌唱やダンス、一挙手一投足に熱狂する。
ヴァーチャルアイドル初音ミクは、BABYMETALにファンが寄せているような「生身のカリスマ性」を獲得できているといえるのか。
「未来の音楽」をネットで検索すると、将来の音楽はA.I.によって制作されるという予言が多かった。
A.I.が音楽を制作するというのは、DTMで人間が行っている各種のパラメータ設定を、A.I.が自動化・最適化するということであり、人間は例えば「メタル」「不安から激情へ」のようなファジーな命令を下すだけというプログラムのことだろう。そのA.I.がディープラーニングできるなら、過去人類が捜索してきたあらゆる音楽のタイプをデータベース化したものを、順列組み合わせによって取捨選択し、「作曲」することができるだろう。
そして、いくらリアリティがあるといってもデジタル音だけではダメだというなら、初音ミクのようなキャラクターを持たせてもいい。
実際に「生演奏」するロボット・バンドだってすでにある。


2013年にZimaの提供で「来日」したZ-Machinesや、それに対抗してメタル大好きのRed Bullが提供して2017年にデビューしたCompressorheadだってある。
https://www.youtube.com/watch?v=9gMX_hR-RoM
まあ、ディズニーランドのカントリーベア・シアターの進化した奴という気がしないでもないが、Compressorheadのウリは、ちゃんとフィジカルに手や指を動かして楽器を演奏しているという点だそうだ。
初音ミクも含めて、明らかに「機械」であるそれらの「アーティスト」に感情移入することはできるのか。
答えは、「程度しだい」ではないか。
カントリーベア・シアターには、さすがに感情移入はできない。歳をとって、孫たちに囲まれて「ロボットなのにいい子たちだねえ…」と思ってしまう日が来ないとも限らないが、少なくとも現状ではキツイ。


Z-Machinesも、ぼくにはカラオケに合わせてプログラムされた機械だとしか思えない。
Compressorheadは、「レミー(キルミスター)に捧ぐ」というタイトルから始まるモーターヘッドの「Ace of Spades」をちゃんと演奏しているので、「スゴイ」とは思えるが、歌はレミーの声をサンプリングしたものだから、その「カリスマ性」はレミー由来のものだ。
https://www.youtube.com/watch?v=pWB5JZRGl0U
そして初音ミク。
ぼくの二女を含めてファンの方には申し訳ないが、ぼくはどうしても熱狂はできないのだ。3D技術として面白いとは感じるが、初音ミクに「人格」を感じることはどうしてもできない。
なぜかと考えれば、そこには一切、ハプニングが起こる余地がないからだ。
初音ミクのライブは、生バンドが演奏する。初音ミクやCVたちの「歌唱」は録音によるものだから、ミュージシャンたちは、イヤモニから流れるタイムキープ音によって、正確なリズムをキープしているのだろう。
初音ミクはライブ中、MCとしてファンを煽るようなことを言ったりする。だが、それも事前にプログラムされている。
そんなことを言えば、BABYMETALだって同じだ。メンバーも神バンドも、イヤモニのタイムキープ音や指示によって、正確なリズムと音程で歌い踊るし、すべてのセトリはタイムテーブル通りに行われる。「アドリブ」の入り込む余地はほとんどない。
にもかかわらず、SU-METAL、MOAMETAL、神バンド、サポートダンサーが人間である以上、そこで「ハプニング」が起こる可能性は常にある。
もっと大切なことは、人間だからこそ、練習通りではない、本番でしか起こりえない、突き抜けた表現の高みや「ノリ」が発生する。
その緊張感や一回起性こそ、ライブというものだ。
モーツァルトの即興演奏やパガニーニの超絶技巧は、「生」だからこそ起こりえたことである。
初音ミクやCompressorheadの「ライブ」は確かに面白い。観客がそれにノッていくこともできるだろう。だが、今のところ、人間以上の即興性や環境適合的知能を持つA.I.でない演奏者本人が「ノル」ことはできないのだ。
そこに、差がある。
思えば、2016年~2017年、「KARATE」の間奏部では、SU-METALが、「♪Who…WohWohWoh…」とアドリブで歌っていた。昨年USツアーで初披露された「TATOO」は、振り付けのダンスではなく、SU-がゆらゆらとアドリブで踊っていた。


これは、初音ミクにも、Compressorheadにもできない。
「カリスマ性」を感じるのは観客だから、ヴァーチャルアイドルやロボットにそれを感じるのも自由だ。

将来、人間を超える知能を持ったA.I.アーティストがでてきたら、ぼくもファンになってしまうかもしれない。「程度しだい」と言ったのはそういう意味だ。
だが、今のところ、ライブをライブとして成立させ得るのは、人間しかいない。
(つづく)