未来の音楽(3) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★本日5月23日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

BABYMETALは、イギリスのロック専門誌『Kerrang!』認定の「Best Live Band」である。
にもかかわらず、SU-METAL、YUIMETAL(当時)、MOAMETALの三人は、楽曲を作っているわけでもなく、楽器演奏もしない。「4の歌」と2016年APMA’sでのゆいもあのギタープレイは例外だ。
楽曲を作っているのはKOBAMETALを中心とした大人たちであり、演奏しているのは腕利きのサポートミュージシャンからなる神バンドである。
このプロジェクトの総体がBABYMETALなのだ。
ぼくはBABYMETALにご長寿バンドであってほしいと願っているが、こんな体制で本当に「メタルの未来」を担うことができるのか。
BABYMETALを構成している要素を考えていくと、
①    日本人であること/日本語で歌っていること
②    ボーカルが女性であること
③    フォーメーション・ダンスが組み込まれていること
④    ライブ演奏のクオリティが高いこと
⑤    コスチュームを含めた「戦闘美少女」や「キツネ様伝説」のギミック/サブカルチャー性を帯びていること
⑥    バンド形式ではなく、多様なメタルのサブジャンルをミックスしていること
などがあげられよう。
このうち、音楽性に関わることは、②、④、⑥であり、①、③、⑤は音楽性というより、アーティストの個性に関する要素である。
2014年に初のヨーロッパツアーを行った際、欧米のメタルヘッズがBABYMETALを受け入れざるを得なかったのは、ただ一点、④ライブ演奏のクオリティが高かったことによる。


幼くKawaii日本人女性アイドルが日本語で歌いながら踊ること(①②③)は、当時のメタルエリートの価値観からすれば、すべてマイナスでしかなかったし、⑤のコスチュームやFOX GODのギミックも、嘲笑の対象にしかならなかったはずだ。
そのマイナスが、④神バンドの超絶的演奏力とSU-METALの澄み切った歌声によって、「何じゃこりゃ?」という驚きから、オセロがひっくり返るようにプラスへと変わった。
幼くKawaii日本人女性アイドル「なのに」、カリスマを帯びた表現力。
メタルとは水と油のはずのダンスをしている「のに」、それがメタル表現になっている。
日本語で歌い踊っている「のに」、なんとなく意味が分かる不思議。
赤いチュチュに甲冑をつけたヘンテコリンなコスチュームと、守護神FOX GODやMetal Resistanceという虚構「なのに」心動かされるリアリティ。
いったん好きになってみると、幼い日本人女性アイドルであることも、ダンスをすることも、ヘンテコなコスチュームも、FOX GODのギミックも、すべてが「奇跡」のように思え、無条件に肯定したくなる。
惚れてしまうのだ。
BABYMETALは生身の演奏力によってギミックを正当化し、オーディエンスの関心を「アーティストの個性」へと転換し、惹きつけることに成功した。
演奏力によって人々を魅了し、たとえ性格的に欠陥があったとしても、その強烈なアーティストの個性そのものが魅力の源泉になるというのはスター音楽家の条件だ。
古くは即興演奏の天才モーツァルトがそうだし、初めて「プロ演奏家」としてワールドツアーを行った天才ヴァイオリニスト、パガニーニもそうだ。
もちろん、ロックの世界でもエルビス・プレスリー、ビートルズ、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン…枚挙にいとまがない。
というか、常識の範囲内で品行方正なアーティストなどには、カリスマ性を感じない。
SU-METALやMOAMETALの性格が滅茶滅茶ということではない。そうではなく、人格破綻者(失礼)ぞろいのメタル業界にしては、「お行儀がよく、礼儀正しい、日本人アイドル」ということが、逆に常識を超えるものだったということである。
それはともかく、繰り返しになるがBABYMETALは、生身の演奏力によって、無条件のカリスマ性を獲得したアーティストなのである。
少し話の矛先を変える。
現在、音楽制作は、ほとんどがDTM(Desk Top Music、コンピューター音楽制作ソフト)をツールとして行われている。
シンセサイザーの黎明期から、日本人は電子音楽において世界のトップレベルにあった。
日本人としてビルボード200に最も多く名を連ねているのは、冨田勲と喜多郎であり、YMOはテクノ・ポップで日本=近未来という「テクノ・オリエンタリズムの国」のイメージを世界中に植え付けた。松武秀樹は、バンドに初めてマニピュレーターという職種を導入した。
コンピューターの速度やメモリが進化するにつれ、DTMツールも強力になり、デジタル化したMIDI音源やサンプリング音源を使って、ひとりで作曲=編曲=演奏ができるようになった。
70年代に興隆した16ビートのソウル音楽は、一方ではフュージョンへと進化したが、ディスコ/クラブでのダンス音楽は、電子音楽と結びついてユーロビートとなり、ハウス~ジャングル~ドラムンベースへと進化していった。こうしたジャンルを2000年代以降になってEDM(Electric Dance Music)と総称するようになった。
DTMは、スタジオでの楽曲録音環境も一変させた。
かつて、作曲家がメロディを創り、編曲家が各楽器のパートに振り分け、スタジオにミュージシャンが集まって、「せーの」で録音していた時代とは異なり、DTMでは、作曲即演奏である。職人的スタジオミュージシャンは、どうしてもその人の個性やテクニックが必要な場合に限って呼ばれるという状況になってしまった。
歌だけは歌手本人の声でなければならないので、後から録音するが、それさえもボカロソフトを使えば、数種類のキャラクターを持つ任意のボカロに歌わせることができる。
アイドルのカラオケやアニメ、ゲームの主題歌など、再生がメインの楽曲のほとんどは、こうして作られる。
いまやDTMは個人レベルに普及しており、無数の楽曲がネット上にあふれている。
あるサイトでは、商業利用可能なDTM楽曲が、EDM、トランス、ユーロビート、ドラムンベース、シンセウェイブなどのジャンルごとに無償提供されている。
そして中には、A.I.によって作曲された楽曲もある。
こういう楽曲こそ「未来の音楽」ではないのか。
こういう楽曲とBABYMETALの楽曲はどこが違うのか。
実はBABYMETALの2枚のスタジオアルバムも、基本はDTMによってつくられている。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のドラムパートは、故ヴィニー・ポール(元パンテラ/ヘルイェー)の音をサンプリングしたものであり、青山神はかつて「BABYMETALの曲は打ち込みで作られたので、生身の人間には叩きにくい」旨の発言をしている。
だが、それはあくまでも「素材」レベルの話であり、BABYMETALの楽曲は、完成までに何度もミュージシャンと打ち合わせをし、部分的に差し替えるなどして、ライブで演奏可能、かつ観客が熱狂できるようにアレンジを重ねる。
つまり、BABYMETALの楽曲はライブを前提に作られているのである。


クラブのダンスフロアでは、DTMで作った音源を流しつつ、DJが即興的に加工する。
これも「演奏」であるが、BABYMETALは、ライブごとに神バンドを招集し、ツインギター、ベース、ドラムスの生演奏を聴かせ、全体のコントロールには、マニピュレーターとして宇佐美秀文が当たる。
こうした楽曲の作り方は、従来のメタルバンドとも違う。
Judas Priestの最新アルバム『Fire Power』の収録曲「No Surrender」のYouTube公式動画は、マーシャルや5150が山と積まれた狭いスタジオでメンバーが演奏し、ロブ・ハルフォードが歌うというものだった。これが実態を表しているとは考えにくいにしても、Judas Priestの楽曲は、作詞者(ロブ・ハルフォード)が詞を作り、作曲者(グレン・ティプトン/リッチー・フォークナー)がリフとサビを考え、各楽器パートが実際に演奏し、ボーカリストが最後に歌を吹き込むという方法で作られているのだと思う。
しかし、BABYMETALは、KOBAMETALの「発注」によって、作詞・作曲家がDTMで曲を作り、そこで演奏者たち(初期はLedaがメイン)と話し合いつつ、細部を決めていく。
SU-やMOAが歌パートを吹き込むのは最後だ。
おそらく、今現在も、3rdアルバムの制作が、そうやって進められているのだと思う。
すべては生演奏=ライブのため。
そこがBABYMEATALが、Best Live Bandたるゆえんなのだ。
かつて、レコードは、生身のアーティストの「ライブを再現する」ものだった。
だが、はっきりといつからかはわからないが、録音された音楽は、再生それ自体が目的となった。一つの区切りは携帯音楽端末の出現かもしれない。
無数のDTM楽曲制作者、あるいはA.I.が作曲した楽曲は、曲調やリズムなどの面で、多様なバリエーションをもっている。ハードコアやメタル、プログレも多い。
サンプリングされデジタライズした各楽器の音色は、普通の人には聴き分けられないほどリアルだし、コンピューターで作るので、人間には不可能な超絶テクニックが使える。デジタル臭さや無機質な感じも、限りなく払しょくされている。
そうした楽曲を、例えばアニメやゲームの主題歌として、あるいは生活の中でBGMとして使う分には、何も問題はない。
VR技術は日進月歩だから、ヴァーチャルアイドルやロッカーが、あたかもライブ会場で演奏しているかのように見せることも、将来的には可能だろう。
だが、それは、本物のライブではないのだ。
BABYMETALは、2014年に、生演奏によって生身のアーティストとしてのカリスマ性を獲得した。人々がBABYMETALに惹きつけられるのはその「生身性」なのである。
では、ヴァーチャルアイドルは「生身性」を獲得できるのか。
(つづく)